第1話「事の発端」
「あ~、ご主人様遅いなぁ」
出窓から小雨の降る外を眺めながら、溜息をつく。
「ね~白ちゃん、ご主人様どうしたのかなぁ?」
クッションの上に寝そべりながらテレビを見ていた白ちゃんに声をかける。白ちゃんは
「ご主人様も仕事で遅くなることはあるって言っていたでしょ? 人間には色々面倒なことがあるの、あなたも分かってるでしょ?」
なんて、クールな事をいってたしなめてくる。でも白ちゃんもさっきから、車の音がするたびに玄関のほうをばっと向いて、玄関が開く音がしないかじっと耳をすませている。
やっぱり白ちゃんも心配なんだ。マスターが何で帰ってこないのか、様子だけでも見に行きたい…
この部屋はボクたちが暮しやすいように大部分のものがボクたちのサイズで作られている。
この出窓へ上がるのも、ご主人様が日曜大工で作ってくれた手すりまで付いた階段を使っている。
でも、元が人間用だった部屋だけに備え付けられたものの殆どは人間が使うための大きさだ。
ドアをあけるドアノブも、ボクらの手が届かないはるかな高みに存在している。
普段は「火事か地震の時以外は部屋から出てはいけない」と言われているから、それで問題ないんだけど、外の様子が見たい今は大きな壁となって立ちふさがる。
「どうやって開けるか、それが問題だ」
腕を組んで頭をひねるボクに、白ちゃんが訝しげな顔で
「ねえ黒ちゃん、何かろくでもないこと考えてない?」
なんて聞いてくる。そうだ!
「ねえ白ちゃん、白ちゃんの武装ユニットを貸して欲しいんだけど!」
「え? う、うん」
「じゃ、借りるね!」
「え? ど、どうする気なの?」
暇つぶし! と言い捨てて武装がしまわれている棚へ走る。白ちゃんの武装なら飛べるからノブにも手が届くはず。
てきぱきと武装を身につけ、身体を宙へ浮かべる。
「ねー、何するの?」
白ちゃんがボクを見上げながら問いかけてくる。
「ご主人様を迎えに行くの!」
笑顔でそう応えたとたん、白ちゃんの顔色が変わって、必死でボクに降りるよう言ってきたけど、ボクはやるって決めたら絶対やるもん!
ドアノブに抱きつき、捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻るには捻れるけど、ドアを開けることが出来ない。
ご主人様は軽々やれることなのに。武装神姫なんて、大仰な名前が付いているのに、何でこんなに非力なんだ う。
でも挫けていられない。別の方法を考えないと…
この部屋から外に通じているのは、…そうだ、出窓がある。出窓の鍵も普段は手の届かないところにあるけど、飛んでいれば届く。
ボクは方向転換し、窓の鍵に飛びつき、推力を落として体重をかけた。ググッ、カシャン! やった! バランスを崩して落ちそうになったけど、この窓はボクらの力でも何とか開けられることは知っている。
武装の力を借りれば一人でも空けられるはずだ。
ボクが窓に悪戦苦闘している間に、白ちゃんが出窓へと駆け上がってきた。
「黒ちゃん! だめ! 外は危ないって言われてるでしょ! しかももう夜なのに!」
でも一足遅い、ボクはもう出るに十分に窓を開け、外へと身を躍らせた。
後ろから聞こえてくる、白ちゃんの絶叫に罪悪感を感じながら…
出窓から小雨の降る外を眺めながら、溜息をつく。
「ね~白ちゃん、ご主人様どうしたのかなぁ?」
クッションの上に寝そべりながらテレビを見ていた白ちゃんに声をかける。白ちゃんは
「ご主人様も仕事で遅くなることはあるって言っていたでしょ? 人間には色々面倒なことがあるの、あなたも分かってるでしょ?」
なんて、クールな事をいってたしなめてくる。でも白ちゃんもさっきから、車の音がするたびに玄関のほうをばっと向いて、玄関が開く音がしないかじっと耳をすませている。
やっぱり白ちゃんも心配なんだ。マスターが何で帰ってこないのか、様子だけでも見に行きたい…
この部屋はボクたちが暮しやすいように大部分のものがボクたちのサイズで作られている。
この出窓へ上がるのも、ご主人様が日曜大工で作ってくれた手すりまで付いた階段を使っている。
でも、元が人間用だった部屋だけに備え付けられたものの殆どは人間が使うための大きさだ。
ドアをあけるドアノブも、ボクらの手が届かないはるかな高みに存在している。
普段は「火事か地震の時以外は部屋から出てはいけない」と言われているから、それで問題ないんだけど、外の様子が見たい今は大きな壁となって立ちふさがる。
「どうやって開けるか、それが問題だ」
腕を組んで頭をひねるボクに、白ちゃんが訝しげな顔で
「ねえ黒ちゃん、何かろくでもないこと考えてない?」
なんて聞いてくる。そうだ!
「ねえ白ちゃん、白ちゃんの武装ユニットを貸して欲しいんだけど!」
「え? う、うん」
「じゃ、借りるね!」
「え? ど、どうする気なの?」
暇つぶし! と言い捨てて武装がしまわれている棚へ走る。白ちゃんの武装なら飛べるからノブにも手が届くはず。
てきぱきと武装を身につけ、身体を宙へ浮かべる。
「ねー、何するの?」
白ちゃんがボクを見上げながら問いかけてくる。
「ご主人様を迎えに行くの!」
笑顔でそう応えたとたん、白ちゃんの顔色が変わって、必死でボクに降りるよう言ってきたけど、ボクはやるって決めたら絶対やるもん!
ドアノブに抱きつき、捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻るには捻れるけど、ドアを開けることが出来ない。
ご主人様は軽々やれることなのに。武装神姫なんて、大仰な名前が付いているのに、何でこんなに非力なんだ う。
でも挫けていられない。別の方法を考えないと…
この部屋から外に通じているのは、…そうだ、出窓がある。出窓の鍵も普段は手の届かないところにあるけど、飛んでいれば届く。
ボクは方向転換し、窓の鍵に飛びつき、推力を落として体重をかけた。ググッ、カシャン! やった! バランスを崩して落ちそうになったけど、この窓はボクらの力でも何とか開けられることは知っている。
武装の力を借りれば一人でも空けられるはずだ。
ボクが窓に悪戦苦闘している間に、白ちゃんが出窓へと駆け上がってきた。
「黒ちゃん! だめ! 外は危ないって言われてるでしょ! しかももう夜なのに!」
でも一足遅い、ボクはもう出るに十分に窓を開け、外へと身を躍らせた。
後ろから聞こえてくる、白ちゃんの絶叫に罪悪感を感じながら…
しとしとと降り注ぐ雨が関節に染み込んで気持ち悪い。神姫はお風呂には入れるくらいの耐水性能があるけど、同じ水なのに、お風呂と雨では全く受ける感覚が違っている…
ブルッと身震いして、玄関のほうへ翼を向ける。
真っ暗で、外から見る家は、いつも住んでいる家のはずなのに、不気味で冷たくよそよそしいお城みたいだとなんとなく感じた。
出窓からも見える駐車場には、寒々しい空白が広がっている。こんなところでも、ご主人様の不在を重く認識させられる。
「ご主人様…」
愛しいご主人様の名も、口に出すと、寂寥感が胸の奥からこみ上げてくるだけだった。
「何で帰ってこないの…?」
ふらふらと、家の前の道路にまで漂い出る。さっと影が払われ、まばゆい光が
「え?」
ヘッドライト! 車が来たんだ! 身をかわさないと!
キキーッ! バチン!
「キャーーーーッ!」
物凄い衝撃。翼が砕かれ、きりもみ回転しながら地面に叩きつけられる。身体がバラバラになるような、ショックで悲鳴まで飲み込んでしまう。
何度かバウンドし、それが収まったときには、本当にボクの身体はバラバラになっていた。両手は肘から吹っ飛び、腰が砕け、下半身がどこかへ行ってしまった。
車から誰かが慌てて降りてくるのを知覚したけどボクは
「人間だったら絶対助からないよね…」
なんて呟いて、そのまま意識を失ってしまった。
ブルッと身震いして、玄関のほうへ翼を向ける。
真っ暗で、外から見る家は、いつも住んでいる家のはずなのに、不気味で冷たくよそよそしいお城みたいだとなんとなく感じた。
出窓からも見える駐車場には、寒々しい空白が広がっている。こんなところでも、ご主人様の不在を重く認識させられる。
「ご主人様…」
愛しいご主人様の名も、口に出すと、寂寥感が胸の奥からこみ上げてくるだけだった。
「何で帰ってこないの…?」
ふらふらと、家の前の道路にまで漂い出る。さっと影が払われ、まばゆい光が
「え?」
ヘッドライト! 車が来たんだ! 身をかわさないと!
キキーッ! バチン!
「キャーーーーッ!」
物凄い衝撃。翼が砕かれ、きりもみ回転しながら地面に叩きつけられる。身体がバラバラになるような、ショックで悲鳴まで飲み込んでしまう。
何度かバウンドし、それが収まったときには、本当にボクの身体はバラバラになっていた。両手は肘から吹っ飛び、腰が砕け、下半身がどこかへ行ってしまった。
車から誰かが慌てて降りてくるのを知覚したけどボクは
「人間だったら絶対助からないよね…」
なんて呟いて、そのまま意識を失ってしまった。
う~ん、なんだろう。身体が動かないや。バッテリー切れかな?
でもそれなら視界の隅に電池切れ! ってでるはずなんだけどなぁ?
何か聞こえる…ボクを呼んでる?
「…黒子…しっかりしろ…」
「…起きて…黒ちゃん…お願い…」
ご主人様と白ちゃん。どうしたんだろう…?
「な~に~?」
声を出した瞬間、一気に全てがはっきりした。そうだ、ボクは車に…
「黒ちゃん!!」
「黒子! よかった、生きていたか…」
白ちゃんがガバッと抱きついてくる。目を開けると、ご主人様が目をこすりながら「よかった…」を連呼している
「黒ちゃん! あなたなんて馬鹿なことしたの! ぶつかった車がご主人様のだったからすぐに手当てして上げられたけど、両手も両足もなくなっちゃって、体中傷だらけで…うぅ、うわーーん!」
「俺も、あんなにスピード出していなければ、ぶつかる前に止まれたのに…うぅっ」
ああ、ボクはなんて馬鹿だったんだ。ご主人様が帰ってこないはず無いのに…余計な心配をさせてしまって…涙まで流させてしまって…
その後、火事や地震でもないときに部屋どころか、家から出てしまった事を一杯怒られた。それだけでなく、
「身体だけなら交換で何とかなるけど、頭部にもダメージがあるから、メーカーに送らないと修理できない」
って、言われて、メーカーに修理に出されることになっちゃった。
でも、ご主人様がボクを箱に詰めるときに、ぎゅっと抱きしめてくれて
「早く元気になって、帰って来いよ…」
って、優しく囁いてくれた。しばらくご主人様にあえなくなるのは寂しいけど、ちょっとだけ幸せ。ちょっと現金すぎるかな? ボク…
でもそれなら視界の隅に電池切れ! ってでるはずなんだけどなぁ?
何か聞こえる…ボクを呼んでる?
「…黒子…しっかりしろ…」
「…起きて…黒ちゃん…お願い…」
ご主人様と白ちゃん。どうしたんだろう…?
「な~に~?」
声を出した瞬間、一気に全てがはっきりした。そうだ、ボクは車に…
「黒ちゃん!!」
「黒子! よかった、生きていたか…」
白ちゃんがガバッと抱きついてくる。目を開けると、ご主人様が目をこすりながら「よかった…」を連呼している
「黒ちゃん! あなたなんて馬鹿なことしたの! ぶつかった車がご主人様のだったからすぐに手当てして上げられたけど、両手も両足もなくなっちゃって、体中傷だらけで…うぅ、うわーーん!」
「俺も、あんなにスピード出していなければ、ぶつかる前に止まれたのに…うぅっ」
ああ、ボクはなんて馬鹿だったんだ。ご主人様が帰ってこないはず無いのに…余計な心配をさせてしまって…涙まで流させてしまって…
その後、火事や地震でもないときに部屋どころか、家から出てしまった事を一杯怒られた。それだけでなく、
「身体だけなら交換で何とかなるけど、頭部にもダメージがあるから、メーカーに送らないと修理できない」
って、言われて、メーカーに修理に出されることになっちゃった。
でも、ご主人様がボクを箱に詰めるときに、ぎゅっと抱きしめてくれて
「早く元気になって、帰って来いよ…」
って、優しく囁いてくれた。しばらくご主人様にあえなくなるのは寂しいけど、ちょっとだけ幸せ。ちょっと現金すぎるかな? ボク…