Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・「白狐と青年」 > 第30話
「匿えど」
●
平賀の研究区は異形に対抗するために≪魔素≫を研究し、魔法と呼ばれる技術を生み出した者たちの内の一人である平賀がその長として研究を続けている研究所を中心に形成された、おそらく全世界でもトップクラスに人と異形との間にある溝が狭く浅い街だ。異形も人も区別しない気風のこの街は、大阪圏という自治都市連合へと所属していながらも平賀と異形との共存を望む者達の尽力によって半ば治外法権を認められている特殊な地区だった。
匠は自身の故郷とも呼べるその街の入り口を見て歩みを止めた。
「……やっぱりけっこうな数の異形が来てるな」
「平賀の研究区は大阪圏のあの決定を受けても保護を行ってくれると、皆信頼しているんじゃないかな」
平賀の研究区への入り口にあたる門の周囲には、他の地区から避難して来たのだろう異形たちが長く列を作っていた。皆今回の行政区の決定によって様々な規制がかかる事を疎んで研究区を頼って来た者達だろう。
「入り口の前で皆さん並んでいらっしゃるのは何故なのでしょうか?」
普段は特に何の障害もなく入る事が出来るはずの街の入り口が今日に限って混んでいることに首を傾げるクズハ。匠はそうだな、と受け、
「あれだけの人数が一気に押し寄せてきたんだ、研究区の方でも受け入れる為の準備がいるんじゃないか?」
「宿や使っていない学舎を総動員すればそれなりの人数を受け容れる事も出来るだろうから、たぶん坂上君が言う通りだね。研究区は第一次掃討作戦の直後には難民を受け入れもしていたはずだし、今回は当時よりも穏やかな状況だ。最低限雨風が凌げる程度の準備をするだけならそう時間のかかるものでもないと思うよ」
そう言う明日名は研究区が通行可能になるまで待つ構えのようだ。
……まあ待つしかないよな。
その気になれば、第二次掃討作戦以降異形との戦闘を行う機会が極端に少なくなり、以前ほど頻繁には手入れをされなくなって足がかりが多い研究区を囲む壁を登る事も可能だろう。しかしそれを見咎められればわざわざ列を為している者たちの間に無用の騒ぎを起こしかねないし、それは匠も望むところではない。早く平賀に会って今後の方針について話し合いたい気持ちを抑えて、匠もどこか適当に腰をおろして研究区の門が開くのを待とうと考え、
「まあ時間はそうかかりはしないと思うがの、君等はちょっと裏道とか使ってもええんじゃないかのう?」
突然聞こえてきた声に周囲を見渡す。
「えっと……この声は、平賀さん……ですよね?」
クズハがそう言って、困惑したように地面を見た。首を傾げ傾げしながら、
「地面から……声が聞こえてきたような……?」
「その通りじゃよ」
そんな返事と共に地面の一部が盛り上がった。
上げ蓋状になっていた地面は四角く切り取られて持ち上がり、その下に現れた地下へと続く穴の中から白髪の頭が生えてきた。
「やあ明日名君、ごくろうさまじゃな」
そう言って穴から現れたのは平賀だった。彼は地上に這い上がって来ると、笑顔で片手を挙げて匠とクズハに手を振る。
「匠君もクズハ君も、話はだいたい耳に入っとるよ。大変だったなぁ」
「いや、大変だったなって……」
平賀からは特に異臭が漂ってない。どうやら彼が出てきたのは下水ではないらしい。鼻が利くクズハを密かに庇っていた腕を下ろしながら、匠は明日名に説明を求めて顔を向ける。
「明日名さん、このいかにも怪しげな穴は一体なんですか?」
明日名は分からない、と首を横に振って、
「平賀博士、俺もこのような通路の存在を知りませんでしたよ。なんです? これは」
問われた平賀は誇らしげに胸を反らして頷いた。
「そりゃ誰も知っとらんじゃろう。なんたってこれはわしが誰にも気付かれずに研究区の外に遊びに行く為に作った通路じゃもん」
「……たまに研究区から消えていたり、いつもの遊び場に姿が見えなかったりしていた時にはこれで外に出ていたんですか?」
呆れたように明日名がため息をつく。相当苦労しているようだ。養子という立場的に、匠としては申し訳なくなる一方で平賀は「どうじゃろうな?」と顔をシワにして笑んでいる。
……一度このじいさん、しめた方がいいんじゃないか?
そんな事を思っていると、匠の視線に気付いた平賀は首を竦めて言い訳を始めた。
「こんな妙な立場になってしまうと皆いろいろとやかましくてのう、わしだってたまには一人でぶらぶらしてみたくもなるんじゃよ。――さて、いつまでもここに居てもしょうがない。話も詳しく聞きたいことだし、行こうかの?」
そう言って平賀は再び地面と見事に同化した地下へと続く上げ蓋を持ちあげた。
研究区への正規のルートが通行できるようになるまではまだ少し時間がかかるだろう。匠たちとしても早急に平賀と話をしておきたかったこともある。
……待ってる連中には悪いが。
「行こうか」
そう告げて平賀に付いて地下通路へと下って行った。
匠は自身の故郷とも呼べるその街の入り口を見て歩みを止めた。
「……やっぱりけっこうな数の異形が来てるな」
「平賀の研究区は大阪圏のあの決定を受けても保護を行ってくれると、皆信頼しているんじゃないかな」
平賀の研究区への入り口にあたる門の周囲には、他の地区から避難して来たのだろう異形たちが長く列を作っていた。皆今回の行政区の決定によって様々な規制がかかる事を疎んで研究区を頼って来た者達だろう。
「入り口の前で皆さん並んでいらっしゃるのは何故なのでしょうか?」
普段は特に何の障害もなく入る事が出来るはずの街の入り口が今日に限って混んでいることに首を傾げるクズハ。匠はそうだな、と受け、
「あれだけの人数が一気に押し寄せてきたんだ、研究区の方でも受け入れる為の準備がいるんじゃないか?」
「宿や使っていない学舎を総動員すればそれなりの人数を受け容れる事も出来るだろうから、たぶん坂上君が言う通りだね。研究区は第一次掃討作戦の直後には難民を受け入れもしていたはずだし、今回は当時よりも穏やかな状況だ。最低限雨風が凌げる程度の準備をするだけならそう時間のかかるものでもないと思うよ」
そう言う明日名は研究区が通行可能になるまで待つ構えのようだ。
……まあ待つしかないよな。
その気になれば、第二次掃討作戦以降異形との戦闘を行う機会が極端に少なくなり、以前ほど頻繁には手入れをされなくなって足がかりが多い研究区を囲む壁を登る事も可能だろう。しかしそれを見咎められればわざわざ列を為している者たちの間に無用の騒ぎを起こしかねないし、それは匠も望むところではない。早く平賀に会って今後の方針について話し合いたい気持ちを抑えて、匠もどこか適当に腰をおろして研究区の門が開くのを待とうと考え、
「まあ時間はそうかかりはしないと思うがの、君等はちょっと裏道とか使ってもええんじゃないかのう?」
突然聞こえてきた声に周囲を見渡す。
「えっと……この声は、平賀さん……ですよね?」
クズハがそう言って、困惑したように地面を見た。首を傾げ傾げしながら、
「地面から……声が聞こえてきたような……?」
「その通りじゃよ」
そんな返事と共に地面の一部が盛り上がった。
上げ蓋状になっていた地面は四角く切り取られて持ち上がり、その下に現れた地下へと続く穴の中から白髪の頭が生えてきた。
「やあ明日名君、ごくろうさまじゃな」
そう言って穴から現れたのは平賀だった。彼は地上に這い上がって来ると、笑顔で片手を挙げて匠とクズハに手を振る。
「匠君もクズハ君も、話はだいたい耳に入っとるよ。大変だったなぁ」
「いや、大変だったなって……」
平賀からは特に異臭が漂ってない。どうやら彼が出てきたのは下水ではないらしい。鼻が利くクズハを密かに庇っていた腕を下ろしながら、匠は明日名に説明を求めて顔を向ける。
「明日名さん、このいかにも怪しげな穴は一体なんですか?」
明日名は分からない、と首を横に振って、
「平賀博士、俺もこのような通路の存在を知りませんでしたよ。なんです? これは」
問われた平賀は誇らしげに胸を反らして頷いた。
「そりゃ誰も知っとらんじゃろう。なんたってこれはわしが誰にも気付かれずに研究区の外に遊びに行く為に作った通路じゃもん」
「……たまに研究区から消えていたり、いつもの遊び場に姿が見えなかったりしていた時にはこれで外に出ていたんですか?」
呆れたように明日名がため息をつく。相当苦労しているようだ。養子という立場的に、匠としては申し訳なくなる一方で平賀は「どうじゃろうな?」と顔をシワにして笑んでいる。
……一度このじいさん、しめた方がいいんじゃないか?
そんな事を思っていると、匠の視線に気付いた平賀は首を竦めて言い訳を始めた。
「こんな妙な立場になってしまうと皆いろいろとやかましくてのう、わしだってたまには一人でぶらぶらしてみたくもなるんじゃよ。――さて、いつまでもここに居てもしょうがない。話も詳しく聞きたいことだし、行こうかの?」
そう言って平賀は再び地面と見事に同化した地下へと続く上げ蓋を持ちあげた。
研究区への正規のルートが通行できるようになるまではまだ少し時間がかかるだろう。匠たちとしても早急に平賀と話をしておきたかったこともある。
……待ってる連中には悪いが。
「行こうか」
そう告げて平賀に付いて地下通路へと下って行った。
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穴は地下に向かって縦に伸びていた。その穴に沿って付けられていた梯子を下った先にあった通路は多少空気が淀んではいても綺麗にコンクリートで舗装されたもので、幅も人が一人や二人通る分には十分な広さをもっていた。とても一朝一夕で作り上げられるものには思えない。
「本当にいつの間にこんなもの作ったんだ? じいさん」
「いやいや、もうそれなりに昔の事じゃよ。まだ第二次掃討作戦が始まる前くらいになるかのう。――おっと、そこは踏むと捕まってしまうから気を付けるんじゃぞ」
時折そうやって平賀は通路に仕掛けてある罠の位置を示していく。
「悪い考えを持った者たちにこの通路を知れてしまうと事じゃからな。偶然迷い込んでしまった場合の事も考えて罠自体は殺傷能力の無い捕縛用のものを採用しておるよ」
「これだけの物を……遊びに行くために作ったんですか?」
「八割方前文明の遺構を流用しておるからあまり手間はかかってないんじゃよ」
そうクズハに笑いかけながら平賀は行く先を指さす。
「ああ、この道の先、そこにある梯子を登れば研究所の中庭に出るぞい」
果たして、確かに通路は平賀の研究所の中庭に通じていた。
「……こんなところに……気付かなかった」
「明日名さんだけではありませんよ。ここで暮らしてた俺もクズハも、それにたぶん研究所の職員だって誰も知りやしない……」
「秘密通路はロマンじゃからの。皆には内緒じゃよ?」
子供のように自慢げに言う平賀に食えない爺という感想を抱きながら、匠たちは彼の部屋へと通された。
それぞれに席と飲み物を用意し、自分は煙管を加えて平賀は話を切り出した。
「さて、だいたいの事はわしのところにも知らされているのじゃが、実際に行政区におった君たちの口から行政区で一体何が起こったのか、それに審問がどのようなものだったのか、話してもらえるかな?」
口ぶりからして匠たちが再度の審問への出席命令を蹴ってここに来た事も平賀は知っているらしい。
話が早くて助かると思いながら、匠は最初に審問をうけた時の事から順を追って話した。一通りの話を聞いた平賀は何度か頷きを作り、
「……ふむ、行政区を襲ったという異形はやはり元来人間だった者たちのなれの果てという事じゃったか」
「ああ、そしてその異形の襲撃を受けて行政区は異形に対する排除行動に等しい今回の動きを起こした」
「まったく、わしが謹慎中で行政区で直接止めに動けないのをいい事に排斥派の衆は好き勝手やっとるのう」
「その異形排斥派の長の通光ってのはどんな人間なのか、じいさん知ってるか?」
おそらく今の行政区の動きを決定付けた存在で、更にもしかしたら諸々の件の黒幕かもしれない人間の事だ。知っておいて損はあるまいと匠は訊ねた。
「通光君か。彼は冷徹な人間だのう。第一次掃討作戦の頃から対異形の技術を磨く事に打ち込んできていた男でな、大きな犠牲を払いつつも当時からその姿勢を貫いてきただけあって相当に厳しい人間じゃよ。たしか異形排斥派の旗頭となって行政区の重鎮の一人にもなった今でも元々製薬会社だった庁舎の一角を借りて研究に励んでおるようじゃな。最新式の魔弾なんぞも手掛けておった記憶があるのう」
「相当深く異形を恨んでらっしゃるという事でしょうか?」
「恨みというよりも敵意を向けていると言った感じだなあ。行政区が匠君達を呼び出した時にクズハ君、君に対してもわざわざ名指したことからして、おそらく行政区・異形排斥派の彼は最初から今の状況と似たような流れに事を運んで行く気ではいたんだろうなあ。襲撃に対する時も指揮は通光が執ったんじゃろう、審問への再度の要請は状況を利用したのだろうかなぁ……」
煙を吸いこむ平賀に明日名が言う。
「平賀博士、俺としては今回の件、通光がかなり怪しいと思うのですが」
「しかし何分証拠が無いからなぁ。それに怪しい者は他にもいくつか心当たりはある」
平賀は深く吸い込んだ煙を吐き出し、
「ともかく、行政区の今回の対応はせっかく馴染みかけておった大阪圏在住の異形と人との間にまた溝を作ってしまう。行政区には異形達との共存を望む研究区として異議を唱えておこうか。
それに匠君とクズハ君の審問の件にも口を挟んでおこう。もう審問の名目で君たちを呼び出す事はかなわんじゃろう。
しかしまあ、念のためにしばらくこっちにいるといい。丁度これから研究区は行政区の決定に対抗して一時的に異形を匿う施設として機能させようと思っておるし、人手が欲しいんじゃ」
クズハが首を傾げる。
「異形を匿う……ですか?」
「うん、研究区内では行政区の決定は採用しない。それと、身分を証明できる異形達の権利は保障するようにしてみようかと思っておるんじゃよ」
それだけの援助を受ける事ができれば異形たちが大阪圏内で被る事になる負担も随分と減る事になるだろう。しかしそれは、
「いいのかじいさん? 行政区と睨み合う形になると思うが」
気遣わしげな匠に平賀は口端をなだらかな弧にして、
「なに、それは今更な気もするからなぁ。それにこうして対抗してもやっぱり人々の異形に対する風当たりは厳しくなる事は避けられんしのう……なかなかうまくいかんもんじゃよ」
そう自嘲気味に笑った。
「本当にいつの間にこんなもの作ったんだ? じいさん」
「いやいや、もうそれなりに昔の事じゃよ。まだ第二次掃討作戦が始まる前くらいになるかのう。――おっと、そこは踏むと捕まってしまうから気を付けるんじゃぞ」
時折そうやって平賀は通路に仕掛けてある罠の位置を示していく。
「悪い考えを持った者たちにこの通路を知れてしまうと事じゃからな。偶然迷い込んでしまった場合の事も考えて罠自体は殺傷能力の無い捕縛用のものを採用しておるよ」
「これだけの物を……遊びに行くために作ったんですか?」
「八割方前文明の遺構を流用しておるからあまり手間はかかってないんじゃよ」
そうクズハに笑いかけながら平賀は行く先を指さす。
「ああ、この道の先、そこにある梯子を登れば研究所の中庭に出るぞい」
果たして、確かに通路は平賀の研究所の中庭に通じていた。
「……こんなところに……気付かなかった」
「明日名さんだけではありませんよ。ここで暮らしてた俺もクズハも、それにたぶん研究所の職員だって誰も知りやしない……」
「秘密通路はロマンじゃからの。皆には内緒じゃよ?」
子供のように自慢げに言う平賀に食えない爺という感想を抱きながら、匠たちは彼の部屋へと通された。
それぞれに席と飲み物を用意し、自分は煙管を加えて平賀は話を切り出した。
「さて、だいたいの事はわしのところにも知らされているのじゃが、実際に行政区におった君たちの口から行政区で一体何が起こったのか、それに審問がどのようなものだったのか、話してもらえるかな?」
口ぶりからして匠たちが再度の審問への出席命令を蹴ってここに来た事も平賀は知っているらしい。
話が早くて助かると思いながら、匠は最初に審問をうけた時の事から順を追って話した。一通りの話を聞いた平賀は何度か頷きを作り、
「……ふむ、行政区を襲ったという異形はやはり元来人間だった者たちのなれの果てという事じゃったか」
「ああ、そしてその異形の襲撃を受けて行政区は異形に対する排除行動に等しい今回の動きを起こした」
「まったく、わしが謹慎中で行政区で直接止めに動けないのをいい事に排斥派の衆は好き勝手やっとるのう」
「その異形排斥派の長の通光ってのはどんな人間なのか、じいさん知ってるか?」
おそらく今の行政区の動きを決定付けた存在で、更にもしかしたら諸々の件の黒幕かもしれない人間の事だ。知っておいて損はあるまいと匠は訊ねた。
「通光君か。彼は冷徹な人間だのう。第一次掃討作戦の頃から対異形の技術を磨く事に打ち込んできていた男でな、大きな犠牲を払いつつも当時からその姿勢を貫いてきただけあって相当に厳しい人間じゃよ。たしか異形排斥派の旗頭となって行政区の重鎮の一人にもなった今でも元々製薬会社だった庁舎の一角を借りて研究に励んでおるようじゃな。最新式の魔弾なんぞも手掛けておった記憶があるのう」
「相当深く異形を恨んでらっしゃるという事でしょうか?」
「恨みというよりも敵意を向けていると言った感じだなあ。行政区が匠君達を呼び出した時にクズハ君、君に対してもわざわざ名指したことからして、おそらく行政区・異形排斥派の彼は最初から今の状況と似たような流れに事を運んで行く気ではいたんだろうなあ。襲撃に対する時も指揮は通光が執ったんじゃろう、審問への再度の要請は状況を利用したのだろうかなぁ……」
煙を吸いこむ平賀に明日名が言う。
「平賀博士、俺としては今回の件、通光がかなり怪しいと思うのですが」
「しかし何分証拠が無いからなぁ。それに怪しい者は他にもいくつか心当たりはある」
平賀は深く吸い込んだ煙を吐き出し、
「ともかく、行政区の今回の対応はせっかく馴染みかけておった大阪圏在住の異形と人との間にまた溝を作ってしまう。行政区には異形達との共存を望む研究区として異議を唱えておこうか。
それに匠君とクズハ君の審問の件にも口を挟んでおこう。もう審問の名目で君たちを呼び出す事はかなわんじゃろう。
しかしまあ、念のためにしばらくこっちにいるといい。丁度これから研究区は行政区の決定に対抗して一時的に異形を匿う施設として機能させようと思っておるし、人手が欲しいんじゃ」
クズハが首を傾げる。
「異形を匿う……ですか?」
「うん、研究区内では行政区の決定は採用しない。それと、身分を証明できる異形達の権利は保障するようにしてみようかと思っておるんじゃよ」
それだけの援助を受ける事ができれば異形たちが大阪圏内で被る事になる負担も随分と減る事になるだろう。しかしそれは、
「いいのかじいさん? 行政区と睨み合う形になると思うが」
気遣わしげな匠に平賀は口端をなだらかな弧にして、
「なに、それは今更な気もするからなぁ。それにこうして対抗してもやっぱり人々の異形に対する風当たりは厳しくなる事は避けられんしのう……なかなかうまくいかんもんじゃよ」
そう自嘲気味に笑った。
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匠たちが着いたその日のうちに、研究区は平賀の指揮の下に門前に集まった異形たちを受け容れる体制を整え、保護を求める異形たちを受け容れた。
その研究区の動きを受けて、行政区は牽制の為の手を打った。
行政区の警備の為に用意されている武装隊の数割を研究区に派遣してきたのだ。
彼等は研究区に元から居る武装隊と共に、研究区に集まった異形たちが暴動を起こさないように見張る魂胆のようだった。行政区の対応に、研究区を頼って来た者たちは内心面白く無さそうではあったが、それでも平賀の顔を立て、表面上は武装隊の派遣を静々と受け容れる事によって研究区は一定の落ち着きを得た。
数日の間に互いに対して良い感情を持っていないという関係の大量の客を迎え入れる事になった研究区の住人は特需だと騒いでは重くなりがちな街の雰囲気を持たせてくれている。
……不満もあるだろうに、皆の対応力には頭が下がる。
いろいろと迷惑をかけたここ数日の事を思い出しながら、匠は研究所の通路を早歩きに歩いていた。
異形たちと武装隊たちを研究区が受け容れるまでの数日、匠は行政区による派遣の前から研究区にいた顔見知りの武装隊たちを通して武装隊と研究区との間の調整を研究所の人間と一緒になって行っていた。全体としては事を必要以上に荒げたくないというのが彼等の総意だろうが、中にはこの期に異形を大阪圏から排除しようと考える者もいる。
匠が今向かっているのはそんな者への対応の為だった。
その研究区の動きを受けて、行政区は牽制の為の手を打った。
行政区の警備の為に用意されている武装隊の数割を研究区に派遣してきたのだ。
彼等は研究区に元から居る武装隊と共に、研究区に集まった異形たちが暴動を起こさないように見張る魂胆のようだった。行政区の対応に、研究区を頼って来た者たちは内心面白く無さそうではあったが、それでも平賀の顔を立て、表面上は武装隊の派遣を静々と受け容れる事によって研究区は一定の落ち着きを得た。
数日の間に互いに対して良い感情を持っていないという関係の大量の客を迎え入れる事になった研究区の住人は特需だと騒いでは重くなりがちな街の雰囲気を持たせてくれている。
……不満もあるだろうに、皆の対応力には頭が下がる。
いろいろと迷惑をかけたここ数日の事を思い出しながら、匠は研究所の通路を早歩きに歩いていた。
異形たちと武装隊たちを研究区が受け容れるまでの数日、匠は行政区による派遣の前から研究区にいた顔見知りの武装隊たちを通して武装隊と研究区との間の調整を研究所の人間と一緒になって行っていた。全体としては事を必要以上に荒げたくないというのが彼等の総意だろうが、中にはこの期に異形を大阪圏から排除しようと考える者もいる。
匠が今向かっているのはそんな者への対応の為だった。
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「平賀はいるか!」
十数人の武装隊を率いて研究所の入り口でそう呼ばわるリーダー格の男の対処に困った研究所の受け付けから報せを受け、匠は男の前に立った。
「いったい何の騒ぎですか? 平賀はもちろん、この研究区の人間は皆今忙しいのですが」
歓迎していないのもあからさまな口調の匠に不機嫌そうな顔をして、男は改めて口を開いた。
「……坂上匠か……お前でも構わん。クズハを出せ」
「何故だ? 要件を聞きたい」
険を含ませた声に応えて男は懐から何らかの書状を取り出した。彼をここまで案内してきたのであろう研究区に以前から居た武装隊の男が匠に詫びるように浅く頭を下げた。
……何だ?
嫌な予感がする。そう思いながら匠は書面に目を移す。
「――これは」
半ば呆然と呟く匠に駄目押しするようにリーダー格の男は告げた。
「クズハ――この者を人間への大逆の疑い有りという事で捕らえよとの命令だ」
十数人の武装隊を率いて研究所の入り口でそう呼ばわるリーダー格の男の対処に困った研究所の受け付けから報せを受け、匠は男の前に立った。
「いったい何の騒ぎですか? 平賀はもちろん、この研究区の人間は皆今忙しいのですが」
歓迎していないのもあからさまな口調の匠に不機嫌そうな顔をして、男は改めて口を開いた。
「……坂上匠か……お前でも構わん。クズハを出せ」
「何故だ? 要件を聞きたい」
険を含ませた声に応えて男は懐から何らかの書状を取り出した。彼をここまで案内してきたのであろう研究区に以前から居た武装隊の男が匠に詫びるように浅く頭を下げた。
……何だ?
嫌な予感がする。そう思いながら匠は書面に目を移す。
「――これは」
半ば呆然と呟く匠に駄目押しするようにリーダー格の男は告げた。
「クズハ――この者を人間への大逆の疑い有りという事で捕らえよとの命令だ」