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Eternal Desire

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Eternal Desire ◆L62I.UGyuw



朝。
太い木々が生い茂る森にようやく陽の光が射す。空は高く、鮮やかな雲がまだらに浮かんでいた。
辺りには鳥の鳴き声が響き、適度に湿った空気は場違いなくらい爽やかだった。

緑の海の中を、派手な赤いコートを翻して、金と黒が混じったトンガリ頭のガンマン――ヴァッシュがひた走る。

あのとき、禍々しい鎧を纏った植木にハッパを掛けられて。
僅かな逡巡の後、結局彼は遁走したロビンを追い掛ける決断を下した。
元より『ロビンを見捨てない』ことを前提とするならば選択の余地は無い。
植木は引き止める間も無くデパートの方へ駆けていってしまったのだから。
それに客観的な事実だけを見れば植木は確かに復活したのだし、彼の判断――ヴァッシュがロビンを追い、植木がデパートへ向かう――も間違ってはいない。
仮に植木を引き止めたところで、半死人に近い状態だった彼と共に山林を駆け回るのは無茶だからだ。
だからここはヴァッシュがロビンを捕まえて説得、そしてすぐにデパートで植木達と合流するのが最良だろう。
胸騒ぎを強引に抑え付けて、ヴァッシュはそんな自らの冷静な部分の声に従う。

ただ実際に彼を駆り立てているのはそんな理性的な理由ではなかった。
ロビンの眼。傷付き、肩で息をしながらも、ヴァッシュを射抜いた視線。
彼には、彼女の濡れた闇色の瞳が、その奥に湛えられた底無しの孤独と絶望が、彼の兄のそれと酷く近しいものに思えたのだ。
仲間を、友を殺されたという苦悶の更に深みから溢れ出る、暗澹たるヒトへの嫌悪が――。
放っておく訳にはいかない。彼女に兄と同じ道を歩ませる訳にはいかない。
ヴァッシュ自身どの程度意識しているのかは判らないが、彼がロビンを追う決断をした決定的な理由はそれだった。

とはいえ――、

「ああもう! どこまで行っても木ばっかりじゃないか。こんなにあったら有難味ってモンがないだろ!?」

森の中に逃げ込んだ彼女を見つけ出すのは容易ではない。
いや、それ以前に真っ直ぐ進むことすら難しいのだ。
変わらぬようで常に変化する景色が、木々のざわめきが、地形の微妙な起伏が、ヴァッシュの方向感覚を狂わせる。
得体の知れない胸騒ぎも相まって、彼の焦りはどんどんと増幅していく。
そしてその焦りはさらに方向を見失わせる。
典型的な悪循環だ。

そうこうしている内に、とうとうヴァッシュは自分の居場所すら判らなくなってしまった。
砂漠しか知らない彼は、森林の脅威を軽く見過ぎていたのだ。
優に一世紀を超える旅の経験もこの場ではあまり役に立たない。
森の中で迷った時の対処法など当然知るはずもなく、一人途方に暮れる。

「……ボクチャンもしかしてこの歳で迷子デスカ? アハハハハ…………」

乾いた笑いが空しく森の奥へと吸い込まれていった。
ハァ、と。最後に大きく溜息を吐く。
完全にロビンを見失ったらしい。追うのを諦めるつもりは無いが、状況を打開する手が無いことも確かだ。
とりあえず、方角くらいは確かめておこう。
そう思って肩に掛けたデイパックからコンパスを取り出したそのとき、



――――ズン。



山が微かに震え、狭い空に鳥が一斉に飛び立った。
ヴァッシュは、振動の正体は何かの爆発の余波であると瞬時に看破し、体に緊張を走らせる。
身構えたまま数秒。鳥の群れが編隊を組んでどこかへ飛んでいった。

周囲に神経を張り巡らせつつ、ヴァッシュは考える。
爆発は西の方で起こった。ロビンと関係があるのか否かは判らない。
だが、当てもなく彷徨うよりは、爆音の源へ向かった方が幾分マシだ。
そう判断した彼は、一度辺りに素早く視線を走らせると、向きを変えて再び走り出した。

鬱蒼とした森の中。相変わらず気を抜くと距離も方向も失いそうになる曖昧な景色。
それでも多少は慣れたのか、コンパスを確認しながら西へと疾走するヴァッシュ。
しばらく走ったところで、

「ん?」

妙な物を発見し、彼は慌てて立ち止まった。
木と木の間。ちょうど膝の高さに、何か――細い糸が張られている。

「これは――」

森にはこんなものもあるのか――などと一瞬間抜けな感想を抱いたヴァッシュだったが、すぐにそんな訳はないと思い直した。
多分、誰かの仕掛けた罠だろう。よく見れば十メートルくらい先にも、今度は首の辺りの高さに同じ糸が張られている。
相当注意していないと、普通の人間では気付くまい。
誰かが引っ掛かる可能性を考えると残らず解除しておきたいところだが、流石にそんな悠長なことをしている時間は無い。
何にせよ、まずは爆心地へ向かうのが先決だ。
そう思い直し、少し不本意ながらも目前の罠を飛び越えて――、



「――な!?」



着地した瞬間に、ごく近く、プラントの力の射程と比較すれば正に目と鼻の先で――ゲートが、開いた。


*****


今更に、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは思い出す。

『ええかトンガリ……こないな時代やと人生は絶え間なく連続した問題集や』

全く、その通りだと思う。

『揃って複雑。選択肢は酷薄。加えて制限時間まで有る』

いつも複雑さに頭を悩ませて、最悪の選択肢を選んではいないかと怯えて、制限時間に背中を押されて、

『一番最低なんは夢みたいな解法を待って何一つ選ばない事や』

いつも恐る恐る手探りで、なるべく多くを、出来れば全てを取り零さないようにと努力して、

『オロオロしてる間に全部おじゃん。一人も救えへん』

そして結局――今度も、親友を救うことさえ出来なかった。

『……選ばなアカンねや!! 一人も殺せん奴に一人も救えるもんかい』

そう、なのかもしれない。いつもいつも犠牲無しに物事を丸く収める選択肢が在るとは限らないのかもしれない。でも、例えそうだとしても、

『ワシらは神さまと違うねん。万能やないだけ鬼にもならなアカン……』

ウルフウッド、それでもやっぱり、目の前の命を切り捨てるなんてことは、僕には――――。


*****


爆音。そして少し経って開いたゲート。
これらの示唆するところは、ナイブズと何者かとの戦闘。
相手はロビンかもしれないし、そうでないかもしれない。
だがどちらにせよ――ナイブズが立ち塞がる敵に対して容赦などするはずがない。
当然ながら、ヴァッシュとしては見過ごすわけにはいかなかった。だが、

「遅かった……のか?」

点在する罠を避けながら必死に走ってきた彼を待っていたのは、無人の爆発の跡だった。
憮然として立ち尽くすヴァッシュ。
動くものは、何も無い。焼けた有機物と微かな鉄錆の臭いが鼻腔を刺激する。
爆風の影響か、周囲の木々の樹皮は一部変色しており、沢山の葉が地面に積もって燻っている。
その大量の落ち葉に混じって、異物が――明らかな人工物が落ちていた。

「これは……」

ヴァッシュは慎重に足元のそれを拾い上げた。
血と泥に塗れてボロボロになってはいるが、辛うじて女物の服であることは判別出来る。
よく見ると、近くには衣服の欠片らしき襤褸切れが他にも落ちている。その近辺の土は大量の血を吸って赤黒く染まっていた。
しかし、何故かその持ち主の姿が無い。これだけの出血量――控えめに見ても動ける傷でないことは明白なのに。
勿論、そこいらに誰かの死体が転がっているよりは遥かにマシなのだが。

それにしても――と、出来の悪い答案用紙を眺める学生のような表情でヴァッシュは考え込む。
ちぐはぐだ。
爆発が起こり、ナイブズが力を振るい、誰かが重傷を負い、その誰かは忽然と姿を消した。
事象の一つ一つは理解出来る。だがしかし、一つの場所で、短い時間で起こった現象と考えると訳が分からなくなる。
いや、無理にでもというなら説明を付けることは可能なのだが――それは歪な机上の空論に過ぎない。

ともあれ、ヴァッシュの理解を超えた何かがここで起こったということだけは確実だ。

緑の天蓋を仰いで嘆息する。
答えの出ない問題はひとまず脇に置いておくことにして、ヴァッシュは気持ちを切り替える。
どの道、ここにこうして突っ立っていても仕方ない。
少しの間顎に手を当てて考え込み、やがておもむろにコンパスで方角を確認。
そしてヴァッシュは再び何処かを目指して走り始めた。

後にはただ、僅かに燻る落ち葉が残されているだけだった。


【H-5/一日目/午前】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:頬に擦過傷、疲労(小)、黒髪化3/4進行
[服装]:真紅のコートにサングラス
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6うちAA弾0/6(予備弾23うちAA弾0/23))@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式、ダーツ@未来日記×1、不明支給品×1
[思考]
基本:誰一人死なせない。
0:何があったんだ?
1:ロビンを追って説得する。
2:ナイブズが近くにいるはずだが――?
3:趙公明を追いたいが、手がかりがない。
4:参加者と出会ったならばできる限り平和裏に対応、保護したい。
5:なるべく早く植木達と合流する。
[備考]
※参戦時期はウルフウッド死亡後、エンジェル・アーム弾初使用前です。
※エンジェル・アームの制限は不明です。
 少なくともエンジェル・アーム弾は使用できますが、大出力の砲撃に関しては制限されている可能性があります。


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