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×☆☆☆ ◆L62I.UGyuw


ぴちょん。

水滴が白い肌を叩いた。

「う……」

細い指がぴくりと動く。
水蒸気で飽和した空気。蒸し暑い空間の片隅に仰向けに転がる裸の少女。
滲む汗と凝結した水滴が凹凸の小さい身体を滑り降りる。
微かに響く呼吸音。

再び天井から落ちた水滴が、少女の臍の隣で弾けた。
少女――ゆのが冷たい刺激に瞼を開く。

「う~……頭痛い……って、ココどこだっけ~?
 ……え? 私、裸? な、何で? え? えぇ?」

混乱。頭がズキズキと痛む。
すぐ横にサウナの扉。正面に大きな浴槽がいくつか。壁際にシャワー。
どうやらここは風呂場――らしい。
記憶の糸を手繰る。確か――

「あ……そうだった。お風呂に入ろうとしたら滑って転んで……」

思いっきり頭を打った。頭が痛いのはそのせいだろう。
そっと後頭部を触ると大きなコブが出来ていた。

タイル張りの床を撫でる。ぬるぬると滑る。
ハーブの香りのする、水よりも粘性の大きい液体が指に付着した。
指を擦り合わせると微かに泡立つ。

「……これ、洗剤?」

どうやら誰かが液体洗剤を床に大量に撒いたらしい。
入口付近だけでなく浴槽の方まで洗剤で濡れている。
滑って当然だ。転んだ原因はこれだろう。
慎重に立ち上がって体を捻る。お尻やふくらはぎが洗剤で濡れているのが見えた。
重力に従って液体がゆっくりと髪から背中を伝い落ちる感触。
気持ちのいいものではない。

「うわぁ~……ぬるぬるする…………って――あれ? 何か忘れてるようなー……」

後頭部をさすりながらゆのは眉根を寄せる。
そもそも何故こんな異常事態の中で暢気に風呂に入ろうなどと思ったのかといえば、

「あぁ!? グリフィスさん待たせたまんまだったー!!」

そう、気絶している間も今もグリフィスは外でゆのを待っているはずだ。
早く用を済ませて上がらなければ迷惑がかかる。
焦った拍子に体の重心がふらつき、

「わ、わっ……おっと、っと」

またバランスを崩して転びそうになったが、今度は壁に手を突いて堪える。
いくらなんでもこのままでは危ない。
床を洗い流す道具――ホースか何かがないかと辺りを見回してみるが、目に付くところには無い。

「……あ、そうだ」

駄目で元々。あれを試してみよう。
もしあの説明が本当なら、簡単に床を洗えるはず。
そう考えて爪先立ちで脱衣場に戻り、脱衣籠に近付いた、そのとき、

「誰か、いるんですか?」

訝しげな声。グリフィスのものではない。
大鏡の向こう側、男湯側の脱衣場から聞こえてくる。
どうやら誰か知らない人がいるらしい。
声を返そうとして――気付いた。



『誰か、いるんですか?』



え?
あ、あれ? おかしくない?
脱衣場の前ではグリフィスさんが待っててくれてるんだよね?
男の人の入口もすぐ近くにあるから、お風呂に入ろうとしたらグリフィスさんが気付くはずだし。
そうしたら、グリフィスさんはきっと私のことを話してくれるはずだから――。
それなのに、まるで――

「誰か、いるんですか?」

女湯に誰かがいることが不可解だと言わんばかりの声。
やっぱり――何かおかしい。変だ。

「……あの、いるならいるって返事してもらえますか?」

少し声のトーンが下がった。返事をして、いいんだろうか。
何か、間違えたら、取り返しの付かないことになりそうな気がする。
むくむくと疑心と恐怖の種が育っていく。
少しの、ゆのにとっては永遠に等しい時間が流れて、その間に鏡の向こうからは聞き取れないくらいの小声が。

「えーと、その……今から、そっちに行きますよ?」

咄嗟に脱衣籠の中のデイパックを掴んで逃げ出した。
計算ではない。ただ恐怖から逃れんがための本能的な行動だ。
大浴場の中に入って入口のガラス戸を閉める。
少しでも、一歩でも――迫る脅威から離れたい。
その一心でタイルの上を走り出す。しかし、

「きゃっ!」

再び洗剤に足を取られて、ゆのは今度は前のめりに転んだ。
小振りの胸がタイルに叩き付けられる。洗剤が撥ねた。
その拍子にデイパックからころころとバレーボール大の白い珠が転がり出る。

(う……そうだ、あれを使えば――)

ここは水の宝庫。それなら――。
現状で縋れるものはこれしかない。
藁をも掴む勢いで四つん這いのまま珠を目指して進む。あと四歩。
身体中が液体洗剤に塗れてしまったが、気にする余裕など無い。

あと三歩――。

心音が五月蝿い。浴槽に注ぐお湯の音が単調に響く。
はやく。

あと二歩――。


胸の先端から滴り落ちる洗剤の音がやけに大きく耳を打つ。うまく息が出来ない。苦しい。
はやく、はやくはやく。

あと一歩――。

ガラリと、ガラス戸が開く音。心臓が跳ね上がる。
あと、あとちょっと。

――――掴んだ!

必死で念じながら――振り向く。
二人の男――ゆのより少し年上に見える少年と、やくざ顔負けの威圧感を持つ男が、入口の近くからゆのを睨んでいた。
少年の方はともかく、強面の男に捕まったらただで済むとは思えない。ゆのの顔が恐怖に歪む。
よく観察すると彼らの視線はゆのの頭上に注がれているのだが、彼女にはそのことに気付く余裕は無かった。

(お願い――――)

ありったけの拒絶の意思をぶつける。

「来ないで――――――――――――――!!!!」

刹那。意思は質量を得る。
数十トンの水の塊がゆのの頭上から放たれ、二人の男の姿を呑み込み、脱衣場を蹂躙し尽くした。


**********


――――――――――え?

――――――――――あ。

やっちゃった。

あんな、めちゃくちゃになって、いきてるひとなんていない。

いるわけない。

わたしは。

ひとを。

ころしちゃったんだ。

わたしは。

わたしは、ひとごろしだ。





混元珠――持って念じることで水を操れる宝貝――と説明書きがあった。
はっきり言えばゆのは説明を信じてなどいなかったのだが――混元珠は説明通りの力と想像以上の威力を秘めていた。
ゆのは華奢な脚を投げ出し、呆けた瞳で自らの引き起こした惨状を眺めている。
胸や腹に纏わり付いた液体洗剤がゆっくりと流れ落ち、お尻の下に溜まり始めていた。
殺す気は無かった。それは確かだ。彼女は徹頭徹尾防衛本能に従って行動しただけ。ただそれだけだ。
だが『殺す気は無かった』などという言い訳が、自分自身の心に通用するはずがない。
虚しさにも哀しさにも寂しさにも苦しさにも似た、名も無い原始的な感情が胸の内で渾沌の渦を巻く。
糸が切れたように全身が弛緩した。
不思議と涙は零れなかった。
舌が、喉の奥がヒリヒリと乾く。唾液が上手く飲み込めない。
鉛が流し込まれたかのように手足が重い。
胃が浮いているような空虚な感覚。
膀胱の中身が今度こそ全部零れ出て、洗剤と混じり合いながらタイルの溝を流れていく。

十秒か、一分か、それとも十分か。
彼女の主観では十分に長く、客観的にはほんの少しの時間、ゆのは混元珠を抱えてただ俯いていた。
細かく震える全身。脇の下から冷たい汗がじんわりと滲む。
破壊された脱衣場からガシャンと何かが崩れる音が響いた。
びくりとゆのの小さな肩が震える。

突然、ここにいてはいけない、とゆのは思った。そう思った理由は彼女自身も把握出来てはいない。
思考のプロセスを経ずに意識の表層に浮かび上がったそれは、むしろ生理現象に近い衝動だった。

今の騒ぎでまた危険な人物が寄ってくることを恐れたのか。
現場から離れようという殺人犯共通の心理なのか。
今の姿をグリフィスに見られたくない、という欲求なのか。
それら全てが混ざったものなのか。
それとも全然関係無い理由からか。

ともかく、ゆのは動き始めた。大腿部に力が入り、膝立ちに。
両側の鼠蹊部に溜まった洗剤が流れ、中央で合流して膝の間の水溜りに滴る。
彼女はその合流点付近を手で無造作に拭いながら、マリオネットのような所作で立ち上がった。

そしてふらふらと。
入口に背を向けて、歩く。
時折転びそうになりながらも、破壊の痕から、罪から、逃れようとするように。
突き当たった壁を混元珠の力で破壊し、外へ。

壁の向こうは庭だった。いつの間にか朝の陽射しが背の低い木々を照らしている。
澄んだ水を湛えた池には、蓮の花が咲き乱れていた。
ああ綺麗だなと場違いな感想を抱いて、ゆのは草の上に下りた。朝露が足を濡らす。
外はとても静かで、肌を撫でる風は爽やかで。
みんなとここに来たらきっと楽しいだろうなと思って。
そうして池の水を操って旅館の塀を砕くと、そのまま彼女は街へと消えていった。


**********


「…………」

ゆのが大浴場から出て行ってから数分。
滅茶苦茶に破壊された入口の近くでサウナの扉が軋んだ音を立てて開かれ、ゴルゴ13が中から現れた。
辺りをもう一度確認してから、サウナの中に向かって出ろと声をかける。
中から安藤が出てきて額や首筋にじわりと浮かんだ汗を拭った。
深い溜息。

「……っ。ただの女の子に見えたのに、あんな……」

ガラス戸を開けた瞬間に視界に飛び込んできた、四つん這いの裸の女の子。
その頭上に物理法則を無視してみるみる集まる浴槽の湯。
女の子がこちらを振り返って。
そしてアクセル全開のダンプのような勢いで迫る水塊を思い出して、安藤は身震いする。
ゴルゴが咄嗟の判断でサウナの中に安藤ごと飛び込まなかったら、彼は今頃挽肉になっていただろう。
実際、水塊の直撃を受けた脱衣場は棚も籠も全て奥で無残な瓦礫と化している。

「姿形で相手の実力を判断するものではない、ということだ。
 あの女は水を操る超能力者らしいな。水場で戦うべきではない」

誘い込まれた――ということだろうか。
自分の得意なフィールドで、相手を確認した瞬間、意表を突く形で最大威力の攻撃を放つ。
どう考えても好戦的で頭の切れる危険な相手だ。
ただ、その割には攻撃の瞬間の叫びは妙だったが――。

「あ。そ、そうだ。今すぐ追いかけてあの子を止めないと。
 あんなのを野放しにしておいたら――」
「……止めておけ。街中なら何処だろうと水道がある。奴が水を操れるのなら、勝ちの目は薄い」
「で、でも――」
「積極的に戦う理由も無い。行くぞ……」

ゴルゴは有無を言わさぬ口調で会話を打ち切った。
実際、今回のような不意打ちでなくとも、腹話術の射程外から攻撃されたらなす術はない。
旅館を探して見つけた武器といえば台所に放置されていた包丁くらいのものだ。
包丁一本で暴走する大型車に立ち向かうのは――勇猛を通り越して無謀といえるだろう。
今少女を追いかけたところで無駄死にとなる可能性は高い。
安藤もそのことは分かっているのでそれ以上の反論はしなかった。

「はあ……あんなのがそこら中にうろついてるのかな?」
「……そう考えたほうがいいだろう……」

事も無げに言い、ゴルゴは破壊された脱衣場へ。

無力。この場で、こんなちっぽけな自分が出来ることなんてあるんだろうか?
ふと、鳴海歩の自信に満ちた――少なくとも安藤にはそう見えた――皮肉気な笑みを思い出す。

「鳴海……お前も、死ぬなよ? 本当に……」
【G-8/旅館/1日目/早朝(放送直前)】

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(10/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
 1:携帯電話やノートパソコン、情報他を市街地などで調達する。
 2:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
 3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
 4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
 彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。

【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(小)
[服装]:猫田東高校の制服(カッターシャツの上にベスト着用)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、包丁、バラバラの実@ONE PIECE
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留。
 1:とりあえず、東郷と同行。
 2:携帯電話の調達のため、市街地などに向かう。
 3:軽度の無力感。
 4:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
 5:殺し合いに乗っていない仲間を集める。
 6:潤也が巻き込まれていないか心配。
 7:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です。
※東郷に苦手意識と怯えを抱いています。
※鳴海歩へ劣等感と軽度の不信感を抱いています。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについて、性格概要と外見だけ知識を得ています。名前は知りません。
※会場内での言語疎通の謎についての知識を得ました。
※錬金術や鋼の錬金術師及びONE PIECEの世界についての概要を聞きましたが、情報源となった人物については情報を得られていません。
※ガサイユノの声とプロファイル、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。ユノを警戒しています。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。


**********


――みんな。

――みんな。

――どこにいるの?

――帰りたい。

――帰りたいよ。

――ひだまり荘に。

――宮ちゃん、沙英さん、ヒロさん。

――みんな。

――そうだよ。

――帰ろう。

――帰るんだ。

――絶対に、みんなのいるひだまり荘に――



そのとき、静かなピアノの旋律が流れ始めた。
彼女の、ささやかな望みは、既に、




【G-8/旅館付近/1日目 早朝(放送直前)】

【ゆの@ひだまりスケッチ】
[状態]:疲労(小)、後頭部に大きなたんこぶ、洗剤塗れ
[服装]:全裸
[装備]:混元珠
[道具]:支給品一式、PDA型首輪探知機
[思考]
基本:???
1:みんなのいるひだまり荘に帰る。
2:旅館から離れる。
[備考]
※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。

※G-8旅館一階の脱衣場が全壊、大浴場の壁とその近くの塀に穴が開きました。
※グリフィスのメモは破壊されました。

【混元珠@封神演義】
付近の水を自在に操ることが出来る球形の宝貝。
本来はもう一つの混元珠と空間的に繋がっているが、本ロワではその機能は封印されている。
水辺では万能の武器と化すが、水が無ければただのボールである。


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