主の無き華と、新しき風(前半)
まただ。私・槇野晶はMMSショップ“ALChemist”の扉を開き入ってきた、
招かざる客共へと相対する。この時節、歳末となると勘違いして迷い込む
“二人連れ”が必ず居てな。毎年追い払うのに苦労する物だ……しかも、
今年は何故か、こういう連中を見ていると苛立たしい。“告白”以来だ。
招かざる客共へと相対する。この時節、歳末となると勘違いして迷い込む
“二人連れ”が必ず居てな。毎年追い払うのに苦労する物だ……しかも、
今年は何故か、こういう連中を見ていると苛立たしい。“告白”以来だ。
「ええい!ここは喫茶店ではない、見せつけんでさっさと帰らぬかッ!」
「見せつけてるってー☆ケンジあたし達お似合いかもよー?ふふふ……」
「だな、子供にはまだ早いかもな。行こうぜユリ♪じゃあなお嬢ちゃん」
「見せつけてるってー☆ケンジあたし達お似合いかもよー?ふふふ……」
「だな、子供にはまだ早いかもな。行こうぜユリ♪じゃあなお嬢ちゃん」
横に積んでおいた塩を撒いて、『一文字多い』カップル共を追い出す。
そして店の方を振り返ると……なるほど、白壁と木目調ドアのシックな
装いに私は一人肯いた。この外観、オープンカフェに見えなくもない。
尤も、こんな地下でオープンもクローズもあった物ではないと思うが。
一段落した所で、店の奥から呼ぶ声が聞こえた。そう、我が“妹”だ。
そして店の方を振り返ると……なるほど、白壁と木目調ドアのシックな
装いに私は一人肯いた。この外観、オープンカフェに見えなくもない。
尤も、こんな地下でオープンもクローズもあった物ではないと思うが。
一段落した所で、店の奥から呼ぶ声が聞こえた。そう、我が“妹”だ。
「……マイスター?どうしましたの~、また勘違いした人達ですの~?」
「む、ロッテ今待ってろ。もうじき戻る……そうだ、また喧しい連中だ」
「マイスターってここまで過剰反応するタイプですか、ロッテちゃん?」
「去年はこんなに酷くなかったと思いますの。多分、アレの所為ですの」
「……迷わせちゃってるのは、心苦しい気もするんだよ。でも……ね?」
「む、ロッテ今待ってろ。もうじき戻る……そうだ、また喧しい連中だ」
「マイスターってここまで過剰反応するタイプですか、ロッテちゃん?」
「去年はこんなに酷くなかったと思いますの。多分、アレの所為ですの」
「……迷わせちゃってるのは、心苦しい気もするんだよ。でも……ね?」
……どうも見透かされているらしいな。そう、自分でも分かっている。
ロッテ達の“告白”を受けてから、自身のそう言った意味での在り方を
色々と考える様になってしまってな……言うべき言葉があるのに、未だ
言えぬという弱さもあり、他人のそう言う姿は見ていて辛い物がある。
だが癇癪を起こしすぎとも言えなくはない。少々落ちつかんとな……。
私はじっと店の中央に佇み、深呼吸がてら改めて店内を見回してみた。
ロッテ達の“告白”を受けてから、自身のそう言った意味での在り方を
色々と考える様になってしまってな……言うべき言葉があるのに、未だ
言えぬという弱さもあり、他人のそう言う姿は見ていて辛い物がある。
だが癇癪を起こしすぎとも言えなくはない。少々落ちつかんとな……。
私はじっと店の中央に佇み、深呼吸がてら改めて店内を見回してみた。
「すぅ……はぁ~……ん、もう少し待ってくれぬか皆。すぐ戻るぞ?」
『はいっ!』
『はいっ!』
洒落た木製のベンチとテーブル。壁一面を埋め尽くす、落ちついた意匠の
棚には……神姫達の為にと、私が作り続けてきた“Electro Lolita”達。
キャッシャーや私の居座る机も、パン屋か喫茶店か?という木目調の物。
偶に飾ってある絵は、値段こそ大したことはないが優しい雰囲気を放ち、
ガラスケースには硬質装備も入っているが、極力柔和な飾り付けである。
徹頭徹尾雑然さを廃した店内はお洒落且つ可憐で、照明も優しく明るい。
棚には……神姫達の為にと、私が作り続けてきた“Electro Lolita”達。
キャッシャーや私の居座る机も、パン屋か喫茶店か?という木目調の物。
偶に飾ってある絵は、値段こそ大したことはないが優しい雰囲気を放ち、
ガラスケースには硬質装備も入っているが、極力柔和な飾り付けである。
徹頭徹尾雑然さを廃した店内はお洒落且つ可憐で、照明も優しく明るい。
「……あぁ、そうか。私は結局、全てに於いて神姫を尊重していたのか」
「マイスター……マイスター?大丈夫かな、足でもぶつけてない……?」
「む?!あ、いや大丈夫だぞっ。少々深呼吸をな……戻ろうかクララや」
「ん……今は書き入れ時だから、マイスターもボクらも頑張らないとね」
『クルルゥ♪』
「マイスター……マイスター?大丈夫かな、足でもぶつけてない……?」
「む?!あ、いや大丈夫だぞっ。少々深呼吸をな……戻ろうかクララや」
「ん……今は書き入れ時だから、マイスターもボクらも頑張らないとね」
『クルルゥ♪』
己がどういう振る舞いをしてきたか、改めて確認した私は店の奥に戻る。
そう、全ては神姫の為に。これが私の……“あの時”から変わらぬ姿で、
今作っている“これ”も、神姫の為だ。ともあれ作業台には二人がいた。
リンドルムに乗り私を迎えに来たクララと、アルマ・ロッテが合流する。
そう、全ては神姫の為に。これが私の……“あの時”から変わらぬ姿で、
今作っている“これ”も、神姫の為だ。ともあれ作業台には二人がいた。
リンドルムに乗り私を迎えに来たクララと、アルマ・ロッテが合流する。
「マイスター遅いですの!早く春に掛けての“新作”が見たいですの♪」
「そうですよ……何でも今回はとっても凝ってるって聞いたんですよ!」
「春新作の“Electro Lolita”……どんなデザインになってるのかな?」
「有無、凝っているしデザインも拘った……のだが、少々悩んでいてな」
「そうですよ……何でも今回はとっても凝ってるって聞いたんですよ!」
「春新作の“Electro Lolita”……どんなデザインになってるのかな?」
「有無、凝っているしデザインも拘った……のだが、少々悩んでいてな」
興味津々と言った風情の三人。彼女らは、本当に飽きさせぬ反応をする。
こういう娘らがいる故に、私も奮起するのかもしれんな。そう思いつつ、
箱から取り出したのは、白を基調とした淡色のドレス。それが“四着”。
こういう娘らがいる故に、私も奮起するのかもしれんな。そう思いつつ、
箱から取り出したのは、白を基調とした淡色のドレス。それが“四着”。
「ふぇ……あ、あれ?え~と、紅と蒼に……翠と、“紫”ですかこれ?」
「有無。正確には“菫色”とでも言おうか。フリルにも似合うだろうッ」
「うん。他の服も“桜色”と“空色”に、“萌葱色”って風情なんだよ」
「縫製もより一層、腕が上がってて綺麗ですの~♪……でも“四着”?」
「そう。“四着”なのだ。四パターン考えているのだが、お前達は三人」
「有無。正確には“菫色”とでも言おうか。フリルにも似合うだろうッ」
「うん。他の服も“桜色”と“空色”に、“萌葱色”って風情なんだよ」
「縫製もより一層、腕が上がってて綺麗ですの~♪……でも“四着”?」
「そう。“四着”なのだ。四パターン考えているのだが、お前達は三人」
正確には五パターンなのだが、最後の“白陽”は私が自身で着る服の色。
だがそれを考慮せぬとしても、どうしても一人分が余ってしまうのだな。
“三姉妹”で着回せばいいのかもしれぬし、販売するにあたってはむしろ
バリエーションの多い方が好都合なのだが。どうもこう、据わりが悪い。
だがそれを考慮せぬとしても、どうしても一人分が余ってしまうのだな。
“三姉妹”で着回せばいいのかもしれぬし、販売するにあたってはむしろ
バリエーションの多い方が好都合なのだが。どうもこう、据わりが悪い。
「一人増やすって選択肢は……ない、かな。マイスターの心情を思うと」
「そうだな。お前達への“答”が出ない内には、何かと混乱しかねない」
「でもそれだったらこの“菫色”はどうするんです、マイスター……?」
「むぅ……誰かに試着だけしてもらい、後は販売開始と行きたいのだが」
「……マイスターはいつも、わたし達に着せてくれてましたの。だから」
「そうなのだ。偏った拘りと分かっていても、是非着て欲しくてな……」
「そうだな。お前達への“答”が出ない内には、何かと混乱しかねない」
「でもそれだったらこの“菫色”はどうするんです、マイスター……?」
「むぅ……誰かに試着だけしてもらい、後は販売開始と行きたいのだが」
「……マイスターはいつも、わたし達に着せてくれてましたの。だから」
「そうなのだ。偏った拘りと分かっていても、是非着て欲しくてな……」
大事な“妹”達の眼鏡に適わぬ品を出すのは、正直些か気が引けるのだ。
それは即ち、私の試作品を着こなして……喜んでもらってから売りたい。
量産タイプの“フィオラ”ですら、そのプロセスは決して崩さなかった。
だが、今ある新作の試作品は四着。このままでは、どうしても足が出る。
それは即ち、私の試作品を着こなして……喜んでもらってから売りたい。
量産タイプの“フィオラ”ですら、そのプロセスは決して崩さなかった。
だが、今ある新作の試作品は四着。このままでは、どうしても足が出る。
「もう二着考案し、それを交代で着てもらうか?……少々考えてみるか」
「あ、それならとりあえず基本の三着だけでも着せてもらえませんの?」
「それがいいかもしれないよ。マイスターに少しは見てもらいたいもん」
「ね、あたし達に着させてくださいよ。仕舞っちゃわないで……ねっ?」
「ふむ……しょうがないな。では“桜”と“空”、“萌”を着てもらう」
『はいッ!!!』
「あ、それならとりあえず基本の三着だけでも着せてもらえませんの?」
「それがいいかもしれないよ。マイスターに少しは見てもらいたいもん」
「ね、あたし達に着させてくださいよ。仕舞っちゃわないで……ねっ?」
「ふむ……しょうがないな。では“桜”と“空”、“萌”を着てもらう」
『はいッ!!!』
──────春を呼ぶ色、もう少しだけ欲しいのにね。