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雪ティキ3・「朔が咲いたその日」 - (2007/11/08 (木) 00:50:10) の1つ前との変更点
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*回の03「朔が咲いたその日」
話は少しだけ前後する。
後に『朔』と名付けられる白いストラーフは、結城邸に持ち込まれたその日のうちに初起動された。
これはその時の話。
「実はね、アタシじゃ神姫をまともに育てんの、無理だってわかってさ」
ティーカップを持ちながら、朔良は少し寂しそうに言う。
「そうなのですか?」
正座をすることが出来ない焔はそれでも行儀良く座って、ご主人と呼称しているセツナとその友人の朔良との会話に加わっている。
「朔良さんも神姫の事を大切にしてくれると思うのですが」
焔の言葉に朔良は小さく笑った。
「いや、ね。なんて言うか…… 多分アタシは神姫の事を幸せに出来ないんだよ」
「……なにか、あったの?」
心配そうにセツナは訊ねる。
「いやいや。別に心配されるような事じゃ無いんだよね。……黙っておく事でも、無いんだけど」
朔良は思案顔になる。
自分で言うほどには簡単な話ではない。そして全てを話すわけにもいかない。
「かいつまんで、この夏にあった事を説明するよ」
当たり障りの無い事しか朔良には言うことが出来ない。
あの痛みは――あの傷は朔良だけの物。辛くても尊い想い出なのだから。
だからそんな朔良が語ったのは、
今年の夏は南房総で過ごしたこと。
とある神姫とそのオーナーとの出会い。
そのオーナーや神姫との他愛も無い会話。
そして今日持参した、白いストラーフのこと。
「ゴメン。やっぱり全部は話せないや」
大事な事は一切話す事が出来ず、朔良はセツナに頭を下げた。
「ううん。話せない事があるのは仕方ないわよ」
「セツナ……」
「それに正直に秘密があるって言ってるんだもん。それをちゃんと言ってくれたんだから、それで十分」
そう言ってセツナは朔良の頭を撫でる。
「なんだかいつもと立場が逆転してますね」
焔の言葉に、セツナと朔良は目を見合わせる。
そして二人同時に笑い出した。
そうして二人笑いあい、朔良が気を取り直したのを感じ取ったセツナは、再び白のストラーフへ目を向ける。
「ねえ、朔良。この娘が起きるの、一緒に見届けない?」
親友の態度を見て、セツナは朔良にも初起動を見てもらいたいと強く思った。
「え……?」
戸惑いの表情を浮かべる朔良。
交流が始まってから短くない時間を一緒にすごしてきたが、朔良のそんな表情をセツナは見たことが無かった。
「なんとなくだけど、この娘が起きるときに朔良が居ないといけない気がするの」
確信に近いほどにそう感じる。
「……うん」
神妙な顔つきで、朔良は静かに頷いた。
一切のトラブルも無く、滞りなくその白いストラーフは静かに目を開ける。
その様子を見て、朔良は感動を覚えていた。
純粋に、初めて目にする神姫の目覚めに。
そして、再び目を開ける事が出来たその神姫に。
不覚にも目から一筋涙が零れる。
セツナはその親友の涙にあえて理由を聞かず、その神姫の起動を見守っていた。
焔もセツナ同様、朔良がなぜ涙を流したのか気にはなったが、マスターと同じくそれに対して口を噤む
「オーナーの登録、個体名の登録、オーナー呼称の登録をしてください」
目を覚ました神姫はそう告げた。はっきりとしながらも感情の篭らないその口調。
PCと接続しながら初起動を行えば、最初の段階でPCを通してそういったデーターを入力する事も出来るのだが、セツナは直に神姫に伝える方法を好んでいる。
しかし今回はそれだけが理由ではない。
「……朔良、今ならまだ間に合うわよ?」
セツナは小声で朔良に問う。
今ならまだ、朔良がオーナーになる事が出来ると、そう言っているのだ。
それに対して朔良は微苦笑を浮かべ、首を左右に振った。
「……オーナー名、結城セツナ」
そこでセツナは一拍入れる。
「?」
朔良は首をかしげた。そしてすぐに気が付く。セツナは自分を待っているのだと。
そしてそれに対しても朔良は首を振った。
「そう」
セツナは短くそう言うと、ニッ、と口角を上げた。
「個体名、朔」
「ちょっ、ちょっとぉ!?」
「貴方の名前は朔。ここに居る朔良から一文字戴いたの。大切な名前よ」
朔良の声を見事なまでにスルーして、淀みなく言葉を続けた。
皮肉めいた名前。
朔良はそう思わずにはいられなかった。親友と同じ響きの名前持つ神姫の、持ち主であったあの人から貰った神姫に自分の名前から新たな名前がつけられる。
しかしそのねじれに不快感を覚えるかと問われれば、そんな事はまったく無かった。
うれしい。
素直にそう思えた。
そしてその偶然に、あの出会いが必然だったのだと強く思う事が出来るのだから。
そのお礼に、と朔良は一寸した悪巧みを想い巡らす。
「そしてオーナー呼称は――」
「せっちゃん」
「確認します。オーナー名・結城セツナ。個体名・朔。オーナー呼称・せっちゃん。でよろしいですか?」
「OK~♪」
「ちょ……ちょっと待って!?」
セツナが改めて朔良に振り返ると、そこには見慣れた悪戯めいた笑顔があった。
「だってセツナがアタシの名前からもじって名前付けたんだから、朔がセツナをどう呼ぶかはアタシが決めてもいいよねえ? だってアタシの分身なんだし」
「了解。登録しました…………初めまして『せっちゃん』。今後ともよろしくお願いするよ」
呆けた様な表情にセツナに、朔が律儀に挨拶をする。
親友の珍しい表情に、朔良は腹を抱えて笑った。
回の04「たまにはこんな夜」
雪那が居間にあるソファーで寝転びながら、小説を読んでいる。『妖精騎士』と銘打たれたシリーズ物だが、雪那が読んでいるのはその第一巻目。詳しくは『[[武装神姫でいこう!]]』を見ること。
その横では雪那の母、舞華がお茶を啜りながらTVを見ていた。番組名は『水戸○門』。実に68年にもわたって製作、放映し続けられている、超ロングラン時代劇シリーズ。実際、雪那の祖父、葉月総(はづき・そう)が生まれる前から放映していたという。
ちなみに現在の黄○様は9代目。
その居間の端で、全長約15cmほどの二つの物体があった。
ティキとユーラだ。
二体……二人は体をくねくねと動かしながら何かをやっている。
その動きは、見ようによっては何かの踊り、振り付けのように見えない事も無い。
否定の連続。
とりあえず、現時点でのこの空間において、正確な意味で『生きている』ものは過度の集中によりほかの事を認識できる状態ではない。
だから自然と、活発な活動をしている二人に視線は移る。
「姉さま、なんだかメモリに記憶されているものと大きく違うのです。違うみたいですっ!」
「なんだかうまくいかないのですよぉ~」
どうやらこの二人、アイドルの新曲の振り付けを練習しているらしい。
以前よりティキがファンだった、人と神姫のユニット『ReDoll』の新曲の振り付け。
それぞれアレンジの違う衣装の複数の女性と、それと対になった衣装に身を包む神姫たちのユニットである。
元々は世に神姫が浸透していく過程でイロモノ的に立ち上げられたプロジェクトだったらしいが、いわゆるアイドルオタクだけではなく若年層の女子や神姫たちからの支持までをも獲得してしまった。
『神姫アイドル』というカテゴリーを作り出した、草分け的存在。
メンバーの加入、脱退を繰り返すこのユニットは、デビューから5年たった今でも平均年齢を過度に上げることなく、広い世代に受け入れられている。
と、アイドルの説明は兎も角、今はティキとユーラだ。
「ここ。ここがこんな感じです。こんな感じなのですっ!」
「ふにょーん? こうですかぁ?」
わけのわからないオノマトペ。そしてそんなオノマトペで正しい振り付けなわけがない。大体そんな古いタイプのオノマトペで萌が狙えるか!
「ティキ姉さま、姉さまは何でマオチャオなのにそんなに踊りがダメですか? ダメなのですかっ!?」
「そ……そんなこと言われても困ってしまうのですよぉ~」
マオチャオがどうとか、その点がどうして『~なのに』につながるかはまったく不明。
しかしユーラが言う通りにティキがダンスの類がヘタかと言えば実はそうではない。
実際、ティキは歌うのも、踊るのもうまくこなす。
しかし歌いながら踊る、となると途端に踊れなくなる。
「個体差なのですよぉ~」
ティキ、マジ泣き寸前。
そんなティキを見たユーラの目が、キュピーンと光った……ように見えた。
「大体ティキ姉さまはマオチャオなのに、語尾がおかしいです。おかしいのですっ!」
「ふぇ……」
「普通マオチャオと言えば、『~にゃ』または『~なのだ』口調、もしくはそれに準じた口調なのです。なのですよっ!?」
かなり偏見に満ちた暴言だ! 諸々に謝れ!!
「それにマオチャオがそんなに聞き分けが良くてどうするのです。どうするのですかっ! マオチャオならもっと気ままに。気ままにっ!」
だからそれは偏見だ。書き手に謝れ。
もちろんそんな地の文のツッコミが聞き入れられるわけも無く、ユーラはどこか恍惚とした顔で今にも涙が零れんばかりにしているティキを見つめる。
そして止めとばかりに言ってのけた。
「そんなではとてもマオチャオとは言えません。言う事が出来ませんっ! マオチャオである必要性が無いです! 無いのですよっ!! 読み手に謝りなさい! 謝るのですっ!!」
「うわーん」
うわーん。
とうとうティキは泣き出してしまう。そしてついでに書き手も泣き出した!
「何でそんなこと言うですかぁ~ ひどいのですよぉ~~」
まったくその通りだ!
その姿をみて、ユーラの心が高鳴り締め付けられる。
と言っても罪悪感とかそんなものは欠片ほども、毛ほども無い。
純粋なトキメキ。
「姉さま、言い過ぎました。言い過ぎでしたっ」
そう言うとユーラはそっとティキに近づき、そして抱きしめる。
グズグズとしゃくりをあげるティキに、ユーラはなんともいえない快感を覚える。
そしてティキを強く抱きしめた。
「ティキ姉さま、泣かないで。泣かないで下さいっ」
自分で、しかも故意に泣かせたくせに何を言いやがってますかこの娘は。
そんな野暮な突っ込みを完膚なきまでに黙殺し、ユーラはティキの涙を舌で掬い取る。
「ふにゃっ!」
「ふふふふ…… 姉さま、可愛いです。可愛すぎですっ!」
異様に目を輝かせたユーラはそのままティキに体重をかけ……ようとした所で何かに体をつかまれる。
「二人とも、こんな所で何やってんだよ……」
ユーラをつかんだのは雪那であった。雪那のその顔は、呆れ半分羞恥半分。
「マスタ~」
「主(ぬし)さん」
その雪那を見る二人の表情はそれぞれで。
ティキは甘えるような表情で雪那を見上げて。
ユーラを拗ねたような顔で雪那を見据える。
「あのなぁ、母さんも居るのに、こんな所でそんなこと始めんじゃないよ~」
雪那は小声で言った。つまり母は『水○黄門』に夢中でまだ気が付いていない。
コクコクと頷くティキ。顔が真っ赤。
そんなティキに対してユーラは興奮冷めやらぬ口調で。
「なら主さんの部屋に戻れば続けて良いという事ですか? 事ですね!?」
「「ちっがーう」のですよぉ~」
雪那とティキの声が一気に大きくなった。
それに対して一言。
「うっさい!」
母の短い一言でTVから流れる音声以外の音が無くなる。
母は強し。
[[トップ>せつなの武装神姫~雪那とティキと――僕とティキのつづき――~]] / [[前回>雪ティキ2・「朔とそして……」]]
*回の03「朔が咲いたその日」
話は少しだけ前後する。
後に『朔』と名付けられる白いストラーフは、結城邸に持ち込まれたその日のうちに初起動された。
これはその時の話。
「実はね、アタシじゃ神姫をまともに育てんの、無理だってわかってさ」
ティーカップを持ちながら、朔良は少し寂しそうに言う。
「そうなのですか?」
正座をすることが出来ない焔はそれでも行儀良く座って、ご主人と呼称しているセツナとその友人の朔良との会話に加わっている。
「朔良さんも神姫の事を大切にしてくれると思うのですが」
焔の言葉に朔良は小さく笑った。
「いや、ね。なんて言うか…… 多分アタシは神姫の事を幸せに出来ないんだよ」
「……なにか、あったの?」
心配そうにセツナは訊ねる。
「いやいや。別に心配されるような事じゃ無いんだよね。……黙っておく事でも、無いんだけど」
朔良は思案顔になる。
自分で言うほどには簡単な話ではない。そして全てを話すわけにもいかない。
「かいつまんで、この夏にあった事を説明するよ」
当たり障りの無い事しか朔良には言うことが出来ない。
あの痛みは――あの傷は朔良だけの物。辛くても尊い想い出なのだから。
だからそんな朔良が語ったのは、
今年の夏は南房総で過ごしたこと。
とある神姫とそのオーナーとの出会い。
そのオーナーや神姫との他愛も無い会話。
そして今日持参した、白いストラーフのこと。
「ゴメン。やっぱり全部は話せないや」
大事な事は一切話す事が出来ず、朔良はセツナに頭を下げた。
「ううん。話せない事があるのは仕方ないわよ」
「セツナ……」
「それに正直に秘密があるって言ってるんだもん。それをちゃんと言ってくれたんだから、それで十分」
そう言ってセツナは朔良の頭を撫でる。
「なんだかいつもと立場が逆転してますね」
焔の言葉に、セツナと朔良は目を見合わせる。
そして二人同時に笑い出した。
そうして二人笑いあい、朔良が気を取り直したのを感じ取ったセツナは、再び白のストラーフへ目を向ける。
「ねえ、朔良。この娘が起きるの、一緒に見届けない?」
親友の態度を見て、セツナは朔良にも初起動を見てもらいたいと強く思った。
「え……?」
戸惑いの表情を浮かべる朔良。
交流が始まってから短くない時間を一緒にすごしてきたが、朔良のそんな表情をセツナは見たことが無かった。
「なんとなくだけど、この娘が起きるときに朔良が居ないといけない気がするの」
確信に近いほどにそう感じる。
「……うん」
神妙な顔つきで、朔良は静かに頷いた。
一切のトラブルも無く、滞りなくその白いストラーフは静かに目を開ける。
その様子を見て、朔良は感動を覚えていた。
純粋に、初めて目にする神姫の目覚めに。
そして、再び目を開ける事が出来たその神姫に。
不覚にも目から一筋涙が零れる。
セツナはその親友の涙にあえて理由を聞かず、その神姫の起動を見守っていた。
焔もセツナ同様、朔良がなぜ涙を流したのか気にはなったが、マスターと同じくそれに対して口を噤む
「オーナーの登録、個体名の登録、オーナー呼称の登録をしてください」
目を覚ました神姫はそう告げた。はっきりとしながらも感情の篭らないその口調。
PCと接続しながら初起動を行えば、最初の段階でPCを通してそういったデーターを入力する事も出来るのだが、セツナは直に神姫に伝える方法を好んでいる。
しかし今回はそれだけが理由ではない。
「……朔良、今ならまだ間に合うわよ?」
セツナは小声で朔良に問う。
今ならまだ、朔良がオーナーになる事が出来ると、そう言っているのだ。
それに対して朔良は微苦笑を浮かべ、首を左右に振った。
「……オーナー名、結城セツナ」
そこでセツナは一拍入れる。
「?」
朔良は首をかしげた。そしてすぐに気が付く。セツナは自分を待っているのだと。
そしてそれに対しても朔良は首を振った。
「そう」
セツナは短くそう言うと、ニッ、と口角を上げた。
「個体名、朔」
「ちょっ、ちょっとぉ!?」
「貴方の名前は朔。ここに居る朔良から一文字戴いたの。大切な名前よ」
朔良の声を見事なまでにスルーして、淀みなく言葉を続けた。
皮肉めいた名前。
朔良はそう思わずにはいられなかった。親友と同じ響きの名前持つ神姫の、持ち主であったあの人から貰った神姫に自分の名前から新たな名前がつけられる。
しかしそのねじれに不快感を覚えるかと問われれば、そんな事はまったく無かった。
うれしい。
素直にそう思えた。
そしてその偶然に、あの出会いが必然だったのだと強く思う事が出来るのだから。
そのお礼に、と朔良は一寸した悪巧みを想い巡らす。
「そしてオーナー呼称は――」
「せっちゃん」
「確認します。オーナー名・結城セツナ。個体名・朔。オーナー呼称・せっちゃん。でよろしいですか?」
「OK~♪」
「ちょ……ちょっと待って!?」
セツナが改めて朔良に振り返ると、そこには見慣れた悪戯めいた笑顔があった。
「だってセツナがアタシの名前からもじって名前付けたんだから、朔がセツナをどう呼ぶかはアタシが決めてもいいよねえ? だってアタシの分身なんだし」
「了解。登録しました…………初めまして『せっちゃん』。今後ともよろしくお願いするよ」
呆けた様な表情にセツナに、朔が律儀に挨拶をする。
親友の珍しい表情に、朔良は腹を抱えて笑った。
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