Should Deny The Divine Destiny of The Destinies ◆JvezCBil8U
「…………」
「…………」
重苦しいまでの朝の沈黙が、無機質なリノリウムにこだましない。
“神”様の箱庭に集う生贄たちが、今日も奴隷のような辛辣な無表情で、背の低い天井に抑えつけられている。
汚れに満ち満ちた心身を包むのは、深い色の血化粧。
仇への殺意は乱さないように、黒い憎悪は翻らせないように、ゆっくり煮詰めるのがここでのたしなみ。
もちろん、禁止エリアギリギリで走り去るなどといった、はしたない参加者など存在していようはずもない。
“神”様の箱庭に集う生贄たちが、今日も奴隷のような辛辣な無表情で、背の低い天井に抑えつけられている。
汚れに満ち満ちた心身を包むのは、深い色の血化粧。
仇への殺意は乱さないように、黒い憎悪は翻らせないように、ゆっくり煮詰めるのがここでのたしなみ。
もちろん、禁止エリアギリギリで走り去るなどといった、はしたない参加者など存在していようはずもない。
ずかずかと入り込んできた女のことなど毛ほどの気にも留めず、目を眇めてミリオンズ・ナイブズは思索する。
女は女でナイブズに声をかけづらいのか、片手でカードキーを弄んで沈黙していた。
先刻まであの道化男の死体を矯めつ眇めつしていた事から、まず間違いなくこちらが下手人と踏んでいるだろうから当然だ。
もう片方の手は、存在しない。つい先刻失ったばかりのように見える。
おそらくあの女も居住区でこの研究棟へのカードキーを見つけでもしたのだろう。
だけどいくら探しても肝心の医療棟へのチケットは見つからず、仕方なしにこちらに先に来たのだ。
女は女でナイブズに声をかけづらいのか、片手でカードキーを弄んで沈黙していた。
先刻まであの道化男の死体を矯めつ眇めつしていた事から、まず間違いなくこちらが下手人と踏んでいるだろうから当然だ。
もう片方の手は、存在しない。つい先刻失ったばかりのように見える。
おそらくあの女も居住区でこの研究棟へのカードキーを見つけでもしたのだろう。
だけどいくら探しても肝心の医療棟へのチケットは見つからず、仕方なしにこちらに先に来たのだ。
まあ、邪魔をしないなら意識するだけ時間の無駄だ。
それよりもあまりに不自然すぎる。
それはもちろん、この島という存在そのものが、だ。
それよりもあまりに不自然すぎる。
それはもちろん、この島という存在そのものが、だ。
直径は約9km。
全周は30㎞弱、面積にしておよそ65?。
ナイブズには知る由もないが、この島の大きさは八丈島とほとんど変わらない。
なのに、博物館、水族館、研究所、デパート、工場、……研究所。
いくらそれなりの面積とはいえ、雑多かつ高密度に配置された施設は離島ひとつに全く必要ないものばかり。
設置する意味さえ見いだせない。
離島と断言するのは人目に付かないからという程度の理由ではあるが、いずれにせよ運用するにはコストが高すぎるものばかりだ。
しかもこの研究所を見る限り、一つ一つの施設の大きさは相当なものなのだろう。
あの人間の少女はここが体育館並みに大きいと評し、山の中に埋まっているとは信じられないとさえ言い切った。
全周は30㎞弱、面積にしておよそ65?。
ナイブズには知る由もないが、この島の大きさは八丈島とほとんど変わらない。
なのに、博物館、水族館、研究所、デパート、工場、……研究所。
いくらそれなりの面積とはいえ、雑多かつ高密度に配置された施設は離島ひとつに全く必要ないものばかり。
設置する意味さえ見いだせない。
離島と断言するのは人目に付かないからという程度の理由ではあるが、いずれにせよ運用するにはコストが高すぎるものばかりだ。
しかもこの研究所を見る限り、一つ一つの施設の大きさは相当なものなのだろう。
あの人間の少女はここが体育館並みに大きいと評し、山の中に埋まっているとは信じられないとさえ言い切った。
要するに――あまりにも人工的すぎる。まるでシップ内部を見ているかのようだ。
この場所がこの殺し合いのためだけに創られた可能性はかなり高いと踏む。
『探偵日記』にはここがニッポンとやらではないかと記載されていたが、それは違うという確信がある。
むしろ“神”陣営の上層部にニッポン出身の人材が食い込んでいるのではないかとみた方が妥当だろう。
あるいは“神”本人がニッポン出身なのか。
この場所がこの殺し合いのためだけに創られた可能性はかなり高いと踏む。
『探偵日記』にはここがニッポンとやらではないかと記載されていたが、それは違うという確信がある。
むしろ“神”陣営の上層部にニッポン出身の人材が食い込んでいるのではないかとみた方が妥当だろう。
あるいは“神”本人がニッポン出身なのか。
いずれにせよここを設計した存在は、理知的ながらかなりの遊び好きだ。
配置された施設が娯楽と教養を兼ね備えた施設ばかりなのだ。
まるで自分がそういう性格ですよと言わんばかりの自己アピールに、静かに腸を煮え滾らせる。
配置された施設が娯楽と教養を兼ね備えた施設ばかりなのだ。
まるで自分がそういう性格ですよと言わんばかりの自己アピールに、静かに腸を煮え滾らせる。
そしてナイブズは誓いも新たに神との敵対の意思を確かめる。
『螺旋楽譜』の主の言葉を鵜呑みにするわけではないが、成程確かに与えられた情報だけでたどり着ける真実は単なる挑発でしかない。
今こうして自分が憤っていることそのものが掌の上という訳だ。
踊らされていることへの憤怒こそが思う壺だとは、何という悪循環。
分かっていながら堰を切ったように流れ出る感情を止められはしない。
『螺旋楽譜』の主の言葉を鵜呑みにするわけではないが、成程確かに与えられた情報だけでたどり着ける真実は単なる挑発でしかない。
今こうして自分が憤っていることそのものが掌の上という訳だ。
踊らされていることへの憤怒こそが思う壺だとは、何という悪循環。
分かっていながら堰を切ったように流れ出る感情を止められはしない。
いや、小難しい事はいい。自分の行動理念はシンプルだ。
これだけの島を創造し、今もなお維持し続けている。
なのにこの島にはそれらしい発電施設はない。
いや、地図に載っていないだけかもしれないが――、実際にも存在しないと断言できる。
何故なら、同胞たちの胎動が、悲鳴が、自分の耳に届いているからだ。
こんな事のためだけに、この島のどこかで彼女たちは今もなお搾取され続けている。
なのにこの島にはそれらしい発電施設はない。
いや、地図に載っていないだけかもしれないが――、実際にも存在しないと断言できる。
何故なら、同胞たちの胎動が、悲鳴が、自分の耳に届いているからだ。
こんな事のためだけに、この島のどこかで彼女たちは今もなお搾取され続けている。
その苦しみの代弁者として、今一度刃を振るえばいい。
斃すべき相手でしかない“神”の人となりを慮るなど余計な考えに至ったのは、放送と二つのblogという情報源に当たったからか。
……全く、自分が人間の言葉などに触発されるとは実に腑抜けていると、ナイブズは自嘲する。
……全く、自分が人間の言葉などに触発されるとは実に腑抜けていると、ナイブズは自嘲する。
ただまあ、それでも。
価値は認めてやるとしよう。
価値は認めてやるとしよう。
放送の女は“神”に反逆を試みて――、消された。
何を残したかったのかは知らないが、その心意気だけは買ってやってもいい。
何を残したかったのかは知らないが、その心意気だけは買ってやってもいい。
そして、この『螺旋楽譜』。
ひたすらに自分への不信と“神”の思惑への警告を謳うだけの、無愛想な文面。
だが、そこには確かに抵抗の意思が感じられる。
“神”の傀儡の可能性はあるが、それでもこの記事の管理人は使えるかもしれない。
少なくとも行動の監視があっても碌なものではないだろうという考察は、それなりに理には適っている。
ひたすらに自分への不信と“神”の思惑への警告を謳うだけの、無愛想な文面。
だが、そこには確かに抵抗の意思が感じられる。
“神”の傀儡の可能性はあるが、それでもこの記事の管理人は使えるかもしれない。
少なくとも行動の監視があっても碌なものではないだろうという考察は、それなりに理には適っている。
ただ、いずれにせよ彼らの行動の意味を推し量り、信じなければ何の価値もない代物にすぎない。
「――人間を信じる、か」
何という皮肉だろうか。
今の自分は、あまりに無力。
人間の言葉尻を信じ、盲になってでも“神”の尻尾を掴もうとしなければ戦うことすら――、
いや、“神”の輪郭を捉えることすらできない有様だ。
今の自分は、あまりに無力。
人間の言葉尻を信じ、盲になってでも“神”の尻尾を掴もうとしなければ戦うことすら――、
いや、“神”の輪郭を捉えることすらできない有様だ。
その無様さに不思議と嫌悪感は抱かなかったが、ただただ空虚な笑いを堪えるので精いっぱいだった。
ふと立ち返り、静かに目を瞑る。
人間から得た情報を信じようが信じまいが、自分の為すべきことは変わらない。
人間から得た情報を信じようが信じまいが、自分の為すべきことは変わらない。
――名簿に、目を通す。
見知った名前がいくつもあったが、やはり一番に目に付いたのは弟の名前だった。
人間を信じるというならば、彼こそが適任だ。
見知った名前がいくつもあったが、やはり一番に目に付いたのは弟の名前だった。
人間を信じるというならば、彼こそが適任だ。
「お前は今――何処にいる?」
良く馴染みのあるゲートの拓いた感覚を得てからおよそ4時間。
それきり彼の行方は杳として知れず、ただ放送で無事に生き延びていることを理解できたのみ。
『探偵日記』とやらの管理人に利用されているのが彼なのかどうなのか、現状確かめる術はない。
コメント公開を要請しても返事は綺麗に飾り立てられた言葉で有耶無耶にされ、あらためて人間の愚劣さを思い知らされただけだった。
当然ながら『探偵日記』の管理人は信用に値しない。
それきり彼の行方は杳として知れず、ただ放送で無事に生き延びていることを理解できたのみ。
『探偵日記』とやらの管理人に利用されているのが彼なのかどうなのか、現状確かめる術はない。
コメント公開を要請しても返事は綺麗に飾り立てられた言葉で有耶無耶にされ、あらためて人間の愚劣さを思い知らされただけだった。
当然ながら『探偵日記』の管理人は信用に値しない。
「……度し難い」
本当は無視してしまいたいところだが、しかしヴァッシュが関わっている可能性もある以上そうはいかない。
とはいえ、まともな交渉などしてやるつもりもない。
ならば、どうするか。
答えは情けないことだが、様子見の一手だ。
いや、一つだけ手を打っておいたが、あまり期待はできないだろう。
『螺旋楽譜』の出現に追随するかのごとくリンクの張られた掲示板に、自分を匂わせる書き込みをしただけでしかない。
あまり積極的に動かないのは、冷静に現状を分析してのこと。
放送直前に更新を行っていることから『探偵日記』の管理人はそれなりに安全な環境にいるはずだ。
ヴァッシュの能力を酷使するメリットはない。
ならば、下手に藪を突いて警戒させることもないだろう。
今後の『探偵日記』の更新を確認してから動けばいい。その為の端末――携帯電話とやらも既に調達している。
屈辱を押し殺して『探偵日記』の文面を信じたのは、敢えて口車に乗ってやった方が得られるものが多かった。それだけの話だ。
――今更、どんな顔をして弟の前に出ていけばいいのかという思いもある。
とはいえ、まともな交渉などしてやるつもりもない。
ならば、どうするか。
答えは情けないことだが、様子見の一手だ。
いや、一つだけ手を打っておいたが、あまり期待はできないだろう。
『螺旋楽譜』の出現に追随するかのごとくリンクの張られた掲示板に、自分を匂わせる書き込みをしただけでしかない。
あまり積極的に動かないのは、冷静に現状を分析してのこと。
放送直前に更新を行っていることから『探偵日記』の管理人はそれなりに安全な環境にいるはずだ。
ヴァッシュの能力を酷使するメリットはない。
ならば、下手に藪を突いて警戒させることもないだろう。
今後の『探偵日記』の更新を確認してから動けばいい。その為の端末――携帯電話とやらも既に調達している。
屈辱を押し殺して『探偵日記』の文面を信じたのは、敢えて口車に乗ってやった方が得られるものが多かった。それだけの話だ。
――今更、どんな顔をして弟の前に出ていけばいいのかという思いもある。
それに利用されているのがヴァッシュとも限らない。
自分の知る限り、名簿の中で見知らぬ人間に手を貸しそうなお人好しは3人だ。
そのうち一つは放送と同時に浮かび上がった多くの見知らぬ名前と共に真っ赤に染まっている。
自分の知る限り、名簿の中で見知らぬ人間に手を貸しそうなお人好しは3人だ。
そのうち一つは放送と同時に浮かび上がった多くの見知らぬ名前と共に真っ赤に染まっている。
“チャペル”
どういうことなのだ、と、一人口の中でその単語を転がす。
いや、彼だけではない。
いや、彼だけではない。
最後まで自分への忠義を貫き続けた男と、自分を怖れ逃亡兵となることを選んだ男の二人の名が、確かにここにある。
――それを最初に目にした時、確かに自分の中の何かが疼いた気がした。
――それを最初に目にした時、確かに自分の中の何かが疼いた気がした。
偽物かと疑るも、そうである意味はない。
悪趣味な“神”の成したこと、本物であるのだろう。
死んでいった男たちは、どうしてか今生きてここにいる。
悪趣味な“神”の成したこと、本物であるのだろう。
死んでいった男たちは、どうしてか今生きてここにいる。
“神”は蘇生の力でも持っているというのか?
可能性は0ではない。
……しかし、たとえそうだとしてもだからどうした、としか思い浮かばない。
その方法さえ皆目見当がつかないし、たとえ思い付いたとしてもどれほどのコストがかかることか。
……しかし、たとえそうだとしてもだからどうした、としか思い浮かばない。
その方法さえ皆目見当がつかないし、たとえ思い付いたとしてもどれほどのコストがかかることか。
それよりも現実味がありそうなのは、と一つの考えがナイブズの脳裏に浮かぶ。
かつて、銀河で初めて個人にして跳空間移動を可能としたナイブズだからこそ思いつける可能性。
時間と空間に精通しているからこそ、至れる可能性を。
かつて、銀河で初めて個人にして跳空間移動を可能としたナイブズだからこそ思いつける可能性。
時間と空間に精通しているからこそ、至れる可能性を。
――並行世界。
そこから彼らは連れてこられたのではないか。
蘇生の力よりは、こちらの方が色々な疑問に答えを付けることができる。
蘇生と並行世界移動、両方の能を持っている可能性も否定できないが。
そこから彼らは連れてこられたのではないか。
蘇生の力よりは、こちらの方が色々な疑問に答えを付けることができる。
蘇生と並行世界移動、両方の能を持っている可能性も否定できないが。
ほんのわずかな間だけ、呼吸を止める。
理解している。これはただの逃げだ。
理解している。これはただの逃げだ。
いずれこの殺し合いの場で彼らと巡り会ってしまったその時に――どう向き合えばいいのか。答えは出ない。
いや、そもそも自分は彼らと向き合ったことすらなかったのだ。
ただ利用するだけの存在として、軽蔑すべき人間の指の一本としてしか彼らは存在しなかった。
向き合うなどということをあらためて考えてしまったのは、ヴァッシュに毒されたからだろう。
あるいは、彼の考えを認めてしまったからなのか。
その意味では最早、あの男たちが畏れ敬ったミリオンズ・ナイブズはとうに死んでしまったのだ。
ただ利用するだけの存在として、軽蔑すべき人間の指の一本としてしか彼らは存在しなかった。
向き合うなどということをあらためて考えてしまったのは、ヴァッシュに毒されたからだろう。
あるいは、彼の考えを認めてしまったからなのか。
その意味では最早、あの男たちが畏れ敬ったミリオンズ・ナイブズはとうに死んでしまったのだ。
それでも見知らぬ人間としてぞんざいに扱う事の出来る連中はまだ楽だ。
逃げを選んだミッドバレイも、捨て置けばいい。どう動いていようと追うつもりもない。
逃げを選んだミッドバレイも、捨て置けばいい。どう動いていようと追うつもりもない。
しかし、しかしだ。
――レガート・ブルーサマーズ。
あれ程の忠義を傾けてきた男を、これから自分はどう扱っていけばいい?
まず間違いなく自分にかしづくためだけに狂気を存分に振るっているであろう男に。
――レガート・ブルーサマーズ。
あれ程の忠義を傾けてきた男を、これから自分はどう扱っていけばいい?
まず間違いなく自分にかしづくためだけに狂気を存分に振るっているであろう男に。
……既に自分には、人間を滅ぼそうという気もない。
だからあの男に特に何かを期待することもないが、それで鞘に納まっている男でもないだろう。
もしかしたら自分に失望し、妄念を暴走させる可能性すらある。
今の自分を見て、あの男がどうなるのか全くもって予想がつかないのだ。
だからあの男に特に何かを期待することもないが、それで鞘に納まっている男でもないだろう。
もしかしたら自分に失望し、妄念を暴走させる可能性すらある。
今の自分を見て、あの男がどうなるのか全くもって予想がつかないのだ。
得体の知れない不安のようなものを飲み込む。
馬鹿馬鹿しい。
仮に自分の邪魔となるのだとしたら、たとえレガートといえど排除すればいいだけの話だ。
きっと、それだけのことでしかない。
馬鹿馬鹿しい。
仮に自分の邪魔となるのだとしたら、たとえレガートといえど排除すればいいだけの話だ。
きっと、それだけのことでしかない。
そのまま名簿をデイパックに放り込もうとして、最後に一つの名前に目が行った。
西沢歩――確か、そう名乗っていたか。
良く生き延びられたものだと僅かに心の端で思い、そんな思考ノイズをさっさと忘れることにする。
あの娘が口にしていた綾崎ハヤテとやらも死んだ。
ただの人間がこの場で生き延びられる道理はなく、故にあの娘も遠からず後を追うだろう。
西沢歩――確か、そう名乗っていたか。
良く生き延びられたものだと僅かに心の端で思い、そんな思考ノイズをさっさと忘れることにする。
あの娘が口にしていた綾崎ハヤテとやらも死んだ。
ただの人間がこの場で生き延びられる道理はなく、故にあの娘も遠からず後を追うだろう。
あの道化男を始末した後、一瞬だけでもあの娘の後を追うなどと考えたこと自体がおかしいのだ。
今更人間とともに歩む道はない。
そしてまた、人と寄り添うことを示し続けたヴァッシュの前に出て行くことも出来はしない。
いくら弟の安寧を祈っても、おめおめと姿を見せる事を自分自身が許さない。
今更人間とともに歩む道はない。
そしてまた、人と寄り添うことを示し続けたヴァッシュの前に出て行くことも出来はしない。
いくら弟の安寧を祈っても、おめおめと姿を見せる事を自分自身が許さない。
あの男が無事ならば、それでいい。
たとえここに招かれたのが並行世界のヴァッシュであっても、彼はただLOVE & PEACEを高らかに響かせ続けている筈だ。
どこであろうと弟は変わらないという確信がある。
あの娘がどんな末路を迎えても知ったことではないが、幸運にも弟に出会えたならば生き延びられるだろう。
どこであろうと弟は変わらないという確信がある。
あの娘がどんな末路を迎えても知ったことではないが、幸運にも弟に出会えたならば生き延びられるだろう。
……いつ以来だろうか、誰かの無事を願ったなどというのは。
ヴァッシュは、生きるべきなのだ。
ヴァッシュは、生きるべきなのだ。
「あー……、ヤツを殺ったのは、アンタか?」
先刻からずっと、敢えて無視していた存在からようやくのお声がかかる。
自分の背後で何やら唸っていたが、気にするほどの存在でもないと完全に意識の外に置いておいた。
そしてそれは詰まらない第一声の内容によってより確かな認識となる。
情報交換を持ちかけるなら持ちかけるなりに、単刀直入にそれに値する手札を提示するべきだろうに。
自分の背後で何やら唸っていたが、気にするほどの存在でもないと完全に意識の外に置いておいた。
そしてそれは詰まらない第一声の内容によってより確かな認識となる。
情報交換を持ちかけるなら持ちかけるなりに、単刀直入にそれに値する手札を提示するべきだろうに。
道化男の死体の周りをウロチョロしていたようだが、彼奴の同類だというなら先んじて始末しておくべきだろうか?
小蠅というのは潰しても潰しても沸いてくる上に、この上なく鬱陶しい。
人間全体への既に殺意は抱くことはないにしても、ただただ愚昧なだけの個人は己の存在が当然であるかのように生き恥を曝している。
奴原を消し去る面倒臭さを思えばナイブズは気付かれないほどの溜息を漏らさざるを得ない。
小蠅というのは潰しても潰しても沸いてくる上に、この上なく鬱陶しい。
人間全体への既に殺意は抱くことはないにしても、ただただ愚昧なだけの個人は己の存在が当然であるかのように生き恥を曝している。
奴原を消し去る面倒臭さを思えばナイブズは気付かれないほどの溜息を漏らさざるを得ない。
*****
「おい、無視かよ。このみねね様相手に――」
ぞく……、と。
空気が変質し、雨流みねねは呼吸ができなくなる。
かたかたと勝手に体が震え、あたかも彼に跪くかのように足が体を支えられなくなった。
みっともなく、尻餅をつく。
震えを消そうとして腕を回し、それでようやく思い出した。
抑え込みたくても、その為のてのひらは吹っ飛んでしまったのだ。
痛くて痛くて凄い喪失感でいっぱいだったはずなのに、一睨みされただけでそんな事すっかり脳裏から消え去ってしまった。
かたかたと勝手に体が震え、あたかも彼に跪くかのように足が体を支えられなくなった。
みっともなく、尻餅をつく。
震えを消そうとして腕を回し、それでようやく思い出した。
抑え込みたくても、その為のてのひらは吹っ飛んでしまったのだ。
痛くて痛くて凄い喪失感でいっぱいだったはずなのに、一睨みされただけでそんな事すっかり脳裏から消え去ってしまった。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
「……人間か。さっさと立ち去れ、俺の機嫌が変わらんうちにな」
それきり興味を失ったかのように、みねねの目の前の男はPCの画面に向き直った。
呼吸が荒い。心臓の音が鐘のように五月蠅く鳴っている。
目の前に血の河が流れたように見えた。
生きていることが嬉しいのに、歯牙にも掛けられない自分が惨めで泣きそうになる。
目の前に血の河が流れたように見えた。
生きていることが嬉しいのに、歯牙にも掛けられない自分が惨めで泣きそうになる。
這いつくばって、ずるずると部屋を離脱しようとして――、
「……逃げ出せるかよ」
このままほうほうのていで裸足で出ていったりすれば、みねね様の名が廃る。
ああ、怖い。確かに怖い。
けれどそれを抑え込む。
自分の人生は戦いの連続だった。
立ち向かわねば理不尽を捩じ伏せる事が出来ない事を、思い知っているのではなかったか。
ああ、怖い。確かに怖い。
けれどそれを抑え込む。
自分の人生は戦いの連続だった。
立ち向かわねば理不尽を捩じ伏せる事が出来ない事を、思い知っているのではなかったか。
それに考えようによっては、これは好機だ。
この男ならあの妲己に間違いなく対抗できる。
しかも、あの女が絶対に想定していないであろう札だ。
ヤバさはこの男の方が上かもしれないが、それでも逃してはならない。
この男ならあの妲己に間違いなく対抗できる。
しかも、あの女が絶対に想定していないであろう札だ。
ヤバさはこの男の方が上かもしれないが、それでも逃してはならない。
どうすればいい? どうすれば引き込める?
考える時間は僅か。ヒントは男自身の言葉にあり、そこに切り入れば済む事だ。
考える時間は僅か。ヒントは男自身の言葉にあり、そこに切り入れば済む事だ。
「生憎だが、私は人間を辞めたのさ」
そう呟いて手近にあった適当な本を手にし――爆破。
男が、目だけをこちらに向けてきた。
自分がもうまともなニンゲンではないという事実にチクリと痛む胸。
その棘に気付かないふりをして、みねねは男を睨み付ける。
一秒後には心臓に刃が突き刺さっているかもしれないという暴力的な緊張感と闘いながら。
男が、目だけをこちらに向けてきた。
自分がもうまともなニンゲンではないという事実にチクリと痛む胸。
その棘に気付かないふりをして、みねねは男を睨み付ける。
一秒後には心臓に刃が突き刺さっているかもしれないという暴力的な緊張感と闘いながら。
「お互い人外同士、情報交換といこうじゃないか。
立場はフィフティフィフティ、後腐れない取り引きを終えて、そのあと私は出て行く。
そうすりゃ問題ないだろ? どっちにとってもメリットしかないはずだ」
立場はフィフティフィフティ、後腐れない取り引きを終えて、そのあと私は出て行く。
そうすりゃ問題ないだろ? どっちにとってもメリットしかないはずだ」
見返りは十二分。
男はぐるりらと首を回し、見下ろす目線でみねねの方を検分してくる。
そのまままったく期待のこめられていない口調で投げ掛けられた問いが一つ。
男はぐるりらと首を回し、見下ろす目線でみねねの方を検分してくる。
そのまままったく期待のこめられていない口調で投げ掛けられた問いが一つ。
「ヴァッシュ・ザ・スタンピードを知っているか?」
ちぃ、と舌打ちする。
おそらく人名だろうが、みねねにとっては聞きなれない代物でしかない。
おそらく人名だろうが、みねねにとっては聞きなれない代物でしかない。
「生憎だが心当たりは――、」
と、仕方なしにそれを告げようとして、何かが引っ掛かった。
「……いや、待った。確かに聞いた。どっかで聞いたぞ」
ある一人の女の顔と、失った自分の手がフラッシュバック。
耳にしたのはつい先刻。朦朧としていて聞き流していたが、あの女が自分を送り出す直前に口にしていたのだ。
耳にしたのはつい先刻。朦朧としていて聞き流していたが、あの女が自分を送り出す直前に口にしていたのだ。
「……そうだ。あの女が手当の時に訊いてきやがったんだ。
どこかの死にかけがヴァッシュとやらは頼れるとか言い残したが、私に心当たりはあるか……って」
どこかの死にかけがヴァッシュとやらは頼れるとか言い残したが、私に心当たりはあるか……って」
「女? ……何者だ」
目つきを変え、男が俄然と食いついてくる。
態度の変わりように驚きながらもみねねは悟る。
態度の変わりように驚きながらもみねねは悟る。
――これは、千載一遇のチャンスだと。
妲己を追い詰めるために、あの女について躊躇わずに所見を述べていく。
妲己を追い詰めるために、あの女について躊躇わずに所見を述べていく。
「妲己っていう自称妖怪のクソいけ好かねぇ女さ。性格的にも実力的にもあいつはヤバい。
自分で言うのも情けねーが、奴に大切なものを握られててな。
今の私は仕方なしにあいつの手駒に成り下がってる。
飴も鞭もどっちも使って、周りの連中をみんな誑す悪女だよ」
自分で言うのも情けねーが、奴に大切なものを握られててな。
今の私は仕方なしにあいつの手駒に成り下がってる。
飴も鞭もどっちも使って、周りの連中をみんな誑す悪女だよ」
「そいつが、ヴァッシュの名を口にしたのか?」
「そうだよ。ついでにそいつの特徴も私に教えて、探すよう言付かったぜ?
金髪の赤いコート、だっけか」
金髪の赤いコート、だっけか」
ニィ、と口端を歪めて証拠を提示。
うろ覚えだが、どうでもいいと思った知識も意外と役に立つものだ。
妲己に感謝しようと一瞬思ったが、そもそもの元凶はあの女なのでやめておく。
うろ覚えだが、どうでもいいと思った知識も意外と役に立つものだ。
妲己に感謝しようと一瞬思ったが、そもそもの元凶はあの女なのでやめておく。
「何度も言うが、あの女は掛け値なしにヤバい。
なにせ、私への命令が『これから会う奴全員に対して、自分が仲間を集めている事を伝えろ』だ。
……イカれた命令だよ。
自分を餌に殺し合いに乗った奴も乗ってない奴も潰し合わせて、使えそうな奴を選びだそうとしてる。
そのヴァッシュって奴も、奴の周りの騒乱に巻き込まれるかもな?」
なにせ、私への命令が『これから会う奴全員に対して、自分が仲間を集めている事を伝えろ』だ。
……イカれた命令だよ。
自分を餌に殺し合いに乗った奴も乗ってない奴も潰し合わせて、使えそうな奴を選びだそうとしてる。
そのヴァッシュって奴も、奴の周りの騒乱に巻き込まれるかもな?」
最後の一言に、男は何を思ったのか。
全ての表情を無くして黙りこんだ後ずかずかと歩き出す。
みねねを全く無視する形でだ。
全ての表情を無くして黙りこんだ後ずかずかと歩き出す。
みねねを全く無視する形でだ。
「――行くんだったらデパートだ。とりあえずそっちに向かうって言ってたぜ」
そうは問屋が卸さない。あの女を御すために、もう少しこの男に踏み込んでおかねば。
「これだけ教えたんだ。
見返りとして、妲己の奴が持っている携帯電話を取り返しちゃくれないか?
ちょっと大切なもんが入ってるのさ」
見返りとして、妲己の奴が持っている携帯電話を取り返しちゃくれないか?
ちょっと大切なもんが入ってるのさ」
返事はない。
ただ、一瞬だけ先刻と同じように殺気が膨れ上がったのが肌身に突き刺さった。
二度目だから流石に尻をつきはしなかったものの――、
ただ、一瞬だけ先刻と同じように殺気が膨れ上がったのが肌身に突き刺さった。
二度目だから流石に尻をつきはしなかったものの――、
気付いた時には男の姿は影も形もなくなっており、滝のように流れ落ちる汗が自分が生きている事を教えてくれている。
思うのはシンプルなたった一つの事。
思うのはシンプルなたった一つの事。
……助かった。それだけだった。
「……手はとりあえず、これで一つか。悪くない取り引きだったとは思うが、いかんせん心臓に悪すぎる」
はあ、と思いっきり息を吐き、くずおれる。
「つっても、まだまだこれじゃ足りないな。
打てる手が残ってる以上は地獄の釜底であろうと足掻かせてもらうわよ」
打てる手が残ってる以上は地獄の釜底であろうと足掻かせてもらうわよ」
目線の先にあるのは、男が使ったまま電源が付きっぱなしのPC。
その向こうにはブラウザが立ち上がっており、いくつかのサイトの内容が表示されている。
利用しない手はないとみねねの経験は告げていた。
その向こうにはブラウザが立ち上がっており、いくつかのサイトの内容が表示されている。
利用しない手はないとみねねの経験は告げていた。
「妲己。あんたの知らない私の世界の技術で、あんたを出し抜いてやる。
のんびりとふんぞり返っていられるのも今のうちだぜ?」
のんびりとふんぞり返っていられるのも今のうちだぜ?」
汗まみれで口にしても我ながら説得力はないな――とみねねは愚痴を零し、苦笑した。
それが、命を握られてもなお立ち向かえる強さの証。
生きているから、戦えるのだ。
生きているから、戦えるのだ。
【F-05地下/研究棟/1日目/朝】
【雨流みねね@未来日記】
[状態]:疲労(中)、左拳喪失(ほぼ止血完了、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間
[服装]:
[装備]:メモ爆弾×6
[道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム、研究所のカードキー(研究棟)
[思考]
基本方針:神を殺す。
1:研究所のPCを用いて、情報戦を仕掛ける。
2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。
3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。
4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返すため、日記所有者を探す。
5:出来ればまともな治療をしたい。
6:恐怖しながらもナイブズが妲己を始末することに期待。
7:12thの蘇生について考察する。
[備考]
※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。
※単行本5巻以降からの参戦です。
※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。
※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。
※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。
[状態]:疲労(中)、左拳喪失(ほぼ止血完了、応急処置済み)、貧血(小)、爆弾人間
[服装]:
[装備]:メモ爆弾×6
[道具]:支給品一式、単分子鎖ナノ鋼糸×4@トライガン・マキシマム、研究所のカードキー(研究棟)
[思考]
基本方針:神を殺す。
1:研究所のPCを用いて、情報戦を仕掛ける。
2:出会った人物に、妲己が主催に反抗する仲間を集めていると伝える。
3:首輪を外すため、神を殺すためならなんでも利用する。
4:妲己を出し抜いて逃亡日記を取り返すため、日記所有者を探す。
5:出来ればまともな治療をしたい。
6:恐怖しながらもナイブズが妲己を始末することに期待。
7:12thの蘇生について考察する。
[備考]
※ボムボムの実を食べて全身爆弾人間になりました。
※単行本5巻以降からの参戦です。
※妲己と情報交換をしました。封神演義の知識と申公豹、太公望について知りました。
※アルフォンスと情報交換をしました。錬金術についての知識とアルフォンスの人間関係について知りました。
※メモ爆弾は基本支給品のメモにみねねの体液を染みこませて作っています。
*****
――たぶん、だけど。
夢を見ていたと思う。
夢を見ていたと思う。
どんな夢だったかは思い出せない。
けど、きっとあんまりいい夢じゃなかったんじゃないかな。
普通はこういうときに見るのはいい夢じゃないかなって思うんだけど、私やっぱりついてないみたい。
というか、夢枕に誰かが立つってイベントすらすっ飛ばされてなかった事になっちゃうんだ、私……。
せめて夢の中でくらい幸せでもいいのになあ。
けど、きっとあんまりいい夢じゃなかったんじゃないかな。
普通はこういうときに見るのはいい夢じゃないかなって思うんだけど、私やっぱりついてないみたい。
というか、夢枕に誰かが立つってイベントすらすっ飛ばされてなかった事になっちゃうんだ、私……。
せめて夢の中でくらい幸せでもいいのになあ。
痛い夢。辛い夢。苦しい夢。
……怖いよ。
ハヤテくんがもういなくなった事を認めちゃって、私は生きているのが辛くなった。
大切なものがこころから融けるように消えてしまって、ぽっかりと大きな穴が開いた。
大切なものがこころから融けるように消えてしまって、ぽっかりと大きな穴が開いた。
――孤独。
そう、だ。
多分だけど、私が自分の命を断とうとしたのは、たとえようもない寂しさを感じたからだ。
ここには誰もいない。
ほんとうの意味で言えば知っている人はまだ何人か生きているんだろうけど、今は誰ひとり私のそばにはいない。
多分だけど、私が自分の命を断とうとしたのは、たとえようもない寂しさを感じたからだ。
ここには誰もいない。
ほんとうの意味で言えば知っている人はまだ何人か生きているんだろうけど、今は誰ひとり私のそばにはいない。
私には特になんにもないけれど、それでもずっと私の周りには優しい人たちがいた。
お父さん、お母さん、一樹。
ちょっと不穏なところもあったけど、それでもかけがえのない家族。
ヒナさん――ともだち。
私なんかとは違って何でも持っているのに、何でもできるからこそ一皮剥けば可愛らしいところのある人。
お父さん、お母さん、一樹。
ちょっと不穏なところもあったけど、それでもかけがえのない家族。
ヒナさん――ともだち。
私なんかとは違って何でも持っているのに、何でもできるからこそ一皮剥けば可愛らしいところのある人。
ナギちゃんはどうしているだろう。
わがままで意地っ張りだけど、あの子は多分すごく強い子。
大切なひとを失ったからって、私みたいに何もかも諦めちゃう訳じゃないんだろう。
わがままで意地っ張りだけど、あの子は多分すごく強い子。
大切なひとを失ったからって、私みたいに何もかも諦めちゃう訳じゃないんだろう。
そして、ハヤテくん。
……やめよう。大切だけど、大切だったけど。
だからこそあの人の事を考え続けると私は潰れちゃう。……壊れちゃう。
……やめよう。大切だけど、大切だったけど。
だからこそあの人の事を考え続けると私は潰れちゃう。……壊れちゃう。
私は、強くない。ぜんぜん強くない。
大切なひとを失っても、悲しみを糧にしてもう一度立ち上がれるほど強くない。
大切なひとを失ったから、自分を忘れて怒りに身を任せられるほど強くない。
大切なひとを失っても、悲しみを糧にしてもう一度立ち上がれるほど強くない。
大切なひとを失ったから、自分を忘れて怒りに身を任せられるほど強くない。
そう、私は強くないんだ。
気絶しちゃって、目が覚めて。
こうして落ち着いてしまった今、はっきりとそれを悟る。
気絶しちゃって、目が覚めて。
こうして落ち着いてしまった今、はっきりとそれを悟る。
……普段の私は、自分から死を選べるほども強くない。
この手で命を捨て去ろうとした激情に、体が震えだす。
ぶるぶるがたがたぐらぐらがくがく。
私は一体、何をしようとしていたんだろう。
ぶるぶるがたがたぐらぐらがくがく。
私は一体、何をしようとしていたんだろう。
死を選んだんじゃなくて、生を諦めた。
でもそれは――、死ぬことへの覚悟を決めたって訳じゃない。
でもそれは――、死ぬことへの覚悟を決めたって訳じゃない。
死ぬってどういう事?
今考えているこの私が、消えてなくなるの?
私は、どこへ行くの?
どこにも行かないの?
今考えているこの私が、消えてなくなるの?
私は、どこへ行くの?
どこにも行かないの?
まっくろな闇の中でまどろんでいるような感じ?
それとも、極楽って言われるように、これまでの亡くなった人すべてが集まる理想郷に辿り着く?
ううん、きっと違う。
そこにあるのは闇ですらない、完全なゼロ。
もちろん先に逝った人と永遠に穏やかな暮らしをする、なんて事だってありえない。
それとも、極楽って言われるように、これまでの亡くなった人すべてが集まる理想郷に辿り着く?
ううん、きっと違う。
そこにあるのは闇ですらない、完全なゼロ。
もちろん先に逝った人と永遠に穏やかな暮らしをする、なんて事だってありえない。
痛いのと怖いのが嫌だから、私は死のうとした。
確かに死ねば、痛いのも怖いのも0になる。
確かに死ねば、痛いのも怖いのも0になる。
……でも、きっとそこには誰もいない。
私すらいない。
ハヤテくんだっていない。
私すらいない。
ハヤテくんだっていない。
ごめん、ハヤテくん。
あなたに会えるかもって理由で、さっきは命を捨てようとしたのに。
あなたに会えるかもって理由で、さっきは命を捨てようとしたのに。
「私――、まだ、死にたくないよぉ」
…………、皮肉だなあ。
今度こそ助からないって、まさにその時になって気付くなんて。
知らないお兄さんが、馬乗りになって私の首をぎりぎりと絞め上げていた。
5たす5。
十本の指の感触が、私の喉に食い込んでくる。
知らないお兄さんが、馬乗りになって私の首をぎりぎりと絞め上げていた。
5たす5。
十本の指の感触が、私の喉に食い込んでくる。
気がついたら、もうこんな状態だった。
自分が死ぬって事がまるで他人事のよう。
だって、そう思ってないと心が砕けちゃう。
人の心って本当に難しいね、ハヤテくん。ついさっきまで私はあなたのいるそこを信じていたんだよ?
なのに今は、死ぬのが怖くて、怖くて怖くて、死んだ後の世界を信じられないよ。
ほんの上っ面だけでも信じられたら、ずっとずっと楽になれるのに。
だって、そう思ってないと心が砕けちゃう。
人の心って本当に難しいね、ハヤテくん。ついさっきまで私はあなたのいるそこを信じていたんだよ?
なのに今は、死ぬのが怖くて、怖くて怖くて、死んだ後の世界を信じられないよ。
ほんの上っ面だけでも信じられたら、ずっとずっと楽になれるのに。
あはは。
これで死んだ人の魂の集まる場所が本当にあったのなら、つくづく私はついていないなあ。
“神”様がほんとうにかみさまなら、そのくらい用意してるかも。
これで死んだ人の魂の集まる場所が本当にあったのなら、つくづく私はついていないなあ。
“神”様がほんとうにかみさまなら、そのくらい用意してるかも。
あはは、はは、は……。
私、都合のいい妄想ばっかりだ。ずっとずっと、最後まで強くないまま。
私、都合のいい妄想ばっかりだ。ずっとずっと、最後まで強くないまま。
何かがこきりと鳴った。
目の前が薄暗くなってくる。
苦しくて息ができなくて辛くて、私の首から伸びたお兄さんの手首を必死で掴んだ。
ぎゅうっと握りしめると自分のとは信じられないくらい強い力が出る。
それに驚いても、手は勝手に動く。
お兄さんの手に私の爪がぶすぶすと突き刺さった。
血に濡れる感触が気持ち悪いけど、それでもお兄さんの力の方がずっと強い。
目の前が薄暗くなってくる。
苦しくて息ができなくて辛くて、私の首から伸びたお兄さんの手首を必死で掴んだ。
ぎゅうっと握りしめると自分のとは信じられないくらい強い力が出る。
それに驚いても、手は勝手に動く。
お兄さんの手に私の爪がぶすぶすと突き刺さった。
血に濡れる感触が気持ち悪いけど、それでもお兄さんの力の方がずっと強い。
口から泡が出てきた。つばを飲み込みたくても出来ないんだ。
私の死体には首に手の形の青あざがついちゃうかも、なんてどうでもいい事を考える。
少しづつ、体の力が抜けていく。一緒に私の命も抜けていく。
考えられる量が少なくなってきて楽なはずなのに、苦しいよ……。
息ができないって、こんなに苦しかったんだ。
私の死体には首に手の形の青あざがついちゃうかも、なんてどうでもいい事を考える。
少しづつ、体の力が抜けていく。一緒に私の命も抜けていく。
考えられる量が少なくなってきて楽なはずなのに、苦しいよ……。
息ができないって、こんなに苦しかったんだ。
お兄さんは焦点の合わない目で、私でない何かを見つめている。
今にも泣きだしそうに震えてて――、どこか悲しそうに感じられた。
なんでかわからないけど、私を殺そうとする人なのにまったく憎くなんてなかった。
今にも泣きだしそうに震えてて――、どこか悲しそうに感じられた。
なんでかわからないけど、私を殺そうとする人なのにまったく憎くなんてなかった。
だから、私はぱくぱくと口を動かす。
何を伝えたかったのかは、分からない。
何を伝えたかったのかは、分からない。
でも、声が出なくても、意識が朦朧としていても。
確かに私はお兄さんに何かを言ったんだと思う。
確かに私はお兄さんに何かを言ったんだと思う。
――本当に突然だった。
お兄さんは不意に、怯えた顔をして首から手を離した。
お兄さんは不意に、怯えた顔をして首から手を離した。
ごほごほと、咳が出る。
いきなり肺の奥に流れ込んだ大量の空気とつばが、苦しいぐらいに痛い。
痛いのに、胸を掻き毟りたいのに、体がそれを許してくれない。
もうやめてって叫びだしたいくらいに、パンパンになるまで勝手に息を吸わされる。
いきなり肺の奥に流れ込んだ大量の空気とつばが、苦しいぐらいに痛い。
痛いのに、胸を掻き毟りたいのに、体がそれを許してくれない。
もうやめてって叫びだしたいくらいに、パンパンになるまで勝手に息を吸わされる。
でも生きてる。
まだ私は――、生きてる。
お兄さんは呆然としながら、一歩、二歩と後ずさった。
頭を抱えてフラフラと掻き毟って、今にも風で吹き飛んでしまいそう。
そんな頼りない姿なのに、血の混じった痰を吐きだしたら、急に体中に戦慄が走った。
さっきまで体を委ねさえしたお兄さんが、急におぞましい化け物のように見えてくる。
まだ私は――、生きてる。
お兄さんは呆然としながら、一歩、二歩と後ずさった。
頭を抱えてフラフラと掻き毟って、今にも風で吹き飛んでしまいそう。
そんな頼りない姿なのに、血の混じった痰を吐きだしたら、急に体中に戦慄が走った。
さっきまで体を委ねさえしたお兄さんが、急におぞましい化け物のように見えてくる。
「ひ、ぃ……っ」
まだぜんぜん覚束ないのに、お酒を飲んだお父さんのように千鳥足で逃げ出す。
走ろうとする。
早速転んだ。
膝小僧がずるりと剥けて、泥が肉に入り込んだ。けど立ち上がった。
また走り始めた。
すぐ転んだ。また、別のところが裂けた。けど立ち上がった。
後ろも見ず、お兄さんの動きも確認せず、とにかくここにいたくなかったから。
――私は、また逃げ出す。
森の道へと。逃げていく。
体中に擦り傷を作って、ぼろぼろになって。
走ろうとする。
早速転んだ。
膝小僧がずるりと剥けて、泥が肉に入り込んだ。けど立ち上がった。
また走り始めた。
すぐ転んだ。また、別のところが裂けた。けど立ち上がった。
後ろも見ず、お兄さんの動きも確認せず、とにかくここにいたくなかったから。
――私は、また逃げ出す。
森の道へと。逃げていく。
体中に擦り傷を作って、ぼろぼろになって。
……誰でもよかった。
私はガラガラに潰れた喉で助けを求め続けている。
私はガラガラに潰れた喉で助けを求め続けている。
「ヒナさん! ボンさん! 平坂さん! ブランドンさん! ハヤテくん!」
涙で顔をぐちょぐちょにして、喉に手形の青あざを作って。どんなにみっともない姿でも。
私は強くないから、素直に気持ちを吐き出してしまう。
ただ、死にたくないから。
ただ、死にたくないから。
「助けてよぉ……っ!」
その瞬間、目の前がオレンジ色に染まった。
花開いた炎と黒煙は――、本当に花火そっくりで、それが暴力の象徴だなんて思えなかった。
花開いた炎と黒煙は――、本当に花火そっくりで、それが暴力の象徴だなんて思えなかった。
いつの間にか、私は空を飛んでる。
片方の耳が何にも聞こえない。
ただ、耳から首筋に血が流れてる感触がする。
鼓膜が破れたのかもしれない。
片方の耳が何にも聞こえない。
ただ、耳から首筋に血が流れてる感触がする。
鼓膜が破れたのかもしれない。
あ、爆発したんだ。
そう気付いたのは、地面に思いっきりぶつかってごろごろ転がった後だった。
なあるほど、といやに冷静にうなずく。
あのロボットもこうやって壊れちゃったんだ。
燃えていた服は泥にまみれたせいか次第に消えていったけど、繊維の燃える臭いが頭に響く。臭いよ。
なあるほど、といやに冷静にうなずく。
あのロボットもこうやって壊れちゃったんだ。
燃えていた服は泥にまみれたせいか次第に消えていったけど、繊維の燃える臭いが頭に響く。臭いよ。
寒い。
服が燃えていたのに、寒い。
服が燃えていたのに、寒い。
何気なく頭に手を持っていってから目の前にかざすと、
べちょ。
「わあ、真っ赤……」
火が消えたのは、泥のせいなんかじゃなかった。
泥に見えたのは、
泥に見えたのは、
「私の……血だぁ」
血で濡れたから、火は燃えなくなった。子供でも知ってる当たり前のこと。
なのに私は、濡れているのに全く気付かなかった。
口の中が鉄臭いし、自分の肉の焼ける臭いも気持ち悪い。
ぱちぱちと、まだ何かが燃えている音がする。
ちょっと酸っぱい血の味が、気持ち悪い。
見える世界は白っぽくて、強い光を見て麻痺しているんだって生物で習った事を思い出した。
なのに私は、濡れているのに全く気付かなかった。
口の中が鉄臭いし、自分の肉の焼ける臭いも気持ち悪い。
ぱちぱちと、まだ何かが燃えている音がする。
ちょっと酸っぱい血の味が、気持ち悪い。
見える世界は白っぽくて、強い光を見て麻痺しているんだって生物で習った事を思い出した。
なのに、体が何かに触っている感覚が全くない。
触覚だけがぶつっと途切れて、それが際立って、自分はもう壊れてしまったんだって強く思い知らされた。
触覚だけがぶつっと途切れて、それが際立って、自分はもう壊れてしまったんだって強く思い知らされた。
「あは、あはは……」
ずたぼろで使い物にならない服が、血に浸した雑巾になっただけ。
なのに、なぜか涙がこぼれてくる。
私だって、女の子だもの。
ぜんぜん似合わないけど、褒めてくれる人ももういないけど、かわいい服とか大好きだもん。
こんな酷い恰好は嫌だった。
こんな酷い恰好で終わりだなんて、あんまりにも辛すぎた。
なのに、なぜか涙がこぼれてくる。
私だって、女の子だもの。
ぜんぜん似合わないけど、褒めてくれる人ももういないけど、かわいい服とか大好きだもん。
こんな酷い恰好は嫌だった。
こんな酷い恰好で終わりだなんて、あんまりにも辛すぎた。
辛すぎて――、なんでか笑ってしまう。
おかしいな。何がおかしいんだろ。
ああそうか、私自身がおかしくなっちゃったんだ。
おかしいな。何がおかしいんだろ。
ああそうか、私自身がおかしくなっちゃったんだ。
「あはは、あは、あは。あは……、あははははっ!
あはっ! あははは、あははははははははっ!」
あはっ! あははは、あははははははははっ!」
こんな終わりじゃ、さっきのお兄さんに殺してもらった方がまだましだった。
だって、そうすれば独りじゃない。独りで死んでいったわけじゃない。
だって、そうすれば独りじゃない。独りで死んでいったわけじゃない。
こんな誰にも見つけられないような暗い森の中で、おかしくなって独り死んでいく。
それが私の、最期。
それが私の、最期。
……死にたく、ないよ。
でも、生きたいわけでもない。
独りで生きたくなんてない。
でも、生きたいわけでもない。
独りで生きたくなんてない。
「あはははっ! あはは、あは……は……は……、う、ぁは、はぅ、
……ぅ、う、う、ひ、ぁ……」
……ぅ、う、う、ひ、ぁ……」
なんにもなかった私が、今更何を望んでいるんだろう。
「ひ、……ひっ、ひっ、うぇ……、やぁ、うっ、ぁ、やだぁ。
やだよぉ、うぁぁああぁ、あぁぁぁぁ、わぁぁあぁ……っ!
わぁぁあぁ、やだぁっ! やだぁあぁっ!
わぁあぁぁぁああぁああんっ! うわぁあぁぁぁああぁぁあん!」
やだよぉ、うぁぁああぁ、あぁぁぁぁ、わぁぁあぁ……っ!
わぁぁあぁ、やだぁっ! やだぁあぁっ!
わぁあぁぁぁああぁああんっ! うわぁあぁぁぁああぁぁあん!」
……笑い続けるのも限界だった。
自分が自分であんまりに痛々しくて、狂った演技さえ最後までできなかった。
自分が自分であんまりに痛々しくて、狂った演技さえ最後までできなかった。
結局私は――、おかしくなれるほどさえ、強くなかった。
ざり、と、まだまともな方の耳に砂の擦れる音が届く。
カタツムリみたいにゆっくりと首を曲げると、そこにはここに来て出会った人の顔が一つ。
相変わらず鋭くてすくんじゃう目だなあ、と。こころの中で密かに思った。
カタツムリみたいにゆっくりと首を曲げると、そこにはここに来て出会った人の顔が一つ。
相変わらず鋭くてすくんじゃう目だなあ、と。こころの中で密かに思った。
「ぅあ……、あ、ブランドン、さん」
呼びかけても返事はない。
血まみれの体を見ても、涙でぐちょぐちょの顔を見ても、表情一つ変えてくれない。
それでも、何を考えているかもわからない人だけど、一つだけは確かだ。
血まみれの体を見ても、涙でぐちょぐちょの顔を見ても、表情一つ変えてくれない。
それでも、何を考えているかもわからない人だけど、一つだけは確かだ。
「良か……た、まだ、生きて、たん、ですね」
「脆いな」
上から悠然と見下ろされて、一瞬痛みや苦しみを忘れるくらいに圧倒された。
物凄い存在感に、押し潰されそう。
……それも当然か。
ブランドンさんはきっと強い人で、殺し合いにも慣れているのだろう。
物凄い存在感に、押し潰されそう。
……それも当然か。
ブランドンさんはきっと強い人で、殺し合いにも慣れているのだろう。
「あは、死んじゃう、みたい……です、私」
けれど、最後の最後で少しだけ、ツキが回ってきたのかも。
嬉しいな。だって――、
嬉しいな。だって――、
「あ、の……お願、いです。私が、死ぬまで、見てて、ほしいん、です。
独りは……、寂しいまま、で、死んでくのは、やだか、ら……」
独りは……、寂しいまま、で、死んでくのは、やだか、ら……」
そういうの嫌いだってなんとなく分かりますけど。
そう言おうとして、もうまともに口が動かないのに気づいた。
そう言おうとして、もうまともに口が動かないのに気づいた。
この人はきっと冷徹で恐ろしい人で、もしかしたら平坂さんが言っていたみたいに、悪い人でもあるかもしれない。
でも、だけど、決して救いのない人ではないんじゃないかって思う。
役立たずで足手まといのはずの私を、完全に無視しきってはいなかったんだから。
でも、だけど、決して救いのない人ではないんじゃないかって思う。
役立たずで足手まといのはずの私を、完全に無視しきってはいなかったんだから。
ゆっくりと、何も言わず。ブランドンさんは手を掲げていく。
「…………」
ブランドンさんの手が、歪んでいく。
目の錯覚かと思ったけど、そうじゃない。
――まるで天使の羽のように、腕の中からいくつものいくつもの刃が創り出されていく。
一枚一枚の煌めきが、まるで星のようだった。
目の錯覚かと思ったけど、そうじゃない。
――まるで天使の羽のように、腕の中からいくつものいくつもの刃が創り出されていく。
一枚一枚の煌めきが、まるで星のようだった。
「綺麗……」
……ありがとう。って、うまく言えてるかな。
楽にしてくれるんだって、なんとなく気付いた。
楽にしてくれるんだって、なんとなく気付いた。
最後が一人でなくって、よかった。
*****
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| 090:マリオネットラプソディー | カノン・ヒルベルト | 102:The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew |
| 090:マリオネットラプソディー | 西沢歩 | 102:The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew |
| 073:情報遊戯 | ミリオンズ・ナイブズ | 102:The Destinies mend rifts in time as Man etches fate anew |