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「夕焼け侍SIDE-B」(2007/06/02 (土) 15:51:27) の最新版変更点
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「…見たトコバッテリー切れだな。一応ちまちま充電した形跡はあるが、満充電まではしてないね。おおかた古い型式のクレイドル使ってたんだろうさ。」
ホビーショップ『165-DIVISION』。
中央線沿線でありながら、イマイチ開発が行き届いていない某駅の南口の古いビルの地下にその店を構える、武装神姫中心のダーク系ショップだ。
大して広くも無い店の中は壁から床から真っ黒に塗られ、時々返り血を模したものか真っ赤な塗料をブチ撒けてある。
商品にしても、これまた隅から隅まで店オリジナルと思しきオノだ鉈だチェーンソーだスパイク付き首輪だ(しかも全てご丁寧に返り血ペイント付き)と、アングラ系アクセサリーで満載。
それも全てが神姫向けだというのだから呆れるというか徹底しているというか。
……まぁよく見れば正規部品も半々ぐらい置いてあるので、一般客も考慮はしてるんだろうが。
これで実は公式公認店舗なんだという。
入り口には蜘蛛の巣やらドクロやらのステッカーに混じって、公式小売店舗を示すラベルが燦然と浮いていた。
なんでも秋葉原の専門店や、その筋じゃ有名なコギトだかエルゴだかいうホビーショップに比べれば規模は小さいものの、そこそこのバトルスペースまで確保しているってんだから驚きだ。
…一体どこにそんな金があったのやら…
そして目の前では、カウンター越しにオーナー兼店主である高校時代の友人がこっちをジト目で睨んでいた。
片目に刀傷みたいな珍妙なメイク。服のあらゆる所にチェーンだのリベットだのじゃらじゃらつけたその姿は一種異様で、当時の真面目そうな雰囲気はカケラも残っちゃいなかったが。
「…で、慎。十年ぶりの再会だっつのに、挨拶もそこそこに「神姫直せ」てのはいくらなんでも酷くない?しかも営業時間外だぜ?」
「……あぁ。悪かった。スマンな縁遠。」
俺のあんまりといえばあんまりな返しに、友人…縁遠は溜息をついて苦笑した。
「まぁキミらしいっちゃらしいけどさ。とりあえずあの子だったら大丈夫だよ。中途半端な充電繰り返したせいで電池ヘタってただけだと思うから。」
当時から変わらずこっち方面の腕は確かなようだ。見た目はどうあれ、専門ショップを開いているのは伊達じゃないらしい。
「あとは…ホコリとかで結構汚れていたからクリーニングしてあげて、新しい電池に換えてきちんと充電してあげれば問題はないよ。…それで、こっから本題なんだけどさ。」
来た。握った手に嫌な汗を感じる。
「あの子はキミの神姫じゃないな?どこで拾った?」
縁遠はまっすぐにこっちを見た。
そこだけは昔と変わらない、澄んだ目をしていた。
「…実はな」
ここで俺は、サムライに逢ってからの事を包み隠さず話した。
そして、一つの頼み事も。
「……そりゃ本気で言ってんの?」
「冗談で言えるかこんなこと。実際、お前くらいしか頼れないんだよ。」
しばし睨み合い。
最初に目線を外したのは縁遠だった。
「わぁかったよ頑固モノ。できる範囲でやってやるさ。」
「……済まない。」
「でも、僕ができる事は調べるだけだ。そっから先は関与しない。いいね?」
「ああ。」
…と、一息ついたら腹が鳴った。
そういや晩飯食ってなかったなぁ…
「飯も食わずに来たのか。」
「うっせーよ笑うな。」
「まぁちょっと待ってな…ドリュー、ステーシー、お茶ー」
縁遠が呼ぶと、カウンターの奥の方からかたかたと…紅茶とスコーンを持った神姫が二体出てきた。
片っぽは浩子サンのモモコと同じゾンビ型。
もう片っぽは、ゾンビ型と同時に発売されたという処刑人型だ。
ゾンビ型同様ビジュアル面での問題があり、全くと言っていいほど出回らなかったという。
…こうもちょくちょく見かけるんじゃ、レアリティもクソもないんだがな。
店の雰囲気にやたらマッチした二体は、ゾンビ型の『ステーシー』は縁遠へ。処刑人型の『ドリュー』は俺の方へと背中につけた大きな腕で、器用にお茶の準備をした。
店の雰囲気にまるで合わない、上品なティーカップの中身を一口すする。美味い。
一応礼を言うとドリューは照れたのか、頭につけたホッケーマスクを目深に被って、ギギギだかゲゲゲだか金属を擦り合わせたみたいな音を立てた。
……やっぱり笑ってんだろうかコレは。
「どうだ、可愛いだろ?」
カカカカカと笑うステーシーを前に、心底得意げに言う縁遠。
…すまん。やっぱ俺にはよく解らん。
その後、サムライの処置が一通り終わる頃には終電も過ぎ。
おまけに「遅ればせながら開店祝いだー!」とか喚く縁遠にしょっ引かれて、朝まで飲むハメになる。
まぁ久々に会ったことには違いないので、なんだかんだで日が昇るまで飲んで語り明かした。
翌朝。調べがついたら連絡するというので、俺はサムライと充電用クレイドルを持ち家へ帰った。
…ちなみに言うまでも無く、補修代及びクレイドル代はしっかり取られたが。商売人め。
---
「……ん?」
「お、起きたか。どっか痛いとことか動ないとこむぐゃ」
問答無用で蹴られた。
「いきなり何しやが…!」
「なんで助けた。」
硬い口調だった。……まぁ当然か。
「今までだってアタシ一人でやってきたんだ。いつでも野たれ死ぬ覚悟くらいはあった!手前ぇなんぞにお情けもらう謂れは…!」
「だったら俺の前で倒れんじゃねぇよ。」
今度はサムライが黙った。
「…俺はな。お前さんがどこの誰かは知らんし、どこで野たれ死のうが知ったこっちゃねぇさ。」
「………」
「でもな。助けられんのが嫌なら俺の見てる前で倒れんな。目の前で死なれたりしちゃ寝覚めが悪ぃっつーか、飯がマズくなるんだよ。」
「………」
お互い黙り込む。沈黙が痛い。
「……ンだよ。なんか言えよ。」
「偽善者。」
「否定はしねぇ。」
「何様だってんだ。」
「俺様だ。文句あるか。」
「馬鹿だろ手前ぇ。」
「男は大体、馬鹿なモンだ。」
「青瓢箪。」
「職業病だ。」
「唐変木。」
「それがどうした。」
「甲斐性なし。」
「…関係ねぇだろ。」
「種無しカボチャ。」
「ぶっ壊すぞガラクタ!」
また沈黙。
そして、サムライは堪え切れずに吹き出しやがった。
「………くっせぇ台詞。」
「…………うっせ。笑うな。」
何故か笑うサムライに、耳まで真っ赤になった俺がいた。
……多分これが一生の不覚ってやつなんだろうか。
「…見たトコバッテリー切れだな。一応ちまちま充電した形跡はあるが、満充電まではしてないね。おおかた古い型式のクレイドル使ってたんだろうさ。」
ホビーショップ『165-DIVISION』。
中央線沿線でありながら、イマイチ開発が行き届いていない某駅の南口の古いビルの地下にその店を構える、武装神姫中心のダーク系ショップだ。
大して広くも無い店の中は壁から床から真っ黒に塗られ、時々返り血を模したものか真っ赤な塗料をブチ撒けてある。
商品にしても、これまた隅から隅まで店オリジナルと思しきオノだ鉈だチェーンソーだスパイク付き首輪だ(しかも全てご丁寧に返り血ペイント付き)と、アングラ系アクセサリーで満載。
それも全てが神姫向けだというのだから呆れるというか徹底しているというか。
……まぁよく見れば正規部品も半々ぐらい置いてあるので、一般客も考慮はしてるんだろうが。
これで実は公式公認店舗なんだという。
入り口には蜘蛛の巣やらドクロやらのステッカーに混じって、公式小売店舗を示すラベルが燦然と浮いていた。
なんでも秋葉原の専門店や、その筋じゃ有名なコギトだかエルゴだかいうホビーショップに比べれば規模は小さいものの、そこそこのバトルスペースまで確保しているってんだから驚きだ。
…一体どこにそんな金があったのやら…
そして目の前では、カウンター越しにオーナー兼店主である高校時代の友人がこっちをジト目で睨んでいた。
片目に刀傷みたいな珍妙なメイク。服のあらゆる所にチェーンだのリベットだのじゃらじゃらつけたその姿は一種異様で、当時の真面目そうな雰囲気はカケラも残っちゃいなかったが。
「…で、慎。十年ぶりの再会だっつのに、挨拶もそこそこに「神姫直せ」てのはいくらなんでも酷くない?しかも営業時間外だぜ?」
「……あぁ。悪かった。スマンな縁遠。」
俺のあんまりといえばあんまりな返しに、友人…縁遠は溜息をついて苦笑した。
「まぁキミらしいっちゃらしいけどさ。とりあえずあの子だったら大丈夫だよ。中途半端な充電繰り返したせいで電池ヘタってただけだと思うから。」
当時から変わらずこっち方面の腕は確かなようだ。見た目はどうあれ、専門ショップを開いているのは伊達じゃないらしい。
「あとは…ホコリとかで結構汚れていたからクリーニングしてあげて、新しい電池に換えてきちんと充電してあげれば問題はないよ。…それで、こっから本題なんだけどさ。」
来た。握った手に嫌な汗を感じる。
「あの子はキミの神姫じゃないな?どこで拾った?」
縁遠はまっすぐにこっちを見た。
そこだけは昔と変わらない、澄んだ目をしていた。
「…実はな」
ここで俺は、サムライに逢ってからの事を包み隠さず話した。
そして、一つの頼み事も。
「……そりゃ本気で言ってんの?」
「冗談で言えるかこんなこと。実際、お前くらいしか頼れないんだよ。」
しばし睨み合い。
最初に目線を外したのは縁遠だった。
「わぁかったよ頑固モノ。できる範囲でやってやるさ。」
「……済まない。」
「でも、僕ができる事は調べるだけだ。そっから先は関与しない。いいね?」
「ああ。」
…と、一息ついたら腹が鳴った。
そういや晩飯食ってなかったなぁ…
「飯も食わずに来たのか。」
「うっせーよ笑うな。」
「まぁちょっと待ってな…ドリュー、ステーシー、お茶ー」
縁遠が呼ぶと、カウンターの奥の方からかたかたと…紅茶とスコーンを持った神姫が二体出てきた。
片っぽは浩子サンのモモコと同じゾンビ型。
もう片っぽは、ゾンビ型と同時に発売されたという処刑人型だ。
ゾンビ型同様ビジュアル面での問題があり、全くと言っていいほど出回らなかったという。
…こうもちょくちょく見かけるんじゃ、レアリティもクソもないんだがな。
店の雰囲気にやたらマッチした二体は、ゾンビ型の『ステーシー』は縁遠へ。処刑人型の『ドリュー』は俺の方へと背中につけた大きな腕で、器用にお茶の準備をした。
店の雰囲気にまるで合わない、上品なティーカップの中身を一口すする。美味い。
一応礼を言うとドリューは照れたのか、頭につけたホッケーマスクを目深に被って、ギギギだかゲゲゲだか金属を擦り合わせたみたいな音を立てた。
……やっぱり笑ってんだろうかコレは。
「どうだ、可愛いだろ?」
カカカカカと笑うステーシーを前に、心底得意げに言う縁遠。
…すまん。やっぱ俺にはよく解らん。
その後、サムライの処置が一通り終わる頃には終電も過ぎ。
おまけに「遅ればせながら開店祝いだー!」とか喚く縁遠にしょっ引かれて、朝まで飲むハメになる。
まぁ久々に会ったことには違いないので、なんだかんだで日が昇るまで飲んで語り明かした。
翌朝。調べがついたら連絡するというので、俺はサムライと充電用クレイドルを持ち家へ帰った。
…ちなみに言うまでも無く、補修代及びクレイドル代はしっかり取られたが。商売人め。
---
「……ん?」
「お、起きたか。どっか痛いとことか動ないとこむぐゃ」
問答無用で蹴られた。
「いきなり何しやが…!」
「なんで助けた。」
硬い口調だった。……まぁ当然か。
「今までだってアタシ一人でやってきたんだ。いつでも野たれ死ぬ覚悟くらいはあった!手前ぇなんぞにお情けもらう謂れは…!」
「だったら俺の前で倒れんじゃねぇよ。」
今度はサムライが黙った。
「…俺はな。お前さんがどこの誰かは知らんし、どこで野たれ死のうが知ったこっちゃねぇさ。」
「………」
「でもな。助けられんのが嫌なら俺の見てる前で倒れんな。目の前で死なれたりしちゃ寝覚めが悪ぃっつーか、飯がマズくなるんだよ。」
「………」
お互い黙り込む。沈黙が痛い。
「……ンだよ。なんか言えよ。」
「偽善者。」
「否定はしねぇ。」
「何様だってんだ。」
「俺様だ。文句あるか。」
「馬鹿だろ手前ぇ。」
「男は大体、馬鹿なモンだ。」
「青瓢箪。」
「職業病だ。」
「唐変木。」
「それがどうした。」
「甲斐性なし。」
「…関係ねぇだろ。」
「種無しカボチャ。」
「ぶっ壊すぞガラクタ!」
また沈黙。
そして、サムライは堪え切れずに吹き出しやがった。
「………くっせぇ台詞。」
「…………うっせ。笑うな。」
何故か笑うサムライに、耳まで真っ赤になった俺がいた。
……多分これが一生の不覚ってやつなんだろうか。
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