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ファンタジーと言えば魔法だろう 2



315 : ◆91wbDksrrE :2009/01/29(木) 17:21:24 ID:Ybz9KKDF

》21-22の続きっぽい感じです。
他所で投下して、個人的に気にいってた小ネタを
混ぜたりしてみました。

では投下します。


316 : ◆91wbDksrrE :2009/01/29(木) 17:22:02 ID:Ybz9KKDF

 普通に殴るだけでは揺らぐ事すらない。それどころか、銃で撃たれたと
しても、反動すら感じさせる事なく、不動。何度打ち込もうと、それは全く
変わる事なく……いや、むしろ徐々に前へ、前へと進んで来すらする。
そんな“非常識”を目の前にして、一体どれくらいの人間が精神の均衡を
保っていられるだろうか。
「ひ……ひぃぃぃ!?」
 そんな人間はまずいない。人間は常識で物事を計る。だから、常識外の
存在、現象には、基本的にそれを無視する事で対応する。では、どうやって
も無視できない“非常識”が目の前に存在していたら?
 その答えが、今俺の目の前で繰り広げられていた。
「くるなっ! くるなよぉぉぉぉぉ!!」
 大の大人が、まるで幼児が駄々をこねるようにわめきちらす様は、それ
だけを切り取ってみれば滑稽という意外には無い。だが、それだけを見て
いられる程に、それをもたらした“原因”は小さくはなかった。
 ゆっくりと、本当にゆっくりと、そいつは腰を抜かせて動けなくなっている
らしい男へ向けて、歩みを進めていく。歩み、なのかどうかすらも定かでは
無いけれど、ゆっくりと、ゆっくりと。まるで、男の恐怖を煽るかのように。
「くるなぁぁぁぁぁあああああ!!!」
 叫びと共に、男の手に握られた拳銃から、乾いた、しかし大きな音が響く。
 それが発砲の音だとは、知る人間にしか判別はつかないだろう。テレビ
ドラマで聞く、演出としてのそれとは明らかに違う、重さを伴わない音。
クラッカーや爆竹の音だといわれた方がまだわかる。だが、それは紛れも
なく、銃器から弾丸が射出される際の、引火した火薬が発生させた音だ。
 男は、目の前の恐怖へと、その恐怖を拭おうと、自身の常識の内にある
恐怖を向け、引き金を引いた。
 手にした銃と同じ、常識の内にある恐怖ならば、そこから発射された弾丸
によって、一撃の下に倒れ付し、男は精神の均衡を取り戻す事ができた
だろう。しかし――
「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!??」
 恐怖は、微動だにせず、そこにあり続ける。
 男の目の前にある恐怖は残念ながら“非常識”だった。
 精神の均衡を取り戻す為に放たれた弾丸は、それまでに撃った何発かの
それと同じく、相手を揺らがせる事すらなく弾かれた。跳弾が、近くのビルの
壁を穿ち……それで終わりだ。
 精神の均衡を、より一層手ひどく破壊する役割を、図らずもその弾丸は
担ってしまうことになった。男の意図とは真逆に。
 それでも、男にはすがる物はそれしかなかった。だから、それまで弾かれて
いた事実を無視し、それにすがった。そしてその度に、男の恐怖は深く、暗い、
絶望とも言うべき物へと姿を変えていく。
 負の輪廻に囚われた男が、それから解放される時……それは――
「へ……あ……ああぁあぁあぁあああ!?」
 かちり、かちりと引き金を引く音だけが響く。
 ――弾切れ。
 負の輪廻からの解放。だがそれは、男の精神が完全に破壊される時でも
あった。抗う術……すがる術をなくし、男は呆然と、引きつった笑みすら浮かべ
ながら、目の前の恐怖を見つめた。
「あ……あは……あはは……は……は……」
 精神を破壊され、そしてこれから肉体も破壊されるだろう。その運命から
男を救い出せるものは、もう――
「今にゃ!」
「言われずとも!」
 ――俺達しか、いない!


 まったく、面倒な話だ。銃の聞かない、ミサイルや、ひょっとすると核ですら
何ら痛撃を与えられないかもしれない存在を殴り倒せるって言うのに、守らなきゃ
いけない人がぶっぱなしてる銃を喰らったら普通に怪我するってんだから。
 物陰で、ギリギリまで弾切れを待っていた俺とリリさんは、ようやくその時を
得て、文字通り飛ぶような速さで男と“非常識”の間に割り込んだ。
 男――警察官のおっちゃんは、そんな俺達の姿を見て、少しだけ我を
取り戻したらしい。驚いた顔で、俺とリリを交互に見ている。
「え? あ……な、なに? 猫、と……男の子……?」
「ちょっと寝てるにゃ。これにゃ悪い夢……そう、どりぃーむにゃ」
「あ……」
 そんなおっちゃんに、リリが魔法をかける……なんて事ができたら楽で
いいんだが、そういう便利な魔法は一気に疲労してしまうんで、裏のルート
で手に入れたらしい睡眠剤をスプレーで噴射し、おっちゃんを眠らせる。
「……お前、そういうのホントにどこで手に入れるんだ?」
「女にゃあ、秘密があるもんにゃ」
「それに、猫なのにスプレーを器用に……」
「猫にゃのに器用度12あるのがあたしゃの自慢にゃ。それより……」
「ああ、わかってる」
 向き直ったその視線の先には、“恐怖”がいた。
 その姿形は、例えるなら宮崎駿のアニメに出てきた妖怪のようだった。
黒と白だけで構成され、その輪郭はまるで彩色時に絵の具が掠れてしまった
かのように、滲んでぼやけている。
 リリが、眠り込んでしまったおっちゃんの首筋を噛んで物陰へと引き込む。
それを確認して、俺は“恐怖”と対峙した。
「ま……俺にとっちゃ、あんたはそう怖くも無いんだがな」
 普通の人間にとっては、“非常識”であり“未知”であり、故に絶大な“恐怖”
となりえるその存在……『澱み』も、その正体を知り、それを倒せる手段を
持ち、何より何度もそれと遭遇し、既に未知でも非常識でも何でもない俺に
とっては、そこまで恐怖を抱く対象にはなりえない。
 何より、こいつはまだ生まれたばかりだ。発生した所にたまたま出くわして
しまった警察官のおっちゃんは運が悪かったが、俺にとっちゃどうって事も無い。
「さて、じゃあさっさと終わらせて帰るぞ。寒いしな」
 その呟きが耳……があるのかどうかは知らんが……に届いたのか、『澱み』は
それまでののっそりとした動きが嘘のようなスピードで、俺に向けて飛びかかって
来た。だが……それでもまだ遅い!
「……っ!」
 俺は身を翻し、『澱み』の突進をかわすと、すぐ様右手にイメージを投影した。
右手を包み込むイメージ。熱い、燃えるようなイメージ。敵を……『澱み』を、
燃やし尽くすイメージ!
 確固たるイメージが、俺の内にある魔力によって形を成し、右手に宿る。
 先に屋上で灯したようなそれとは比べ物にならない、燃え盛る炎。それが
俺の右手を包んでいた。
 『澱み』は生まれてからしばらくの間、人の言葉を発する事はできない。同様に
人のそれと同じような、感情表現もできない。だから、本当にそうだったのか
どうかは、『澱み』自身にしかわからない。
 だが、俺にはその炎を見て、『澱み』がひるんだように見えた。
「……いけるっ!」
 実際にそうであるかどうかではない。魔法に必要なのは、そうであると信じる事――
 俺は相手がひるんだという確信の下に、駆けた。駆け抜けるイメージに
あわせて魔法が発動し、身を翻す事によって開いた相手との距離が、まさしく
一足飛びで零になる。
 全身に力がみなぎり、同時にそのみなぎった力が萎んでいくように抜けて
いく感覚。ともすれば戸惑ってしまいそうなその感覚にも、もう随分慣れた。
精神力でそれを押さえつけ、俺は腰を入れた突きを『澱み』に向けて放った。
「せやぁぁあっ!」
 果たして、俺という“非常識”に、この『澱み』は恐怖したのだろうか。
 言葉を発する事のできない生まれたばかりのその『澱み』は、俺の抜き手を
腹部――と思しき場所――に深々と飲み込み、そして次の瞬間、呆気なく
散りとなって消えた。本当に、呆気なく。
 後には、何も残らない。それが『澱み』という“非常識”の最期だ。


「……ふぅ」
 俺は小さく息をつくと、背後を振り返った。
「相変わらず、たいしにゃ手並みにゃー」
「そのおっちゃん、大丈夫か?」
「にゃ。今催眠暗示かけておいにゃから、目が覚めたら夢にゃと思ってくれるにゃ」
「……魔法?」
「催眠術にゃ。ほにゃ、こうやって五円玉をぷらーんと」
 ……魔法ってホントに何なんだろう。俺が軽く頭痛を覚えていると、リリは
眠りこけているおっちゃんを見て呟いた。
「けど、このおいちゃんも災難だったにゃー」
「ああ、たまたま生まれた瞬間に出くわすなんてな」
 『澱み』が生まれると、しばらくの間普通の人間は、それを無意識に避ける。
その間に、『澱み』は他の『澱み』と合流したりして、力を増すのだそうだ。
 今回、この警察官のおっちゃんは、たまたま『澱み』が生まれた瞬間に
出くわし、その異形に恐れおののき、思わず発砲してしまったようだった。
「しかし、災難なのはこっちもだぞ、リリ」
「何がにゃ?」
「このおっちゃん、銃撃っちゃってるんだよなぁ」
 警察の仕組みについてはよく知らないが、特に理由もなく発砲などしては
何らかの罰を与えられるのは間違いないだろう。『澱み』の存在は一般には
公になっていない。その公になっていない存在に発砲しました、などという
言い訳は不可能だろう。そもそも、この事は夢だと思うわけだし。
 あとは、弾痕などの後始末もしなきゃならないし、場合によっては銃声が
他の人の耳に入っている可能性もある。
「ああ、それにゃら大丈夫にゃ。裏のルートで何とかしとくにゃ」
「……裏のルートって……何とかなるのか?」
「リリさんにお任せにゃ。おんにゃの秘密でイチコロにゃ」
「言葉の意味はわからんが、とにかく凄い自信だな、おい……」
 まあ、そういう事なら任せて大丈夫だろう。……秘密に関しては気になるが。
「じゃ、帰るか」
「そうするにゃ。帰ってコタツで丸くなるにゃ」
 とにかく、今回の件はこれで終わり……だと思っていた俺は、後日
色々な意味でとんでもない目に遭う事になる。
 この時の俺に言える事があるならただ一つ。
 ――壁に耳あり、障子に魔法少女有り――



 一方その頃――


 僕は驚いていた。
 まさか、こんな身近に、僕と同じように、魔法の力を使って戦う魔法……
この場合、あの人は男だから、魔法少年って事になるのかな? とにかく、
魔法の力を使って戦う人がいるなんて!
「あれ……高崎先輩、だよね」
 高崎祐太。一年上の先輩で、校内では結構有名人だ。
 空手を嗜み、繁華街で不良1000人を一人でのしたとか、いや実は物凄く
勉強ができて、県外の有名校からわざわざ誘いが来たのにそれを蹴って
一番近いうちの高校に入ったとか、とかく噂に事欠かない人だ。
 そんな噂が流れる原因は、十六歳という年齢に見合わない、酷く大人びた
雰囲気にあるんじゃないかと思う。見た目も結構いいし、校内にはかなりの
数のファンがいる。……まあ、僕もファンだったりするんだけどさ。
「俺に聞かれても知らないよ」
「別にレンレンには聞いてないって」
「むぅ……レンレンって言うな」
 肩に乗ったレン――パンダのぬいぐるみ。ただし動くし喋るし知性もある、
魔法の国から来たらしい。以上説明終わり――が不服そうにむくれる。
「……ねえ、レンレン」
「だからレンレンって言うな。……なんだよ」
「ああいう戦い方ってできないの、僕は?」
「今のがいいじゃん。安全だし、確実だし」
「だってねえ……はぁ」
 ため息をつきながら、僕は自分の身にまとった衣装を見た。
 黒子。
 それは、どこからどう見ても、そうとしか呼び様のない衣装だった……。
魔法の黒子、マジカルミュー……それが僕の正体だ。
「……背後から魔法のドスでブスって……魔法少女の戦いじゃないよぉ」
 ついでに言えば、衣装も“魔法少女”の衣装じゃない。というか、少女
なのかどうか、この衣装じゃわかんないよね……。
「美由はわがままだなぁ……」
「女の子なら当然の感想です!」
 魔法少女とは名ばかりの、正体不明の黒子姿で、敵の背後から近寄って
一刺しする日々……ああ、さっきの高崎先輩みたいに、変な衣装を身にまとわず、
正面から一撃で敵を粉砕するような戦い方をしてみたいっ!
 とはいえ……それが僕にもできるかどうかは、わかんないんだよね……。
さっきレンも言ってたけど、僕の力の出し方と、先輩の力の出し方はどうやら
違うみたいだったし。
「……高崎先輩って、どうして戦うようになったのかなぁ」
 自然と、僕の興味は先輩の方に向いていった。
 先輩がどうして戦うようになったのか、どうやって力を手に入れたのかを
知ることができれば、僕にだって先輩みたいな戦い方ができるようになるかも!
 そしたらこの冴えない黒子衣装ともおさらばできるかもっ!
「よし! 僕はやるぞ!」
「……なんだか、美由がまたよからぬ決意を」
「うるさいよ、レンレン!」
「レンレンって言うな。……どうなっても知らないからね」
 先輩たちが消えた方角に向けて熱い視線を注ぎながら、僕は明日先輩に
話しかけてみようと決意した。話しかけてどうするかは……まあ、その時の流れだ!
「よーし、そうとなったら今日はさっさと帰って寝るよ、レンレン!」
「はいはい……あと、レンレンって言うな」
 世界は間違ってるかもしれない。
 でも、間違ってるなら、正していく事だってできるはず。
 明日からは、その為の努力をしてみよう。そう決意しながら、僕は家路へとついた。

                             終わり

ここまで投下です。

※続きは、1-378

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