住むべき主を無くした廃屋群。
寂れた町にはレンガの破片や風に吹かれたゴミが散乱し、見る者などいないのに信号は虚しく点滅を繰り返す。
”ゴーストタウン”……そう呼ばれたこの場所は、0と1との信号の上に築かれた仮想現実の町。
そして、本来何者もいない筈のこのフィールドには、今確かに何者かが存在している。
寂れた町にはレンガの破片や風に吹かれたゴミが散乱し、見る者などいないのに信号は虚しく点滅を繰り返す。
”ゴーストタウン”……そう呼ばれたこの場所は、0と1との信号の上に築かれた仮想現実の町。
そして、本来何者もいない筈のこのフィールドには、今確かに何者かが存在している。
―――時は西暦2036年。2006年から繋がる当たり前の未来。
そこは、ロボットが日常的に存在する世界。
武装神姫―――彼女達はそう呼ばれている。
人間の手の平に納まる程の小さな身体に人間と同じ魂を持った、機械仕掛けのお姫様。
神姫の容姿は人のそれと全く同じ。それ故に彼女らに色とりどりの衣装を施し愛でる者も多い。
しかし、このフィールドで繰り広げられているものは武装神姫が武装神姫たる由縁そのもの。
仮想・現実問わずに繰り広げられる、弱肉強食実力至上主義、武装神姫の大舞台―――
そこは、ロボットが日常的に存在する世界。
武装神姫―――彼女達はそう呼ばれている。
人間の手の平に納まる程の小さな身体に人間と同じ魂を持った、機械仕掛けのお姫様。
神姫の容姿は人のそれと全く同じ。それ故に彼女らに色とりどりの衣装を施し愛でる者も多い。
しかし、このフィールドで繰り広げられているものは武装神姫が武装神姫たる由縁そのもの。
仮想・現実問わずに繰り広げられる、弱肉強食実力至上主義、武装神姫の大舞台―――
立ち並ぶ廃屋群の中心部に佇む一層大きな廃屋の屋上、そこに彼女は居た。
ストラーフタイプの武装神姫。しかし、その面影は頭部にしか残されていない。
その黒光りする両腕は華奢な身体と不釣合いな程に巨大で物々しく、その左手には神姫の全長を軽く超える鋼の剣が握られている。
その一方で腰に着けられた紅い装甲は、スカートを模していて外観を損ねていない。
彼女の姿を見て違和感を抱かないものは少数であろう。
彼女が彼女の主から与えられた名前は”ナル”。セカンドリーグの中でもそれなりに名の知れた神姫である。
今、彼女が参加している試合は”サバイバル・バトル”形式。最後の一体になるまで終わる事が無い形式の試合である。
今回参加した神姫はナルを含め24体。試合開始から既に10分が経過しており、残りの神姫は5体減った19体となっていた。
彼女は廃屋の屋上から刻一刻と変化する現状を掌握しようとしている。
もっとも、デフォルトの光センサだけでは不可能だが、追加された超音波センサやドップラー・レーダーなどの計測機器により、
絶対とまではいかないか、それなりに掌握する事が可能となっている。
そして、その情報は神姫の主へも流れている。
「ナル、3時の方向1500sm先の2体の反応。ソレが一番近い」
「了解しました」
ナルの頭に直接、通信が入る。
主の指令を確認するようにドップラー・レーダーを確認する。
確かに指令通りの方角・距離の2体が一番近かった。
そして、その方向へと向き直り廃屋の床を踏みしめ、一気に蹴った。
推進装置の類を一切使わない脚力のみの跳躍。それだけでおよそ100smは進む。しかもほんの一瞬でだ。
一瞬の空中散歩の後、衝撃を分散するよう脚を曲げ、腰を深く落とし着地する。
そして、曲げた脚を再び伸ばして跳躍。
同じ様に跳躍と着地を繰り返して、廃屋から廃屋へとさながら飛ぶ様に目標へと接近して行く。
目標を肉眼で確認できる距離、およそ120smまで近づいた時、ナルは深く腰を沈めて前傾姿勢を取った。
そして、跳躍。ただし、今度の跳躍はただの跳躍ではない。
腰に着けられた装甲に内蔵されたブースター。それを全開にしながら跳んだのだ。
その速度は正に弾丸とも言える速度であり、120smの間を一瞬で縮めるのには充分過ぎる速度だった。
ナルは目前に迫りつつあるターゲットを確認すると、自身の記憶装置に内蔵されたデータと示し合わせる。
2体の神姫はネコ型のマオチャオ、そしてイヌ型のハウリンである事が直ぐに判明した。
2体は見るからに戦闘中であり、両者共に満身創痍と見える。
その証拠に、装甲には所々傷が目立ち、息も上がっている。何よりナルの接近にすら気付いていない。
ナルは腰のブースターを停止した。僅かに速度は下がるが、これまでで充分な加速は付いていた。
その代わりに背部の補助スラスターを少しだけ吹かす。
補助スラスターによって身体は僅かにずれ、ナルはマオチャオの背後へ向かい文字通り突撃した。
マオチャオの背後を掠めるその瞬間、左手に持った剣を大きく薙ぎ、マオチャオの右肩から左腰に向かい袈裟切りにする。
そして、脚を曲げて腰を深く落とし衝撃を分散する様に着地するが、ヒビだらけの道路を粉砕するにはまだまだ充分な破壊力を持っていた。
マオチャオは断末魔というには余りに可愛らしい声を上げ、データの塵へと化して行く。
ナルはそんな事などお構い無しにハウリンへと巨大な砲と化した右腕を向ける。
今の今までただ呆然としていたハウリンはようやく状況を飲み込んだのか、回避しようと右へ跳んだ。
しかし、ナルの右腕から放たれたエネルギーの塊はマオチャオのデータ片を飲み込み、ハウリンの両腿から下を飲み込んだ。
エネルギーの塊はなお突き進み、奥にあった廃屋に激突し衝撃波を伴う爆発を起こした。
腿から下を失ったハウリンはどうする事も出来ずにただ吹き飛ばされる事しか出来なかった。何度も何度も地面を転がった後、ようやく止まる事が出来た。
ハウリンは黒煙に包まれながらもまだ自身が動いている事に安堵した。
それと同時に先刻の事を思い出し、恐怖に身体を震わせた。
そして、自らのマスターへとギプアップの旨を伝える為に通信を開いた。
幸いにも周囲は黒煙に包まれており、視界は0に等しい。
そんな今ならば間に合うかもしれない。あのマオチャオの様な事だけは御免だと、内心焦っていた
「…ご、ご主人様! もう駄目です! 速く、助けてっ―――」
しかし、その願いが聞き届けられる事は無かった。
何故なら、ハウリンは黒煙の中から振り下ろされた剣によって、文字通り両断されてしまったからだ。
ストラーフタイプの武装神姫。しかし、その面影は頭部にしか残されていない。
その黒光りする両腕は華奢な身体と不釣合いな程に巨大で物々しく、その左手には神姫の全長を軽く超える鋼の剣が握られている。
その一方で腰に着けられた紅い装甲は、スカートを模していて外観を損ねていない。
彼女の姿を見て違和感を抱かないものは少数であろう。
彼女が彼女の主から与えられた名前は”ナル”。セカンドリーグの中でもそれなりに名の知れた神姫である。
今、彼女が参加している試合は”サバイバル・バトル”形式。最後の一体になるまで終わる事が無い形式の試合である。
今回参加した神姫はナルを含め24体。試合開始から既に10分が経過しており、残りの神姫は5体減った19体となっていた。
彼女は廃屋の屋上から刻一刻と変化する現状を掌握しようとしている。
もっとも、デフォルトの光センサだけでは不可能だが、追加された超音波センサやドップラー・レーダーなどの計測機器により、
絶対とまではいかないか、それなりに掌握する事が可能となっている。
そして、その情報は神姫の主へも流れている。
「ナル、3時の方向1500sm先の2体の反応。ソレが一番近い」
「了解しました」
ナルの頭に直接、通信が入る。
主の指令を確認するようにドップラー・レーダーを確認する。
確かに指令通りの方角・距離の2体が一番近かった。
そして、その方向へと向き直り廃屋の床を踏みしめ、一気に蹴った。
推進装置の類を一切使わない脚力のみの跳躍。それだけでおよそ100smは進む。しかもほんの一瞬でだ。
一瞬の空中散歩の後、衝撃を分散するよう脚を曲げ、腰を深く落とし着地する。
そして、曲げた脚を再び伸ばして跳躍。
同じ様に跳躍と着地を繰り返して、廃屋から廃屋へとさながら飛ぶ様に目標へと接近して行く。
目標を肉眼で確認できる距離、およそ120smまで近づいた時、ナルは深く腰を沈めて前傾姿勢を取った。
そして、跳躍。ただし、今度の跳躍はただの跳躍ではない。
腰に着けられた装甲に内蔵されたブースター。それを全開にしながら跳んだのだ。
その速度は正に弾丸とも言える速度であり、120smの間を一瞬で縮めるのには充分過ぎる速度だった。
ナルは目前に迫りつつあるターゲットを確認すると、自身の記憶装置に内蔵されたデータと示し合わせる。
2体の神姫はネコ型のマオチャオ、そしてイヌ型のハウリンである事が直ぐに判明した。
2体は見るからに戦闘中であり、両者共に満身創痍と見える。
その証拠に、装甲には所々傷が目立ち、息も上がっている。何よりナルの接近にすら気付いていない。
ナルは腰のブースターを停止した。僅かに速度は下がるが、これまでで充分な加速は付いていた。
その代わりに背部の補助スラスターを少しだけ吹かす。
補助スラスターによって身体は僅かにずれ、ナルはマオチャオの背後へ向かい文字通り突撃した。
マオチャオの背後を掠めるその瞬間、左手に持った剣を大きく薙ぎ、マオチャオの右肩から左腰に向かい袈裟切りにする。
そして、脚を曲げて腰を深く落とし衝撃を分散する様に着地するが、ヒビだらけの道路を粉砕するにはまだまだ充分な破壊力を持っていた。
マオチャオは断末魔というには余りに可愛らしい声を上げ、データの塵へと化して行く。
ナルはそんな事などお構い無しにハウリンへと巨大な砲と化した右腕を向ける。
今の今までただ呆然としていたハウリンはようやく状況を飲み込んだのか、回避しようと右へ跳んだ。
しかし、ナルの右腕から放たれたエネルギーの塊はマオチャオのデータ片を飲み込み、ハウリンの両腿から下を飲み込んだ。
エネルギーの塊はなお突き進み、奥にあった廃屋に激突し衝撃波を伴う爆発を起こした。
腿から下を失ったハウリンはどうする事も出来ずにただ吹き飛ばされる事しか出来なかった。何度も何度も地面を転がった後、ようやく止まる事が出来た。
ハウリンは黒煙に包まれながらもまだ自身が動いている事に安堵した。
それと同時に先刻の事を思い出し、恐怖に身体を震わせた。
そして、自らのマスターへとギプアップの旨を伝える為に通信を開いた。
幸いにも周囲は黒煙に包まれており、視界は0に等しい。
そんな今ならば間に合うかもしれない。あのマオチャオの様な事だけは御免だと、内心焦っていた
「…ご、ご主人様! もう駄目です! 速く、助けてっ―――」
しかし、その願いが聞き届けられる事は無かった。
何故なら、ハウリンは黒煙の中から振り下ろされた剣によって、文字通り両断されてしまったからだ。
ハウリンは双眸の光センサから自身を両断していた剣がゆっくりと引き抜かれていくのを呆然と眺めていた。
ふと、剣の持ち主と目が合った。彼女は眉をぴくりとも動かさずにこちらを見つめている。
「ビームを避けた時の反応、良い反応でした。しかし、その後は無様でしたね。まさに負け犬と言った感じでしたよ?」
薄れ行く意識の中で少しムカっと来た。
「……次は楽しめることを願っていますよ」
しかし、何故だろうか。先程の恐怖感が消えていた。
もっともこの胸のムカつきに掻き消されただけかもしれないが。
ふと、剣の持ち主と目が合った。彼女は眉をぴくりとも動かさずにこちらを見つめている。
「ビームを避けた時の反応、良い反応でした。しかし、その後は無様でしたね。まさに負け犬と言った感じでしたよ?」
薄れ行く意識の中で少しムカっと来た。
「……次は楽しめることを願っていますよ」
しかし、何故だろうか。先程の恐怖感が消えていた。
もっともこの胸のムカつきに掻き消されただけかもしれないが。
断末魔を上げる事無くデータの塵となっていくハウリンを見届けると、ナルは周囲に蔓延する黒煙を払うよう乱暴に剣を大きく薙いだ。
「ご苦労様、ナル」
「ありがとうございます、マスター。…次の目標へ向かいます。指示を」
「……ナル、どうかしたのかい?」
ナルのほんの少しの違和感を感じとったのか、主が優しげに声をかけてきた。
「…いえ、何でもありません。指示をどうぞ」
少し戸惑いながらも、ナルは平静を装い主に言葉を返す。
「今のハウリンだろう?」
「……」
「今のハウリン、確かに反応は良かった。ここまで初期装備で来ただけの事はある。だけど…そこからがお気に召さなかったんだろう? だから柄にも無くあんな毒を吐いた…だろ?」
「マスター……、申し訳ありません」
心を見透かされた様な言葉に驚きを隠しつつ、何と言ったら良いか解らずナルはとりあえず謝ってみた。
「俺もだよ……あのハウリン、伊達に初期装備で修羅場を潜って来た訳じゃない。問題があるとすれば、マスターだな」
まるで自分にも言い聞かせるように主は呟いた。
「次に期待します」
「そうだな、その通りだ。今は試合に集中しよう……っと。ナル、お客さんだ」
主の雰囲気が一瞬で変わった。
先程までの穏やかな声音では無く、突き刺すような鋭い声音。
「……! 確認しました」
ナルもそれに伴い思考回路を切り替え、索敵を行う。
確かに、驚く程では無いがそれなりに近い距離に三つの反応があった。
普段はここで会話は終わるのだが、珍しく主から声がかかってきた。
「……ナル、思う存分大暴れしときな」
「…了解しました」
予想外の言葉に驚きつつ、反応がある背面に向き直る。
反応は少しずつだが確かに近づいて来ている。
恐らく、敵はこちらのセンサーが強化されているのを知らないだろう。
知っていたらジャミングくらいはかけて来ているはずである。
しかし、これから放つ攻撃は並大抵では防ぎきれないので関係無い。
そんな事を考えながら、ナルは腰を落としてブースターを最大出力で点火。真上に向かい跳躍した。
蹴られた地面が砕け散るのを一瞥もせず、只管上空へと跳び上がる。
瞬く間にゴーストタウンを飛びぬけ、神姫が点の様にしか見えない高度まで上昇すると姿勢制御スラスターを吹かして体勢を安定させる。
そして、右腕の高出力粒子砲「銃鋼(ツツガネ)」を構え、エネルギーを充填する。
右腕は唸り声を上げ、神姫の腕より一回り太い砲身の先端に淡い光が集まる。
淡い光は、より低く大きくなっていく唸り声と呼応するように輝きを増していく。
まるで太陽のような極光は、唸り声が最大限に達すると同時に掻き消えた。
不気味な程の静寂。それは正に嵐の前の静けさだった。
「ソイツを使うかい」
ナルは主に言葉ではなく、口の端を軽く吊り上げることで返した。
ナルの持つ最大最高の破壊力が、眼下のゴーストシティに向けて解き放たれた。
「ご苦労様、ナル」
「ありがとうございます、マスター。…次の目標へ向かいます。指示を」
「……ナル、どうかしたのかい?」
ナルのほんの少しの違和感を感じとったのか、主が優しげに声をかけてきた。
「…いえ、何でもありません。指示をどうぞ」
少し戸惑いながらも、ナルは平静を装い主に言葉を返す。
「今のハウリンだろう?」
「……」
「今のハウリン、確かに反応は良かった。ここまで初期装備で来ただけの事はある。だけど…そこからがお気に召さなかったんだろう? だから柄にも無くあんな毒を吐いた…だろ?」
「マスター……、申し訳ありません」
心を見透かされた様な言葉に驚きを隠しつつ、何と言ったら良いか解らずナルはとりあえず謝ってみた。
「俺もだよ……あのハウリン、伊達に初期装備で修羅場を潜って来た訳じゃない。問題があるとすれば、マスターだな」
まるで自分にも言い聞かせるように主は呟いた。
「次に期待します」
「そうだな、その通りだ。今は試合に集中しよう……っと。ナル、お客さんだ」
主の雰囲気が一瞬で変わった。
先程までの穏やかな声音では無く、突き刺すような鋭い声音。
「……! 確認しました」
ナルもそれに伴い思考回路を切り替え、索敵を行う。
確かに、驚く程では無いがそれなりに近い距離に三つの反応があった。
普段はここで会話は終わるのだが、珍しく主から声がかかってきた。
「……ナル、思う存分大暴れしときな」
「…了解しました」
予想外の言葉に驚きつつ、反応がある背面に向き直る。
反応は少しずつだが確かに近づいて来ている。
恐らく、敵はこちらのセンサーが強化されているのを知らないだろう。
知っていたらジャミングくらいはかけて来ているはずである。
しかし、これから放つ攻撃は並大抵では防ぎきれないので関係無い。
そんな事を考えながら、ナルは腰を落としてブースターを最大出力で点火。真上に向かい跳躍した。
蹴られた地面が砕け散るのを一瞥もせず、只管上空へと跳び上がる。
瞬く間にゴーストタウンを飛びぬけ、神姫が点の様にしか見えない高度まで上昇すると姿勢制御スラスターを吹かして体勢を安定させる。
そして、右腕の高出力粒子砲「銃鋼(ツツガネ)」を構え、エネルギーを充填する。
右腕は唸り声を上げ、神姫の腕より一回り太い砲身の先端に淡い光が集まる。
淡い光は、より低く大きくなっていく唸り声と呼応するように輝きを増していく。
まるで太陽のような極光は、唸り声が最大限に達すると同時に掻き消えた。
不気味な程の静寂。それは正に嵐の前の静けさだった。
「ソイツを使うかい」
ナルは主に言葉ではなく、口の端を軽く吊り上げることで返した。
ナルの持つ最大最高の破壊力が、眼下のゴーストシティに向けて解き放たれた。
ナルの右腕によって放たれた、まるで雨の様な光弾はゴーストタウンを文字通り穴だらけにした。
当然、ナルを除く残っていた全ての神姫は一瞬で破壊され、サバイバル・バトルはナルの優勝と言う形で幕を閉じた。
本来、優勝者である筈のネルとその主は表彰式に出なければならないが、パスした。
当然主催者は困惑したが、賞金と賞品を辞退するという事で渋々ながらも許可してくれた。
通常、サバイバル・バトルは2~3時間程度かかるものだが今回は僅か50分前後で終了。
それに準備時間と表彰式のゴタゴタを含めば、試合開始から約1時間半。太陽はまだ高い。
町並みの中でも一層目立つセカンドリーグ・センター、そこを後にナルとその主は早めの帰路に付いた。
「まさかアレを使うとはなぁ」
「…申し訳ございません」
若干上機嫌な主の言葉を責めと取ったナルは主の大きな手の平の上で本日二度目の謝罪を口にした。
「何も怒ってる訳じゃ無いさ。あのナルがアレを使うほど苛付くなんて珍しいじゃないか」
「……うぅ」
「それに……」
「?」
「いつもシャッキっとしてるナルがガス欠で身動きできない姿なんて中々拝見できないからなぁ」
高出力粒子砲「銃鋼」、その破壊力は確かに秀逸だが、燃費がべらぼうに悪いという欠点を持っている。
その為、最大出力で撃てば追加バッテリーだけでなく、神姫本来のバッテリーを活動限界ギリギリまで食い尽くす。
よって、今のナルは主の言葉どおり頭部しか動かせない省電力モードになっている。
ナルは身動き出来ない身体を主に抱きかかえられているのと、悪戯っぽく見つめられている事からひどく赤面していた。
「ちょっと待てやッ!!」
和気藹々とした雰囲気を打ち壊すような怒号が麗らかな昼下がりの町に響き渡る。
その瞬間、主の気配が先程と180度変わったことにナルは気付いた。
「……何か、御用で?」
ゆっくりと、声の主に振り向きながら主は応えた。
ナルも別段驚きもせずその声の主を確認した。
「何か御用?じゃないわよッ!!」
その声の主は主に比べて、というか一般的な成人男性に比べて小柄な体躯で可愛らしい声の持ち主……つまり、女の子だった。
見た目15.6だろうかとナルは逡巡した。
何か主がこんな女の子に因縁を付けられる様な事があっただろうか?
心当たりが無いといえば嘘になるが、今一番可能性が高い事柄を頭に浮かべ、それが間違っていないだろうと考えた。
その女の子は左手に神姫用カーゴボックスを持っていたのだ。しかも、ご丁寧に緑を主体としたカラーリングで。
「よくもあたしのトロンベをタコにしてくれたわねッ!!」
女の子は左手にもったカーゴボックスを主に突きつけながら咆哮した。
ナルの予想は当たった。トロンベと言うのは真っ二つにしたあのハウリンだろう。
それにしても、この剣幕は鬼気迫るものがある。
「アレは恨みっこ無しの試合だ。それにタイマンだからタコ殴りは誤りだよ、お嬢さん?」
今にも掴みかかってきそうな女の子に比べ、主は飄飄としている。
当然、女の子は顔を真っ赤にながら主に詰め寄ってきた。
その距離は10cmも無く、小柄な女の子は主を少し見上げる形になった。
「もう一度あたしと勝負しなさいッ!!」
「おや、お嬢さんは俺にポイントを稼がせてくれるという訳かい」
「……この…青瓢箪が、言わせておけばッ!!」
遂に堪忍袋の尾が切れたのか、主のこめかみ目掛け右足を振り上げてきた。俗に言うハイキックだ。
神姫であるナルの目から見ても、中々鋭い蹴りだった。素人だったら一撃でダウンしていただろう。
しかし、主はそこまで柔ではない。
「……お嬢さん、熱くなりすぎだ。幾ら負けたのが悔しいからってリアルファイトは頂けない。それじゃあ本当に、負け犬の遠吠えだ」
主は女の子の右足を左手を軽く添える様に受け止めていた。
女の子はよほど自信があったのだろうか、絶句している。
「それに、女の子がそんなはしたないマネをするもんじゃないさ」
そう言うと主は添えていた手を離した。
その瞬間に女の子は飛びのく様に後退った。
「……っ、アンタ名前は!?」
「…倉内 恵太郎」
「あたしは水野アリカッ! 覚えてろよっ!!」
水野アリカと名乗った女の子は踵を返し凄まじい勢いで走っていた。
ナルはふと沸いた疑問を口にした。
「……カーゴボックス、あんなに振り回して大丈夫でしょうか」
「……マズイんじゃない」
当然、ナルを除く残っていた全ての神姫は一瞬で破壊され、サバイバル・バトルはナルの優勝と言う形で幕を閉じた。
本来、優勝者である筈のネルとその主は表彰式に出なければならないが、パスした。
当然主催者は困惑したが、賞金と賞品を辞退するという事で渋々ながらも許可してくれた。
通常、サバイバル・バトルは2~3時間程度かかるものだが今回は僅か50分前後で終了。
それに準備時間と表彰式のゴタゴタを含めば、試合開始から約1時間半。太陽はまだ高い。
町並みの中でも一層目立つセカンドリーグ・センター、そこを後にナルとその主は早めの帰路に付いた。
「まさかアレを使うとはなぁ」
「…申し訳ございません」
若干上機嫌な主の言葉を責めと取ったナルは主の大きな手の平の上で本日二度目の謝罪を口にした。
「何も怒ってる訳じゃ無いさ。あのナルがアレを使うほど苛付くなんて珍しいじゃないか」
「……うぅ」
「それに……」
「?」
「いつもシャッキっとしてるナルがガス欠で身動きできない姿なんて中々拝見できないからなぁ」
高出力粒子砲「銃鋼」、その破壊力は確かに秀逸だが、燃費がべらぼうに悪いという欠点を持っている。
その為、最大出力で撃てば追加バッテリーだけでなく、神姫本来のバッテリーを活動限界ギリギリまで食い尽くす。
よって、今のナルは主の言葉どおり頭部しか動かせない省電力モードになっている。
ナルは身動き出来ない身体を主に抱きかかえられているのと、悪戯っぽく見つめられている事からひどく赤面していた。
「ちょっと待てやッ!!」
和気藹々とした雰囲気を打ち壊すような怒号が麗らかな昼下がりの町に響き渡る。
その瞬間、主の気配が先程と180度変わったことにナルは気付いた。
「……何か、御用で?」
ゆっくりと、声の主に振り向きながら主は応えた。
ナルも別段驚きもせずその声の主を確認した。
「何か御用?じゃないわよッ!!」
その声の主は主に比べて、というか一般的な成人男性に比べて小柄な体躯で可愛らしい声の持ち主……つまり、女の子だった。
見た目15.6だろうかとナルは逡巡した。
何か主がこんな女の子に因縁を付けられる様な事があっただろうか?
心当たりが無いといえば嘘になるが、今一番可能性が高い事柄を頭に浮かべ、それが間違っていないだろうと考えた。
その女の子は左手に神姫用カーゴボックスを持っていたのだ。しかも、ご丁寧に緑を主体としたカラーリングで。
「よくもあたしのトロンベをタコにしてくれたわねッ!!」
女の子は左手にもったカーゴボックスを主に突きつけながら咆哮した。
ナルの予想は当たった。トロンベと言うのは真っ二つにしたあのハウリンだろう。
それにしても、この剣幕は鬼気迫るものがある。
「アレは恨みっこ無しの試合だ。それにタイマンだからタコ殴りは誤りだよ、お嬢さん?」
今にも掴みかかってきそうな女の子に比べ、主は飄飄としている。
当然、女の子は顔を真っ赤にながら主に詰め寄ってきた。
その距離は10cmも無く、小柄な女の子は主を少し見上げる形になった。
「もう一度あたしと勝負しなさいッ!!」
「おや、お嬢さんは俺にポイントを稼がせてくれるという訳かい」
「……この…青瓢箪が、言わせておけばッ!!」
遂に堪忍袋の尾が切れたのか、主のこめかみ目掛け右足を振り上げてきた。俗に言うハイキックだ。
神姫であるナルの目から見ても、中々鋭い蹴りだった。素人だったら一撃でダウンしていただろう。
しかし、主はそこまで柔ではない。
「……お嬢さん、熱くなりすぎだ。幾ら負けたのが悔しいからってリアルファイトは頂けない。それじゃあ本当に、負け犬の遠吠えだ」
主は女の子の右足を左手を軽く添える様に受け止めていた。
女の子はよほど自信があったのだろうか、絶句している。
「それに、女の子がそんなはしたないマネをするもんじゃないさ」
そう言うと主は添えていた手を離した。
その瞬間に女の子は飛びのく様に後退った。
「……っ、アンタ名前は!?」
「…倉内 恵太郎」
「あたしは水野アリカッ! 覚えてろよっ!!」
水野アリカと名乗った女の子は踵を返し凄まじい勢いで走っていた。
ナルはふと沸いた疑問を口にした。
「……カーゴボックス、あんなに振り回して大丈夫でしょうか」
「……マズイんじゃない」