「あら? あなた……魔女ではありませんのね。」
「わたしは花海咲季。アイドルよ。」
暴風雨の吹き荒れる中、戯れに殺された幾つもの死骸が織りなす道を通り抜けて、花海咲季は"それ"と相対していた。
斑点のようにひび割れた肌に、人類のそれより発達している身体。
何もかもが対人における違和感として咲季の感覚を狂わせる。
「それにしてもあなた……随分と図が高いのね。」
だが、最も大きい非現実感は、両者の位置だ。
対峙している相手、遠野ハンナは宙に浮いていた。
「そちらの方からやって来たということは……わたくしがぶっ殺したヤツらをご覧になったはずですわね?」
そう言いながらハンナは、掴んでいるものから手を離した。
弄ばれた数多の命の中のひとつ、人型の生物――ゴブリン。
咲季が遭遇した存在とは異なる集団の一員だったのだろうか。
中空十数メートルで暴風雨に晒され続けたそれは、既に命を奪われ肉塊と化している。
けれど咲季の目の前に落ちれば、肉体は衝撃で弾けて大量の血液を撒き散らした。
「それなのに何の勝機があっていらしたのかしら。それとも、何も考えていないお馬鹿なんですの?」
「……ええ、そうね。わたしに勝ち目なんて……万に一つも、ないのかもしれない。」
咲季もゴブリンと同じく、魔法の力に抗う能力なんてない。
眼前の血だまりはまるで自分の数秒後の未来を示しているようだ。
「でもわたしは、逃げるわけにはいかないの。」
「へえ、どうしてですの?」
「だって、あなたの起こすこの雨風が――」
咲季の頭には、ある少女の背中が浮かんでいた。
「――涙に、見えたんだもの。」
放送で呼ばれた少女――雨夜燕の、背中が。
■
十王星南がユニットを組んでからの、初めての大舞台。
Re;IRISとBegraziaの対バンは、学内外問わず、注目を集めていた。
その結果、BegraziaのパフォーマンスにRe;IRISが敗北したことも、もはや周知の事実となっていた。
『おい、どこへ行く花海。』
そんなあるひと幕のことだった。
燕先輩から、声を掛けられたのは。
『実家に帰るんです。』
『アイドルを、辞める気か?』
心の脆い部分を突かれたような気分だ。
わたしの成長は止まると言い放った十王星南といい、この学園の3年生は、なかなかどうして核心に触れてくる。
『……そう、見えますか?』
『はぐらかそうとしても無駄だ。質問を質問で返すな。』
『……ごめんなさい。今のは、感じ悪かったですね。』
『いや、いい。お前の踏み込まれたくない事情に踏み込んだのは私だ。』
学園No.2の異名を持つ燕先輩のことは、前々から知っていた。だが、こうして直接話すのは初めてだ。
アイドルに対して真剣で、ストイック。
それが世間が雨夜燕に抱くイメージだった。
しかしこの時の燕先輩は、そんなパブリックイメージとはどこか異なる、弱々しさを孕んでいるように思えた。
『だが、心配くらいはさせてくれ。……そして必要ならば、助けさせてくれ。』
着いてこない者は置いていく。
それこそが強者にあるべき佇まいだと思っていた。
そんな在り方とはかけ離れた言葉に意外そうにしていると、付け足すように燕先輩は言った。
『これでも一応、先輩だからな。』
『……驚きました。その、なんというか、随分と……低姿勢なんですね。』
アスリートとして生きてきたわたしの周りを走る者たちは、誰もが夢に翔けていた。
しかし、翔け続けられる者は、そう多くはなかった。
高い壁に阻まれる、肉体がついていけなくなる――理由こそ様々であったが、途中で折れて走れなくなった夢の残骸を、わたしは幾つも看取ってきた。
そして、他ならぬわたしも――抱いた夢の数だけ、挫折があった。
『アイドルは……特に雨夜先輩はもっと、強気なものだと思っていました。』
『そうだな……。学園No.2の称号を、誇らしげに掲げていた頃もあったよ。』
これは、わたしには知り得ない、燕先輩がひとつの壁を超えた物語。
『現状に甘んじて、上を見ることを怠っていた結果……目指していたはずの相手は、私を置いて違う世界に行ってしまった。』
初星学園の頂点、『一番星<プリマステラ>』を決める祭典、Hatsuboshi Idol Festival――もといH.I.F。
出場形式はソロ部門とユニット部門に分かれている。
ユニットを結成した星南とはもう、同じ土俵で争うことができなくなってしまった。
『アイドル人生に見切りをつけたライバルに、もはや何を言う資格も残っていない。それが、私だ。』
きっかけなど何もなくとも、いつかはきっと気づいていたのだろう。
天井の先の空を見通して初めて、雨夜燕というアイドルは羽ばたくのだと。
十王星南という目標が、寧ろ成長を止める枷になっていたということに。
だが、"この燕"がそれに気付けたのは――天井が、無くなってしまった後だった。
『だが、この後悔を知っていればこそ、お前にはまだ上を目指してほしいと思ったんだ。差し出がましい先輩風かもしれんがな。』
目指す相手がいるのはいいことだ――なんて、ありきたりな励ましに終わるつもりはない。
2位の人で満足していては、越えることなどできない。
花海は今こそ、目指す相手ではなく、その先を見据えて走らねばならない分岐点に差し掛かっているのだろう。
折れたのならば、立ち上がるための手を貸そう。
弱きを助け強きを挫く。
いつかテレビで見た、ヒーローが如き在り方。
それが、私の――雨夜燕の理想とする、アイドルだ。
『……雨夜先輩。本当に、ありがとうございます。』
言葉にせずとも、伝わってくる。
気まぐれな先輩風などではない。
それが燕先輩の矜持であり、アイドルとしての生き様でもあるのだと。
『ですが、心配には及びません。』
だからこそ、最大限の敬意を以て振り払おう。
『わたしが実家に帰るのは、Begraziaにリベンジするため。上を向いて走るためです。』
気づけたから。
わたしの周りにいる奴らが、どれだけわたしを"支えて"くれているのか。
『わたしには、背中を押してくれる仲間がいます。だから、差し伸べられる手も、借りる胸も、いりません。』
これ以上寄りかかる支えがなくとも、花海咲季は走り続けられる。
必要なものを必要な量だけ取り入れて、わたしは前に進むだけ。
これまでも、そしてきっと、これからも。
『そうか……フッ。それもそれで、先輩としては寂しいものだがな。』
『でしたら、わたしには手のひらではなく、背中を見せてください。』
だからわたしは、必要なものだけ、もらうんだ。
上に立つ者としての、燕先輩の志。
わたしが佑芽に与えているような施しを、妹だからなんて理由がなくとも他者に差し伸べられるだけの度量。
『いつかわたしが頂点に立ったとき――雨夜先輩みたいに手を差し伸べられるように。』
■
「――何を言い出すのかと思えば、目でも腐ってんじゃねえですの?」
暴風雨がいっそう強まった。
それは感情の昂りか、或いは殺意の現れか。
どちらにせよ、向けられる想いから目を逸らす咲季ではない。
今は亡き燕先輩なら、こうするって、思うから。
「わたしには、背中を押してくれる仲間と――」
この子は、遠野ハンナというらしい。
初星学園の生徒じゃないし、きっとアイドルでもない。
……人間なのかも、わからない。
「信じてくれるプロデューサーと――」
それでも。
「――そして、手を差し伸べてくれる"ヒーロー"がいたわ。」
ハンナの表情に、一点の陰りが見えた。
今の彼女は、仲間も、信じてくれる人も、助けてくれるヒーロー気取りのやつも――
「きっとあなたには、いないのね。」
――ある者は、置き去りに。またある者は、この手で殺してきたのだから。
「だからこそ――あなたは"強い"。」
もはや隣り立つ者など誰もおらず。
故に、あらゆる者を拒むが如き風雨はその勢いを増しているのだ。
孤独であるが故に苛烈で、一人であるが故に誰よりも鮮烈で。
「だからわたしは、あなたより高い場所に昇ってみせる。」
折れたままの心で、なおも覇道を走り続けるハンナを、越えるべき相手であると。
それは、仲間を得た咲季が、終ぞ至ることのなかった領域。
「……あなた、気に入りませんわね。」
「あなたに勝って、手を差し伸べるために!」
「ぶっ殺してさしあげますわっ!」
証明しよう。
仲間と助け合い、支え合うことで前に進んでいくわたしが。
花のように不屈で、女神のように歌い、虹のように希望を返す。
そんな在り方を突き進むわたしこそが――正解なのだ、と。
【F-8 荒野/深夜/1日目】
【花海咲季@学園アイドルマスター】
[状態]:健康、呆然
[装備]:オモチャの兵隊(トイソルジャー)@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:殺し合いをやめさせる。
1:遠野ハンナに手を差し伸べる。
[備考]
※参戦時期は初星コミュ4章15話終了時点から。
【遠野ハンナ@魔法少女ノ魔女裁判】
[状態]:魔女化、殺人衝動、暴走、地上から15mくらいを浮遊中、ウェザー・リポートの能力で嵐を巻き起こしている
[装備]:ウェザー・リポートのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:全員ぶっ殺してさしあげますわ~!!
1:この嵐の能力で全部ぶっ壊してやりますわ~!
2:花海咲季とやら、ムカつきますわね?
[備考]
※いわゆる井戸エンドで桜羽エマを落下死させた後からの参戦です。
※ウェザー・リポートの能力は、現在は自分の周囲に嵐を起こすことにしか使えません。
※名簿を確認していません
最終更新:2026年03月28日 20:15