今まで楽しかったぜ ◆xzYb/YHTdI


 【F】

斜道卿壱郎研究施設の付近。
森に囲われている。
それ以上の説明は省こうと思う。
それどころでもないんだ。


「僕は悪くない!だって悪くないんだからっ!」

目の前の少女に向かって、僕は叫ぶ。
そうしなければ、自我を保てそうになかった。
“僕”という人物が崩れ去られていく。
そんな気がした。
なのに。

ふーん。

目の前の少女はどうでもよさそうに僕の叫びを返しやがった。
もしかしたら返事を返したつもりもなかったのかもしれない。
僕の知る由では無い。
ただ、ただ。
僕はこの少女に対し好ましい印象を抱いていないのだから知りたくもないと言った方が正しいはずだ。

「僕はお前を!」

始まりは何だったのか生憎僕の記憶には残っていない。
そんなものはこの上なくどうでもいい部分だから。
僕にとっても、彼女にとっても。

だったらわたしもあなたを許さないかもね。見ていてイライラしますし。

まるで僕の言葉を反復するかのように力強く言った。
馬鹿を相手取る時みたいにイラつく。イライラする。
負の感情だけが積み上がっていく。
なのに目の前の少女は飄々と。
恐らくいつもと変わらず。
僕なんて見ていないかのように。
どうでもよさそうに。
なんら含む気もないであろう視線を僕を寄こす。
あぁ、そうなのか。そうだったんだ。
………やっぱり、もう、これしか、ぼくの、こころ、の、な、か。に、は……、なかった。


「コロス。」


あっ、そすか。じゃあどうぞご自由に。


そして、時間は一秒だけ進んだ。

僕の眼前には、《あいつ》がいた。
僕の心が膨れ上がったのは言うまでもなかった。


時間はまた一秒だけ進んだ。



 【A】


乾ききった喉。
痙攣でも起こしそうな足。
嫌な感触だけがこびりついた手。
涙の跡が残る顔。
返り血だらけで異臭を放つ怪しげな制服。
どれもかしこも、僕の現在を示す。
疑うまでもなく僕のこと。
信じるまでもなく僕のこと。
それだけで、哀れな負け犬である僕を嘲笑っていたように思う。

そんな中、僕は現状を省みた。
どうしてこうなったんだよ。って。

だけど、直ぐにしなきゃよかったと思った。

記憶の欠片は幻想を縋り。

―――――――。 ―――――――。 ――――――。 ――――――――。

記録の欠片は現実を綴り。


僕を殺し始める。


隣には、既に病院坂を名乗る二人の姿はいなかった。
隣には、零崎人識と名乗るチビの姿は無かった。
眼前には、時宮時刻の姿は無かった。

「ア…………ァア」

声を挙げたくとも挙げられない。

刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
時宮時刻の肉体を。

「――――――――――ァア」

漏れ出すような儚い声。

刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。
――――病院坂黒猫の姿を。


「アアアァアァァァアァァァァァアァァ!!」


結果、もう出ないと思って行った叫びが出ただけだった。
悲しいとは――――――思わなかった。

だって、病院坂はまだ死んでなんだから。


あんなの、幻想だ。


絶対に病院坂を殺してなんか―――――――――――――――――――――――――


 【B】


辿りついた研究施設は、最初のときとなんら変わらない。
ただし状況が少し変わっていた。

「――――――――っ!!」

戦慄が走った――――――――わけではない。
先ほどの男の死体がなくなって、代わりに、《あいつ》の死体が転がっている。
それだけである。
《あいつ》はいとも簡単に死んでいた。
血は乾ききっており、もはや流れるような血は全て体外へと吐きだしているだろう。
輝きなき瞳は、既に催眠術の効力を失わせていた。
それはそれは哀れな結末だった。

……だけど。

無残と言うには形が残り過ぎているな。
もっと、もっと、もっと。
ぐちゃぐちゃに、ぐしゃぐしゃに、ぐにゃぐにゃに。
《こいつ》の姿は変形させてやらないとな。
僕からのささやかなお礼をさせてもらおうじゃないか。

「…………ふ、ふ」

そう決意して、僕は動き出した。
近くから、手ごろな石を拾う。いい具合に殴りやすそうだ。やけに鋭い石だし、切れるかもな。

「ふ、ふふ、ふふふふ。は、ははは、はははははははははははははははは」

僕は《こいつ》の腰のあたりに跨る。冷たかった。
だけどそれ以上に熱いものが僕の心を駆けて抜けている。


憎悪。


まさかこれほどまでに憎悪が沸き起こるキャラだったのか僕は。
だけどそれもまたいい。
感情に流されすぎなければ、それでいい。
これが僕の、今の僕の、最善の手だ。

「死ね。二回死ね。三回回って死んでこい」

鈍い音が、僕の聴覚を刺激した。
心地よい感じがした。
気持ちが晴れ晴れしていった。

「はっ!ははははははははははははっ!」


 ■□■


スキル、章変え回想。
僕はあの後、零崎におかしな指摘を貰ってから、不要湖を走り抜けた。
意味なんて無かった。
探そうともしなかった。
ただひたすらに、走っただけ。
正直その行為に僕自身も無意味だと知っているし、今後のことを考えると
むしろやってはいけない行為だともいえる。
ただ疲労するだけなんて、馬鹿らしいにも程があった。
けれど、走った。
おまけとして、叫び声を挙げながら。
勿論結果は何の意味も残さず、変な満足感と不要な疲労しか残さなかった。

その後、息を整えて、やっとのことで僕は思考した。
内容としては《あいつ》の行方だ。
とはいっても、全然頭が回らないのは描写するまでもない。
まず、僕にもう一度催眠術を仕掛けたのは逃亡の為だろう。
僕と言う人物を恐れなして逃げ出してわけではないだろうけど。
考えられるのは怪我の治療だな。
流石にあんな状態で過ごそうなんて思えないだろう。
ここで考えられる《あいつ》の行方は、
一つに、診療所。
二つに、薬局。
三つに、斜道なんたら研究施設だろう。
病院は遠すぎるから、選択肢からは外させてもらう。
………研究施設を入れたのは、あそこが何の研究施設か分からないから。
大まかに分けても、文系の研究、理数系の研究があるがわからないし。
医学の研究なのか。
文学の研究なのか。
まぁ―――――いっぱいあるだろう。
しかし、それが何かによって行くべきかどうかが変わる。
例えはもうメンドいので挙げないけど。
んなわけで、現在僕は三つの選択肢を所有している。
それにプラスして、既に出血死しているなんて可能性も無きに在らずだけど。
まあ今回はそうは考えないでおこう。
僕が殺すべくに動いている訳なんだし。
で、何故僕がここで研究施設を選んだのかというと、特に理由は無い。
診療所でもよかったし。
薬局でもよかったし。
どこでもよかったのだ。
多分どれも確率は同じな訳だし。
強いて言うのであれば、あれだ。
放火魔は犯行現場にわざと戻ってくる的な理論で、一度行った場所に舞い戻っているかもしれないな、ぐらいな幼稚な考えで僕は動いた。
―――――といいますか。
最初に言ったけど、今の僕にそんな正常な思考力があると思われる方が酷なんだ。
うん、まぁなんて訳で僕は今こうして《こいつ》をぶん殴っている。
はい。以上です。
これで回想は終わり。
くだらねぇ。
本当に。


 ■□■


回想終了。
まぁ、どうでもよかったな。
そんな事言っている間に、こっちの『作業』は終わったよ。
網膜に映っているのは、《あいつ》の言葉の掛けようのない死体だ。
頭は当然の如くかち割られ。
心臓は抉り出せれて、そのまま潰れて。
腕は肘を中心に変な方向にねじ曲がり。
腹はただただ殴打痕が不気味に残り、
足は……まぁ膝から後ろは無いな。
無我夢中で『作業』をしていたわけだが、僕にもこんな力あったんだな~。なんて思う。

「………………………」

なんだか虚しくなってきたのでそろそろいい加減目を覚まそう。
一回目を閉じて、深呼吸、深呼吸。
まるでラジオ体操でもやってるかのごとく、大げさな動きの後、
僕は目を開いた。

「………………………」

黒猫がいた。
勿論「病院坂黒猫」では無く、黒い猫。
…………可哀相に。
頭も心臓も腕も腹も足も。
ボロボロじゃないか。誰がやったんだろうか。
そいつはきっと非道な奴なんだな。

「…………………僕は、知らない」

言ってて悲しかった。何でだろうか。
僕はそれを知らない。
何も認めないぞ。僕は。
……………。
――――もうきっと僕は探偵のまねごともできないんだろうなぁ。
なぜかそんな風に思った。


 ■□■


十分後。
今僕はとある場所で思い耽ている。
右手は顎に添えて、左手はポタポタと血を零している。
正確には左手に持つ石から血が零れているっていう風だが。
それはさてれおいて。

おかしい。
おかしいな。

何でドアが開かないんだ?

場所は研究施設の一つ。
とりわけ、他の建物とも差異はなく、同一の物とみて間違いではないと思う。
じゃあ何故この建物だけ開かないのだろう。
――――答えは明白。この僕でも導き出せるものだろう。


「………人がいるのか」


それは別にいい。
はっきり言ってどうでもいい部類だ。
その事実が僕にどう影響するかっていう話。
どう傾いてくれるのか、そこが問題であった。
しかし、それを知るすべなどありもしないわけで。
僕が出した結論としては。

「……壊すか」

いくらか暴力的だが、問題はないと思う。
中にいる人が誰なのかは僕の知るところではないが、
《あいつ》の可能性だって重々あるはずなんだ。
それを見逃すなんて真似は絶対しない。


病院坂黒猫。


病院坂迷路。


何処へ消えた二人の為にも僕は《あいつ》を殺さなければいけないんだ。


だから、僕はドアを思い切り蹴飛ばした。


  ガンッ!!


――――――ジィ、ジ、ジジジ



――――ウゥゥゥゥゥゥゥゥ   ウゥゥゥゥゥゥゥゥ   ウゥゥゥゥゥゥゥゥ



警報。
30秒ほど鳴り響き、次第に小さくなっていく。

………………。


「…………………は?」


え?
はい?
なんで?
――――いや、考えれば分かることだった。
こんな広い研究施設だ。
電気か何か、エネルギー源が供給されているとするならば、警報装置の一つぐらいあって当然。
それが僕にとってプラスになるかマイナスになるか。
はっきりいって両極端な結果になりえる。
惹きつけられるか、離れていかれるか。
そして《あいつ》がどちら側に付いているのか。
問題はそこである。


と、ここまで考えて、一旦扉から距離をあける。
恐らく木々で僕の姿は隠れてくるだろう程度には離れた。


「はぁはぁ――――――しくったな、こりゃ」

恐らく《あいつ》は怪我の治療を施す為に逃亡をしているはずなんだ。
ここで下手に人間と接触するなんて真似はわざわざしないはず。
ならこの警報音は《あいつ》を遠ざけるものとなってしまう。
ここにいない限り。

「なら、僕はいつまでもこんなところでぐずぐずしている暇はないってわけか?―――だけど」


ここにいるのが誰か。
そこは知りたいところでもあった。
もし、ここにいるならば、骨折り損もいいとこになるし。

                                             ウィーン

「やっぱ、ここから探してみよう」

妥当だと、思う。
…………?
…………。
うん、だけどさ。それはいいけどさ。


「どうやって開けようか」


前言撤回。


「やっぱ他から回ろうかな…………」


それしか方法は無いし。
手の出しようもないし。
こっちが妥当だった。――――やっぱ、今の僕はおかしかった。

閑話休題。

ということで、


「ここもおさらばかな」

そう言って扉から背を向けるように歩きだし…………。



「っていやいやいや。無視ですか!?わたしせっかくあんなに間をあけてまで扉の音出したのにっ!?」



「―――――え?」

振りかえるとそこには、ニット帽を被る女の子の姿があった。
いや、確かに僕に音は微かに聞こえた。
だけど、なんで、ここを的確に当てらえらたんだ!?

「な、なんで……………」
「いやいや、別に簡単な話ですよ。優しい優しい伊織ちゃんが一から話してあげますよお」

そのまま何故か僕はこの人の話を聞く羽目となった。


 【C】


というわけでわたしのお話のターンです。
どうでもいいとかいわないでください。
超展開?
いえいえ、それは想像上のお話ならいうかもですが、事実は違いますから。
あぁ!逃げないでください!
わたしはあなたに聞きたいことがあるんですから。
それは後で聞くとして、ここに至るわたしのお話を聞いておいてください。
そうでもしていないと気が抜けて殺しちゃいそうです。

で、まぁわたしがあの警報装置の音を聞いたのはですね。
あれです。屋上で変な物体見つけて、とりあえず玖渚さんに見せてみようと部屋に戻った直後のことだったのです!


「あ、舞ちゃん。どうだった?」
「うーん、まぁどうしたもこうしたもないんすけどねー」

なんて一言交わした後に、


――――ウゥゥゥゥゥゥゥゥ   ウゥゥゥゥゥゥゥゥ   ウゥゥゥゥゥゥゥゥ


なんて五月蠅い音が聞こえたから何かと思っちゃいましたよ。
けどまぁ、ここはわたしの経験からですね、めんどくさいことが起きたなぁと察したのですよ!
―――でもいつまでもこんな風に言ってる場合でもありませんし、さっさと入口からでてきました。
そしたらなんとですね!
何やら血の跡が所々に落ちていてですね、
それを辿っていったら緑の中に赤色が交じっていたんすよ。
わたしは確信しました。こいつが犯人だなと。

―――――え?
それだけですよ。
残念なやつって顔しながら「残念な奴」なんて言わないでください!
ていうかあなたの方がよっぽど残念じゃないですか。
ちょっとうす暗いからって、緑と赤ぐらいの区別ぐらい付きますよぉ。
あ、待ってください。
ここからが面白いですって!
わたしのターンはもう終わりですか!
嫌ですよおぉ、酷くありません!?

ちょっとー。ちょっとー!


 【D】


あ、わたしのターンは続行でした。
うふふ、生涯不殺をモットーとしてきたわたしに神様が恵んでくれたんですね。
そんなこと思いませんが。
まぁ何ていうか、言っておきますけどわたしの一人称は雑ですよ。

「―――――で、僕に何か用があったんじゃないんですか?」

目の前の男の子は何か言ってます。
うー。そういやそうでしたねぇ。

「そうです、そうです。わたしはあなたに聞きたいことがあったんだよ」
「だからなんですか」
「うなー。何であなたが偉そうな立場に立っているんです?」

わたしはここで≪自殺志願≫を取り出しちゃったりしてみますよお。
ふふ、男の子は一気に表情を張り詰めました。
まぁいいでしょう。あんまやっちゃうと本当に殺しちゃいそうです。
ホルスターに仕舞っておいた。

「それでですね。零崎人識と『いーちゃん』なる人を知っていますか?これがわたしの質問です」
「しらねぇよ」
「そうですか……」
「―――なぁ僕からも一ついいかな?」
「なんです?」

どうせ誰誰さん知りませんか的なあれですね。この流れは。


「まず、櫃内夜月。それから琴原りりすを知りませんか?」
「知りませんねぇ」


ていうよりわたしはあの――――誰でしたっけ?
犬みたいな人しか知りませんからねぇ


……あれ?そういえば名前はなんでしたっけ?


「じゃあ次にさ、病院坂黒猫、病院坂迷路、―――――あとさ、呪い名で≪操想術≫使うやつ知りませんか?」


「知りませんけど――――あなたって時宮を知っているんですか?そっちの方が驚きです」

てっきり≪普通の世界≫の住人かと思ってましたが。
いや、この殺し合いを通じて知っているのはまだ分かりますが、それでいてまだ生きているという事実が驚きです。

「そうですか。なら僕はこれで―――――」
「あ、はい。それじゃあ―――――ていやいやいや待ってくださいよぉ!」

あんまりあっさり立ち去ろうとするからみすみす帰そうとしてしまうところでしたよ。
くぅ、零崎最後の生き残りの一人相手を何とも簡単に操るなんて策士ですね………。
そんなわたしを知ってか知らずか、男の子はもう一度わたしを見て言いました。

「何ですか」
「えっ――――――えーとですね。あれですよ、あれ」

いざ聞かれると困りますね。
むむむ……。別に特別何を聞きたいとかないんですけどねー。
なんとなく条件反射的な何かで呼びとめただけですし。
まぁ、何でもいいか。

「じゃあですね、何で時宮なんて探しているんです?」
「色々あるんですよ」
「率直に言いますけど関わって良い目に遇うはずありませんよ」
「それでもです」


「でもさぁ、はっきり言ってあなたが操られて死ぬのがオチですよぉ」


「…………」

あれ、あれあれ。もしかしてー、わたし。
地雷でも踏みました?踏んじゃった系ですか!?
男の子の目の色が変わっちゃいましたよ!

「なぁ、あんた。名前は?」
無桐伊織っす」
「僕は櫃内様刻だ」

じゃあさっきのは兄弟姉妹なのでしょうか。
間に神って入れると、凶悪な新世界の神になりそうな名前の人は。

「あんたはさ、≪普通の世界≫の住人じゃないんだろ?」
「―――――そうっすね」

半年ぐらい前まではそっちの世界の人でしたが。

「ならさ、教えてくれないか」

む!これは伊織ちゃんのターンの終了のお知らせな感じですよっ!
皆さんわたしに力を!わたしの主人公化にご協力を。
そして人識君の主人公っぽさを濁らしちゃいますよ!

まぁ、そんな感じで様刻君は話し始めちゃいました。


 【E】


「―――――これが今までの僕の軌跡さ」

話した。
話してみた。
無論、零崎のことは隠したまま。
とっておきの一手は残しておくのが常套だ。

「なるほど。そういうことでしたか」

無桐さんはなんだかものすごくどうでもよさそうに返す。
まるで誰かに出番を取られたかのようなそんな感じ。

「で、無桐さん、あなたに聞きたいのはですね」
「あぁはいはい、何です何です?」

「時宮はくろね子さんと迷路ちゃんをどこに連れていったんだと思います?」

「はいぃ!?」

「あとは、時宮を殺すにはどうすればいいんでしょうか?」

「………………」

少なくても無桐さんなら二つ目の方は知っているだろう。
あの零崎の知り合いだというんであれば。
しかし、予想に反して無桐さんはなかなか返事をくれなかった。
上を見てボーッとして。
下を見てボーッとして。
左を見てボーッとして。
右を見てボーッとして。
僕を見てボーッとして。
その末零れた言葉は、

「――――あー、えーと。何だろう、うん」

なんて曖昧な言葉だった。
どうしたんだろう。

「病院坂両名って生きているんです?」

何を言っているのだろうか。
無桐さんは。

「当たり前じゃないですか」
「けどね。わたしが思うに、わたしが聞くに………何ていうんでしょうねぇ」
「何ですか、はっきり言ってください」


「うんじゃあ、はっきり言うけどさ。病院坂黒猫と病院坂迷路だっけ?その二人はもう死んでると思うよ」


何を言っているんだろうか無桐さんは。
何を何を何を何を何を何を何を何を何を。

「何を―――――いって……………」

「様刻君には悪いですけど、既にあなたは詰んでますよ」

「何を………いって」

「だって時宮の死体を殺していたと思ったら黒猫さんでした、って展開なら、時宮の≪操想術≫以外あり得ないと思います」

「ち、ちが――――」

「違うことはありませんよぉ。五臓六腑撒き散らした結果内臓は天然ハムとなり、全身という全身から大量の血を流し出した様は
ロールシャッハテストの如し、最終的には影も形も骨も残らないような残酷で無残な殺しをあなたは黒猫さんにやりました。もう一人の方もそうなのでしょうかね?」

どっちにしろそこまでやってないが。
―――――けれど。
ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだ
ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだ

「嘘だっ!」
「そんな某雛見沢の住人みたいな事言っても駄目ですよ。それが事実ですから」

何で。
僕はここまでいわれなきゃいけないんだ。
ただ、ちょっと救いの手を求めただけで。

「大体ですねぇ、甘えないでくださいよ」
「…………………」
「見ていてイライラしますよ。いつまでも≪普通の世界≫の住人でいられると思ったら大間違いです」
「…………………」

「さっさと認めたらどうですか。あなたが病院坂両名を殺したと」

……………………。

「――――か……」
「何です?認めるならわたしもそれなりの助言の出しようもあるんですが」
「――――かよ」



「認めるかぁっ!!!」



体中が熱かった。
―――――僕のキャラがだんだん崩れていくな。
≪破片拾い≫と呼ばれた昔が懐かしい。昨日までは普通に呼ばれていたのに。
恋人であるあいつとかにさ。

「―――――はぁ……さいですか」

無桐さんはやれやれと言った感じで嘆息する。
それがただただ、イラついた。



 【G】


めんどくさい事になりました。
正直な感想はこうです。
最初はわたしが悪者だと思って読んでいたでしょう。
しかしわたしは何も悪くありませんよっ!
勝手に様刻君が壊れただけですよっ!

なんてわけで、様刻君はわたしに向かって乱暴に石ころを投げてきました。
勿論わざわざ当たる理由もないので避けますよ。
お、今度はわたしに殴ってこようとしています。
じゃあ、≪自殺志願≫を出しちゃいましょう。

うーん、あの哀川のおねーさんに殺されたくはありませんし。
殺したくは無いんですが。
まっ、いいや、正当防衛正当防衛。
思う存分零崎を始めますよお。
―――――なんてわけにはいかず。


「人類最強の請負人に言っちゃうぞ~」
「はうっ!」


いつからそこにいたのか、玖渚さんがひょっこりと顔を出しています。
やばいやばいやばい。
良く分からないけど、玖渚さんと哀川のおねーさんは仲が好さそうなんですよ!
ピンチピンチピンチ。
伊織ちゃん人生で6番目ぐらいのピンチですよ!

「うわわわわわ、しょうがありませんね」

様刻君は玖渚さんに一瞥をくれると、ありがたいことに、そのままわたしに飛び込んできてくれました。
きっと、もう体勢は無理に変えない方がいいと見込んだのでしょう。
ふふふ、甘いですよっ!甘々です!わたしと人識君ぐらい甘々です!

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

様刻君には悪いですが、ここは大人しく退散してもらいましょう。
ここで、≪自殺志願≫をしまって――――。

「ああああああああああああああああああああ――――――……グッ…ハ…」

あまりにも動きが直線的すぎて、ちょっと柔道っぽい足技やっただけで、簡単に倒せましたよ。

スライムより簡単です。むしろチュートリアルででてくる何もしてこないような敵ですね。

「―――ふぅ。降参してください。わたしはあなたを殺すわけにもいかないんですから」

答えない。
でも気絶をしている訳ではありません。
ただ、上の空になっています。あ、こっち向きました。
でも、直ぐに空へ視線を戻してしまいましたね。
…………まぁ、いいや。

「戻りますか、玖渚さん」
「ん?いいの、そこの人放っておいて?」
「いいんじゃないですか」

そう言うがいなや、わたしたちはこの場を立ち去りました。
何か、様刻君が呟きましたが、知りません。

あぁそうだ、最後にこう言った方が何やら主人公っぽいですよね。


「様刻君。あなたが病院坂両名を殺したのを認めて、それでもなお、戦い、時宮をなんとかしたいなら、わたしも手伝いますんで」


とわたしは決め顔でそう言いました!
わたしカッコよくないですか!?
―――――でもあれ?主人公じゃ微妙にないような………。

「うにー。何だか状況がよくわからなんだけど」
「うなー。いいんすよ。これは彼の問題でしょうから」

まぁ、わたしにはあんま関係無いんすけどね。
最後に横たわっている様刻君を一瞥して、わたしたちはこの場を去った。

研究施設のドアは自然に開いた。


【一日目/早朝/D-7斜道郷壱郎の研究施設】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]殺人衝動が溜まっている
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)、謎の黒い物体
[思考]
基本:玖渚さんが調べ終えるまで適当に時間を潰す。
 1:玖渚さんのボディーガード。
 2:とにかく、人識くんと合流したい。
 3:様刻君はとりあえず保留
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※謎の黒い物体が何なのかはまだ分かっていません。
 ※櫃内様刻が病院坂黒猫、病院坂迷路二人を殺したと勘違いしています。


玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:今は調べられるだけ調べる。
 1:舞ちゃんに護ってもらう。
 2:いーちゃんと合流したい。
 3:ぐっちゃんにも会いたいな。
[備考]
 ※「ネコソギラジカル」上巻からの参戦です。
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイヤルについての情報はまだ捜索途中です。


[備考]
 ※無桐伊織と玖渚友は斜道郷壱郎の研究施設の二階の血文字は知りません。恐らく別の研究施設の二階です。
 ※無桐伊織と玖渚友のいる建物で何かあると警報装置が響きます。
 ※辺りに警報装置の音が鳴り響きました。


 【H】


 ・一つ目の扉
 高貴なる者は、絶望に溺れ殺される。
 ・二つ目の扉
 不吉なる黒猫は、四肢を切断され殺される。
 ・三つ目の扉
 不吉なる迷宮に座す者は、全てを奪われ殺される

 そして、二つ目の扉の上にはこう記されていた。

         『全てが0になる』。


……………。
……………。
……………。
……………。
やっぱり、そうだったのかな。
僕が、病院坂黒猫を、病院坂迷路を殺したのか。
まあ、実際は迷路ちゃんに関して言えば、あの橙色のあいつが殺したところも見たんだけど。
けれどやっぱり、主観的に見て、僕が殺したんだろう。
もっと速く駆けつけていればこんなことにはならなかったのかもしれない。
もっと早く罠の存在に気がついていればこうはならなかったのかもしれない。
零崎の言っていた目のことを早急に正しく理解してさえいれば。
男であるはずの、守ると決めていたのに守れなかった情けない僕は、やはり彼女らの死への責任の一端を担ってもおかしくない。むしろないとおかしい。

僕という男は、彼女らを殺したと置いても遜色ない。

認めたくないけど。
僕は、僕は、僕は、僕は!


病院坂黒猫と、病院坂迷路を殺したのか。


認めれば、楽になった。
楽しくは無いけれど、楽になった。
さっき無桐さんと、青髪の子を時宮と錯覚したのが決め手。
いや、本当は玄関の黒猫を石で殴ったところで分かっていたんだ。
僕はとうに幻覚に惑わされている、と。
らしくない。
本当にらしくない。
全くもってらしくない。
くろね子さんに見られたら馬鹿にされるだろうな。
いや、それどころじゃないかもな。
はは。
ははは。

「ははははははは……………」

笑えないのに笑えてくる。
悲しいのに悲しめない。
いや、いつまでもこんなんじゃ、あいつらにも顔向けできないな。
もう、自覚しろ。


「僕は、病院坂黒猫と病院坂迷路を殺したんだ」


心で思うのとは格段に自覚が持てた。
だから、僕は、
はっきりとした殺意をもって《あいつ》を殺そう。
明確な的な敵意をもって、時宮を殺そう。

だけどその前に。


「病院坂迷路。少しの間だったが楽しかったぜ」

三つ目の扉に追悼を捧げる。


そして


「病院坂黒猫。今まで楽しかったぜ」


二つ目の扉に追悼を捧げる。
ここはあいつらが、《あいつら》として死んだ場所なんだ。
追悼としては相応しすぎた。
もしかしたら、僕は無意識のうちに、こうしたいがためにここに来たのかもしれないな。

二人にはあえて短い言葉を別れの言葉とした。
流暢にペラペラと喋るのはあいつらの本分だ。迷路ちゃんは違うかもしれないけどな。

さて、これで終わりだ。
僕はいつまでも二人に囚われてはいけない。
僕の私怨で時宮を殺さなきゃいけないんだから。
まずは無桐さんに何かを頼むのが一番か。

もう、追悼は終わりにしよう。
そう思い、目をあけると、世界にモザイクがかかっていた。


「―――――あれ?な…んで」

頬に涙が流れる。
決して雨などではなく。
僕の目から流れる。
大量の涙だった。

「―――――う、うぅ。………あぁ、………………うぅ」

僕は、弱いな。
どうしようもなく弱かった。
あぁ、そうかよ。そうなんだな。
病院坂、迷路ちゃん。
僕はお前らを忘れるなんて出来やしなかったんだ。
だから、だから。


いつまでもお前らのこと引き摺って、惨めに生きていくとするよ。


だから、だからさ。
今はその重みから逃げていいかな?
返事は聞かないよ。
死人に口なし、だろ。
ちょっとは黙ってろ。


だから、だからさ。


泣いてもいいかな。


「うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああッッ!!」



人目を憚らず、追うべき人を追わず、
惨めに情けなく泣いている高校生の姿がそこにあった。

――――――――――――――――――――――。

僕は弱すぎる。だから、二人の支えが欲しいんだ。

――――――――――――――――――――――。

無論、それは僕のことだった。



さようなら、《病院坂》。



【1日目/早朝/D-7 斜道興壱郎の研究施設】
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康 、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:操想術を施術された仲間を助ける。
 1:時宮時刻を殺す。
 2:無桐伊織を探してみる

[備考]
※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
※櫃内様刻と無桐伊織、玖渚友は恐らく違う建物にいます。



ネットカフェで一服 時系列順 骨倒アパートの見るものは
冒し、侵され、犯しあう 投下順 悪意の裏には善意が詰まっている
混沌は始まり、困頓はお終い 櫃内様刻 交信局(行進曲)
堕落の果て、害悪の跡地にて 無桐伊織 交信局(行進曲)
ネットカフェで一服 玖渚友 静寂を切り裂く脆弱な義理策

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最終更新:2012年10月02日 08:41