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 大垣ひなたと言う人物は、軽く説明するならば典型的な厨二病を拗らせた一般人だ。
 どれぐらい拗らせているのかと言うと、御嬢様学校を通っている身でありながらも、
 制服でいなければいけない場所以外の活動ではほぼ全て軍服を着たまま日常生活をしている、
 どこかで聞いたような詠唱を以下省略とかせずともちゃんと暗記して唱えられる、
 そして言動の通り、自分のことを東方将軍ツァラトゥストラと名乗るなど、かなりのレベルだ。
 漁れば漁るほど彼女の厨二病は深く根付いたもので、キョウは半ば彼女については頭を悩ませる。
 これが殺し合いの参加者の一人。ベリアルはどんな趣味嗜好で彼女を巻き込んだのかが理解できない。
 もっとこう、いいのがいるだろうと。入間ケイジや久留和組の人物。たとえ殺し合いをせずとも、
 必要に迫られれば攻撃をしてくる参加者なんてものはいくらでもいたはずではないかと。
 一般人、しかも服にすら影響を受けている重度の厨二病の少女を巻き込んで、
 一体何の意味があるのだろうか。目的が不明瞭な今は判断ができない。

(そういえば、奥伝達とあるが久留和組の奴か?)

 名簿には鬼柳とその知り合いのクロウが上で、下は城の名前が記載されている。
 鬼柳の方から察するに知人は固められてる。となれば可能性はウェルベルムの参加者。
 千里兇団にはいなかった名前だ。久留和組か、或いは別勢力か一人で活動している人物か。
 いずれにせよウェルベルムの参加者で敵ならば、動詞の内容を把握は必要になるだろう。
 とまあ、彼は彼なりに殺し合いについてどう動くべきなのかを考えているのだが、

「我の方が絶対いいのだ!! 下僕が二人もいるのだぞ!」

「はぁ? ふざけんな。ガキにリーダー面されてたまるか!」

「……どっちでもいいと俺はそれで満足だが。」

「「それだけは認めねえんだよ(ないのだ)!!」」

(どうして癖の強い人間ばかり集まるんだこの集団は……)

 三者は他の参加者に出会うまでに、それなりの時間を費やした。
 三人とも全員、肉体的には一般人の領域を出ることはないので、
 若さに物を言わせて高速で移動できるなんてことも、移動手段も支給されてない。
 ようやくイェーガーズ本部が近くにあるのでと来てみれば、休んでたシュラと遭遇。
 当人は戦う気はないのと、本人曰くさっさと元の世界へ戻らないといけないのもあり、
 利害の一致で同行者になることを決めた……と、最初のところまでは別に構いはしなかった。
 だが『で、誰がリーダーになるんだ?』と鬼柳の何気ない一言によって状況は一変。
 ひなたが真っ先にリーダーを名乗りだし、結果的にしょうもない口論が行われていた。

「我にはなくともさらなる眷属である煉獄の竜が此処におるのだ!
 無論、今は召喚しないぞ。この空間に煉獄の竜は手狭だろうからな!」

「竜だと? 帝具みてえなものか……? だからと言って、
 戦場も知らねえガキに全権握らせていいのかよテメエらはよぉ!
 こっちは修行の旅をして一番フィジカルがあるはずだ。順当にいけば俺様だろうが!」

 言ってること自体はもっともではあるのだが、
 大臣の息子としてのプライドは完全に捨てきれないのか、
 初対面で悪印象を持たれるとしても、譲ることはできなかった。

「それを言うと、キョウの奴も千里兇団のリーダーで実戦経験はあるが。」

「……マジかよおい。規模は?」

「二十人ぐらいだったか。独立国のためかき集めたにしては少ないがそれで国盗りを選んだ。
 もっとも、結果は久留和組に潰された……とは思う。流石に死んだ後のことは把握できてない。」

 それはもう立派なテロリストレベルじゃないか。
 何人かは内心では少し一歩距離を置きたくなりそうになるが、
 今はあくまでリーダーをどうするかの話であり此処に来る前の話はしてない。

「一応言うと俺もチームのリーダーをやってたこともあるが、
 ま、俺の場合はメンタルがこの有様だ。三人の中から選んでくれ。」

 なる気もないのにじゃあなんで今介入してきたんだよお前は。
 そう突っ込みたくなるようなことを言ってくる鬼柳を後目に、

「……あのなぁ。俺様は警察なんだよ市民の安寧っていうか安心させるためにいるわけだ。」

「なんと! 汝は世に蔓延る悪に鉄槌を下す、護国の守護者なのか!?」

 このままでは埒が明かないのとワイルドハントの後ろ暗さもあり、
 一瞬言うべきか少々躊躇ったものの、一応は警察機構に就いてるとは話した。
 自分は知らないだけで、一方的に知る被害者が存在している可能性自体は存在する。
 名前の羅列から自分はエンシンだけだが、ゴズキやセタンタ辺りの人物が同じ世界なら。
 此処でグミを食いながら考えた時に視野に入れてる。エンシンが名乗ったりでもしたら、
 誰か逃がすなり生かすなりしてしまった場合についても、かなり面倒な状況は確定だ。
 その前にある程度の点数稼ぎはしておきたい。此処でこのずれた道を歩む一般人と、
 このまま口論を続けるのもバカらしいと感じてしまっているのもあるが。
 コスミナの方がまだ言動が理解できる。あくまで、言動だけは。

「その恰好で警察できる世界もあるんだな……そうか。」

 目を逸らしながら、セキュリティのことを思い出す鬼柳。
 すれ違いから始まった獄中生活でデッキを奪われて破滅した。
 苦々しい過去を思い出し一人で複雑な顔をする。
 そして同じく獄中生活をしていたキョウもまた複雑だ。
 少年院に入っていた記憶、第三回ウェルベルムがそうだったが故に。

「な、何故なのだ? 鬼柳もキョウも、吾輩よりシュラを選ぶと言うのか!?」

 物思いにふけっていると、黙る二人にひなたは不安を抱く。
 先ほどまで下僕を遠慮なく承認してくれてたと言うのに、
 傲岸不遜な態度でいるシュラの方がいいのかと。

「選ぶと言うより、無茶をさせねえのが俺らの役割に近いんだよ。」

 どう生きるか、どう償うかなど複雑な感情が渦巻いている二人ではあるものの、
 鬼柳とキョウの共通項として、ひなたについては守らなければならないと思っていた。
 死ぬ謂れの有る罪過を背負う二人と違って彼女にはない。彼女の持つ将軍の設定次第で別だろうが、
 少なくとも、殺し合いにおいて死ぬべき人間かどうかを問われれば必ず二人は首を横に振る人物。
 本人は望まないだろうが、二人にとっては下僕と言うよりは保護者のような目線が近しい。
 もっとも、キョウにとっては鬼柳の言動も少々不安になるのはあるのだが。

「……影のリーダーってことにした方が、形式上ひなたには良いんじゃないか?」

「影の……? いい響きなのだ鬼柳! 表のリーダーはシュラが務め、
 それを影で操る黒幕のはシュラと違う我! まさにピッタリではないか!」

 鬼柳の言葉に、目を輝かせるひなた。
 承諾もなしに勝手に話を進めていやがるんだ、
 そう思わずいつものように暴力で黙らせようか。
 シュラの拳に力が入るものの、此処で手を出せばすべてがパーになる。
 何とか堪えていると、察したのかどうかは不明だがキョウが軽く肩を掴む。

(悪い。話を合わせてくれ。こっちの方が都合もいいかもしれない。)

 はしゃいでるように見えるひなたを横目に、耳元でキョウが囁く。
 表向きのリーダーとなれば、必ず矢面に立つ場面が増えるだろう。
 あくまで知識方面はゲームによるものだし、一般人ではできることは限られる。
 下手に無茶なことをさせないで、基本的な実権はシュラに任せる方がいいだろう。
 今までリーダーをやっていた経験のある鬼柳やキョウも適任かもしれないが、
 一応は下僕1号2号である二人がリーダーと言うのも、納得しないはずだ。

(それに、あれが彼女なりの気丈に振舞いだと俺は考えている。多分だが。)

 これまで三人は今までNPCに出くわすことも、
 殺し合いを是とする参加者にも出会わずにいる。
 だから、殺し合いなんてのは嘘や夢なのだと思いたいのだと。

 最初こそテンションが上がっていたのは事実だ。
 創作物でしか見ることのない空に浮いた島、デスゲーム、そして下僕二名。
 そういう世界にどっぷり浸かっていたひなたにとってはテンションは上がって当然だ。

 しかし、開始から短時間で死者の発表やレデュエの存在。
 加えていてほしいわけではないが知り合いが誰もいない名簿もあり、
 段々と不安に駆られてきているのは決して否定することはできなかった。
 今も普段通りに見えるそれは、自分が本当に魔王軍の東方将軍ツァラトゥストラだと、
 そんな風に自分を鼓舞するための自己防衛、悪く言えば現実逃避に近いのではないか。
 と言うのがキョウの見解ではあるものの、実際にそうなのかどうかは当然分からない。
 これが普段のノリではあるのだが、違いを察するのはそれを知る湊達ぐらいなものだろう。

「はぁー……あーあーもうそれでいい。勝手にやっててくれ。」

 自分が基本リーダーであることは変わらないと言うこと。
 口論をこのまま続けて、いつか苛立ちで手を出してしまうよりはマシだ。
 修行の旅や、ワイルドハントの時は好き勝手やってたのが懐かしく思えてしまう。
 無論、基本的な権限は担保されたので結果は良し。死にに行けとかそういうことでもしなければ、
 一先ず最低限の好感度は残されるだろう。悪逆非道の限りを尽くしてたワイルドハントだが、
 言い換えればそれは反面教師にもなる。今までやってたことを逆でやれば反感は買いにくい。
 無論、不満や苛立ちがないわけではない。好き勝手にやれてた時代は終わってるのだから。
 そして、それを楽しんでるだろうなと言うベリアルを殴り倒してやりたいと、
 怒りのメーターがどんどんと上がっていくのを感じていた。

「では東方将軍ゆえに、我々は東に行軍するぞ!!」

(わけわかんねえガキに命令されるのは癪だが、ウェイブにやられた時よりかはマシだな。)

 必要になったら予定していた首輪のサンプル要因にでもしてやればいい。
 何とか将軍だの名乗りを上げる、コスミナ程ではなくとも別ベクトルに狂っている少女。
 例えるならば、自分は帝具使いと思い込んでるが実際はそれ以下の得物を持ってるような。
 そういえば帝具を目指した臣具なんてもの噂で聞いたなと、脳裏の中でどうでもいいことを思う。
 戦力としては当然皆無であり、仮に死なれても戦力的にマイナスになる可能性はない。
 問題は残る二人が庇う可能性もあるが、その時はその時だ。サンプルは手に入るのだから。

「ま、色々思うところはあるが、東に行くのは否定しないな。」

 イェーガーズ本部にいる時点で知ってる施設は網羅した。
 此処に何があるわけでもないし、他の施設を巡るのは同意見だ。
 ウェザエモンの地など行ったところで役に立ちそうにない場所ばかりの北西のエリア。
 場所的にも橋にも、地面が繋がってるルートもあるので参加者との遭遇率は結構高いはずだ。
 無論、移動ルートが限られる都合、敵との遭遇も十分にありうることはあることは視野に入れた。

「ん? おいおい、イェーガーズがいないのに千客万来かよ。」

 そう遠くない方角から足音を聞き、呆れるシュラ。
 もしかしたら父であるオネストがワイルドハント解体の折に、
 後発組を出していた、と言う可能性も否定しきれないところだが。

 そんな軽い考えは扉を乱雑に破壊しながら消えていった。
 即座に敵だと警戒せざるを得ず、各々が最大限警戒しながら様子を伺う。
 ひなたは驚きつつも、キョウに下がるように指示され、数歩ほど下がる。

「おいおいガキどもが随分揃ってるじゃねえか。これは総取りか?」

 声からして入ってきたのは男なのは確定だ。
 煙が消えて姿を見せるが、シュラだけが唯一知るそれに反応する。
 全身を鉱石のような黒紫色する鎧を身に纏っているそれは。
 紛れもなくあの男、ウェイブが使っていたのものだと。

「ゲ、グランシャリオ!?」

 思い出すのすら嫌になる、自分を一度下したウェイブの帝具。
 誰かは知らないが、それが此処にあると言うのは非常に厄介だ。
 トラウマとかではない。純粋に自身との相性が最悪レベルに等しいのがある。
 シュラの戦術は徒手空拳。だからガチガチに防御力が高い帝具はやりにくい相手だ。

「あいつを知ってるのか?」

「鎧の方だけはな。固い、早い、強いとだけ言っておくぜ。」

「そんなのチート級ではないか!?」

「なんだよ、これ知ってる奴いるのか。」

 今この黒紫の鎧を身に纏っているのはシドだ。
 ボーマン、北ノ城と違って彼自身は生身はそこまで強くない。
 だがその余裕は、この帝具グランシャリオがあったからだ。
 仮面ライダーシグルドほどかどうかはまだ運用してないものの、
 これならば殺し合いは十分にやっていけると確信が持てるぐらいの強さなのは、
 人知れず試しているので十分に理解していた。

 知っている奴がいるのであれば話は別。
 何かしらの弱点を持ってるのかもしれない、そう判断してシドは真っ先にシュラを狙った。
 四人の中で一番武闘派であるシュラは咄嗟に両腕をクロスさせガードするも、
 この蹴りを前にしては流石の彼であろうとも、直撃は防げても衝撃は無理だ。
 勢いのまま壁に軽く叩きつけられる。

「うげぇ……!」

「鬼柳、ひなたと一緒にシュラを診てろ! 此処は俺が行く!」

 あの程度で死ぬことはないだろうが、
 作戦会議の時間ぐらいは稼げるかもしれない。
 だからこの中で次に戦闘能力の高いキョウが動く。

 キョウの持つ動詞の力は『切る』。
 相手の人体そのものに干渉することはできないものの、
 それ以外であればなんにでも干渉できる能力だ。

(まさか、俺がこれを持つとはな。)

 スマートウォッチ。ケイジ達久留和組が、
 MP回復のために使っていたものが支給されていた。
 そこに『切る』の文字を入力して、事実上無限のMPを手に入れたともいえる。
 つまるところ、相手の肉体の攻撃以外においては不意打ちを除きいてまず当たらないだろう。
 もっとも、反応速度を超えたわけでもなければ肉体の攻撃は回避できないので、
 無敵になれたわけではないが。

「鎧を『切る』。」

 念のため試しておくべきかと、動詞を使う。
 相手そのものに干渉はできないが、身に着ける物には干渉が可能。
 だがそれも装甲の表面に傷がつく程度に留まる。確かに鎧は切れたが、表面程度だ。
 これでは切ってると言うより『削る』の動詞なのではないかと疑うぐらいに薄かった。

(だめか……予想はしていたことだが。)

 釘を切断することができる程度にキョウの動詞は破壊力は高い。
 ただし、あくまで釘だ。グランシャリオを並の釘の耐久力と比べるまでもない。
 現実世界ならば恐らく万物を切断できるだろう動詞は制限か、はたまた動詞の限界か。
 相当な回数の『切る』を宣言し続けなければならないと言うことは分かった。
 グランシャリオを一時的に砕いたアカメのように執拗に狙えれば壊せるだろうが、
 生身で執拗に同じ箇所を狙うのは相当難儀なことだ。更に回避し続ける必要もある。

「妙な能力持ってるみたいだが、その程度じゃ相手にならねなぁ!」

 粗雑な回し蹴り、だが帝具で強化された一撃。
 食らえば骨折は免れない一撃ではあるものの、
 キョウとてウェルベルムには二度も参加している。
 強化されようとも、その程度の蹴りぐらいはしゃがんんで回避する。

「この部屋の明かりよ『切れろ』。」

 スマートウォッチの電源を切ると同時に、
 明かりの役を担っていた電球が一斉に電池切れを起こす。
 先ほどまで明るかった部屋は、一瞬にして闇へと閉ざされる。
 一見するとただの自爆行為。明かりが一斉に消えた以上話は別。
 此処は窓ガラスがない。なので月明りも、他の部屋の明かりも入らない。
 明かりが消えれば急激な変化に目は追いつかず、一時的な視界不良を起こす。
 あらかじめ目を閉じて夜目に軽く慣れていたキョウだけが一足早く動ける。

「鎧を『切る』!」

「手間をかけさせやがってよ!」

 視界不良と言えどもほんの十数秒程度のもの。
 適当に暴れるだけでも十分殺傷能力が高い。
 薙ぎ払いや回し蹴りなど面による攻撃、否妨害が始まる。
 だがそれらは空を裂くだけであり、キョウは既に射程の外だ。

「キョウ! 下がってろ!」

 嘗て、夜の間にチームサティスファクションとして活動していた鬼柳も、
 突然の暗闇に反応できており、手に持つ銃でかすかに見えた装甲へ弾丸を放つ。
 何を放ったかは銃声もあ今ってすぐにわかった。夜の中で火花が輝いたからだ。
 見えた部分を適当に撃ったのでどこに被弾したかは分からないものの、

「ハッ、銃弾すら大した事ねえな!」

 多少怯むが、その程度で終わってしまう。
 それで装甲を破壊するなんて土台無理なことだと言わんばかりの状況だ。
 分かってはいたが銃が通用しないようなものを支給していることについて、
 腹立たしいとまではいかないにせよバランスをもっと考えないのかベリアルはと、
 内心で鬼柳はごちらずにはいられなかった。

「助かった鬼柳。シュラはどうだ?」

「ひなたを任せておいた。大事にはなってないが、あいつは徒手空拳メインだから参加は難しい。
 それとグランシャリオも聞いてきた。帝具っていう、オーバーテクノロジーみたいな武具だってな。」

「勝ち目は?」

「アレを壊すには相当な破壊力がないと無理だ。」

 随分と絶望的な状況に二人は頭を悩ませる。
 現状の最高戦力は恐らくシュラとキョウ、或いはひなたのオーガ・ドラグーン。
 だがそれは四人全員でグランシャリオの攻撃を掻い潜ったうえで、外に出る必要がある。
 シドが実質塞いでしまっている玄関となる場所を通り抜けなければ外へは出られない。
 しかも、夜目が利くとはいえこの暗闇だ。ガラスの破片で足音は確実に聞こえてしまう。
 よしんば外へ出ても、帝具相手に逃げ切れるだけのスペックは全員持ち合わせてない。

「制限時間を願うのは希望的観測が過ぎるか……動詞が相手に影響がないのが歯がゆいな。」





「ならば、我の出番だな!」

「え。」

 間抜けな声が出たのは誰の声か。シドか、鬼柳か、キョウか、シュラか、或いは全員か。
 暗闇の中でも金色に輝く剣を取り出しながら、ひなたが肉薄してシドへと向かう。

「待て大垣! 剣があるなら俺に───」

 キョウの言葉を無視して肉薄するひなたに、はぁとため息をつくシド。
 ガキらしい無謀な攻撃。態々死にに来てくれるのは助かるものの、彼は辟易する。
 これだから子供は現実を見れないバカだと、なんていった思考を持たざるを得ない。
 防いで現実を見せつけながらとっとと殺してやるのが慈悲深い大人の対応と言うやつだ、
 なんてことを想いながら右腕で刃を受け止める。

 剣と腕がぶつかり合い、甲高い音が響く。
 同時に間もなくして、何か生暖かい液体が日向にかかる。

「え?」

「ギ、グアアアアア!?」

 色は見えないが、鼻につくこの臭いは血であると理解できた。
 それとほぼ同時に、訪れてきた痛みにシドが悲鳴を上げる。
 彼女が握っている剣、緋想の剣はただの剣に非ず。斬る対象において気質を変化させる。
 簡単に言えば、何を斬るにしても必ず弱点で突ける武器だ。装甲を纏っていようとも、
 それに対応した気質で攻撃するため防御は事実上無意味となる攻撃となっている。
 おかげで鎧は貫通し、腕に傷を負わせることに成功したと言うわけだ。
 とは言え、だ。それを使ったのは剣術もろくに知らないひなたにある。
 腕を斬ることには成功したとはいえ、軽い切り傷を与える程度だ。

 しかしその素人に斬られたことの方がシドにとって怒りを募らせる。
 一番貧弱そうな、アーマードライダーどころかただのコスプレした子供相手に、
 手傷を負わせられたのは彼の人生でも指折りに苛立つことだろう。

「この、クソガキ───」

「クソガキはテメエだろうが!!」

 今度は脳を揺らすほどの衝撃。
 さっきの攻撃の恨みと共にシュラが彼の側頭部へと蹴りを叩き込む。
 お前もそれを言えた人間じゃないだろうと突っ込む者は当然いない。
 グランシャリオを纏ってるためダメージはなくとも、衝撃は別だ。
 脳天に決まったソレを受けて、わずかに思考が止まってしまう。

「大垣、剣を上へと投げろ! 可能な限り奴に向けてだ!」

「わ、分かったのだ!」

 キョウからの指示に言われ、咄嗟に空へと放り投げる。
 漫画みたいにきれいな回転はしなかったが、宙を舞えば別にそれでいい。

「宙を舞う剣よ鎧を『切れ』!」

 ウェルベルムの動詞には物質に対しても影響を及ぼす。
 質量保存の法則を無視して、釘を『伸ばす』能力や、
 放たれた銃弾を『戻す』と言ったように使うことができる。
 無機物を生物のように指示を出せば、ある程度の実行は可能だ。
 ひなたの投げ方ではとてもではないが相手に攻撃することは不可能。
 しかしそこにキョウの動詞を使えば、刀はアニメや漫画のように、
 グルグルと回りながらシドに向かって回転していくのだから。

「ガッ、グッ……!!」

 手ごたえがあるのかどうかは持ってないので当然誰にも分からない。
 だが少なくともシドがうめき声を出している都合、傷を受けたのは確かだ。

「流石に数が多すぎたか……クソッ!」

 ガラスを踏みしめながら、外へと走っていく音が聞こえた。
 シドの独り言から逃げたのかどうかだが、足音から十分伝わる。
 足音の速さから追いつけるものでもなく、何とか撃退に成功することは成功した。
 その安堵も相まってか、ひなたはその場でへたり込みそうになってしまう。
 ただその場でへたり込んでしまうと破片が刺さる可能性もあって何とか堪える。

 人を斬る感覚ってあんなに嫌なものなのかと。
 生暖かいものが飛来した瞬間に味わった斬る感触。あれは、
 できることなら二度と関わりたくないと思わせるに十分すぎる感覚だ。
 魔王軍を名乗ってるものの、あくまで設定だけで実際はただの人に過ぎない。
 人を殺すどころか、人を斬るなんてこと当然経験したことがなく、僅かに気分が悪くなる。

「わ、我々の勝利だ! 特に一番戦ったキョウには褒美を与えようではないか!
 だがここは漆黒の客間。かような場所で褒美を受け取ろうとも価値が下がってしまう。
 別の場所に移動するべきだと思うのだが、シュラよ。別の場所でいいところはないか?」

 だがそこを何とか気丈に、いつも通りを振舞いながら暗闇の中三人を見渡す。
 恋人であり、お姉さまと慕う湊がいないことにどこか寂しさを感じながら。

「此処、使い物にならなくなったし適当に探すか……全く、
 マジでバランス考えろよなあのクソ変態野郎……」

 こっちにはシャンバラなしで、敵にはグランシャリオと言ったのを与える。
 いや、あったところで一人で逃げることぐらいしかできなかったのもあるので、
 持っていてもしょうがなくはないが、よりにもよって乗った奴に渡すことあるのか。
 苛立ちは募るばかりだ。だがそれを堪えなければ、この殺し合いでは生きられない。

 他の二人も特に何を言うでもなくシュラについていき、
 今度は台所もある部屋へと席に座って話す四人。
 イェーガーズも此処で飯を囲んでたのかねと、脳裏でシュラがごちる。

「キョウは一先ずあの剣との組み合わせで戦えるから大丈夫としても、
 シュラの得意分野は徒手空拳、俺も頑丈のつもりだが基本は一般人。
 ひな……東方将軍も近いところだ。これで追跡は無茶だと俺は思っている。」

 今回うまくいったのは、たまたま相手が慢心していたがゆえに起きたラッキーパンチ。
 鬼柳が使った際の銃弾が貫通してたりしたら、確実に剣にも何かがあると思っていただろう。

「あの程度のイキり散らしてる奴はほっときゃ勝手に死ぬだろ。」

 『な、エンシンよぉ』と内心で一人ごちる。
 それはお前もだろうがと突っ込む相手は、やはりいなかった。

「だが帝具と言ったか、あれを野放しは危険だろ。」

 鬼柳としては、本人そのものは問題ではない。
 問題はそれをどこの誰に渡ってしまうかの話をしていた。
 あんなに簡単に慢心する奴はどのみち長生きはできなくとも、
 それが危険人物に渡ったりしては、戦力差は開いてしまう。

「鬼柳の言うことはもっともなのだ!
 このまま野放しにしては、未来の下僕が消えてしまうかもしれないのだ!」

「どの道、俺もキョウも将軍も行く当てはないからいいと思うが。」

「ん? お前クロウって奴と知り合いなんだろ? 合流しねえのか?」

「事情があって気まずいってことにしてくれ。」

 『ああ、そうかい。』と特に何も聞かなかった。
 他人の過去のもつれなんてものに欠片も興味がない。

「血痕は途中から途切れ途切れになっていた。
 グランシャリオが跳躍も強化されることを考えると、
 単純な血痕を見て探すことは実質的に無理になるだろうな。」

 キョウから出された状況に、うーむと悩み始める四人。
 追跡するべきが三人なので、多数決であれば一応それが選択になる。
 だが同時に何処へ行ったか。どの方角にも迎える中央付近にあるのが此処だ。
 選択肢が余りにも多すぎて追跡ができるかどうかは望みは薄いだろう。

「う、うむ! 当たるか外れるかは一先ずおいといて、
 当初の予定通り、東へと行軍する者に反対するものはおるか!」

「俺は構わない。」

「右に同じ。」

「同じく。」

 反対意見はないため、東へ向かうことは確定した。
 幸い、全員かすり傷だったり歩くことに致命的な問題はない。

「そしてキョウよ! 褒美を与えるが、やはりこの剣はお前に授けよう!」

 相手を混乱させたのは、たまたま自分の攻撃が当たっただけである。
 それに切る動詞を使うと言うことならば、得物は剣など刃の方が合うのは先の戦いの通り。
 より良い戦力を整えると言う意味でも納得であり、残る二人は特に何もいうことはなかった。

 ……と言うのは若干建前だ。本音としてはあの人を斬る感触を味わいたくないと言う気分もある。
 厨二病を拗らせていても、いつもやってるゲームのような楽しさはどこにもない。
 背負えなくなった過去を作る前に早く帰りたい、心の中ではそう願うひなたの姿もあった。

【C―5/イェーガーズ本部/黎明/1日目】

【鬼柳京介@遊戯王5D’s】
[状態]:健康
[装備]:雑賀八咫短筒(28/30)@御城プロジェクト:Re
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:俺の死に場所はここじゃない
1:あいつ(キョウ)も、俺と同じか。
2:彼女(ひなた)とは何かと気が合いそう。
  死神を下僕にするなら使いこなしてみろ(今回はいきなりすぎたが)
3:遊星、俺は―――
4:クロウには会いづらい。
5:東に行く。

[備考]
※参戦時期は復活後、遊星と再開する前。

【物部キョウ@ウェルベルム-言葉の戦争-】
[状態]:健康、心労(小)
[装備]:緋想の剣@東方Project、
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1。缶コーヒーセット(4/5)
[思考・状況]
基本方針:今は、自分が出来ることを、やるべきことを
1:当分はこいつらと一緒に行動、ただ恐ろしく気苦労が絶えない
2:俺にこいつらをちゃんと制御出来るのか? シュラも何か抱えてそうで面倒な気がする。
3:東へ行く。
[備考]
※参戦時期は死亡後。

【大垣ひなた@オトメ*ドメイン】
[状態]:恐怖(小)
[装備]:コスプレ軍服衣装(少し返り血がある)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1、煉獄竜オーガ・ドラグーン@遊戯王OCG
[思考・状況]
基本方針:この東方将軍ツァラトゥストラが素直に従うはず無いだろう! 必ずやこの企みと催しを壊してみせよう!
1:流石だキョウ、この私の目に狂いはなかった!
2:死神に好かれた男、か、かっこいい⋯⋯!!!!!!
3:お姉様……いなくてよかったのだが……
4:シュラが表向きで真の黒幕は我、いいではないか!
5:でも、戦いはあんまり……
6:東に行くのだ。
[備考]
※参戦時期はチーズ鱈の袋を奪っていった猫さんを追いかけていった直後。

【シュラ@アカメが斬る!】
[状態]:苛立ち(特大)、ダメージ(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2、◯フグミ×5袋@現実
[思考・状況]
基本方針:今はとにかく死なない方法を探す。
1:とにかく仲間をそろえる。
2:優勝はどうしようもなくなった時に考える。
3:使えねえやつはなるべく処分して首輪に変えたい。今だとひなたか?
4:うまいこと潜り込めたな。後はどうにかして首輪だ首輪。
5:東に行く。
[備考]
※参戦時期は漫画版、ランに告発されラバックのところに向かう途中。




「ガキの癖になんつーもん持ってやがるんだ。」

 両腕に走る痛みに、どこかで蹲ってるシド。
 キョウが斬った部位は左腕だ。両腕ともオールベルグの薬で止血はできたが、
 当然流れた血は戻らないし痛みにこらえながら、必死に先ほどの連中を思い出す。
 後悔や反省なんかはしていない。それができないからロシュオに殺されているわけだ。
 大人を気取ってるだけの男は、次のターゲットを探しに行くことにする。

【シド@仮面ライダー鎧武】
[状態]:ダメージ(大)、両腕に傷(止血)、苛立ち(大)
[装備]:修羅化身 グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~1
[思考・状況]
基本方針:優勝する。
1:こいつら(アイル、北ノ城)を利用する。
2:利用はするがガキどもとつるむつもりはねえ。
3:ユグドラシル、行ってみるか?
4:あのガキども(シュラ達)は殺す。特にコスプレ女(ひなた)。

[備考]
※参戦時期は死亡後。


【修羅化身 グランシャリオ@アカメが斬る!】
シドに支給。原作ではウェイブが使用した、帝具インクルシオを原型とした後継機。
普段は「鍵」と呼ばれる大剣で、使用者が名前を呼べば青黒の鎧を召喚して身にまとう。
鎧と言うよりもどっちかと言うとパワードスーツ。インクルシオ同様に身体能力の強化、
それを使った格闘技もできる。背中にはブースターのような機能があるためインクルシオより動ける。
素材には危険種に加え鉱石が多く含まれており、得物を破壊する膂力のあるアカメの刃が通らないぐらい頑丈。
ただし一部の所に集中すると鎧が破壊される、鎧と言えども使用者本人が耐えられないなど弱点もある。
インクルシオの副武装ノインテーターのような槍はあるが、本ロワではなし。奥の手も不明。
鍵は普通に剣としても使える。青龍刀よりの片刃の剣で、帝具なのでかなり頑丈。
ブースターを使ったライダーキックのようなグランフォールと言う必殺技もある。

【スマートウォッチ@ウェルベルム‐言葉の戦争‐】
キョウに支給。久留和組のメンバーの大体は、
これに動詞を表示させることでMPを回復していた。

【雑賀八咫短筒@御城プロジェクト:Re】
鬼柳に支給。
先端を切り詰めた短銃。取り回しが良く、連射可能な構造を持つ。ただし射程は銃としては少し短い。
30発の弾丸があるが、その仕様上実質15回だけ撃てる。

【緋想の剣@東方Project】
ひなたに支給。比那名居天子が使用する本来は天人専用の武器。
気質を見極める程度の能力を持ち、必ず相手の弱点を突くことができるとされる。
この剣は相手の気質を霧に変え、霧は最終的に天候へと変える力もあるが、本ロワではできない。
東方憑依華では振るうときだけ刃が出るような描写があるが、本ロワでは普通には渡りが長い剣として扱う。

【オールベルグの回復薬@アカメが斬る! 零】
シドに支給。オールベルグの一員であるタエコが使っていた、
液体タイプの治療薬。描写から恐らく止血薬の類とする。


028:マリスボラス 投下順 30:デフェクテス・レプリロイド
時系列順
055:あの日見た世界をもう一度 シド
013:新しい朝を切り開く -Re:LAST TRAIN- 鬼柳京介 [[]]
物部キョウ [[]]
大垣ひなた [[]]

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最終更新:2026年06月22日 09:06