To be, or not to be : that is the question ◆JvezCBil8U
――思えば。
彼と彼女は珍しくも、向かう場所もなく足踏みを続けるままだった。
様々な人々の思惑の坩堝の中で、流れに身を翻弄される存在だった。
様々な人々の思惑の坩堝の中で、流れに身を翻弄される存在だった。
この物語が綴られるその中で、登場人物たちの殆どは、確固たる何かを基に己が道を進み続けている。
それは、例えば。
例えば、孤独の中でも立って笑える強さであり。
例えば、ただひたすらに争いを厭う優しさであり。
例えば、欲望と衝動に全くもって忠実な享楽であり。
例えば、未熟さ故に敢然たる他者に抱く劣等感であり。
例えば、誰かの為に自分の命すら天秤に掛ける愛であり。
例えば、自分の失った息吹を見出したが為の責任感であり。
例えば、愚直なまでに己が職務を遂行せんとする信念であり。
例えば、願い望んだ栄光をその手に掴み取らんとする夢であり。
例えば、見出した仇を滅す積年の悲願そのものたる復讐心であり。
例えば、掛け替えのないものを失った空洞を埋める為の狂気であり。
例えば、弟への憧憬から在り様を変えつつも消える事なき誇りであり。
例えば、どうにもならない現実に打ちのめされたが故の自暴自棄であり。
例えば、ただひたすらに争いを厭う優しさであり。
例えば、欲望と衝動に全くもって忠実な享楽であり。
例えば、未熟さ故に敢然たる他者に抱く劣等感であり。
例えば、誰かの為に自分の命すら天秤に掛ける愛であり。
例えば、自分の失った息吹を見出したが為の責任感であり。
例えば、愚直なまでに己が職務を遂行せんとする信念であり。
例えば、願い望んだ栄光をその手に掴み取らんとする夢であり。
例えば、見出した仇を滅す積年の悲願そのものたる復讐心であり。
例えば、掛け替えのないものを失った空洞を埋める為の狂気であり。
例えば、弟への憧憬から在り様を変えつつも消える事なき誇りであり。
例えば、どうにもならない現実に打ちのめされたが故の自暴自棄であり。
彼らは決してブレることなく、自ら敷いたレールの上を一心不乱に手を伸ばしながら、何処かへと向かうのだろう。
いくつかの分岐点がそこにはあり、しかし彼らは立ち止まることなくレバーを切り替え先へと行った。
だから今度は、彼と彼女の番だ。
必要なのは、分岐点で何を選ぶのか。ただ、それだけ。
さあ、レールはもう敷かれている。
後は一直線に――、脇目も振らず、その上を走っていくだけだ。
その行き着く先がどこであろうと、誰も彼もが駆け抜けていく。
**********
放送が流れている。
酷く幼い少年のような傲慢な声が、人々に絶望を渡していく。
その向こう側にかすかに聞こえるこの曲は、何と言っただろう。
記憶の隅に引っ掛かるその名を、僕の口は小さく小さく言葉にしていた。
その向こう側にかすかに聞こえるこの曲は、何と言っただろう。
記憶の隅に引っ掛かるその名を、僕の口は小さく小さく言葉にしていた。
「L・ドリーブ作曲……、バレエ組曲『コッペリア』、か」
……一体の自動人形コッペリアを中心とした騒動を描いた喜劇作品の為の曲だ。
創造主の作り出した人形を、とある少女がさんざんに弄んだ挙句壊してしまう物語。
人形というワードから、あの山道の入り口にあった機械を思い浮かべる。
あのような“造られた存在”が、他にもこの島にはいるのかもしれない。
そしてその中には、僕達――ブレード・チルドレンもいる事だろう。
ミズシロ・ヤイバの造り出した、殺戮の為の自動人形。
しかしその役目を果たす事すらできず、誰も彼もが無意味に無慈悲に命を散らしていく。
創造主の作り出した人形を、とある少女がさんざんに弄んだ挙句壊してしまう物語。
人形というワードから、あの山道の入り口にあった機械を思い浮かべる。
あのような“造られた存在”が、他にもこの島にはいるのかもしれない。
そしてその中には、僕達――ブレード・チルドレンもいる事だろう。
ミズシロ・ヤイバの造り出した、殺戮の為の自動人形。
しかしその役目を果たす事すらできず、誰も彼もが無意味に無慈悲に命を散らしていく。
「浅月も、亮子も、理緒も。
みんな……、みんな、死んでしまった、のか」
みんな……、みんな、死んでしまった、のか」
頭に手を軽く当てて、その場に座り込む。
どうしてか、目から溢れるものを堪え切れない。
一度は殺すと誓った兄弟達の死。
それに悲しむなんて、本当に自分の事しか見えておらず、情けない。
どうしてか、目から溢れるものを堪え切れない。
一度は殺すと誓った兄弟達の死。
それに悲しむなんて、本当に自分の事しか見えておらず、情けない。
けれどそれでも、彼らは僕の肉親だったのだ。
身勝手と分かっていながらも――、僕はこうせずにはいられなかった。
身勝手と分かっていながらも――、僕はこうせずにはいられなかった。
『コッペリア』の結末は……どうなるんだったっけ。
壊れた人形に創造主が絶望する横で少女が結婚式を挙げる皮肉な終わりだった……と思う。
異説もあるかもしれないけど、僕はアイズと違って音楽にはそこまで詳しい訳じゃなかったから、良く覚えていない。
結局、僕も含め造られた存在はロクな結末を迎えないという事なのか。
壊れた人形に創造主が絶望する横で少女が結婚式を挙げる皮肉な終わりだった……と思う。
異説もあるかもしれないけど、僕はアイズと違って音楽にはそこまで詳しい訳じゃなかったから、良く覚えていない。
結局、僕も含め造られた存在はロクな結末を迎えないという事なのか。
……皮肉とでもいうなら、更に重なることがあった。
彼らの死と同時に、僕があの西沢歩という少女を殺していない事が分かったのだ。
彼らの死と同時に、僕があの西沢歩という少女を殺していない事が分かったのだ。
もし彼女の生存を確かめられなかったら、僕はすぐにでもこの首を掻っ切って自殺していたかもしれない。
ことに、浅月の死によりミカナギファイルが失われた今は。
けれど僕は、幸か不幸か死を選ぶことが叶わなかった。
その事に安堵している自分を見つけ、より一層涙が後から後から零れ落ちてくる。
ことに、浅月の死によりミカナギファイルが失われた今は。
けれど僕は、幸か不幸か死を選ぶことが叶わなかった。
その事に安堵している自分を見つけ、より一層涙が後から後から零れ落ちてくる。
これも、運命――神意なのか。
浅月の死と西沢歩の生存を同時に知らせ、僕を生きながらに苦しませることこそが、予定調和。
浅月の死と西沢歩の生存を同時に知らせ、僕を生きながらに苦しませることこそが、予定調和。
鳴海清隆なら、それくらいはやってのけるだろう。
そうして追い詰められた僕を、いつか何かに使うつもりなのかもしれない。
そうして追い詰められた僕を、いつか何かに使うつもりなのかもしれない。
だったら、だからこそ。
僕は今ここで、死ぬべきなんだろうか。
彼の思惑通りになどならないと、せめて抵抗して見せる為に。
僕は今ここで、死ぬべきなんだろうか。
彼の思惑通りになどならないと、せめて抵抗して見せる為に。
けれど、僕の死こそが神の狙いなのかもしれないと考えると、思い止まってしまうのだ。
……いずれにせよ、時間がない。
僕はスイッチが入りかけているのを自覚している。
そして、歩君を探してはいながらも、その後の事について何らの展望を持っているわけでもない。
救世主たりえないとはいえ歩君の重要性について意識できているだけで、どう応対すべきか、同行すべきかすら決めかねているのが現状だ。
もし僕のスイッチが入ってしまったら、たとえ僕に歩君を殺す事は出来ないとはいえ、彼に危害を加えてしまう可能性は十分にある。
僕はスイッチが入りかけているのを自覚している。
そして、歩君を探してはいながらも、その後の事について何らの展望を持っているわけでもない。
救世主たりえないとはいえ歩君の重要性について意識できているだけで、どう応対すべきか、同行すべきかすら決めかねているのが現状だ。
もし僕のスイッチが入ってしまったら、たとえ僕に歩君を殺す事は出来ないとはいえ、彼に危害を加えてしまう可能性は十分にある。
ならばやはり、距離を取るべきなのではないか?
それこそ、この命を絶ってでも、だ。
間違いなく歩君は、浅月たちの殺害に僕に嫌疑をかけてくる。
そして歩君がその現場を押さえているなどの事態がない限り、それを晴らす事などできないのだ。
下手に出て行って彼を混乱させるのは僕の本意じゃない。
それこそ、この命を絶ってでも、だ。
間違いなく歩君は、浅月たちの殺害に僕に嫌疑をかけてくる。
そして歩君がその現場を押さえているなどの事態がない限り、それを晴らす事などできないのだ。
下手に出て行って彼を混乱させるのは僕の本意じゃない。
「……アイズ、僕はどうすればいいんだろう」
この手で殺してしまった弟の事を想って、また顔を俯ける。
あんな事さえしでかさなければ、僕はまだきっと希望を見出せたのだろう。
後悔などしないと、そう決意して手を血に染めたのに。
世界はあまりにも残酷にできている。
あんな事さえしでかさなければ、僕はまだきっと希望を見出せたのだろう。
後悔などしないと、そう決意して手を血に染めたのに。
世界はあまりにも残酷にできている。
無駄な事は考えるな。運命に身を委ねてしまえ。
黒々とした煮詰まりが僕をすり減らしていくその時に。
僕は――、あまりに唐突な悲嘆をこの耳で聞いた。
僕は――、あまりに唐突な悲嘆をこの耳で聞いた。
ああ、そうか。すっかり忘れてしまっていた。
僕はまだ――、この子と一緒にいる。
だったら僕には、まだできる事がある。
だったら僕には、まだできる事がある。
**********
カタカタと、私は震えている。
両腕を互いにしっかり握りしめて、体育座りで蹲って。
わぁーっ、て叫びだそうとするのをどうにか抑え込んでいる。
両腕を互いにしっかり握りしめて、体育座りで蹲って。
わぁーっ、て叫びだそうとするのをどうにか抑え込んでいる。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
植木の名前が呼ばれた。
それはつまり、つまり。
つまりつまりつまりつまり!
つまりつまりつまりつまり!
…………つま、り。
キンブリーさんですら、私を騙していた。
騙して、私を人殺しにしようとしていた。
騙して、私を人殺しにしようとしていた。
植木は生きていた。
でも、贖罪をする暇もなく、逝ってしまった。
でも、贖罪をする暇もなく、逝ってしまった。
キンブリーさんが趙公明の同類だった。
キンブリーさんが私をあの地下室に閉じ込めていなければ、植木を助けられたかもしれなかった。
キンブリーさんが卑怯者になれって言ったのは、彼の言う通り私を盾にするつもりでしかなかった。
キンブリーさんが。
キンブリーさんが。
キンブリーさんが。
キンブリーさんが私をあの地下室に閉じ込めていなければ、植木を助けられたかもしれなかった。
キンブリーさんが卑怯者になれって言ったのは、彼の言う通り私を盾にするつもりでしかなかった。
キンブリーさんが。
キンブリーさんが。
キンブリーさんが。
そして、キンブリーさんの事しか考えられなくなったところで、気付く。気づいてしまう。
キンブリーさんの全てが虚構に塗り固められているというのなら。
もう、植木を生き返らせる事だって出来はしない。
キンブリーさんの全てが虚構に塗り固められているというのなら。
もう、植木を生き返らせる事だって出来はしない。
気持ち悪い。
得体のしれない何かが、私の中で寄生虫のように巣食っている。
周りの全てが、世界そのものが信じられなくって、
得体のしれない何かが、私の中で寄生虫のように巣食っている。
周りの全てが、世界そのものが信じられなくって、
「あ、あぁ……、あ、あぁぁあああああっ!」
髪の毛を振り乱して私は叫ぶ。叫ばずにはいられない。
もう、どうなっても良かった。
意味もなく手足をばたつかせて、訳の分からない言葉以下の唸りを挙げる事しかできなかった。
目に入ったモノに、何でもいいからこの今にも噴出しそうな何かをぶつけたくってしょうがなくって。
もう、どうなっても良かった。
意味もなく手足をばたつかせて、訳の分からない言葉以下の唸りを挙げる事しかできなかった。
目に入ったモノに、何でもいいからこの今にも噴出しそうな何かをぶつけたくってしょうがなくって。
……そして、“その人”を見た瞬間、その暴力的な憤りは、途端に逆ベクトルに走り去っていく。
体が固まり、ゾ……ッ、と、氷でも差し込まれたかのように一気に冷え込んでいく。
体が固まり、ゾ……ッ、と、氷でも差し込まれたかのように一気に冷え込んでいく。
「……森さん」
こちらを心配するように、窺うように、そして――いぶかしむ様に。
カノン・ヒルベルトと名乗ったこの人は、ジッとこちらを見つめてくる。
カノン・ヒルベルトと名乗ったこの人は、ジッとこちらを見つめてくる。
……趙公明に対抗するために、騙してでも味方につけようとした人。
嘘で塗り固めた私の話を一字一句ちゃんと聞いて、たまたま先に出会っていたからこそ趙公明の危険性も理解してくれて。
嘘で塗り固めた私の話を一字一句ちゃんと聞いて、たまたま先に出会っていたからこそ趙公明の危険性も理解してくれて。
……これなら、蘇生の可能性について話しても、カノンさんだったら信じてくれると――そう思えた矢先の放送だった。
「こ、来ないでぇっ!」
怖い!
怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い!
ヘラヘラヘラヘラと、虫も殺せないような顔をしたこのイケメンだって、皮一枚捲ったら何が出てくるか分かったもんじゃない!
怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い!
ヘラヘラヘラヘラと、虫も殺せないような顔をしたこのイケメンだって、皮一枚捲ったら何が出てくるか分かったもんじゃない!
「う……撃つよ。これ以上近づいたら、撃つっ!
銃で撃てば、人は死ぬんだからぁっ!」
銃で撃てば、人は死ぬんだからぁっ!」
がくがくと腰が入ってないにもかかわらず、取りだした銃を突きつける。
何を躊躇う、私。
もう私は人を傷つけてしまってるんじゃないか。私は、人を傷つける事が出来てしまう人間なんじゃないか。
もう私は人を傷つけてしまってるんじゃないか。私は、人を傷つける事が出来てしまう人間なんじゃないか。
でも、だけど。
その顔が、痛かった。心の中に、痛かった。
カノンさんは、純粋に私を心配してくれるんだ、と、そう信じてしまいそうな顔だったから。
だからこそ、そこに甘えてしまいそうで――、
じゃり、と彼が踏み込んだ、その瞬間。
その顔が、痛かった。心の中に、痛かった。
カノンさんは、純粋に私を心配してくれるんだ、と、そう信じてしまいそうな顔だったから。
だからこそ、そこに甘えてしまいそうで――、
じゃり、と彼が踏み込んだ、その瞬間。
「いやぁぁあああっ!」
たぁん、と。
私は銃の引き金を、思いっきり弾いてしまっていた。
私は銃の引き金を、思いっきり弾いてしまっていた。
反動で思いっきりひっくり返って、地面に背中を叩きつける。
……痛かった。
……痛かった。
だけど、そんなのはどうでもよかった。
そんなのがどうでもよくなるほど、信じられない光景を見てしまったから。
そんなのがどうでもよくなるほど、信じられない光景を見てしまったから。
「ば……化け、物! ゼロ距離で……銃……避けるなんて、人間じゃ、ない……!
あ、悪魔めっ! 悪魔の子めぇっ!
死ね! 死ね死ね死ね死ね、死んじゃえ! いなくなっちゃえぇ!」
あ、悪魔めっ! 悪魔の子めぇっ!
死ね! 死ね死ね死ね死ね、死んじゃえ! いなくなっちゃえぇ!」
歯が安っぽいプールに入った時のように、カスタネットよろしく打ち鳴らされている。
口では勇ましい事を言いながらも、もう、限界だった。
壊れてしまいそうな心が、ここで殺されて楽になってしまえ、と告げていた。
口では勇ましい事を言いながらも、もう、限界だった。
壊れてしまいそうな心が、ここで殺されて楽になってしまえ、と告げていた。
どうせ、もう撃ってしまったんだ。
カノンさんが本当に私を心配してくれたのだとしても、絶対に見限られたに違いない。
カノンさんが本当に私を心配してくれたのだとしても、絶対に見限られたに違いない。
……ほら。
「……ああ、そうだよ。僕は、悪魔の子だ。
人を殺す為に作られた、殺す事しか能のない忌むべき存在だ」
人を殺す為に作られた、殺す事しか能のない忌むべき存在だ」
カノンさんが、あの趙公明のように――ゆっくりと私に手を伸ばしてくる。
小刻みに漏れる息がうるさい。
小刻みに漏れる息がうるさい。
ああ、でも、この手に首を締められるなら、まだ、マシかなぁ。
冷たいナイフや銃弾で死ぬよりも、ずっといい死に方のように思える。
冷たいナイフや銃弾で死ぬよりも、ずっといい死に方のように思える。
そうしてカノンさんは、ギュッ……、と。
まだ熱く煙を吐き続ける、銃身を握り締めた。
「……え?」
肉が焼ける嫌な臭いがする。
予想外の行動に、私の混乱は一瞬、完全に静止した。
予想外の行動に、私の混乱は一瞬、完全に静止した。
「森さん、僕はね。
……一度、兄弟にすら――手をかけた罪人なんだ」
……一度、兄弟にすら――手をかけた罪人なんだ」
続けて、カノンさんは悲しそうな笑みを湛えて私に語りかける。
どうすれば、いいんだろう。
どうすれば、いいんだろう。
目と鼻の先にあるカノンさんの整った顔立ちに、私は状況も忘れて何故かドキドキしてしまった。
「だから、僕は信じられないのも無理はない。
……そんな事をずっと黙って、君から情報を絞り取ろうとしたんだから。
でもね、そんな僕だから言える事がある」
「だから、僕は信じられないのも無理はない。
……そんな事をずっと黙って、君から情報を絞り取ろうとしたんだから。
でもね、そんな僕だから言える事がある」
一息。
「――人を殺すなんて選択は、最後にすべき事だ。
別に人を殺すのが悪だなんて、言うつもりはないけど。
でも、殺した人間は、絶対に後悔し続ける。なんでそんな事に手を染めてしまったんだ、って」
別に人を殺すのが悪だなんて、言うつもりはないけど。
でも、殺した人間は、絶対に後悔し続ける。なんでそんな事に手を染めてしまったんだ、って」
真摯な瞳での訴えかけに、だけど、私は。
「もう……遅いですよ」
ぽつりと、低い、低い声を絞り出す。
殺すという言葉に、我を取り戻してしまったから。
地面をにらむ私の目は髪に隠れてカノンさんには見えないだろう。
きっとその眼も、暗く鋭く、淀んでいるに違いない。
殺すという言葉に、我を取り戻してしまったから。
地面をにらむ私の目は髪に隠れてカノンさんには見えないだろう。
きっとその眼も、暗く鋭く、淀んでいるに違いない。
「遅い?」
そう、もう遅い。何もかも遅い。
今更そんな言葉をかけてくるカノンさんに、どうしてもっと言ってくれなかったのという理不尽な苛立ちを乗せて。
私は早口で、喚き叫ぶ。心の奥に溜まっていたものを汚く吐き散らす。
今更そんな言葉をかけてくるカノンさんに、どうしてもっと言ってくれなかったのという理不尽な苛立ちを乗せて。
私は早口で、喚き叫ぶ。心の奥に溜まっていたものを汚く吐き散らす。
「私ね……、大切な人を殺しちゃったかもしれないんです。
だけどそれを生き返らせる事が出来るっていう人がいて、でもその人は嘘を吐いていて!
だけどだけど、キンブリーさんは趙公明に監視されてるから助けなくちゃいけないけど、趙公明とグルだったかもしれないのにぃ!
あれ? 私植木を殺してないの?
だってキンブリーさんが植木は死んだって言ってて、でも私が植木を殺しちゃったのは最初の放送の前でっ!
でもぉ……っ、植木の死んだのは最初の放送の後でぇっ!
わたっ、私が、キンブリーさんと話してなければ、植木を助けられたかもしれなくて!
うわぁぁあああぁああああぁぁあああぁあああっ!」
だけどそれを生き返らせる事が出来るっていう人がいて、でもその人は嘘を吐いていて!
だけどだけど、キンブリーさんは趙公明に監視されてるから助けなくちゃいけないけど、趙公明とグルだったかもしれないのにぃ!
あれ? 私植木を殺してないの?
だってキンブリーさんが植木は死んだって言ってて、でも私が植木を殺しちゃったのは最初の放送の前でっ!
でもぉ……っ、植木の死んだのは最初の放送の後でぇっ!
わたっ、私が、キンブリーさんと話してなければ、植木を助けられたかもしれなくて!
うわぁぁあああぁああああぁぁあああぁあああっ!」
話しながらまた頭がぐちゃぐちゃになってきた。
自分でも何を言ってるか分からない。
けれど体は言葉に従うように、滅茶苦茶に暴れ始めた。
だだっ子のように腕を振り回せば、何もかもを叩き壊せるような気がしていた。
自分でも何を言ってるか分からない。
けれど体は言葉に従うように、滅茶苦茶に暴れ始めた。
だだっ子のように腕を振り回せば、何もかもを叩き壊せるような気がしていた。
でも、現実はそんなに優しくない。
私の拳は、蹴りは、……金魚でも掬うかのようにカノンさんに受け止められてしまった。
私の拳は、蹴りは、……金魚でも掬うかのようにカノンさんに受け止められてしまった。
そしてカノンさんは全くそれを気にせずに、本当に申し訳なさそうに、こう言うのだ。
「……僕は君の事は全然知らない。
だから薄っぺらく聞こえるかもしれないけど、それでも僕と同じ轍は踏まないでほしい。
本当はね、僕は――君に殺されてしまいたかったんだと思う」
だから薄っぺらく聞こえるかもしれないけど、それでも僕と同じ轍は踏まないでほしい。
本当はね、僕は――君に殺されてしまいたかったんだと思う」
「……そん、な」
その言葉を受けて、今度こそ私の中の火が消えた。
どうしてかは、分からない。もしかしたら、あらためて殺す――と、その行為を見つめ直したからかもしれない。
だけど、……カノンさんの顔を見ていると、そんな雨の中の子供みたいな顔をしないで欲しいという思いが湧いてくる。
……カノンさんを利用しようとしたり、殺そうとしたりしたのは私なんだから。
カノンさんが自分を責めるなんて、そんな事を許したくはなかった。
どうしてかは、分からない。もしかしたら、あらためて殺す――と、その行為を見つめ直したからかもしれない。
だけど、……カノンさんの顔を見ていると、そんな雨の中の子供みたいな顔をしないで欲しいという思いが湧いてくる。
……カノンさんを利用しようとしたり、殺そうとしたりしたのは私なんだから。
カノンさんが自分を責めるなんて、そんな事を許したくはなかった。
「兄弟を殺してしまって、それにこころが軋んで、だけどここに来て殺した理由すら奪われてしまって。
その上、呪いに負けて、僕が僕でなくなってしまうかもしれなくて。
……だから、もう、楽になってしまいたかった。
放送でもし、僕が誓いを破ってしまっていたら――自殺さえ考えていたんだ。
だから君と出会って話をした時、嘘を吐いているのが明らかな事が、嬉しかった。
鞄の中の何か――今思えばその銃だったんだろうけど――に意識を向け続けてたから、上手く事を運べば戦う事ができるって。
戦ってる間は何も考えなくていいし、運が良ければ死ねるからね」
その上、呪いに負けて、僕が僕でなくなってしまうかもしれなくて。
……だから、もう、楽になってしまいたかった。
放送でもし、僕が誓いを破ってしまっていたら――自殺さえ考えていたんだ。
だから君と出会って話をした時、嘘を吐いているのが明らかな事が、嬉しかった。
鞄の中の何か――今思えばその銃だったんだろうけど――に意識を向け続けてたから、上手く事を運べば戦う事ができるって。
戦ってる間は何も考えなくていいし、運が良ければ死ねるからね」
何を言っているのか、良く分からない詞も多い。
けれど、私なんかにも分かることが二つある。
一つは、カノンさんが私を利用して死のうとしていたって事。
もう一つは、私の演技は、最初から見抜かれていたって事だ。
けれど、私なんかにも分かることが二つある。
一つは、カノンさんが私を利用して死のうとしていたって事。
もう一つは、私の演技は、最初から見抜かれていたって事だ。
確かに彼は、ズルいかもしれない。
でも、カノンさんは。
でも、カノンさんは。
「でも。……君の言葉で思い出したんだ。初めて人を殺した時の、嫌な感触を。
君みたいな女の子はあんな思いをすべきじゃない。
そして君はまだ、僕と違って後戻りできる。
きっと君は大切な人も、見知らぬ誰かも、殺してなんて……いないんだから」
君みたいな女の子はあんな思いをすべきじゃない。
そして君はまだ、僕と違って後戻りできる。
きっと君は大切な人も、見知らぬ誰かも、殺してなんて……いないんだから」
そう言って、にこりと笑うのだ。
……不覚だ。
本当に、不覚にも。
本当に、不覚にも。
「あ、ああ、あ……、あぁ……っ!」
殺してないと、その言葉が嬉しくて。
気がつけば、頬に濡れた感触があって。
気がつけば、頬に濡れた感触があって。
「うわぁぁあああぁぁぁ……、ひ、ひぁああああぁぁぁぁあぁ……、
カノン、さん……、カノンさん、あぁああああぁああぁぁぁ……っ!」
カノン、さん……、カノンさん、あぁああああぁああぁぁぁ……っ!」
私は子供みたいに、カノンさんに縋って――泣いてしまった。
泣きじゃくる、その中で。
カノンさんが、死んでしまう。……そんなのは、嫌だと思った。
こんなにも優しくて、だけど繊細な人がそんな事を考えるくらいに追い詰められているという事実。
私は初めて――、今のこの状況自体を、植木を殺した殺し合いという枠組みを、そんなのを作り出した“神”を憎んだ。
ようやくそこに、思い至る事が出来た。
カノンさんが、死んでしまう。……そんなのは、嫌だと思った。
こんなにも優しくて、だけど繊細な人がそんな事を考えるくらいに追い詰められているという事実。
私は初めて――、今のこの状況自体を、植木を殺した殺し合いという枠組みを、そんなのを作り出した“神”を憎んだ。
ようやくそこに、思い至る事が出来た。
私は――“神”と戦いたいと、思った。
**********
しばらく泣き続けて、どれくらい経っただろう。
彼女は――森あいは、ゆっくりと僕から体を離して立ち上がる。
顔が赤く染まっていたのは涙のせいだけじゃないだろう。
慣れない事をしたからか、僕も少し気恥かしくて、そして気付いた。
先刻までの動揺が、完全にではないにせよだいぶ治まっている事に。
彼女は――森あいは、ゆっくりと僕から体を離して立ち上がる。
顔が赤く染まっていたのは涙のせいだけじゃないだろう。
慣れない事をしたからか、僕も少し気恥かしくて、そして気付いた。
先刻までの動揺が、完全にではないにせよだいぶ治まっている事に。
だからだろうか。
僕は彼女がぽつぽつと語る、死者蘇生に関する話についても冷静に聞き届ける事が出来た。
僕は彼女がぽつぽつと語る、死者蘇生に関する話についても冷静に聞き届ける事が出来た。
……キンブリーとやらの言葉がどこまで本当か、それは分からない。
けれど確実に言える事は――、彼女は確実に騙されていたという事。
たとえ誰かを生き返らせられるとしても、その男にだけは頼ってはいけないという事だ。
けれど確実に言える事は――、彼女は確実に騙されていたという事。
たとえ誰かを生き返らせられるとしても、その男にだけは頼ってはいけないという事だ。
そして、彼女の話の中で、僕は一つだけ希望を見つけた。
それは彼女の“能力”に由来する可能性だ。
それは彼女の“能力”に由来する可能性だ。
『相手をメガネ好きにする能力』
それを使えば、もしかしたら僕の“スイッチ”すら抑え込む事が出来るかもしれない。
試してみる価値はあるだろうけど、彼女自身はどうやら能力をあまり使いたがってはいないようだ。
無理強いはしたくない。
だから、その事を時間をかけて説得してみたいと思う。
試してみる価値はあるだろうけど、彼女自身はどうやら能力をあまり使いたがってはいないようだ。
無理強いはしたくない。
だから、その事を時間をかけて説得してみたいと思う。
そして、彼女を“神”に立ち向かうレジスタンスの所に連れて行き、保護してもらいたい。
きっとそういう存在はあると思うし、そこには歩君もいるかもしれない。
結崎ひよの辺りに蹴っ飛ばされたら、の話だけど、彼ならば絶望に立ち向かおうとするかもしれないから。
きっとそういう存在はあると思うし、そこには歩君もいるかもしれない。
結崎ひよの辺りに蹴っ飛ばされたら、の話だけど、彼ならば絶望に立ち向かおうとするかもしれないから。
……これが。
これがこの島に来てようやく手に入れられた、僕の“指針”だ。
これがこの島に来てようやく手に入れられた、僕の“指針”だ。
絶対に間違っていないとそう言える、確かな縁(よすが)。
本当に、心強かった。
本当に、心強かった。
「そ、それじゃあ……よろしくお願いします!」
目を腫らしながらも伸ばしてくる手の求めるものは、握手。
小さい手だな、とそう思った。
僕に何ができるか、何をすべきかはまだ分からないけれど。
それでも、短い間でも――この子を守ろう。
きっとそれが、僕を繋ぎ止めることにもつながってくれるから。
「……うん。こちらこそ、よろしく」
……僕が君を守るように、君が僕を守ってくれると、そう信じられる。
だから僕は、その手を大切に包み込む。
【F-6南西/山道/1日目/日中】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル~推理の絆~】
[状態]:潜在的混乱(小)、精神的動揺、疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、掌に火傷、“スイッチ”やや入りかけ
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル~推理の絆~、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×3、不明支給品×1、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、パールの盾@ONE PIECE、五光石@封神演義、マシン番長の部品
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない。
0:森あいにメガネ好きにしてもらう方法を考える。
1:森あいを守りながら、レジスタンスの下へと連れていく。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:西沢歩が心配。
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか――?
5:キンブリーを警戒。
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱はある程度収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
※森あいの友好関係と、キンブリーの危険性を把握しました。
【カノン・ヒルベルト@スパイラル~推理の絆~】
[状態]:潜在的混乱(小)、精神的動揺、疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、掌に火傷、“スイッチ”やや入りかけ
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル~推理の絆~、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×3、不明支給品×1、大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、パールの盾@ONE PIECE、五光石@封神演義、マシン番長の部品
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない。
0:森あいにメガネ好きにしてもらう方法を考える。
1:森あいを守りながら、レジスタンスの下へと連れていく。
2:歩を捜す為に、神社に向かう。(山道は使わない)
3:西沢歩が心配。
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか――?
5:キンブリーを警戒。
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※思考の切り替えで戦闘に関係ない情報を意識外に置いている為混乱はある程度収まっていますが、きっかけがあれば膨れ上がります。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
※森あいの友好関係と、キンブリーの危険性を把握しました。
【森あい@うえきの法則】
[状態]:疲労(大)、いくつかの擦過傷
[服装]:
[装備]:眼鏡(頭に乗っています)、キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、M16A2(27/30)@ゴルゴ13、M16の予備弾装@ゴルゴ13×3
[思考]
基本:植木の為にもカノンの為にも、“神”に立ち向かう。
1:カノンに付いていく。
2:鈴子ちゃん……。
3:キンブリーに疑惑。
4:安藤潤也に不信感。
[備考]
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。
※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。
[状態]:疲労(大)、いくつかの擦過傷
[服装]:
[装備]:眼鏡(頭に乗っています)、キンブリーが練成した腕輪
[道具]:支給品一式、M16A2(27/30)@ゴルゴ13、M16の予備弾装@ゴルゴ13×3
[思考]
基本:植木の為にもカノンの為にも、“神”に立ち向かう。
1:カノンに付いていく。
2:鈴子ちゃん……。
3:キンブリーに疑惑。
4:安藤潤也に不信感。
[備考]
※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。
※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。
※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。
※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。
※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。
**********
そして紅蓮の炎がカノンの視界を埋め尽くした。
「……あ、れ?」
ぼとりと、何かが零れ落ちる音がした。
「あれ?」
見るとそれは、女の手首から先だった。
小さな小さな、つい今しがたまで握っていたそのてのひらだった。
小さな小さな、つい今しがたまで握っていたそのてのひらだった。
あれ?
あれ?
あれ?
あれ?
あれ?
あれ?と、たった2文字のひらがながカノンの脳を占拠する。
森あいが、倒れ伏している。
どくどくと血の池に浸りながら、ぴくりとも動かない。
どくどくと血の池に浸りながら、ぴくりとも動かない。
あれ?と、少しだけ前を回想する。
握手したその時に、彼女の手首に奇妙なものを見つけたのだ。
そう、それを見て、どうしてそんなモノを付けているのか、と、何気なく問うたのだ。
その、腕輪を。
キンブリーが練成したと彼女が告げた、腕輪を。
森あいは、もうキンブリーは信用できない、と可愛らしくも力強い両手のガッツで頷いて。
そして本当に無造作に、その腕輪を外したのだ。
それだけだったのだ。
『その時には、もう彼女は引き返せませんよ。念のため保険もかけておきました』
爆炎で、彼女の左腕は肩口までも千切れ飛んで。
そして炎は赤々と燃える。地面に散らばった組織を燃やし尽くして、血煙に濡れ消えていく。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
あれ?と、事態の急転に追い付けない脳を置き去りにして体は森あいに近寄っていく。
焦げ臭いにおい。
人の肉の焼けるにおい。
人の肉の焼けるにおい。
ごろんとひっくり返すと、血で髪をべったりと張り付かせつつも笑顔の彼女がそこにいた。
そして表情を変えはしない。
そして表情を変えはしない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
森あいは動かない。
おーいとカップルがお互いに呼び合うように、彼女の名を投げかけた。
返事がない。ただの××××のようだ。
返事がない。ただの××××のようだ。
おそるおそる手を伸ばして、その瞼を広げてみる。
だらしなく開き切った瞳孔が、虚空を見つめていた。
だらしなく開き切った瞳孔が、虚空を見つめていた。
静かに顔を近づけて、呼吸の有無を確認せねば。
喋らないのも当然だ、息をしていないんだから。
喋らないのも当然だ、息をしていないんだから。
決して邪な目的じゃないよと言い訳して、苦笑しながら左胸に掌を。
柔らかい感触の向こう側に、律動はない。
柔らかい感触の向こう側に、律動はない。
「あれ? ……あれ?」
ああ、もう気付いているのだ。
だから後は、認めるだけ。
だから後は、認めるだけ。
「あれ? あれ? あれ? あれ? あれ? あれ?
……あれ? あれ、あれ? あれれれれ? あれ? あれ? あれ?
あれ? あれ? あれれ? あれ? あれ、あれ、あれぇ? あれ?
……あれぇ?」
……あれ? あれ、あれ? あれれれれ? あれ? あれ? あれ?
あれ? あれ? あれれ? あれ? あれ、あれ、あれぇ? あれ?
……あれぇ?」
森あいは死んだ。
こんなにもあっさりと、何気なく。
こんなにもあっさりと、何気なく。
死因は――左腕の喪失による出血と、外傷性及び熱傷性ショック。
心臓に近い左側の肩口が吹っ飛んだから、循環機能の急速な低下を避ける事が出来なかったのだ。
心臓に近い左側の肩口が吹っ飛んだから、循環機能の急速な低下を避ける事が出来なかったのだ。
カノンの中の戦闘機械が、冷静に分析するその傍ら。
「……あれ? ……あれ? ……あれ? ……あれ? あれぇ?
……あれ? あれ? あれあれ? あれ? あれ? あれ?
あれあれあれ? あれ? あれれ? あれれれれ? あれあれ?
あれれれぇ? あれれぇぇ? あっれぇー? あれれれれれぇ?
あれあれあれあれれれれれれえぇええぇぇぇえぁれぇぇぇぇぁぇ
ぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁは、あっるぅぅぅぅうぇぇぇぇあはぁ
ぁあぁぁぁああああぁあああぁあああぁ、は」
……あれ? あれ? あれあれ? あれ? あれ? あれ?
あれあれあれ? あれ? あれれ? あれれれれ? あれあれ?
あれれれぇ? あれれぇぇ? あっれぇー? あれれれれれぇ?
あれあれあれあれれれれれれえぇええぇぇぇえぁれぇぇぇぇぁぇ
ぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁは、あっるぅぅぅぅうぇぇぇぇあはぁ
ぁあぁぁぁああああぁあああぁあああぁ、は」
パチン
カノンは、確かに。
自分の中の“何か”が、切り替わった音を聞いて。
それを、最期に。
――“カノン・ヒルベルト”は。
痕跡すら残さず――死んだ。
「あはっ、あは、あははは、あは、あははぁはぁはははっはははははひゃ
はひゃひゃははははははっはひゃははひゃはははっはひゃひゃひゃひゃ
ひゃははっははははははははははははひゃははははははっひゃぁああぁ
あああぁあぁぁあはははっははっははっはっはっははっはひゃはあぁぁ
あひゃっははははははは、あぅひゃぁはははははぁひゃあっはぁあっ!
ひゃはははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははぁぁぁああぁぁッ!」
はひゃひゃははははははっはひゃははひゃはははっはひゃひゃひゃひゃ
ひゃははっははははははははははははひゃははははははっひゃぁああぁ
あああぁあぁぁあはははっははっははっはっはっははっはひゃはあぁぁ
あひゃっははははははは、あぅひゃぁはははははぁひゃあっはぁあっ!
ひゃはははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははぁぁぁああぁぁッ!」
ここにあるのは、かつてカノンだったナニカ。
人類の抹殺を至上命題とする、最凶最悪の戦闘機械。
咳込みすらしながらも、笑って、嗤って、哂い続けて。
「ひゃははははははははっ! あひゃ、あっははははははは、あひゃぁあ
ははははははっははははははははははっははあぁ、ガッ、え、げ、が、
がは、ふっぐっはぁあああはひゃはは、お、ぐぇぇえ、げぇっ、おぐ、
ぐほっ、げほ、ごほ、ごっふぅあひゃがあぁぁっ! がはっ、ごほっ、
げふっ、ぐ、ぐぎ、ぐひ、ふひゃっ、ひゃあはははははははァァァっ、
ははははははっははははははははははっははあぁ、ガッ、え、げ、が、
がは、ふっぐっはぁあああはひゃはは、お、ぐぇぇえ、げぇっ、おぐ、
ぐほっ、げほ、ごほ、ごっふぅあひゃがあぁぁっ! がはっ、ごほっ、
げふっ、ぐ、ぐぎ、ぐひ、ふひゃっ、ひゃあはははははははァァァっ、
――さて、始めよう」
そして――ぴたりと。
まるで糸が切れたかのように、誰をも凍り付かせる音を、吐き出した。
まるで糸が切れたかのように、誰をも凍り付かせる音を、吐き出した。
つい今しがたの狂態が、あたかも白昼夢であるかのように。
感情は今ので全て吐き出したと言わんばかりの、荒野より起伏のない音を。
感情は今ので全て吐き出したと言わんばかりの、荒野より起伏のない音を。
光のない目で、戦闘機械は周囲を観察する。
次に何をすべきか、見定める為に。
……と。
次に何をすべきか、見定める為に。
……と。
「…………」
市場の魚を見下ろす目で、己の手の先にあるままのモノを確認した。
その青く未熟ながらもふくよかな柔らかさに、戦闘機械はごく、と喉を鳴らす。
いくら戦闘機械とはいえ、その素体は生産より十数年経過したオスのホモ・サピエンスである。
従って、メスの肉体に生産的衝動を抱くのは当然の反応だろう。
従って、メスの肉体に生産的衝動を抱くのは当然の反応だろう。
戦闘機械は、その生産的衝動を不要、と判断した。
生殖的欲求に基づく生産的衝動は、極限状況において思考力の低下を促すノイズとなる。
ならば、このノイズを“処理”する必要がある。
そもそもが人類殲滅という非生産的目的を掲げる以上、全くもって無駄な機能と言えるだろう。
ならば、このノイズを“処理”する必要がある。
そもそもが人類殲滅という非生産的目的を掲げる以上、全くもって無駄な機能と言えるだろう。
可能ならば不要な機構を切除する事でアンドロゲンの分泌を抑制し、戦闘行動への最適化を図るべきとも思考する。
しかし現況において、自傷による自己機能の低下はより一層避けるべき状況だ。
また、長期に渡るアンドロゲン分泌の抑制状態は身体能力の低下をもたらすケースも存在する。
未だ成熟しきっていないこの肉体にとって、生殖機構の切除は最終的には利と働かないだろう。
しかし現況において、自傷による自己機能の低下はより一層避けるべき状況だ。
また、長期に渡るアンドロゲン分泌の抑制状態は身体能力の低下をもたらすケースも存在する。
未だ成熟しきっていないこの肉体にとって、生殖機構の切除は最終的には利と働かないだろう。
故に、行為による衝動の発散を選択。
奇しくも、この島に滞在するとある暗殺者の習慣の如く、仕事の前にそうする事を決めていた。
奇しくも、この島に滞在するとある暗殺者の習慣の如く、仕事の前にそうする事を決めていた。
合理的判断の下、対象が片腕を失った死体であるという倫理的問題を思考から除去。
最適な道具がそこにあるならば、使用する。
そこに疑問も何も抱かない。
むしろ、抵抗による非効率な体力の消費を抑えたメリットを重要視する。
最適な道具がそこにあるならば、使用する。
そこに疑問も何も抱かない。
むしろ、抵抗による非効率な体力の消費を抑えたメリットを重要視する。
躊躇いなく、手を触れたままで揉みしだく。
余った片手で布に手をかけ、破り取る。
余った片手で布に手をかけ、破り取る。
血の臭いとメスの臭いが立ち込めた。
直接露出部に触れ、更に強く行為を進める。
直接露出部に触れ、更に強く行為を進める。
体温が未だ失われていないため、興奮状態の励起並びに持続は十分可能と判断。
ぴちゃぴちゃと、動く度に跳ねる血の音が臨場感を補完する。
ぴちゃぴちゃと、動く度に跳ねる血の音が臨場感を補完する。
この行為には、一切合財の恋愛感情も慈しみも情動も快楽も、肉欲さえも存在しない。
蛋白質を擦り付けるだけの、ルーチンワーク。
ただそれだけの代物だった。
ただそれだけの代物だった。
**********
これが――、これが、カノンの所業だとでもお前達は言うのか!?
認め、ない。認めない……! 俺は、こんなものがカノンであることを――否定する!
認め、ない。認めない……! 俺は、こんなものがカノンであることを――否定する!
よう吼えるの。所詮、お主の知らない一面が突きつけられただけじゃろ?
素直に認めてしまった方が楽じゃぞ? 何もかもを受け入れて、な。
素直に認めてしまった方が楽じゃぞ? 何もかもを受け入れて、な。
……ッ! カノンは、こんな……! そもそも、カノンだけじゃない。
言え、お前達は何をした! この殺し合いの参加者は、本来取るはずのない行動を、稀にだが――、
言え、お前達は何をした! この殺し合いの参加者は、本来取るはずのない行動を、稀にだが――、
くく、それはお前さんも――じゃろ?
……何だ、と?
気付いておらなんだか? それとも、気付かぬように弄られたのか。
……いずれにせよ、全くいい趣味しておることよの。
では、問うぞ?
お前さんは、どうして、いつから、ここに居る?
……いずれにせよ、全くいい趣味しておることよの。
では、問うぞ?
お前さんは、どうして、いつから、ここに居る?
……そ、れは、……?
――そら、答えられまい? どうした、鳩が豆鉄砲でも食ったような顔をしおってからに。
結局全ては流れ通りよ。お前さんが今ここで気付いた事さえ、それを踏まえてどう動くかさえの。
結局全ては流れ通りよ。お前さんが今ここで気付いた事さえ、それを踏まえてどう動くかさえの。
**********
カチャカチャ、カチャカチャ。
不要なものは、機構が痛みを覚えるほどに過剰に、何度も吐き出しきった。
ズボンのベルトを締めながら、戦闘機械はようやくノイズ除去を終えた思考を展開する。
ズボンのベルトを締めながら、戦闘機械はようやくノイズ除去を終えた思考を展開する。
この場に存在する全人類の抹殺は如何にして為し得るか。
できれば、破滅への道は絶望が大きい方がいい。
遺伝子レベルで、それはインプットされている。
できれば、破滅への道は絶望が大きい方がいい。
遺伝子レベルで、それはインプットされている。
ならば、やはり鍵は――鳴海歩か。
この状況、殺し合いの下では人類は勝手に死んでいく。
それこそ自分が手を下すまでもない。
それこそ自分が手を下すまでもない。
ならば、自ら死に臨む連中は放っておけばいい。
最も効率良く人類を殲滅するには、レジスタンスの中心に潜り込み、頭を潰すのが手っ取り早いだろう。
最も効率良く人類を殲滅するには、レジスタンスの中心に潜り込み、頭を潰すのが手っ取り早いだろう。
故に――、鳴海歩の所在集団に潜入するのが最適と判断。
かつて存在した“カノン・ヒルベルト”というニンゲンの思考を、彼の記憶を基にトレースすれば表面上の協力は容易いだろう。
そして、彼の在不在を問わず、レジスタンスの勢力が最大限に大きくなった時。
あるいは、殺し合いに乗る存在がいなくなった時。
かつて存在した“カノン・ヒルベルト”というニンゲンの思考を、彼の記憶を基にトレースすれば表面上の協力は容易いだろう。
そして、彼の在不在を問わず、レジスタンスの勢力が最大限に大きくなった時。
あるいは、殺し合いに乗る存在がいなくなった時。
その時こそ、自分の機能が最も有効に利用可能と確信。
内部よりグループを撹乱し、崩壊させる。
内部よりグループを撹乱し、崩壊させる。
それだけの性能を己は保有していると、慢心も驕りもなく当然のものとして判断。
同時にスペアプランを構築。
鳴海歩あるいは大集団との遭遇が早期に叶わなかった場合を想定。
現在自分は狙撃銃仕様のM16を所有。
これを用いた長距離狙撃による集団の中心人物の暗殺は有効と判断。
鳴海歩あるいは大集団との遭遇が早期に叶わなかった場合を想定。
現在自分は狙撃銃仕様のM16を所有。
これを用いた長距離狙撃による集団の中心人物の暗殺は有効と判断。
当プランはメインプランの代替物としてだけでなく、同時並行運用が可能である。
よって、鳴海歩あるいは集団との遭遇時まで、狙撃による人類排除を優先して実行する。
ただし、十分なアドバンテージを確保してから遂行の事。
よって、鳴海歩あるいは集団との遭遇時まで、狙撃による人類排除を優先して実行する。
ただし、十分なアドバンテージを確保してから遂行の事。
待機時間は不要。即座に状況を開始する。
“カノン・ヒルベルト”への擬態を完了させ、戦闘機械は一歩踏み出した。
“カノン・ヒルベルト”の推測に則り、神社の方角へと。
【森あい@うえきの法則 死亡】
【F-6南西/山道/1日目/午後】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル~推理の絆~】
[状態]:疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、掌に火傷、“スイッチ”ON
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:支給品一式、M16A2(27/30)@ゴルゴ13、理緒手製麻酔銃@スパイラル~推理の絆~、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×4、M16の予備弾装@ゴルゴ13×3、パールの盾@ONE PIECE、
大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、
五光石@封神演義、マシン番長の部品、不明支給品×1
[思考]
基本:全人類抹殺
1:鳴海歩、あるいは大集団と合流。折を見て内部からの崩壊を狙う。
2:鳴海歩の捜索。神社に向かう。
3:十分なアドバンテージを確保した状態であれば、狙撃による人類の排除。
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
※森あいの友好関係と、キンブリーの危険性を把握しました。
[状態]:疲労(小)、全身にかすり傷、手首に青痣と創傷、掌に火傷、“スイッチ”ON
[服装]:月臣学園男子制服
[装備]:支給品一式、M16A2(27/30)@ゴルゴ13、理緒手製麻酔銃@スパイラル~推理の絆~、麻酔弾×16
[道具]:支給品一式×4、M16の予備弾装@ゴルゴ13×3、パールの盾@ONE PIECE、
大量の森あいの眼鏡@うえきの法則、研究所の研究棟のカードキー、
五光石@封神演義、マシン番長の部品、不明支給品×1
[思考]
基本:全人類抹殺
1:鳴海歩、あるいは大集団と合流。折を見て内部からの崩壊を狙う。
2:鳴海歩の捜索。神社に向かう。
3:十分なアドバンテージを確保した状態であれば、狙撃による人類の排除。
[備考]
※アイズ・ラザフォードを刺してから彼が目覚める前のどこかからの参戦です。
※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。
※みねねのトラップフィールドの存在を把握しました。(竹内理緒によるものと推測、根拠はなし)
戦術を考慮する際に利用する可能性があります。
※森あいの友好関係と、キンブリーの危険性を把握しました。
※森あいの死体の近辺には彼女の衣服の残骸が散乱しています。
**********
さあ、レールはもう敷かれている。
後は一直線に――、脇目も振らず、その上を走っていくだけだ。
その行き着く先がどこであろうと、誰も彼もが駆け抜けていく。
その道程でレールが途切れ、奈落の底に堕ちていくと分かっていながらも――止まることなど出来はしない。
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