れみりゃとお兄さんの出会い(裏)-2


「や、やっと着いた…」
「う~」

私の部屋があるワンルームマンションまで辿り着く。
這って移動するれみりゃを連れている為、いつもの倍の時間が掛ってしまった。

私とれみりゃはマンションの中に入り、部屋を目指す。
そういえば、ここってペットOKなんだろうか。
まあ、どうでも…良くはないか。
後で確かめてみよう。

私達は私の部屋の前まで辿り着く。

「さあ、れみりゃ。今日からここが貴方の家よ」
「う~」

私はドアを開ける。
そのドアを開けた先にれみりゃの素晴らしいゆっくり生活が待っていると信じて。
そんな私達を出迎えてくれたのは…

床に落ちている洗濯物だった。




「あ~…」

下着やパジャマは脱ぎっぱなしで床に落ちているし、ベッドの上の布団もめちゃくちゃだ。
テーブルの上には朝食の食器が汚いまま置いてある。
遅刻しそうだったからそのままにして行ったんだった。

生ゴミが入ったごみ袋も部屋に置きっぱなし。
この前出し忘れたんだった。
早く捨てないと臭いがきつくなってくるだろう。

一言で言おう。

きったねぇ。

こんなところでれみりゃはゆっくり出来るのだろうか。
れみりゃは珍しそうに部屋の中を見回している。
…恥ずかしいからそんなに見ないでほしい…。



とりあえず…だ。
部屋のことは後回しにしよう。
そのうち片付ける。
きっと。
そのうち。
明日から本気出す。


今はれみりゃに晩御飯をあげることにしようか。

「れみりゃ~、ちょ~っと待っててね~」
「う~」

私はプリンを取りに冷蔵庫まで歩く。
冷蔵庫の中には腐りかけの野菜やビールの缶や調味料などが大量に入っていた。
その中から買っておいたプリンを見つけ出す。
賞味期限は…うん、ギリギリ大丈夫だ。
私の場合は2~3日過ぎても平気で食べるのだが、れみりゃにそんなものを出すわけにはいかない。

私はプリンを持ってれみりゃの元へ戻るのであった。
冷蔵庫の中の掃除?
なにそれ、美味しいの?

「さあ、召し上がれ」
「う~」

古新聞の上にプリンを乗せた皿を置き、れみりゃの前に出す。
れみりゃはプリンに手を伸ばし、その柔らかそうな手でプリンを掴み、自身の口へ運ぶ。
プリンの欠片が新聞紙の上に落ちる。
手掴みでプリンを食べるれみりゃも相変わらず可愛かった。

「う~」

れみりゃは無表情のままプリンを食べ続ける。
本当はプリンを食べて笑ってほしかったが仕方ない。
れみりゃと一緒にいられるだけでも私は幸せだった。



れみりゃはプリンを食べたら眠ってしまった。
風邪をひかないよう布団を掛けておく。
やはり寝顔も可愛かった。
その柔らかそうな頬を突いてみたくなる。

「れみりゃ…このまま私の家でゆっくり出来たら良いのにね…」

私は一人呟く。
あんな檻の中でゆっくり出来る筈がない。
出来ることならば、れみりゃをずっと私の家に住ませてあげたかった。
れみりゃに笑顔を取り戻してほしかった。

さて、私もお腹が空いた。
晩御飯を買ってこなければ。
あと、プリンもさっきので品切れだ。
一緒に買ってこなければいけない。

…この時間ならコンビニくらいしかないか。
コンビニのプリンは高いが仕方ない。
れみりゃの為に奮発するとするか。
私は洗濯物を踏みながら、部屋を出て行く。

それにしても床に色んな物があって邪魔くさい。
誰だ、床に大量に物を置いたのは。


…私か。









鳥の鳴き声が聞こえる。
もう朝か…。
私は上半身だけを起こし、手近にあった目覚まし時計を見る。
午前8時15分。
遅刻ほぼ確定。

「あああああああ~~~~~!!!!!!!」

私は頭を抱えて叫んだ。



朝食どころか化粧をしてる暇もない。
パジャマを脱ぎ捨て、壁に掛けてあるスーツを着る。
よし、準備できた。
私ほどの熟練者となると1分で準備できるのだ。

「ふははははは!!!」

なんぞと笑っている場合ではなかった。
床でまだ寝ているれみりゃを見る。
朝御飯は昨日買っておいたプリンがあった。

昨日と同じように新聞紙の上にプリンが乗った皿を置いておけば、勝手に食べてくれるだろう。
昼の分と合わせて2個置いておいた。

「れみりゃ、行ってくるね」

私は寝ているれみりゃの頬にキスをして、部屋を出て行く。
れみりゃの頬はとても暖かくて柔らかかった。
帰ってきたら今度は柔らかそうな唇にしてみようか。

「…ふへへ」

想像してみたら、にやけ笑いが止まらなかった。





今日も今日とて遅刻ギリギリで駆け込んだ私は、上司からの嫌味を右から左に聞き流し通常業務に入る。
…化粧はトイレに行って済ませておいた。

「すみませ~ん」

今日最初のお客様。
初老の老人といったところか。
昨日の老婆よりはしっかりしてそうな人だった。

「家の中のゆっくりを駆除してほしいんですが~…」

またか。
いい加減にしてほしい。

しかも今日はれみりゃがいないのに…。
上司に相談するか。

「すみません、少しお待ちいただけますか~?」

笑顔を張り付けたまま私はその場を離れる。
そして上司に小声で話しかける。

「すみません、ゆっくりの駆除の件でいらしているのですが…」
「行くしかないでしょ?」
「私一人でですか?れみりゃもいないのに?」
「断るわけにもいかないでしょ」

…それはそうなのだが。
しかし、私一人では…。

「いざとなったら潰すしかないでしょ」

上司の冷静な一言が私の耳に突き刺さる。

潰す…。
私が…ゆっくりを…?

いやだ。
いやだいやだいやだいやだ。

「あ…う…」

上手く声に出ない。
上司にはっきり嫌だと言わなければいけないのに。

「あのねえ」

上司の呆れたような声。

「あんたがゆっくりを可愛がるのは勝手だけど、これは仕事なの。可愛がるのはプライベートだけにしてちょうだい」

…そうだ。
これは仕事なのだ。
それは…忘れてはいけないことなのだ。

「わかり…ました…」
「じゃあさっさと行って来なさい。市民の方をお待たせしないで」
「は、はい…」

私はフラフラと先程の老人の元へ歩いて行く。
今の私はどんな顔をしているだろうか。
ちゃんと笑えているだろうか。

「お待たせ…しました!では、後ほど向かいますので、住所と希望時間をこちらに書き込んでいただけますか?」

精一杯言葉を吐きだす。
手続きが終了し、老人は帰って行った。
後に残ったのは憂鬱だけだ。

私が…ゆっくりを潰す…?
出来るわけがない。
以前下手を打ってゆっくりを潰してしまった時のことは今でも夢に見る。
あのゆっくりは私のことを恨んでいるのだろう。
そう考えると夜も眠れなくなることもあった。

しかし、やらなければいけない。
私は社会人だ。
これは仕事だ。
私がやらなければいけないことなのだ。
そう考え、今にも崩れてしまいそうな自分を何とか奮い立たせる。
そう、これは仕事なのだ。





「ゆっくりしていくのぜ!」

老人の家の台所で一匹の金髪のゆっくりが元気に跳ねまわっている。
一匹くらい自分でなんとかしてくれればいいのに…。
そんな愚痴が思わず出そうになってしまう。

仕事なのだ。
頑張らなければ。

私は台所の床一面に新聞紙を敷く。
ゆっくりを無傷で回収できればいい。
だが、出来ない可能性も高い。
だからこれは保険だ。

「ゆっくり止まってね~…?」
「ゆっ!?おねーさんはゆっくりできないのぜ!ゆっくりやめるのぜ!」

私が捕まえようとしていることを察したのか、私の両腕から逃げ回るゆっくり。

「ちょ、待ちなさ…あっ!!」
「ゆげえっ!!」

ぶちゅり、と嫌な音がその場に響く。

やってしまった。

つぶしてしまった。

私が…。

ワタシガ…。

「あはははははははは…」

渇いた笑いしか出てこなかった。
人間どうしようもなくなると笑うことしかできなくなるということは本当だったのだな、とどこか他人事のように考えていた。




老人がどこか不審そうな視線を向けるのを背に、老人の家から出て行った。
私は車の中へ駆け込む。

いやだ。
いやだいやだいやだいやだイヤダイヤダイヤダ。

どうしてこんなことに…。
こんなことやりたくないのに…。

「ううっ…」

涙が止まらなかった。

「うあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

路肩に停めてあった車の中で、私は大声で泣き叫んだ。





それからどうやって帰ったかは覚えていない。
無事に帰ってこれたのだから事故には遭わなかったということは確かだろう。

昼休みになって、私はれみりゃの元へ向かおうとして思い出す。
そうだ、れみりゃは今、私の家にいるのだ。

「大丈夫かな…」

れみりゃはきちんと御飯を食べてくれただろうか。
れみりゃはゆっくり出来ているだろうか。
早くあの肥大化した顎が治らないだろうか。
駄目元で色々な病院に電話をかけてみようか。

色々な思考が私の中を駆け巡る。

「あんた、今、ちょっと良い?」

上司の声が私の耳まで届いた。
私は反射的に上司のいる方向を見る。

「あんた…今日はもう帰りなさい。帰ってきてからずっとぼーっとして。頭冷やして出直して来なさい」
「え…?」

そうだ。
仕事中なのに…。
ぼーっとしていてはダメなのに…。

「明日からはきちんとしなさい!!良いわね!?」
「は、はい…」

私は慌てて返事をする。
上司の言い方はきついものがあったが、恐らく私のことを気遣ってくれたのだろう、と前向きに考える。
れみりゃのことが気になっていたし、正直これは有難い。

「すみません…お先に失礼いたします」
「ええ、明日はしっかり働いてもらうからね!?」
「は、はい…」

私は上司に頭を下げ、その場を立ち去った。




私は昼時の帰り道を急ぐ。
早くれみりゃに会いたい。
早く私をゆっくりさせてほしかった。
自然と早歩きになる。

「ふぅ…ふぅ…待っててね、れみりゃ…」

いつの間にか走っていた。


走ったおかげで随分早く部屋にたどり着くことが出来た。
私は急いで部屋の中に駆け込む。
一秒でも早くれみりゃに会いたかった。

「れみりゃ~!!あいたか…った…よ?」
「う~!!う~!!」

れみりゃが四つん這いの体勢になって苦しんでいる。
何があったというのか。
私は慌ててれみりゃに駆け寄る。

「れみりゃ、どうしたの?どこか痛いの?顎が痛いの?」

私は慌ててれみりゃの顎をさすろうとしたが、その顎の中のものをみて驚いてその手を止める。
顎の中には小さな小さな満面の笑顔。
それは私がずっとれみりゃに求めていたもの。

「う~♪」

小さいが、しっかりと聞こえた。
嬉しそうな声。
私がずっと聞きたかった声。

「もしかして…これって…出産…?」
「う~!!う~!!」

れみりゃは苦しんでいる。
私は経験したことはないが、人間の出産も非常に痛いものだと聞く。
それは鼻の穴からスイカを出すくらい痛いとか。
想像するだけで恐い。
しかし、れみりゃは今その痛みと戦っているのだ。

「頑張れ、頑張って!れみりゃ!」

私は必死に応援する。

その状態から数分経過する。
握っている手の中で汗が滲むのを感じる。

「う~!!!」

すっぽん、と景気の良い音と共にピンク色の物体が飛び出してきた。
それは小さな小さな胴付きのれみりゃだった。

「やった…!やったよ…!れみりゃ…!」
「う~…」

良かった。
病気じゃなかったんだ。
これからもずっとれみりゃと一緒にいられるんだ。
私は嬉しさのあまり涙が出てきた。

「う~♪まんまぁ~♪」
「う~…あが…ぢゃん…」

喋った。
れみりゃが私の目の前で初めて言葉を喋った。

「まんまぁ~♪れみぃおなかすいたぞぉ♪」
「あが…ぢゃん…れみぃの…あが…ぢゃん…」

赤ちゃんれみりゃは可愛いなあ。
ヤバイ、にやけてきた。
これからどう可愛がってやろうか考えていたら涎が出てきた。

「まんまぁ?」

赤ちゃんれみりゃが怪訝そうな表情をする。
何かあったのだろうか。
もっとこの世に生まれてきた幸せをかみしめてほしいのに。

「あが…ぢゃん…」

れみりゃは必死に言葉を紡ぐ。

「ゆっぐり…じで…いぐん…だぞぉ…」

そう言って、私の目の前で初めて笑ってくれた。
ずっと見たかった笑顔。
可愛らしい笑顔。
私はこの瞬間とてもゆっくり出来ていたと思う。

「まんまぁ~!!」

赤ちゃんれみりゃの悲鳴が聞こえるまでは。



…?
どうしたのだろうか。
れみりゃが動かなくなってしまった。
出産疲れというやつだろうか?

「まんまぁ~!!ゆっぐりじでぇっ!!ゆっぐりじでよぉっ!!!」

赤ちゃんれみりゃがれみりゃに縋りつくように泣き叫ぶ。
どういうことだ?
れみりゃは出産も終わり、これからゆっくり出来るんじゃなかったのだろうか?

「れみりゃ…寝ちゃったの…?」

私は恐る恐るれみりゃに近寄る。

嫌だ。
いやだいやだいやだいやだいやだ。
そんなことがある訳がない。
れみりゃは…赤ちゃんと…そして私と一緒にこれからゆっくりしていくのだ。
幸せに生きて行くのだ。

私はれみりゃの体にそっと触れる。
…いつもの暖かさがない。
いや、どんどん冷たくなってる!?

「れみりゃ!!」

私はれみりゃの顔を見る。
安らかな笑顔のまま眠っているように見える。

しかし…

「まんまぁぁぁぁ!!!!ゆっぐりじようよぉ!!!!!」

れみりゃは…

「おぎでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!まんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

れみりゃは…息をしていなかった。









あれから何時間が経っただろうか。
辺りはすっかり暗い。

「う~♪う~♪」

赤ちゃんれみりゃの鳴き声が聞こえる。
…あれから、赤ちゃんれみりゃも言葉を喋らなくなってしまった。
言葉を忘れてしまったかのように。
産まれた時は確かに喋っていたのに。

私も言葉が出ないから同じか。
どうすればいいのかわからなかった。

「う~♪う~♪」

赤ちゃんれみりゃはれみりゃの死体を見向きもしない。
それが何であるか忘れてしまったように。
いや、実際に忘れてしまったのだろう。
言葉と共に…母親の死を。

何故れみりゃは死んでしまったのか。
考えれば考えるほど…一つの結論にしか辿り着かなかった。

私のせいだ。

私がゆっくりを駆除という名目でその命を奪ってきたからだ。

私がゆっくりの死臭を大量に纏っているからだ。

私が…。

わたしが…。

ワタシガ…。

「うああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

私は叫ぶことしかできなかった。
狂ったように。





いつの間にか周りが明るくなっていた。
朝になったのだろう。
思いっきり叫んだことで多少は落ち着いてきた。
多分近所迷惑だっただろうけど。

仕事などする気になれなかった。
始業時間になる前に、上司に休暇の連絡をしなくては。
有給休暇は結構残っているはずだ。

「う~♪う~♪」

赤ちゃんれみりゃが昨日れみりゃに出しておいたプリンを食べているのが見える。
幸せそうな笑顔だ。
この子がいなければ本当に狂っていたかもしれない。

この子は…れみりゃの忘れ形見だ。
大事に育ててあげなければいけないだろう。
この子が幸せになってくれれば…れみりゃも報われるはずだ。

…しかし…誰が育てればいいのだろうか。

…私は…無理だ。
私の所為でれみりゃが死んでしまった。
間違いない。
だから…私にはこの子の世話はできない。

親は…無理だ。
親は動物が嫌いだ。
子供の頃から弟と一緒に『ペットを飼いたい』と言ったことがあったが、一度も聞き入れてもらえなかった。
恐らく頼めば断られることはないと思ったが、赤ちゃんれみりゃにとって幸せな環境になれるとは思えなかった。

友達も…恐らく無理だ。
ゆっくりを飼っている者などいない。
嫌々飼われてもこちらが困るだけだ。
赤ちゃんれみりゃがゆっくり出来なければ意味がないのだ。

こうして見ると良さそうな人間が全然思い浮かばない。
…いや、一人だけいた。

私の…弟。
最近連絡をしていないが、今は大学生だったはずだ。
弟は男でありながら可愛い物が大好きで、小さい頃はぬいぐるみを沢山持っていた。
今でもその志向は変わっていない…はずだ。
弟に一縷の希望を抱くことにしよう。
断られても家の前でずっと土下座してやる。
嫌がらせだの何だの言われようともだ。
赤ちゃんれみりゃを預けられる対象は弟以外に考えられなかった。

…電話をしなければ。
弟にも…上司にも。





上司に電話をしたところ、一週間の有給休暇をもらった。
れみりゃのことも全て報告した。
れみりゃは上の方ですでに処分が決まっていたそうだ。
だから死体はお前が処理しろ、と言われた。
後でどこかに埋めに行かなければ。

「一週間後にはせめて景気の良い顔にしておきなさい」

最後にそれだけを言って上司は電話を切った。
心配…してくれていたのだろうな。
私は上司に感謝した。

次は…弟に電話をかけなくては。
出来れば行くのも今日が良い。
急な話だが、一日でも早く赤ちゃんれみりゃの世話をしてもらわなければいけないのだ。
私は弟の電話番号に電話をかける。

「もしもし…弟君?」
「…姉貴?」

久しぶりに聞いた弟の声はどこか驚いたような声だった。






赤ちゃんれみりゃをレンタカーの中に置いて行き、私はれみりゃの死体とスコップを持って車の外に出る。
レンタカーを借りた理由は、弟の家にしばらく世話になるので身の回りの物を運ぶ為、そしてれみりゃを埋める為だ。

どこに埋めようか迷ったが、近場の岬に埋めることにした。
やはり景色の良さそうな場所が良いと思ったのだ。
ただ、ここが私有地かどうかは確認していない。
多分ばれることもないだろうが。

「ごめん…れみりゃ…ごめんね…」

私は謝りながられみりゃの死体を土の中に埋める。
私がいなければれみりゃはもっとゆっくり出来たのかもしれないと思うと、自分がとんでもなく憎く思える。
が、今はそんなことを考えている場合ではない。
早くれみりゃをゆっくりさせてあげなくては…。

「れみりゃ、お休み…。ゆっくりしていってね」

れみりゃの死体を埋め終わる。
私はれみりゃの冥福を祈るとその場を去った。






私は車を走らせ、弟の部屋のあるアパートの前に車を停める。
赤ちゃんれみりゃを腕の中にそっと抱く。
小さいが、とても暖かい。

「う~♪う~♪」

赤ちゃんれみりゃは小さな両腕を必死に虚空に伸ばす。
その小さな手は何を求めているのだろうか。
私にはわからなかった。

弟の部屋の前まで来る。
インターホンを押す前に深呼吸する。

「すぅ~、はぁ~っ」

大丈夫。
断られはしない。
断られても首を絶対に縦に振らせる。

「よしっ」

私は意を決してインターホンを押す。
数秒後、そのドアが開かれる。
久しぶりに見た弟の顔は怪訝そうな表情だった。
この赤ちゃんれみりゃのことが気になっているのだろう。

私は意を決して弟に話しかける。

「弟君、この子を預かってほしいの」








後書
表が約11KB。
裏が約36KB。
気合の入れようが段違いですね…。
このような暗い話を読んでくださってありがとうございました。

後は文中で書かれていない補足です。

この話は大人なれみりゃとちょっと子供なお兄さんの何年か前の話です。
まだゆっくりと人間が共存できていないので、れみりゃとゆっくりできるおちびちゃんの時とは違い、ゆっくりを診ることが出来る医者がまだ存在しません。
れみりゃの育児奮闘記等に出てくるゆっくりグッズもこの話の少し後に発売されるようになる…という感じです。

次に、親れみりゃの補足をしようと思います。
親れみりゃは檻の中で飼われてからは何もすることが出来ずに肉体的にも精神的にもボロボロという状態でした。
その一方で、ほとんど何もすることなくお姉さんにプリンやお菓子を与えられる状況はある意味でとてもゆっくり出来るものでした。
そのような日々が続いたことで、肉体的にも精神的にもボロボロのはずなのに妊娠という矛盾した状況が生まれてしまいました。
しかし、出産とは非常に負担が大きいものです。
肉体的にも精神的にもボロボロな親れみりゃには耐えきれなかった…というのが真相です。

最後に、私は隙あらばまた暗い話を書いてしまうと思いますが、その時はまたよろしくお願いします。


  • つらいよなぁ…うん
    でもだからあなたの描く笑顔の話は、あんなに輝くんだね。 -- 名無しさん (2011-01-24 01:39:49)
  • うう・・・かなしいよお・・・
    でも親れみりゃが妊娠したってことは、
    役所の檻の中でもゆっくりできたんだよね・・・
    きっとお姉さんの温かな心か親れみりゃにも伝わったからだよね・・・
    ゆっくりと人間が共存する社会がいいのに、世界は不条理だ・・・
    -- 名無しさん (2011-01-25 03:34:25)
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最終更新:2011年01月25日 03:34