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Question.

本当のあなたは誰ですか?


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「思うんですよね。これは全部夢なんじゃないかって」

オイカッツォと城之内と別れ、月島と共に黄昏ホテルから出た藤田ことねは、なんとなしに呟いた。

「と、言うと?」
「どうも現実味が無いっていうか……ふわふわしてるっていうか……目が覚めたら、全部無かった事になって、いつも通りの朝になってたりしないカナーと思いまして」

先ほど黄昏ホテルで月島の傷跡を見てから、ことねの頭にはずっと疑問が浮かんでいた。
殺し合いに巻き込まれている事への逃避もあるが、どうにも今の自分が自分でないかのような違和感がある。
口数が多いのは、少しでも不安を紛らわせる為なのだろう。

「そういえばあの変なホテル、黄昏ホテルって名前でしたけど、黄昏ってどういう意味なんですかねえ?」
「主に夕暮れ時を指す言葉だね。ちなみに語源は『誰』と言う字に『そ』『彼』と書いて『誰そ彼』という言葉だ。『貴方は誰ですか?』という意味になる」
「へぇ、さっすが月島さん。物知りですね」
「前に読んだ本に書いてあっただけだよ」
「そうなると、あのホテルは『貴方は誰ですかホテル』ってことなんですかね?……変な名前」
「……そうだね。それはそうと、ことねももっと本を読んだ方がいいよ、初星学園はアイドルのレッスンだけじゃなく、勉強も必要だろう?」
「あ、はぁい。あさり先生みたいな事を言うなあ……数学なら得意なんですケドねー。特にお金の計算なら……」
「……ことね」
「……月島さん、どうしました?」

ことねは人の事をよく見ている。
月島が纏う雰囲気が変わった事を怪しく思って辺りを見渡せば、遠方から悪の気配を感じられた。

「人間二人か……」

それは、長い金髪をたびかせる、真紅の装甲を纏ったロボット。
かつての英雄。今は目的を取り戻した真なる破壊兵器。
血に飢えたハカイシン。Dr.ワイリーの最高傑作。ラストナンバー、ゼロ。
一目見るだけでWARNINGと警報が聞こえそうな悪の化身であった。

「SF映画の撮影……ってわけじゃないですよね」
「……アレは危険だ。ことねは隠れていてくれ。今すぐに」
「あ、はいっ!」
「君は何もしなくていい、ここは僕が対処する」

完現者は物質に込められた魂を使役する。
故に理解出来る。あの機械にはまるで、今後数百年か、遥か遠くの未来まで余波が及びそうな程の執念と妄執がこめられている。
そのうえで、何かが混ざりあっているような月島でも判別の付かない気配であった。

「……って月島さんまた剣擦ってますよ。」
「ああ、ほんとだね」

日本刀のように形を変え、地面を撫でていたブック・オブ・ジ・エンドを握るように持ち替える。
ことねが影に隠れたのを見届けたあと、迫りくるゼロへと剣を構える。

「これより任務を開始する」

ゼロにとっての任務とは、即ち悪を成し全てを破壊する事。
ゼロは月島へとダッシュで短距離を詰め、月島へと刀を振るう。

「なにっ!」

地面に踏み込んだ瞬間、地面が隆起した。
ゼロをそのまま大きく持ち上げ、高く飛ばした。

「罠を用意していたか!」
「こんな事もあるかと『だいぶ前に』ね」

地面を撫でた際に、罠を『仕掛けていた』。
その後も何度も地面を撫で壁を作り出す事で、ゼロの行動を阻害する。

「くだらん手品だ!」

ゼロからすれば地形を変える相手など、戦い慣れている。
一流のハンターは相手の技を利用する。
エアダッシュで体勢を整え、壁を利用し三角飛びを繰り返す。
ノロの噴射も駆使して、速度を増していく。

「三日月斬!」

三日月を思わせる円弧を描き、周囲を切り捨てる剣技。
落下するままに、月島の頭を叩き割らんとする。

「なんだ、これは、一体いつから……!」

その技は、正確に月島の頭を狙ったはずだった。
当たるはずの一撃は、突如として現れた大木に阻まれる。

「『育てたんだよ』小さな恵みの芽の頃から、毎日丹精込めてね」

驚愕するゼロの背後に瞬時に現れ、月島は栞を差し込む。
完現術による高速移動は地面に眠る霊子を支配し、移動力を底上げする。
霊圧の乱れが最小限であるため隠密性や相手の不意を付くのに適している。

栞を差した事で、ゼロのメモリーの中に月島という存在が挟み込まれる。
刺された跡も無ければ血もオイルの一滴も溢れていない。
それでも、そこには月島の霊圧が確かに刻まれた。

「ゼロ、よく見なよ。メモリーから消えちゃったかい?僕の事を」

それは、久しぶりに会う旧友のように優しい声。
単なる人間ならば、人生の多くを費やすような期間を過ごしたばかりだと言うのに、月島は何事も無かったかのように平然としている。

「……ツキシマ、そうか、俺としたことが忘れていた」

ゼロの目の前の男は人間でありながら、イレギュラーハンターに協力してくれた恩人だ。
エックスやイーグリードのように訓練生時代から共に切磋しあい高め合った。
シグマが反乱を起こした時も、カウンターハンターとの戦いも、Dr.ドップラーとの戦いも、レプリフォースの反乱の時も、エニグマ落下の危機が迫った時も。
月島は数え切れないほど助けてくれた。

「……忘れていたな。お前を真っ先に殺害(DELETE)すべきだと言うことを、なっ!」

返答は砲口で帰ってくる。
溜められたショットは直撃すれば、再び月島の腹部に穴を空けただろう。

「……恩人に向けるには中々手荒いご挨拶だと思うけど?」

恩人である記憶を挟み込んだとしても、それを意に介さない者には無力である。
朽木白哉のように目的の為ならば、恩人であれど斬れる者や、グリムジョーや野生生物など、過去の記憶よりも本能で動く事を優先する相手には効果が無い。

「……任務達成の邪魔になる者は最優先で排除する」

■■■■■は必ず破壊しなければならない。

ロッ■マ■は必ず破■しなければならない。

ロ■秀マ郎は必ず■害しなければならない。

月島秀九郎は必ず殺害しなければならない。

「例え親友のお前でも――――お前だからこそ今ここで殺す。それが俺の成すべきことだ。」

覚醒ゼロは、何よりも優先して悪を成すように作られている。
親友のエックスだろうと躊躇無く破壊出来てしまう彼にとって、恩人であることは何ら意味の無い肩書きである。
何一つ、些少の躊躇いも無く月島へと剣を向けられる。

「オレは、もう、悩まん……目の前に敵がいるならば叩き斬る!かつての同胞であれ、俺にとっては倒すべき敵(イレギュラー)だ!」

再び振るわれるブック・オブ・ジ・エンドをスライディングで回避。
立ち回りつつ、充填(チャージ)したショットを月島へと向ける。

「真月輪!」

バスターから背の丈程のある光輪が2発放たれ、月島を追い回す。
避けようとする月島の目の前で止まり、動きを阻害、行動を封じたところにゼロの砲撃が幾度となく放たれる。

「どうしたツキシマ?避けてばかりでは俺は倒せんぞ」
「……その技、鍛錬した覚えがないね。付け焼き刃ってわけでもなさそうだ」

ゼロの動きは『飽きるほど見てきた』。
だと言うのに、今ゼロの放った真月輪は月島が見たことのない技である。

月島が過ごしたのは、その多くがイレギュラーハンターとしてのゼロとの日々。
この世界のゼロはウイルスにより、つい先程本来の使命を取り戻したばかりのゼロだ。
メモリーの奥底に眠っていた封印されていた動きを経験することは不可能である。
朽木白哉を相手にしたときのように、過去から戦闘経験を得る事は出来ない。
過去を挟むブック・オブ・ジ・エンドの弱点は未来である。
長き鍛錬を共に過ごした顔馴染みの技に出来ても、付け焼き刃の技に月島は対応出来ない。

(厄介だな……せめてウイルスに感染させないって事ができれば良かったんだけど、まあ無理か)

記憶を読み取った事で、ゼロのこれまでの経緯は完全に理解した。
過去に介入し、シグマウイルス感染前のイレギュラーハンターに戻せれば敵対する必要は無くなるだろう。

しかし、現在と辻褄が合わなくなる過去は、ブック・オブ・ジ・エンドで挟み込めない。
例えば、『ゼロがシグマウイルスに感染する瞬間に、月島が立ち会って阻止した』、という過去を挟み込む事は既に不可能だ。

ゼロはこの世界に来た直後、破壊衝動のままにタギツヒメを殺害しているが、彼が正気の場合殺害する理由が無くなり、彼女が生きている事になる。
また、襲撃した皐月夜見とシグウィンの手により転移することもない以上、ゼロが月島が出会う事も無くなりパラドックスが生じてしまう。
シグマウイルスに感染した直後に刺せたならまだしも、既に取り消せない程の影響が出ている。

「お前のその技は、剣を刺さねば使えない!」

特A級まで上り詰めたイレギュラーハンターにとって敵の攻撃に当たらないことは基本である。
自らの負傷を避け、最速で解決してきたからこその高い評価を得られたのだ。
相手の攻撃パターンを見切り、避け、跳ね、回避するのは基本である。
故に、月島の剣はもう当たることは無い。

(……これは一旦解除した方がいいかな、)

普段のような小さな笑みを止め、顔を引き締める。
ブック・オブ・ジ・エンドの解除は再度切りつけるか、月島が死亡するしか方法は無い。
黒崎一護の卍解を思わせる剣波を回避。
完現術で瞬時に移動し、背後を取る。

「狙ってくる方向が分かれば、避けるのは容易い!」

ゼロはチェーンソーを構え、瞬時に体勢を変え、振り向き斬りを放つ。
先ほどまでと違い、ゼロは月島の不意打ちに対応しきっている。
ラーニングシステム。
ゼロに搭載されたその機能は、相手の動きを学習し、的確な反応を可能とさせる。
その機能は、かつて短時間の戦闘で最強と称されたイレギュラーハンターの隊長を打ち負かした程に高度なシステムだ。
ブック・オブ・ジ・エンドにより、月島は長い時をゼロと共に切磋琢磨した事になったが、それは逆に言えばゼロのメモリーにも同じだけ月島との戦い方を十全に学習させた事になるのだ。

「俺には過去も未来も必要無い!必要なのはただ一つ、今のみ!」

チェーンソーの生々しい音とともに、月島の片腕が切り落とされた。

残像すら見えぬ程の高速反応。
覚醒、ノロ、ラーニング。それらにより極限まで高まった能力が可能とする動きであった。

「そうか、貴様の弱点はこれか」

ゼロは武器を使い分け、最も効果的なものを探していた。
現在構えているものはチェーンソー。ただのチェーンソーに非ず。神殺しの武器である。
完現術者は、体内に霊王アドナイェウスの欠片を宿す。
その力を扱う月島にも、神殺しの力は有効である。

「死ね、そこまでだ。電刃零!」
「キャップ、ボルテッカー!」

放たれんとした雷撃の一撃は、少年の叫びと共に吸い込まれた。


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「……月島さんは何もしなくていいって言ってたけど」

2人の戦場から離れたところで、ことねはうずくまっていた。
石弓を構えているが、あくまでこれは自衛用。
自分が戦いに行ったところで邪魔になるだけなのは分かっている。
何もできない自分が疎ましい。
月島の無事を祈っているが、不安で仕方が無い。

「……うーん、にしてもなんかおかしいよナー……絶対におかしい。」

藤田ことねは、怯えつつも疑問を浮かべた。
それは現状に対するものだ。
ことねが知っている月島は自分のいとこであり、単なる一般人のはずだ。
あんなロボット相手に戦えるはずがないのだ。

「てゆーか、月島さんのあの傷いつ付いたんだっけ?」

先ほど黄昏ホテルで見た月島の傷。
あんな怪我をしたなら、家族の中で話題になっていたはずだが、そんな覚えがない。

「やっぱこれ夢なんじゃねーの?」

一度考え出すと不安になる。
やることなすこと全て上手くいかなくて、自己肯定感が無かった時のように。

「そうだよな、目が覚めたらいつもみたいにあいつらとレッスンしてさ……」

きっとそれはいつもと変わらない朝。
目が覚めたら、咲季と手毬と共にレッスン室に向かい、一番星になるために雨上がりのアイリスを練習しているのだ。

「……雨上がりのアイリスってあんな歌だっけ」

ブック・オブ・ジ・エンドは過去を挟み込むだけであり、相手の記憶や経験を無かった事にするわけではない。
記憶の中で雨上がりのアイリスを歌った自分の気持ちと、今の自分の気持ちが一致しない。

雨上がりのアイリスは、希望の歌。
上手くいかない日々を乗り越え立ち上がる姿を雨上がりになぞらえた、前を向くための歌だ。
この歌を歌ったときは自分の経験と歌詞がシンクロし、気持ちを込められてたはずなのだ。

「……あたし、本当に藤田ことね?」

何度思い返しても、自分の過去に雨なんか降っていなかった。
だけど、記憶の中の自分は雨上がりを経験したかのように歌えていた。

「なーんか、あたしがあたしじゃないみたい……プロデューサーならわかってくれるかな」

むず痒い、気持ち悪い、身体が震える、頭が割れる。
ブック・オブ・ジ・エンドによる記憶の齟齬だ。
気分が悪くなり、地面へと座り込む。

「大丈夫ですか!俺はマサラタウンのサトシ。こっちはピカチュウのキャップ!」
「えっ、あっ!あ、あたしは……藤田ことね!」

どれほど座り込んでいたのか。
気づけば、十歳程の少年と船長帽を被った黄色い鼠が目の前におり、声をかけていた。

「何か、あったんですか?」
「……か」
「か?」
「……か、かわいい!」
「ビガャァ!」

キャップにとっての地雷ワードに一悶着あったものの、二人はこれまでの経緯を話した。

「……コトネさん、そういうことなら俺がツキシマさんを助けに行ってきます!」
「いや、危険だって!ここにいたほうが……」
「大丈夫。ツキシマさんを助けて、すぐ戻ってきますから!」
「ピカッ」

キャップはことね安心させるかのように自信満々に腕を組み胸を張ると、サトシと共に月島の元へと向かった。

雨が、上がる。

『ライジングボルテッカーズ』。
日の出を意味するそのチーム名が表すように、この瞬間、サトシとキャップは少女の不安を晴らす光となった。


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Answer.

ポケモンマスターを目指す少年。


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「ぐっ……小鼠か」

キャップの小さな体躯からは、その全身から溢れんばかりのエネルギーが満ちている。
特性『ひらいしん』、相手の電気技を自分へと向けさせるピカチュウの特性だ。
電刃零から放たれる電撃は月島ではなく、キャップへと向かった。

「大丈夫ですか?コトネさんから話を聞きました、俺達も手伝います!」
「……ありがとう」

ブック・オブ・ジ・エンドでは自分の怪我を治すことは出来ない。
月島が応急処置を行う間、サトシが前に出た。

「今、何かしました?『月島さん』」
「ピカ?」
「気のせいだよ、『サトシ』、『キャップ』」

ちゃっかりと栞を挟んでおき、月島は後ろに下がった。

「くっ、なんだこの電撃は」

ボルテッカーに込められた極度の電圧は、レプリロイドのボディすら『麻痺』を浴びせ、反応を遅らせる。
ひらいしんの効果でゼロ自身の電力を取り込んだうえで放ったのだ、効果は抜群だろう。

「悪いけど暴れたいってなら、お前を止める!」

機械のポケモンというのは珍しくない。
コイル、ポリゴン、ギアル、ゴルーグ、ゲノセクト。サトシはまだ知らないが、パラドックスポケモンなど。
サトシはゼロの事をポケモンだと認識していた。

「キャップ!かげぶんしんで撹乱だ!」
「ソウルボディの真似事かっ!」

『かげぶんしん』、高速移動により多重の分身を作り出す技。
幾度となく増え続ける黄色の残像は、ゼロの斬撃をすり抜ける。

「下らん!」

ゼロもまた分身に対抗すべくソウルボディを発動。
自分の分身を作り出し、影分身を切り捨てていく。
その隙にキャップは電撃を充電し、ゼロへと放つ。

「二度は通じん!電撃ならばこれだ!」

御刀に持ち替え、電撃を弾くように回避。
ゼロの振るう千鳥は、別名雷切とも称される。
電気を相手にするうえでこれ以上無き業物と言える。

「かみなりパンチ!」

距離を取っての電撃が聞かないならばと、事前に練習していた、かげぶんしんからのかみなりパンチの動きを放つ。

「甘い!」

千鳥を握りしめると共に、ゼロの身体に白いオーラが混ざる。
迅移。御刀の力を引き出す事で使える刀使の技。
当たる直前に急加速し、かみなりパンチを回避する。
ゼロの持つ千鳥という御刀に宿る神性は、それを扱う者にノロと戦うための力を授ける。
ゼロは直前に、刀使とノロの力を併用する皐月夜見と戦闘している。
その学習経験からか、少しずつ御刀が使いこなせるようになっていた。

「一人や一匹増えようが構わん!人間も動物もレプリロイドも全て破壊する」
「……エックスもか?」

ここで出るはずの無い名前に、ゼロは思わず手を止める。

「何故お前がその名前を知っている!」

先程月島は、ゼロの過去に栞を挟み、彼の経歴を理解している。
その情報をサトシ達に栞を挟み、『教えていた』。

サトシはこれまで多くのポケモンを見てきた。
悪戯程度に人間を困らせるポケモン。
悪の組織の手持ちとして悪行を行うポケモン。
人間を憎み、破壊行為を行うポケモンも数多くいた。
サトシはそんな彼らと分かり合ってきた。

「俺に教えてくれよ、お前がなんでそんなに暴れたいのか」

サトシはゼロがイレギュラーハンターとして戦い、自分の使命に迷い苦しんで来た事を知っている。
だから、サトシは今のゼロを見捨てられない。
苦しんでいるなら護りたい。
旅に出るあの日、大雨の中、相棒のピカチュウを護ったときから変わらない。
世界中全てのポケモンと友達になる者―――ポケモンマスターになるのだから。

「……これが俺の使命だからだ」
「それは、本当にお前のやりたい事なのか?」

ただ自分を止めようと、真っ直ぐ見つめるサトシの姿が、エックスを思わせる。
ゼロはいたたまれなくなり俯き、自分に言い聞かせるように呟く。
その姿は、涙を流しているようにも見えた。
ゼロは泣けない。そんな機能は無い。涙を流せるのはライバルのみ。

「もう、いい……下らん感傷だ!邪魔をするな!俺の全力、全てこの一撃に乗せて貴様らを破壊する!」

頭脳にエラーが走る。忌々しく鳴り響く。
ノイズをかき消すように、千鳥へとノロが集まり、数メートルにもなるほどエネルギーが満ちていく。
ゼットセイバーではないため擬似的ではあるが、彼の最強の技がここに発動する。

「幻夢――」

それはまさに、下らない夢から目を覚まさせるように。
そのエネルギーは、触れたもの全てを破壊する。
相手の命を殲滅するまで延々と放ち続ける、メモリーの奥深くに封印されていたゼロの最強技。
今それが、放たれんとした。

「――零」



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「何やってんだろうな、あたし」

精神面での不調もあったが、藤田ことねは何も出来ない自分に苛立つ。
2人の帰還を何もせず、ただ待ち続けるというのには嫌気が差す。

「私より小さいちびに任せてさあ。駄目だろそれは」

ことねは、決して人に借りを作らない。
ましてや、彼女が守るべき小さい子供ならば尚の事。
他人に任せてばかりでは、藤田ことねが自分をしゅきでいられない。

「違うだろ。咲季の真似じゃないけどさ、お姉ちゃんはちびを『護る』もんでしょうが!」

俯いてる場合ではない。震えている場合ではない。
勇気を出して立ち上がる。
いかなる時でも最大の敵は己自身である。
その両足で大地を踏みしめれば、そこはステージの上だ。
落ちこぼれで自己肯定感もない藤田ことねは、その瞬間、アイドル藤田ことねになる。

「すー、はー……うん、よし、あんなロボット怖くない。こっちはも〜っと怖いマザーAIに生活支配されてんだから!」

月島はいつもことねを守ってくれた。
月島はいつもことねを見てくれた。見つけてくれた。
月島の為ならなんだってできる。
今こそ、その愛(しゅき)を返すとき。

「あたしの身体がわかってる。ここで全力出さなきゃ、嘘だろって」

自然と身体が動き、戦場へと飛び出した。
目の前では、あのロボットが月島達を殺そうと剣を振るわんとしている。
隙を作る。こちらに目を向けさせてやる。

「おいサトシ!お姉ちゃんに任せてひっこんでろ、お呼びじゃないんじゃ!こんにゃろー!」

アイドルは見てくれる人がいなければ成立しない。
観客から逃げるアイドルがどこにいる。どこまでも『強気』でいる。
自己肯定感も無ければ自信もないが、決してパフォーマンスからは逃げ出さない。

愛(しゅき)は負けない。
ことねがことねだから芽生える思い。
それがアイドル、それが藤田ことねだから。

「『Re;IRIS』の、藤田ことねちゃんのパフォーマンスよく見とけ!」

現『一番星』が目を付ける程のアイドルの原石。
勝つために鍛えた身体とメンタリズムは、こんな時にも役に立つ。
その身に宿る輝き、『好印象』。
誰かを助けたいという気持ちは、スター性を高める。

いつしか身体の震えは消えていた。
ゼロはことねに向けて一瞥もすることない。
ゼロからすれば、いつでも殺せる単なる人間だと軽視していたのだから当然だ。
だけど、この世界には、目で見たり、データで捉えられないものがある。

「曲名は、『雨上がりのアイリス』!」

負けない愛が、きっとある。


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Answer.

私はアイドル、藤田ことねだ。


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それは、偶然だったのだろう。
だけど、ただの偶然ではない。
強いて言えば、負けられないという愛が起こした希望の奇跡。
記憶の底で滲んでしまった、あの花の名前の下に。

「……『アイリス』、だと」

ゼロの動きが止まっていた。
その名前が、聞こえてしまったから。
それは単に語源を同じくする言葉であり、ゼロが破壊した彼女の事では無い。
だが、それを理解するのに、彼の高性能な頭脳は情報処理を行う。

――信じたかった…。レプリロイドだけの世界であなたと………

「う、あ、うあ”ああああーーっ」

プログラムのエラー。電子頭脳の故障。
レプリロイドは単なるロボットではない。人間のように悩み、苦しむ、高度な情報処理能力を持つ。
かつて、ゼロが自ら討った『アイリス』の死は、彼のメモリーに心的外傷を残している。
それは、まさに人間のように。

「俺は、悪。違う、俺は、俺はあああああ!」

元々ブック・オブ・ジ・エンドの副作用で、ゼロには精神的な負荷がかかっていた。
破壊に支配されていた思想が、一瞬のフラッシュバックによりヒビが入り、決壊する。
ことねが偶然にも作り出したのは、アイリスの花言葉を表すように未来へと繋ぐ希望であった。

「……俺は、いったい何をしている!」

赤い衝動が次第に消えていく。
今ここに、かつての、イレギュラーハンターとしてのゼロが目覚めた。

「元に戻ったのかい?」
「ツキシマ……」

過去に共に過ごした月島にも覚えがある、長年を共にしたハンターとしてのゼロ。

「……もう遅いよ。君はこれで、終わり」

しかし、全ては遅い。
過去を知っている月島からすれば、ゼロが危険であることは変わりない。

「……そうか、頼む」

ゼロはただ、その運命を受け入れる。

――ゼロ、もし俺がイレギュラー化したら、君が処理してくれ。

過去にエックスに言われた言葉が、脳裏によぎった。
あいつもこんな気持ちだったんだろうな、と。

記憶操作は不要。今ここでゼロは破壊される。
月島が刀を振る。袈裟懸けにボディが両断された。
かつての英雄は、イレギュラーとしてDELETEされた。

「あ……」






――何をしている!
――破壊せよ!ワシの最高傑作!
――倒せ!貴様の宿敵を!親友を!恩人を!
――思い出せ!よく考えろ!貴様にはその力があるはずだ!
――コロセ、コロセ、コロスノダ!









「……俺、は」


相打ちで切り裂かれた、月島秀九郎の身体と共に。








「つ、月島さん!」


イレギュラーハンターとして数々の相手を葬ってきたゼロの身体は知っていた。
相手が攻撃を終えた瞬間こそが、反撃の機会であることを。負けた後で勝てばいいのだと。

御刀を扱う刀使には、写シと呼ばれる防御手段が存在する。
身体を一次的に精神体へと変えることにより、戦闘不能級のダメージを負っても、そちらに押し付ける事が出来る。
例え手足を削がれようが、身体を両断されようがだ。

ゼロは御刀を使いこなす内に、白いオーラを纏い、写シを発現していた。
両断されていたはずのゼロの身体は、『斬れていなかった』ことになった。
そのまま返しの刃で、月島を切り返した。

「う、うあああああああ」

月島を斬ったのは今のゼロの意思ではない。しかし、紛れもなくゼロの意思。
覚醒ゼロの意識は、消えた訳では無い。
ノロによるロボット破壊プログラムの変質が、活性化が、破壊者としてのゼロの意思を再び動かした。
頭のゼットブレインに『W』の文字が浮かぶ、己が使命を絶対に忘れるなとばかりに。

「う……あ……ふん、ノイズが混ざったか」

再び赤き衝動がゼロを覆った。今度はもう迷いがない。
力とはそれを扱う者によって、正義にも悪にもなる。
Dr.ワイリーが作り出したレプリロイドが英雄となるように、或いは悪となるように。
御刀もまたこの場においては、人に害なす物となった。

「……ここまでだね、僕が時間を稼ぐから2人は逃げて」
「そんな!」
「さよならだ」

月島はデイバッグをことね達へと投げつけ、ゼロへと立ち向かう。
ことねが月島を追わんと、一歩を踏み出した瞬間、地面がカチリと鳴る。

「月島さん!」

大地が隆起し、敵から守るように大きな壁となった。

「……これが誰かを護るって気持ちか、獅子河原君や黒崎君もこんな気持ちだったのかな」

慣れないことをするものだと、月島自身も思う。
月島にとって過去とは曖昧なものだ。
幾らでも自分の望む過去を作り出す事が出来、幾らでも無かった事に出来る。
XCUTIONの繋がりは完現術のみ。
一人ぼっちの自分が自分であると、アイデンティティを確かめられるのは、自分を救ってくれた銀城だけだった。

「……黄色いアイリスの花言葉は『復讐』。あの子に過去を挟んだせいで僕は死ぬんだから、因果応報か」

この世界で藤田ことねやサトシ、ゼロと共に過ごした過去があったとしても、それは月島の精神に何の影響も及ぼさない。
過去を挟んだとはいえ、ことねが自分を守りにきた事には感謝しているが、それだけだ。

「とはいえ、そんなに悪い気分じゃない」

立っている場所が、かつての逆になった。
誰かを護り、護られる。
傘を差されるのではなく、傘を差す側に回る。
あの日、銀城や獅子河原に差された傘は、別の者に回っていく。
雨に打たれて寒いはずの身体は、いつの間にか暖かくなっていた。

「下らん茶番は終わったか?貴様を殺し、俺は使命を成し遂げる」
「さて、時間稼ぎといこうか。君なら僕の代わりにあの子達を護ってくれるかい?」

ポケットに隠していた石を取り出し、ゼロへと向ける。
それは召喚石というものだ。
戦局を変えるほど大きな力を持つが、発動まで時間がかかり今まで使えていなかった。
星晶獣から精霊や神々、異界の英雄まで力が込められている不思議な石である。
月島に配られたその召喚石には、蒼空の世界には存在しない異界の死神の力が込められていた。

「……朽木白哉!」

石の輝きと共に斬魄刀を構えた男が現れる。
それは、かつて月島が銀城と同じく長き時を共に過ごした男だ。
その時間は栞に挟み込んだものであり、消えている。
現れた白哉は月島を一瞥し、何かを察したかのように、ゼロへと向き合った。

「……なんだ、お前は。何時の間に」
「散れ『千本桜』」

その言葉と共に斬魄刀が細かな破片となり、夜桜の如く周囲を埋め尽くす。
大嵐に巻き込まれたように刃の塊が、ゼロを切り刻む。
その中で無傷圏の半径85cmは、傘を差すように月島を囲っていた。

「兄(けい)よ」

かつてブック・オブ・ジ・エンドで挟んだ過去は、それに関連する記憶も含め、月島の死亡により全て消えた。
月島が恩人となるまで長く過ごした事も、かつての戦いも白哉自身は覚えていない。
白哉からすれば、月島は見ず知らずの他人でしか無い。

「義理は返した」

その言葉は、いつかの意趣を返すようで。
誰かから自分の事を聞いてたのか、
或いは白哉自身が―――。

「……そっか、ありがとう」

月島にとっては、どちらでも良いことだった。不確かな過去じゃなく、確かに今この瞬間に傘が差されている。

「……また、朝日を見られなかったな」

雨上がりの夜は一人じゃなく、二人。
白哉が消えるとともに、月島の霊圧もまた消えた。

【月島秀九郎@BLEACH 死亡】


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038.
STORY
OF
IRIS

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完現術者が死ぬ時、その能力の痕跡は全て消える。
ブック・オブ・ジ・エンドで挟んだ過去は、月島の死亡に合わせて全て消えた。
全ては零になる。

「……あたし達なんで逃げられたんだっけ」

栞は、外れた。
月島がそこにいたという、存在証明は彼女らには残っていない。

「コトネさんの話を聞いて、赤いポケモンと戦って……」

そこまでは覚えている。その後が分からない。

「あたし、なんでデイパック二つ持ってんだろ?」


【F-2/黎明/1日目】

【藤田ことね@学園アイドルマスター】
[状態]:健康
[装備]:鶴翼の水弩@御城プロジェクト:Re
[道具]:基本支給品×2、世界を救ったマイク@学園アイドルマスター、ランダム支給品×0~1(回復系はない)+ランダム支給品×0〜1(月島)
[思考・状況]
基本方針:生きて帰る。
1:なんで……?
2:咲季とか手毬とかも巻き込まれてんのかよ……
3:燕先輩……
4:講堂へ向かう。
[備考]
※参戦時期は初星コミュ4章4話~5章15話のいずれかです。


【サトシ@ポケットモンスター(サトシ編アニメシリーズ)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、キャップ&モンスターボール@ポケットモンスター(2023アニメ版)、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いを止め、脱出する。
1:誰かのもとに向かったような……
2:コトネさんと行動する
3:リコとフリードを見つけるため、ブレイブアサギ号を目指す
4:朝になったら「ライジングボルテッカー」を試したい
[備考]
※参戦時期は「めざせポケモンマスター」編終了後


■■■


「メモリーに参照エラー……俺は誰と戦っていた?」

ゼロはまだ稼働していた。
そのボディには千本桜を受けた事で大きくダメージを負っている。
全身に裂傷、外装は凹み、一部剥がれた箇所からは中の配線が剥き出しになっている。
血のようなオイルは、赤いオーラと合わせ痛々しさを感じられる。

「……人間を『2人』、襲ったはずだが」

記録にあるのはそれだけだ。とどめを差そうとした時に、何処かから現れた男の襲撃を受け、その対処をした。
迫りくる刃の嵐に咄嗟に飛水翔を発動し、周囲に水のバリアを展開。
さらにノロを放出し全身を覆い、防御力を高めた。
完全に防ぐことは出来なかったものの、その威力は弱まった。
もし直撃していたならば、ゼロはここで機能停止していただろう。

「まあいい、引き続き敵を探すか」

指令を果たすべく、破壊神は征く。
何処か頭にノイズを感じながら。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


Answer.
我はメシアなり


■■■■■■■ERROR■■■■■■■■■■■■■■■■ERROR■■■■■■■




ERROR■■■■■ERROR■■■■■■

違う。


■■■ERRORERRORこれが…本当のおれなのか?
本当のおれってやつなのか?


ERROR■■■■違う。


■■ERROR■■■ERROR……オレは、ゼロだ。


■■■ERROR


アイリス……





アイリスの花言葉は『希望』。
栞が抜けても、積み重ねたページは無くなることはない。
アイドルが魅せた輝きは、今もなおメモリーに刻まれている。




【F-3/黎明/1日目】

【ゼロ@ロックマンX5】
[状態]:覚醒、片腕にキズ(小)、ダメージ(中)、ノロによるロボット破壊プログラムの変質・活性化、僅かながら元のゼロの意思
[装備]:千鳥@刀使ノ巫女、ノドカの双眼鏡@ブルーアーカイブ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3、チェーンソー@魔界塔士Sa・Ga
[思考]
基本方針:邪魔するものは全て始末する
1:全て破壊し、悪を成す。
2:アイリス……
[備考]
※参戦時期は覚醒後
※タギツヒメにノロを注入されたことで、ロボット破壊プログラムの変質及び活性化が発生しています
※ノロの力を扱えるようになりました。
※御刀の力を扱えるようになりました。現在、迅移(1段階)、写シが使用可能です。
※X5本編で手に入るラーニング技は扱えるものとします。どれを取得しているか具体的にはお任せします。(確定:三日月斬、飛水翔)
※僅かながらイレギュラーハンターとしてのゼロの意思も残っています。このまま戻るか、完全に悪に飲まれるかは不明です。


【支給品紹介】

【世界を救ったマイク@学園アイドルマスター】
藤田ことねに支給。
姫崎莉波[Howling over the World]が持っているマイク。
効果は、集中効果のスキルカード使用時、消費体力減少2ターン。
このロワでは単にちょっとだけ疲れにくくなるマイク。
HotW莉波コミュではアンドロイドに支配された世界を莉波が各地でライブをすることで世界を救った。なお夢オチ。


【召喚石『朽木白哉&更木剣八&涅マユリ』@グランブルーファンタジー】
月島秀九郎に支給。
グラブルBLEACHコラボイベントで手に入る召喚石。
ゲーム中では、ジータ(グラン)が使えば石に宿ったキャラクターを召喚することが出来る。
このロワにおいてはジータ以外のキャラでも召喚することが出来るものとする。
何故かは不明。多分ベリアルが手を加えたのかも?

この召喚石は朽木白哉、更木剣八、涅マユリの誰かをランダムで召喚することが出来る。
このロワでは12時間ごとに一回使用可能。一回技を撃ったら消滅する。
ゲーム同様、戦闘開始から一定時間経たなければ使えない。


※F-2に月島秀九郎の遺体、月島秀九郎の栞@BLEACH、召喚石『朽木白哉&更木剣八&涅マユリ』@グランブルーファンタジーが落ちています。
※月島秀九郎が死亡したことにより、挟まれた過去は全て消えました。関連する記憶がどこまで残っているかはお任せします。




037:いざ尋常に─── 投下順 039:[[]]
時系列順
022:何をなくしたかわからないのに 藤田ことね
022:何をなくしたかわからないのに 月島秀九郎 GAMEOVER
005:飛翔は蒼空の後で サトシ
030:デフェクテス・レプリロイド ゼロ

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最終更新:2026年08月14日 08:25