骨倒アパートの見るものは ◆xzYb/YHTdI


骨董アパート。
正式名称不明。戯言遣いが勝手にそう呼んでいるだけである。
明治以前から存在するのでは、と思えるようなボロアパートで、
木造3階建て、四畳一間、隣の部屋の音が聞こえるほどの薄い壁、
裸電球、トイレ共同、風呂無し。ただし、家賃はびっくり月1万円。
そして、戯言遣いの住まいにして、憩いの場。
他にも浅野みいこ、闇口崩子、七々見奈波、隼荒唐丸。
そして今は亡き、石凪萌太、紫木一姫の住居でもあった場所。
今現在は《橙なる種》こと想影真心に、完膚なきまでに潰された建物だ。
ただし、それは〈本物〉の話。
既に倒壊して、塔アパート(命名、戯言遣い)に生まれ変わろうとしている方の話。

『これ』は、違う。
それとは一切合切関係無い。
無関係と言うにもおこがましい。
ただ似ているだけの建物。
想い出なんて詰まっている訳もなく。
ついこの間完成したばかりの、建物である。
不知火袴のよく分からない、心遣いの結晶でこそあれ、
だから、ここは、名称不明で通称は骨董アパート何て呼ばれる建物なんかではなく、
正式名称、『骨董アパート』。そんな建物だった。


しかし、それすらも、《橙なる種》は壊そうとしていた。


 ☆


真庭鳳凰は考えた。
先ほど戯言遣いに促されたことを。


本当に主催者が、願いを叶えることができるか。
そして、叶える気があるのかどうか。である。


否定するにも、材料は足りず。
肯定するにも、材料は足らず。
だからといって、いつまでもこうして何もしない訳にはいかないだろう。

「――――こう云う時、あの二人のお姫さま。あやつらが羨ましくなるな………」

頭に思い浮かべるは、二人の女。


一人は、否定姫―――否定姫と名乗るお姫さま。
生憎その姿を真庭鳳凰は存じないが。

その姫は一先ず、何でも否定するという。

どんな簡単なことでも。
どんな難解なことでも。
どんな安易なことでも。
どんな面倒なことでも。

どんな事実でも。
どんな虚実でも。

とりあえず否定を行うという。
彼女の辞書に、『肯定』なんて文字はない。

だから、何を感じても何を思えど何を考えようと『否定』をするという。


一人は、容赦姫―――とがめと名乗るお姫さま。
その姿は、真庭鳳凰は嫌というほど知っている。

その姫は一先ず、何でも肯定するという。

どんな簡単なことでも。
どんな難解なことでも。
どんな安易なことでも。
どんな面倒なことでも。

どんな事実でも。
どんな虚実でも。

とりあえず肯定を行うという。
彼女の辞書に、『否定』なんて文字はない。

だから、何を感じても何を思えど何を考えようと『肯定』をするという。


この二人の魅力は、今の鳳凰にとって素晴らしく魅力的なものだった。
否定するのも躊躇われ。
肯定するにも憚られ。

「しかし――――何もせずのもいかぬ」

鑢七花との同盟。
北、南、西のいずれかに向かった七花は未だ殺してこそないが、
殺し合いに乗っている。それを唆したのは他でもない鳳凰だ。
なのに今は鳳凰自身が殺し合いに迷いを生じてさせている。
幸にも、不幸にも。

ここで、鳳凰は再度自身の首に狭苦しくはめ込まれた首輪を左手で触れる。
結果は、

「ふむ。――――やはり分からず仕舞いか」

二の舞だった。
構造こそわかれど、それ以上の進歩がない。
その結果に鳳凰は嘆息するのみだった。

「しかし、殺らずには物語は進まず………。か」

呟く。
その糸目様な眼を更に細め。

「我には分からぬ。だからこそ、殺すほかあるまい」

あまりにも本心に忠実とは言えない安っぽい決意は固まる。
しかし、腐っても腐らずとも鳳凰は忍者。
殺意が燃えるのに、そうは時間をかけることは無かった。


 ☆



鳳凰のいた場は骨董アパートである。
勿論、<偽物>の骨董アパート。
幾ら真似ようが。
どんだけ、手間暇かけようが。
これは<偽物>。

「最後に。――――ふむ。こんな外観に似合わずまだ建って数日も経っていないとくるか」

木目調の木の壁を左手でなぞる。
忍法『記憶辿り』。本来の持ち主は真庭川獺。《読み調べの川獺》。
無生物がもつ、記憶を辿る能力。
完成形変体刀を探すのに大いに役立ったその能力。
この場でも利便性は衰えていない。

「納得いった。ここは、この殺し合いを行うためだけに創られたか」

うんうん、と得心がいきに控えめだが頷きを繰り返す。
ただそれは、直ぐに終わり、直ちに次の行動へと移していった。

「さて、ここにはもうは用は無い。次に行くとしよう」

骨董アパートに辿りついたのは結構前のこと。
各部屋を回り、使えそうなものはディパックへと移す。
そんな作業を繰り返していた。
この殺し合いに参加している者がどんな者か鳳凰は知らないが、
少なくても、自我がなかったとはいえ、自身を殺した鑢七花と、
名前は知らぬが狂気を感じる牙の少女、ツナギと戦えるようにはしておきたいのだ。

「……………ほう」

ここで、鳳凰はとあるものを見つけた。
その名も、浅野みいこの所有車、フィアットである。
ただしガソリンは無いけれど。
その車体を鳳凰は例の如く、左手で触れた。

「ふむ、――――使えずか」

「しかし、これが動いたらさぞかし殺し合いは潤滑するであろうな」

ここまで来たら、勘が冴える人は考え付くだろう。
豪華客船か、西東診療所にガソリンぐらいあるのではないか、と。
しかし、それを鳳凰は考えつけない。可能性すら0である。
鳳凰に人力以外で動く船があるなんて常識なぞある訳もなく。
そもそも西東診療所のことも地図上でしか知らない。考えれるはずもなかった。

「使えぬもので悩んでも仕方あるまい。次に進もう」

懐に仕舞いこんだ、先ほど拾った浅野みいこの鉄扇を触れながらそう言った。
この時はまだ、辺りは静かだった。


 ☆


《想影真心》は走る。
激しく身体に巡る感情に身を任せ。


そして、辿りついた。


想い出の地。骨董アパート―――――――――もどき。


そして、躊躇いもなく、躊躇もなく、打ちこんだ。


その技の名は《一喰い(イーテイングワン)》。
匂宮出夢の伝家の宝刀。澄百合学園で完成(コンプリート)した技だ。
それは決して複製(コピー)ではない。


そして、崩れた。
まるで花火の様な音を立てて。
豪快に轟音を響かして。

倒壊した。崩壊した。破壊された。

原形などない、木屑の山、ガラスの山、ただの残骸。

そんなものに、成り果てた。


それでも、まだ《想影真心》は止まらなかった。


 ☆


鳳凰が、その轟音を聞いたのは骨董アパートを立ち去ってから、10分と経たずの間だった。
ポジティブにいうのであれば、間一髪。
ネガティブにいうのであれば、危機到来。
間近に、危険因子が迫っていることを意味指す。
ここで鳳凰が取れる選択肢は二つ。
近づくか、離れるか。

「遠方から観察しておくか」

そのどちらもとらなかった。
ある意味最悪な選択だった。

 ◇◇◇

「は………はぁ?」

思わず鳳凰は声を漏らす。
開いた口を塞がず、戸惑うばかりである。
つい、10分前までは確かにあったのである。
その建物は、その建造物は。
なのに、今は無い。
まるで、縮小された不要湖の様にされた無残な残骸しか残されない。

鳳凰がそこ感じ取るは。


純粋なる恐怖。


彼らには言われたくないだろうが、人間業じゃない、そんな風に鳳凰は思った。
そして悟った。

「化物め………っ!」

目の前で、破壊活動を繰り返す《想影真心》に向けて、視線を浴びせる。
まるで苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべて。
鳳凰は自身が普通ではないのは、十分理解しているつもりだ。
いい意味だとしても、わるい意味だとしても、彼は異常である。
だが、まるでそんなものを無視しての恐怖、畏怖。
鳳凰が弱いとは言ってない。
鳳凰は強いだろう。
だからこそ――――――。

「退くか」

そんな、答えが出た。
ただし、時すでに遅し。

「…………………」
「―――――――ッ!」

目が合った。
遠方から眺めていたつもりである。
だから、先ほどの呟きも、何も。鳳凰自身の証明は消していたはずである。
しかし甘かった。甘く見ていた。――――つもりもないが、結果的にはそうなってしまった。
《想影真心》のステータスを。《想影真心》のスペックを。
視力も、嗅覚も、聴力も。
全ての値が桁外れ。


静けさが襲う。


動けない。
蛇に睨まれた蛙どころではない。
陸に叩きあげられた魚と言っても過言でもないかもしれない。
鳳凰は自身の危機管理能力の高さを呪った。
ここで何も考えず適当に突っ込んでいってそのまま死んだらどれだけ楽だったか。
下手に危機管理能力があるから、下手に命に惜しいから。
下手に願いなど存在するから、下手に迷いがあるから。

鳳凰はこの一瞬を動けずに終わった。
何もできなかった。


ただしそれは永遠ともいかなかった。


「―――――――か」
「何だ?」

《想影真心》は呟く。

「―――――――――――あか」
「む?」

《想影真心》は呟く。

「あか、あか。あか、あか。あかあかあかあかあかあかあかあかあかあかあか」
「―――?」

《想影真心》は呻く。
そして…………。

「ァアカァッ!!」

《想影真心》は吠えた。
真庭鳳凰の外見的特徴で最もたるところの、独特な忍び装束を見て咆哮する。

「――――――――――――ッ!!」

もはや脊髄反射にも似た咄嗟の反応で、鳳凰は『銃』を構える。
そのまま、間髪もいれず、撃った。

しかし、外れる。

「く、くぅぅ…………」

二発目。――――当たらず。
三発目。――――当たらず。

標的が定まらないから、当たらない。
標的が猛スピードと言うにも足りない速度で走るから、こちらの反応が追いつかない。

気が付けば、気が付いたなら。
鳳凰の目の鼻の先には、《想影真心》が存在した。


「■■■」


もはや声にならない、なっていないただの喚き声をあげ、
繰り出されるは―――――。

《一喰い》!

平手打ち、平手打ちにして一撃必殺。
ただ、一撃必殺にしてそれ相応の欠点はあった。

「―――うぅ!」

鳳凰は無理やりに身体全身を使い、バックステップを行う。
防御なんてしたら、終わりだ。そう本能が告げていた。
事実。刹那の間に、つい一秒前までは鳳凰のいた空間に、矮躯から繰り出された腕が――――あった。
《一喰い》の欠点。それは溜め時間の存在。そして―――――《想影真心》にとってはその身体自体が欠点である。

一瞬の間に、鳳凰は疲労していた。
口で息こそしてないが、冷や汗と、疲労の汗で顔は濡れていた。
だが、《想影真心》は鳳凰を逃がさない。

「■■■■■■■」

勢いは衰えない。
その猛烈なる勢いのまま、《想影真心》は飛んだ。
《想影真心》は左足で鳳凰の頭を狙う。
まるで、踵落としの如く。
それに呼応し鳳凰は再び後ろに下がる。
ただし、今回はそれだけでは無かった。

「忍法断罪円!!」

《想影真心》の着地と同時に、放った。
近距離に置いて、絶大な威力を誇る。と誰かは言った。
確かにそうだ。断罪円はそれに恥じぬ威力をもつ。
勿論、忍法生殺し、否、不忍法不生不殺(しのばずほう いかさずころさず)だってそれは同じ。

――――――当たれば、勝利と見ても間違いは無いだろう。

「―――――――馬鹿………な」

思わず漏れ出した声は、驚愕を通り越して、呆れの声だった。もしくは、称賛。
もはや、美術品でも見ているかのような気持ちになっていた。
ただし、見入った訳でもないけれど。

その《想影真心》は、放たれる直前に、身体を無理やり後ろに引っ張り上げた。

《想影真心》は所々掠り傷を負いながら、後ろに転がって行く。
立ち上がる頃には、鳳凰の姿はそこには無かった。


代わりに、鉄扇が落ちていた。


それだけの、必死の表れだろう。
断罪円を放った時、懐から零れたのだ。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

《想影真心》は吠えた。
鉄扇を見て吠える。

巡るは、

想い出。
想い出。
想い出。

楽しかった想い出。
壊したくなるほど、愉快な想い出。
妬ましくなるほど、痛快な想い出。
普通の、想い出。

想い出。
想い出。
想い出。

巡った。

だけど、時機はまだ満たさない。
《想影真心》は止まらない。
まだ、心臓(ビート)は止まらない。狂わない。
復讐心なんてないのに、この現状は狂わない。

鍵である車。
フィアットは木屑に埋もれ、もはや真心の知らぬところにある。
もしかしたら車体は完全に潰れ、ガソリン以前の問題かもしれないし、
そうじゃないかもしれないし。もう分からない話だ。

分からないから、解放を束縛できない。
封印できない。ようは、《想影真心》はまだ終わらない。

そういうことだ。


次に目指す座標(ポイント)は分からない。


もう、彼女が潰すような場所は潰れてしまったから。
残すは人物のみ。


忍法すら覚えた《想影真心》の行方を知るものは本人も含め誰もいない。


【1日目/早朝/H‐6 骨董アパート】
【想影真心@戯言シリーズ】
[状態]解放
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:壊す。
 1:いーちゃん。狐。MS-2。
 2:車。
 3:赤。

[備考]
※ネコソギラジカル(中)、十月三十一日から
※三つの鎖は『病毒』を除き解除されています
※忍法断罪円を覚えました。






 ☆


鳳凰は走った。
そして、追ってこないのを確認して止まる。

「――――――危険因子、か」

それどころではなかったな。と呟く。
ド派手なオレンジの髪を揺らしながらこちらに迫ってきた姿は、まるで鬼神。

「―――――どうしたものか」

今、真庭鳳凰を悩ませるは、3つの原因がある。
先ず、これからのこと。
これからどういった風に動いていこうか。その悩み。
2つに、戯言遣いの戯言のこと。
一度は決意こそしたものの、やはり主催の手の上で踊っているのは些か気分が悪い。
3つに、

「我に―――――殺せるような参加者がいるの否や………」

鳳凰は、今に至るまで、鑢七花、ツナギ、想影真心と出遭っている。
その全てが、勝算が少なすぎる相手だった。
それと共に、戯言遣いに八九寺真宵のような比較的弱い部類の参加者はいる。
ただ、それがどれだけいるものか。
この6時間、決して少ないとは言えないが多くも経っていないだろう時間にこうも連続して
強者を通りこすような、論理の常識も世界すらも破壊するような相手と出遭ったのだ。
悩める。

「―――――どうしたものだろうか………」

自身から、自信と言うものが消えていくのが身をもって分かる。
しかし、いつまでもそうはいけないだろう。
いつかは決めなければいけないし、どっちにしたって最後には誰かしらと戦う必要がある。
それが、鑢七花だろうが。
それが、ツナギだろうが。
それが、想影真心だろうが。
それが、戯言遣いだろうが。
それが、八九寺真宵だろうが。
それが、まだ見ぬ仲間、敵だろうが。

結局のところ、願いは欲しい。
しかし、同時に命も惜しいのだ。

それを臆病とは言わない。
人として当たり前の行為だし。
当然なる思考だ。

だからこそ、思考は底なし沼の様に解決へと脱せず、
同時に気だるさに似た心情がぐるぐると回っている。
答えも求めても、求めても。
何も求められない。

こればかりは、忍法でどうこうできる話ではなし。

何も頼ることはできず。
何も縋ることはできず。

――――とはいっても、それは鳳凰にとって日常的にやっていたこと。
真庭忍軍の頭首としても、個人としても。
命を巡る選択など、鳳凰にとっては造作もない。
むしろそれを心配する方が甚だしいというもの。
だから、というのも変な話だが。
近い内、彼は選択の答えは導き出すだろう。

放送も近い今、しかし彼は悩み続ける。
悩めるのは何も少年だけの専売特許ではない。
悩めるだけ悩んで、最終的に善き導きがでるかどうか。
はたまた悪き導きが唆されるか否や。


それはまだ、先のお話。


【1日目/早朝/H-6】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]健康、混乱
[装備]炎刀『銃』(弾薬装填済み)
[道具]支給品一式(食糧なし)、名簿、懐中電灯、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、ランダム支給品1~5個、「骨董アパートで見つけた物」
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:東へ向かう
 2:本当に願いが叶えられるのかの迷い
 3:今後の迷い
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません
 ※「」内の内容は後の書き手さんがたにお任せします。
 ※炎刀『銃』の残りの弾数は回転式:5発、自動式9発


[骨董アパート]
※崩壊しました。しかし、まだ全てが全て破壊された訳ではありません。
※フィアット@戯言シリーズ が埋まっています。ガソリンは抜かれている以外、現在どのような状態かは不明です。
※少し離れたところに浅野みいこの鉄扇が落ちてます。
※崩壊した時の轟音が辺りに響きました。


今まで楽しかったぜ 時系列順 鷹と剣士の凌ぎ合い
善意の裏には悪意が詰まっている 投下順 ネットカフェで一服
スーパーマーケットの口戦 真庭鳳凰 立つ鳥
混沌は始まり、困頓はお終い 想影真心 赤く染まれ、すれ違い綺羅の夢を

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年10月07日 21:24