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第11話:オペラ座の瑠璃唐草 - (2008/08/29 (金) 03:25:03) のソース
まず、眼にしたのは荘厳なつくりのアーチ。 真っ赤な幕が下り、向こう側は分からない。 アーチのこちら側は客席がいくつも並び、アーチと客席の間には、いくつもの楽器が置かれた広いスペースがある。 いくつもの明かりと非常に広いその空間は、いわゆる劇場だった。 「…………こういう、ステージ……?」 誰も居ないはずの楽器スペースから、突然音が漏れ始める。 「……!?」 まるでクラシックの序章のようなテンポで、ゆるやかに音楽が場を満たす。 それにつられるように、真っ赤な幕が上がり始めた。 「……これ……」 『落ち着いて……ただの演出みたいだから』 幕が上がりきり、照明がステージを照らす。 「すごいね、こういう演出もあるんだ」 あの声だ。私と、柚子を泣かせた、あの声。 私が、もっとも憎悪する声。 幕の向こう側には、まるで中世の王の間を模したような背景が広がっている。 「お誂え向きにBGMまであるし、楽しめそうだよ……キミ、ともどもね」 「…………黙れ、悪魔」 「悪魔がぼくのモチーフだもん。黙ってなんか、やらないよ?」 エアロ・チャクラムを稼動状態にする。 「もういい…………直接、黙らせてやる」 「いいよ、その眼……開幕といこうよ!Avenger(復讐者)!?」 腕を組んで挑発を続ける巨大な悪魔に、チャクラムの腕を大地に接地させ、先端のホイールをドライブ。 脚で地面を蹴り、そのまま地面から放したままホイールによる高速機動。 ―――潰して、やる。 意外なことに、ヤツは両腕のホイールを器用に使い、ぼくに向かって来た。 近接戦?最初やったときはあんなにボコにされたのに? 疑問符を浮かべる反面、あれだけ酷くやられたのに、再び近接戦闘を挑んでくる、その自信というか意地というか、執念というか。 そういったものにゾクりときた。 「近接で殺れるなら殺ってごらん!?その腕で潰してみなよ!」 チーグルの二刀構え、ぼくもまたヤツに向かって駆け出す。 ごく最近にも聞いた、ブースターとホイール混じる独特の音。 「Let's start the Party!!(さぁ、パーティの始まりだ!!)」 音同士が段々と近づき、ぶつかった。 まずは、ぼくによる二本の一撃。 刀身分のリーチを生かして一気に振り下ろす。 速度と自重をかけた一撃、当たれば装甲ごとオシマイだ。 けど、ヤツはチャクラムのホイールの角度を変え、この一撃をかわす。 そうそう、これで終わったんじゃ面白くない! 勢い付いた全身を、ブーツ付きサバーカで強引に減速。石と木の床と、周りに並ぶ客席を抉る。 ターンして側面から、再びぼくに迫るエメラルドブルーの復讐鬼。 チャクラムのネイルが展開している。打ち込んでくるな。 「いいさ、受けてやるよ」 『受けるなら斥力場で一瞬だけガード、ブースターでバックダッシュして体制を崩せ』 「さっすがマスター、わかってる」 障壁展開。チーグル二刀を目の前でクロスして防御体制に。 けど、ぼくとマスターはまだこの二人のこと舐めてたのかもしれない。 読みどおり、ヤツは飛び掛って、殴りつけてきた。 ホイールの回る拳をこちらに二本突き出して。 けど、その先端には見知った形状の大型ナイフ、グフロートゥが取り付けられていた。 さらに接触する瞬間、チャクラムの後方からロケットのような噴射音が轟く。 接触、インパクト。ジェネレーターに想像していたより強い負荷がかかる。 ウイングからアラストルのパックにかけて、激しい紫電が走った。 「嘘ッ!」 『まさか!』 アラストルからの警告、【過負荷につき推進剤誘爆の危険アリ】 未だヤツは障壁と接触したまま。引き剥がさないと! 『強引でいいから横にダッシュ!離れた後はアラストルを切り離せッ!』 「くそぉッ!」 指示通り、かなり強引に側面方向へブースターを全開にしようとする。さらに負荷がかかり、ジェネレーターが焼け付きそう。 「…………逃がさない」 ヤツの本体側の右腕だけに取り付けられたチーグルがこちらに伸び、さらに障壁に接触。 左手で保持したシュラム・リボルビンググレネードがこちらを向いた。 マズイ!この距離で撃たれたら間違いなく負荷限界で誘爆する! 自らも、グレネードとこちらの爆発に巻き込まれるというのに、自分へのダメージを完全に無視したムチャな攻撃。 まさに、「潰す」という単語が当てはまるようなコンボ。 しかし、ぼくの中ではマズイという焦燥感と同時に、楽しいという恍惚感が全身を駆け巡っていた。 自分で自分が制御できなくなるような、何かの中毒にも似た感覚。 『フランッ!』 そして、グレネードの炸裂と同時に、背中側から強烈なGが襲い掛かった。 『……なんで、まだ、立っている…………』 『……なんでって?……それは、ねぇ……』 私はいささか、目の前の光景が信じられない。 確かに望んでいたことではあったが、これはいったいどんな奇跡だというのか。 アラストルの誘爆とグレネードで終わった、と思ったのに。 『それはねぇ……ふふ、ふふふふふふ……』 アイツ、ブースターの角度変えた上に、爆発の前にアラストルを自ら切り離して、爆風で無理矢理前に飛びやがった! 『は、は、ははははははははははははッ!』 半狂乱気味に笑い転げるフラン。 現状から言えば、飛び道具が使えない上に、防御能力が激減したフランが不利になってしまったというのに。 おまけに、ああやって笑っていても、背中側には爆風による若干のダメージがきてる。 だというのに私自身も、予想だにしていなかった展開に若干興奮気味。 楽しませてくれるようになったじゃないか、あの二人。 『キミとの戦いが楽しくなってきたからだよ!あんなんで負けたらつまんない!』 『ッ……舐め、るな、悪魔…………ッ」 憎悪と殺意のまなざしでフランをにらみつける、ルリカラクサとかいう神姫。 ―――私とフランも、初めて打ち負かされた「あの男」に出会ったらこんな顔するのかな。 打ち負かしただけじゃない、あの男は私とフランを……。 ―――やめよう、今はこの勝負。 『来いよ!復讐の悪魔狩人(デビルハンター)!もっともっともっと、ぼくを楽しませてよ!燃えさせてよォッ!」 『ふざける、なぁ……ッ!』 相変わらず、火のついたフランは挑発に次ぐ挑発。 ムラクモのときと同じ、きっと早く続きをやりたくてたまんないんだろう。 「アツくなってるところ悪いけど、武器は降魔と銘なしのセットでいい?」 『どうして?ぼく、アレで斬りたいのに。ムラクモの時だって』 「あの時は向こうも相応に装備捨てたからね。今回はまだ、相手は五体満足だ。とっておきは最後まで」 『でも、とっておいて結局使わなかったら?』 「途中でそうなりそうだったら、自分で判断して使えばいい。それくらいはなんとかできるだろう?」 『しょうがないなぁ……オーケイ、マスター』 左右のラックから二本の刀を抜き放つ。 右はリボルバー機構の付いた刀。 左はごく普通の打刀。 すこしだけ異様な二刀流。 「グレネードあたりを降魔で斬ると、面白いかもよ?」 『かもねぇ、誘爆で同じ目にあわせてやるのもいいなぁ、ふふ……』 フランはその二刀を十字に構える。 『Com'n winp!(来なよ!ノロマ!)』 コンソールに表示されるステータス。注目すべきはバッテリー残量。 そして、あの二人が最終的に狙ってくるのは……。 ヒートアップするフランとは対照的に、私の心には、微妙な焦りが出始めていた。 なんなんだアイツは。自慢のバックパックを破壊されたというのに、あの狂った笑い。 自分が不利になっているというのに、「面白い」だなんて。 ―――馬鹿にして! 「ルリ!潰せ!余裕そうにみえるけど、こっちが有利なことに変わりないんだから!」 『…………今度こそ、潰す……ッ』 『Com'n winp!』 左右非対称の刀を両手に構え、十字にしている。 また接近戦狙い?なんで銃を使わない! 「距離をとるようにして、遠距離から攻撃!ガトリングとシュラムで押し込め!」 『……了解』 指示通りに、チャクラムホイールで現在の場所から移動を開始する。 『逃げるの?潰すって言ったクセにぃ』 「挑発に乗らないで、こちらのペースで攻めるの」 『わかってるよ…………柚子』 後方に走行しながら、グレネードとガトリングによる掃射を始めるルリ。 向こうはサバーカでステップして、ソレを回避していくけど。 『ダンスは得意なんだよ?Shall we dance?(踊らない?)』 『…………』 また挑発。どこまでも憎らしい悪魔。 「斥力場にハイパワーブースター、チーグル、さらにあれだけ逃げ回ってるんだ。よほど大きい外付けのバッテリーでもなきゃ、そろそろ危ないはずだよ」 『…………動きが鈍る、頃合いを見て?』 「そう―――そしたら、ルリのしたいように、できる」 『…………うん』 コイツにやりたいようにやられてから、ルリは神姫に対して物凄い恐怖感を感じるようになってしまった。 街中で一目、別の神姫を見かけるだけでも極端に恐がる。 私自身、ストラーフを見ること自体、苦痛になってしまったところがあった。 今では私もルリも、そこまでひどくはないけれど。 特に相沢くんのムラクモちゃんは、ルリも心を開いてくれるみたい。 相沢くんと一緒に居るときは、不思議だけど、なんだかとても楽になれた。 なぜかは判らないけど、私とルリはあの二人に救われてる気がする。 そう、治りつつあったんだ。私と瑠璃唐草の心の傷。 ―――なのに、いまさらになってアイツらは私の前に再び出てきた。 あのときの恐怖がよみがえる。あのときの怒りがよみがえる。 バッテリー切れで判定負けなんかにさせない。 もう二度と、私の前に現れないようにしなきゃいけない。 二度と! [[トップへ>Black×Bright]] [[ねくすと>第12話:青嵐血風録]]