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「あの未来に続く為」だけ、の戦いだった

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「あの未来に続く為」だけ、の戦いだった ◆L62I.UGyuw



隣り合ったパズルのピースは、引き寄せられる『運命』にあったのだろうか。


*****


朝はとっくに過ぎ、普段ならそろそろ昼食の準備を始める頃合。
にもかかわらず未だ薄暗い山の中を、森あいはがむしゃらにひた走っていた。

どうして、
どうして、
どうして、
どうして、
どうして、

「どうして」

無意識に、疑問の言葉が渇いた唇の間から漏れる。
そして、よろめいて、近くの木に手を突き体重を預けた。
趙公明に脅されて走り始めてから数十分。
何度か木の根に足を取られて転び、身体のあちこちに擦り傷が出来ている。
それでもめげずに走り続けたのだが、ペース配分も何も考えずにここまで来たため、ついに体力の限界が来たのだ。

心臓が早鐘を打っている。荒い息を抑え、無理矢理整える。
額に浮き上がった汗と一緒に涙を拭ったそのとき――、

がさり、と背後から一際大きな音がした。

「ひっ!?」

慌てて振り返り、そしてその拍子に彼女は尻餅を突いてしまった。
彼女が恐れていることは一つ。

まさか、趙公明がここまで――?

最悪の想像に戦慄する森。
しかし――それは杞憂だった。

ざわざわと、木々がざわめく。
周囲に人の気配は無い。

先程の音は野生の生物のものか、それともただの風だったのか。
大きく息を吐く。そして立ち上がって尻を軽く払い、彼女は再び歩き出した。



それにしても、だ。

どうして、こんなことになったのかと。
もっとマシな選択があったのではないのかと。

幾つもの疑問と後悔が渦を巻いて彼女の頭の中で木霊する。

特に、植木を殺めたことすら赦し、立ち直らせてくれた恩人を見捨てて逃げた――その事実が森に重く圧し掛かっていた。
趙公明に対して抵抗出来なかった訳ではない。何しろ手元には銃があった。
勿論銃なんて撃ったことは無いが、それでもあの至近距離なら外さなかっただろう。
もっとも、それで趙公明を殺せたかといえば疑問が残るが――何にせよ、彼女にはまだ戦う手段が残されていたのだ。

だから。
逃げ出したのは純粋に怖かったためだ。

趙公明は自らを妖怪仙人だと称していた。
変なことを言う人だと思っていたが、今なら何の疑いも無くその主張を信じられる。
あのとき――趙公明の手が頭に向かって伸びてきたとき、蟷螂に睨まれた飛蝗の気持ちが初めて解った気がした。
絶対的な種族の差。その前では努力も意志も才能も塵芥と化す、超えることの出来ない絶望的な壁。
中途半端に戦いに慣れているが故に、一縷の希望すら持つことが出来なかった。
彼の気紛れ一つで自分の五体など瞬時に捻じ切れるのだと、否が応でも理解させられた。

あんな怪物に一人で立ち向かうなんて無理だ。
神を決める戦いに参加していたとはいえ、所詮自分はただの中学生なのだから。

「ごめん、植木――。やっぱり私、あんたがいないと、ダメかも……」

それが彼女の偽らざる本音だった。
いや、彼でなくてもいい。彼でなくても、共に戦った信頼出来る仲間がいれば――。

舗装された山道に出て、どちらへ進もうか一瞬悩み、左へ向かう。
強い理由は無い。別にどちらへ進んでも良かったのだが、強いて言えば道が左の方へ若干上っていたからだ。
下に進むのは趙公明に近付く気がして何となく嫌だ。

以前の戦いにおいても、唯一仲間だけが彼女の拠り所だった。
だが、それももういない。
植木はこの手で殺し、鈴子には拒絶されてしまった。
後に残ったのは空虚な孤独。

誰か。
誰か誰か。
誰でもいいから、助けて欲しい――。
誰か――。

――誰に?

たとえば事情を正直に話したとして、助けてくれる人なんているんだろうか?
そんな訳は無い。
正直に話すということは、キンブリーの計画も話す必要があるということだ。
『後で生き返らせてあげるから死んでくれ』なんて、そんな嘘臭い理由で喜んで死ぬ人がいるとは思えない。
現に森自信だってキンブリーの力を目の当たりにするまでは半信半疑だったのだから。
いや、今も完全に信じているかと言えば答えは否だ。
彼女もそこまで楽天家にはなれない。



急に寒くなった気がして、森は両腕で体を抱えた。
いつの間にか日が翳っている。

それでも。
それでも、もう縋るものはキンブリーの言葉しか無いのだ。
選択の余地は無い。そのはずだ。そう信じた。

俯いて、左の手首に嵌ったシンプルな腕輪をそっと撫でる。

それなら、どうすればいい?
一人では――やっぱり駄目だ。悔しいが、趙公明には絶対に勝てない。

ならば。
誰かを騙してでも味方に付けて、趙公明を殺す。
それが出来なくともキンブリーは救い出す。
これしか無い。
無謀なのかもしれないが、そもそも人を騙すなんてことが自分には出来ないかもしれないが。

「でも……もう、そうするしかないから……」

祈るように、願うように、決意する。
そして前を見ると――学生服を着た整った顔立ちの男が、ちょうど山の下の方から道へと出て来たところだった。


*****


森あいが当ても無く必死で走っていた頃。
今にも消え入りそうな足取りで、カノン・ヒルベルトはただ神社を目指して山を登っていた。

どうする、
どうする、
どうする、
どうする、
どうする、

「どうする」

無意識に、疑問の言葉が渇いた唇の間から漏れる。
立て続けのアクシデントによって、彼の精神は張り詰めた糸のようにギリギリの状態まで追い詰められていた。

だがしかし、彼はふらつきながらも、確実に効率的なコースを歩いている。
移動の邪魔になる巨大な盾と妙な石はデイパックの中だ。

完全に沈黙した機械兵器からはパーツを適当に取って来た。
浅月は首輪を外すために爆弾の専門家である竹内理緒と合流しようとしていることだろう。
もしかしたらもう合流しているかもしれない。
いずれにせよ、パーツはミカナギファイルを得るための交渉の道具になるはずだ。

ミカナギファイル。
それを持つ浅月香介
彼の居場所は今のところ全く判らない。
だが何としても早く見付けなければ。
自分がこれほど苦戦する戦場で、彼が長く生きていられる保証は無い。
特に彼一人ならばともかく、名簿には高町亮子の名もあるのだ。
一体どんな無理をしているか判ったものではない。
とはいえ――焦ったからといって見付かるものではない。
まずは地の利を確保しつつブレード・チルドレンを捜す足掛かりとするために神社へと向かう。
これがベストの方針だ。

一見すると彼の行動は冷静沈着を絵に描いたようなものに感じられるだろう。
だが事実は異なる。
明確な目標を立て、それを達成するためだけに機械のように行動する。
そうすることで何とか自分を保っているだけで、実際のところ、正常な思考はまるで働いていない。

ミカナギファイルを手に入れるというのは、言うまでもなく逃避行動だ。
彼にしても、それが本質的な解決になると心の底から思っている訳ではない。
ましてやいざとなったら浅月に殺してもらおうなどと。

そんなことを考えるくらいなら、今からでもブレード・チルドレンの呪われた運命に立ち向かった方がいい。
何しろ、絶対に覆せないはずの運命は、あのムルムルという幼子の手であっけなく砕かれてしまったのだから。
今更運命に殉じる必然など、何処にも在りはしないのだから。

しかし――しかし、だ。
彼にはそう出来ない理由がある。
彼は『弟』であるアイズ・ラザフォードを既にその手にかけてしまったのだ。
運命を否定するということは、彼の犯した行為がただの殺人であると認めることになる。
それには耐えられない。カノンの神経は無為な殺人を許容出来るほど太くはない。
おそらくはそれが、他のブレード・チルドレンと一線を画す彼の美点であり欠点なのだろう。

だから彼は、その繊細さ故に苦悩する。
『運命に立ち向かう』という甘美な誘惑に乗らない。乗ることが出来ない。
ほとんど無意識の内にその選択を排除している。



唐突に、寒いなとカノンは思った。
何処からか森の水場特有の匂いがする。川が近いのだろう。
空を仰ぐと、雲が湧き出始めていた。

ずっと森を彷徨っていると、現実感が薄れて来る。
――いや。
もしかしたらとっくに現実感など失っているのか。

頑強だった彼の心の錠は、今やガタガタになっていた。
戦いに無関係な思考を強引に捻じ伏せるのも限界だ。
ともすれば溢れ出しそうな疑念に、彼は懸命に抗う。

考えてはいけない。考えてはいけない。考えてはいけない。
考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。

それでも彼に残った理性は完全な思考停止を許さない。

錬金術。死者の蘇生。運命。ミズシロ火澄。ミカナギファイル。
死んだ。ブレード・チルドレン。殺した。違う。肋骨が。浅月。願い。
――アイズ。

戦いたい――痛切に、そう思った。
少なくとも、戦っている間だけはこの懊悩から逃れられるのだから。

いやに呼吸が苦しい。胸の奥がチリチリと痛む。
耳の傍で焼けた川が流れているような音がする。

考えたくないことを、考えてしまう。



運命を覆せるというのなら、そもそも僕の行動は――、

「間違っている、のか?」

――わからない。

――何も、わからない。

――誰か標を。

――道標を示してくれ。

――赦してくれなくていい。

――断罪してくれても構わない。

――だから、誰か答えてくれ――、

「――僕は、どうすればいい?」



震える声で呟いたとき、彼は右の方に何者かの気配を感じた。
ほとんど自動的に、体に染み付いた滑らかな動きで振り向いて麻酔銃を構える。
銃口の先にいたのは――自分以上に憔悴し切った様子の少女だった。
年の頃は中学生くらい。何故か眼鏡を頭の上に載せている。

「何でこんなところに……あ」

そしてそこでようやく、彼は自分が山道を横切ろうとしていたことを認識した。
そんなことにすら気付かなかった自分に呆れ、しかしそんな感情とは無関係に、周囲に走らせた視線を目の前の少女に戻す。

彼女は明らかに怯えていた。
何故か。
その視線が手に持った銃を捉えていることに気付き、慌てて下ろす。
彼女がまたもや人智を超えた力の持ち主で、銃を下ろした途端に襲われるかも、とは考えない。
いや――違う。それならそれでいっそ楽になれるかもしれないと心の隅で期待している。

「やあ――初めまして、可愛らしいお嬢さん。どうかしたのかな?」

そして出て来たのは百戦錬磨の"Gun with wing"にしては余りにもお粗末な一言だった。

何か深い戦略を考えていた訳ではない。
自分以上に頼り無げな彼女の姿に同情した訳でもない。
彼はただ、反射的に、『優しいお兄さん』の仮面を着けただけだ。
何故、と問うても明確な答えは返ってこないだろう。
もしかしたら、そうすれば普段の余裕をもう一度取り戻せると、そう思ったのかもしれない。



こうして、力を求める少女と力の振るい所を求める青年は出会った。

彼らの邂逅を『運命』という言葉で片付けてしまうのはあまりにも容易い。
だが穿って見る者は、もっと別の言葉が相応しいと思うのかもしれない。

そう、たとえば――『神意』と。



風が、嗤っている。


【F-6南西/山道/1日目/昼】

【カノン・ヒルベルト@スパイラル~推理の絆~】
[状態]:潜在的混乱(大)、精神的動揺、疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、“スイッチ”入りかけ
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル~推理の絆~、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×3、不明支給品×1、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、パールの盾@ONE PIECE、五光石@封神演義、マシン番長の部品
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない……?
0:目の前の子から事情を聞く?
1:浅月香介から“ミカナギファイル”を訊き出し、西沢歩の名と照会する。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか――?
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱はある程度収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
 戦術を考慮する際に利用する可能性があります。

【森あい@うえきの法則】
[状態]:疲労(大)、いくつかの擦過傷
[服装]:
[装備]:眼鏡(頭に乗っています)、キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、M16A2(30/30)、予備弾装×3
[思考]
基本:「みんなの為に」キンブリーに協力
0:……植木……ごめんね……
1:キンブリーを優勝させる。
2:鈴子ちゃん……
3:趙公明からキンブリーを助け出したい。
4:キンブリーを助けるために味方を探す。
5:安藤潤也に不信感。
[備考]
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。
※キンブリーの話を大方信用しました。
※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。


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