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甘味処繁盛記 開店編~店やってもいいよ編

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甘味処繁盛記 開店編~店やってもいいよ編


「…………すまん、門谷隊長」

和泉防衛を任とする武装隊。その詰所での事だ。
桃太郎なる男が職務質問中、門谷に神妙につぶやいた。
門谷はようやっと無断無許可の店舗開店を悔やんだか、と常識的な判断で安堵する。
こうやって態度を改めてくれるのならば、これからの職務質問も円滑に運ぶ事だろう。

熱心さは、伝わっているのだ。
仕事に精を出そうとしている男を、封じるような自分の現状も気持ちに引っかかってはいる。
だからこそ。
桃太郎が己を律するのは門谷にも歓迎すべき事だった。

だが、しかし。
本当に、心底、純粋にただただ申し訳なさそうに、桃太郎はこう言うのだ。

「実はな、俺は桃太郎ではないのだ」
「……」

何を言っとるんだこいつは。
この時の門谷の心境は以上の一言であった。
しかし桃太郎は言い募る。罪の意識に苦悩するかのように、言葉を紡ぐのだ。

「俺は……俺はな、本当は桃太郎のおじいさん役なんだ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「で、お前の経歴だが……」
「門谷隊長」
「……なんだ」

なにかと桃太郎は話をどうでもいい方向に持っていきたがる。
とは言え、時間はあるのだ。しゃべらせるのではなく、しゃべってもらう事を優先するとしよう。
店を早くやりたいのは向こう。時間を浪費したくないはずだから、まぁ、そろそろ必要な事をしゃべるだろう。

「門谷隊長。童話、桃太郎のおじいさんは何をしてどうなり、そして何をしたか知っているか?」

全然必要なさそうな事しゃべりはじめた。
やっぱりしゃべらせるんじゃなかったと門谷は思わざるをえない。
桃太郎のおじいさんの話題で攻めてくる気だ。魂のそこからどうでもいい話題だ。

「そんなもん山へ芝刈りだろう」
「その次は?」
「……桃に包丁入れたとかか?」
「そうだな、では次は?」
「はぁ? 桃太郎育てたんだろう」
「門谷隊長は、そっちか」
「……」

何を聞き出したかったのか、門谷には意図がつかめなかった。
ただ、桃太郎のおじいさんの話題とかどうでもいい。ここ最近で一等どうでもいい話題だ。
そんなこんなで話題があっちにふらふら、こっちによれよれ。
欲しい情報が遅々として集まらない職務質問をどうにかこうにか門谷はやってのけた。
驚嘆すべき精神力と賞するべきだった。

別室で個別に摩虎羅、真達羅、招杜羅の職務質問も執り行っていたのだが。
その三人は実に快く質疑に応答してくれた。

特に真達羅など物腰柔らかく丁寧で、桃太郎に要した時間の1/10も消費しておらず。
門谷をうらやましがらせた。


桃太郎。
出身は岡山圏。

一次掃討戦までに住んでいた街が異形により壊滅。
血縁をここで失う。
温羅なる村に漂流、ここで自警団として労働す。
和泉に似た、いわゆる辺境だがここも第二次掃討戦に至るまでに滅びている。
役所の連携がまだ完全ではなかった時期なので、
温羅で桃太郎は戸籍を作ったが、それが現存しているような岡山圏の大きな自治領にも保管されているという事はないらしい。

つまり結局、戸籍なし。
その後、京の外れにある食堂で働きこの時、摩虎羅、真達羅、招杜羅と出会う。
その食堂も潰れて流浪。

和泉に流れ着く。

以上が桃太郎の経歴である……らしい。
嘘くさかった。
正確な情報がまるでない。だから信憑性がない。

ただ、このご時勢、よくある話、ではあるのだ。
時間をかけて微妙に質問の内容を変えたり、誘導するような質問を繰り返したが、
話の中だけに限ってずれはないと判断せざるを得ない。

嘘の経歴を作って受け答えに徹底したか、本当の経歴か。
さしあたって温羅なる村と、京で潰れた食堂について調べねばなるまい。
それに時間がかかる。
かかるが、やりようによっては受け入れを拒否せず、桃太郎一派の正邪を見極め、
且つ<甘味処 『鬼が島』>をすぐに開ける方法はある。

良く言うと何人か武装隊の手伝いをしてもらう。
悪く言うと監視下に置く。

これを桃太郎は呑んだ。
摩虎羅、真達羅、招杜羅の三人のうち、二人を武装隊の手伝いに自警団に配置すると言ったのだ。
そして残った一人と、桃太郎で甘味処の経営を行い、それを交代制にする。
そして日に四度の連絡を桃太郎が武装隊まで自身で行うというものだ。

門谷としては頷いてもいい采配だった。ただ桃太郎側にしては重い気がする。
二人で甘味処を切り盛りできるか、と門谷が質問をした。

「切り盛りなんぞ俺の右半身だけでもできるわ! サイクロン!」

質問してやるんじゃなかったと思った。

「門谷隊長」

そして。
真達羅が声をかけてきた。

温和を画に描いたような好青年である。
にこにこふんわり。
まったりゆるゆる。
微笑たたえてひょろりとのっぽはとても丁寧に礼をしてくる。

「私たちの受け入れ、ありがとう御座いました」
「いや……こちらも二人を使わせてもらう事になる」
「そんな、それくらいはさせてもらいますよ。何せこちらに置かせてもらうのですから」

声調、声量、声質、どれをとってものんびりとした、耳心地の良いものだった。
そして挨拶をする律儀さ。丁寧さ。社交的な立ち振る舞い。
桃太郎とえらい違いである。

「あのですね、隊長、私たちは番兵としてどこまでさせてもらえるのでしょうか?」
「そうか、君はとりあえず甘味処だから聞いていないか」

すでに最初の配置は決定している。
桃太郎と真達羅で、もう甘味処を開く。
摩虎羅と招杜羅は、武装隊の仕事をしてもらう。

甘味処に摩虎羅と招杜羅、どちらが先に戻り、いつ真達羅が番兵の仕事をしに駐屯に来るかまでは決定していない。
明日までに、まとめて桃太郎に連絡する事になっている。

「荒事には突っ込まさんよ。武器の手入れから書類仕事なり、他に村の工事なんかをしてもらう事になる」
「では、異形と接するという事は?」
「させん。君たちは従業員だろう? 戦闘員の仕事は我々だ」

きっぱりと門谷が断言する。
真達羅が穏やかな微笑の内に緩やかに安堵するのを感じた。

「ありがとう御座います」
「親切というわけではない。異形と戦えるようになるまで育つとなると、時間がかかる。それこそ、君たちの正邪を確認するよりもずっと時間がかかるからな」
「そうですね、できる事なら戦えるようになる時間、吉備団子作りに当てたいところです」
「君なんか、背も高いから鍛えればなかなか強くなれると思うんだがな」
「そ、そんな!」

慌てて真達羅が首と両手を振って否定を体で言い表す。

「あまり過激な事、私は好きではありませんので……」
「そうか? しかし時代が時代だ。そう言ってられん事態も有り得るぞ」
「はい……店長が随分と苦労なさった事も知っています。ただ、」

真達羅が微笑んだ。

「だからこそ、甘味で一時でも皆さんに潤ってもらいたいと思います」
「……」

門谷は苦笑する。
ぬるい事を言う、とも、言うではないか、とも思った。
道場帰りの子供たちを相手にするには、この男は適任だろう。
それはきっと子供たちにとって憩いになる。悪いこととは、思えなかった。

「しかし吉備団子一つだけではな」
「材料がまだそろっていないのですよ。本来ならばチョコ吉備団子、きなこ吉備団子、黒蜜吉備団子と種類豊かな甘味の楽園です」
「……全部吉備団子じゃないか」
「ええ、そこが私もおかしいと思うんですよ。店長、料理がとてもお上手なのですが吉備団子ばっかり作るんです。あ、いえ、他の料理も作るんですが、どうしても吉備団子をつけるんです」
「あいつ料理上手いのか? 全然な感じだがなぁ」
「意外でしょう? 実は店長、繊細なんですよ。手先だけでなく、心も繊細ですので、あまり強く攻めたりしてあげないでくださいね」
「心も?」
「はい、店長、独りだった時間が多かったものですから……」
「ふぅん」

桃太郎。
ふざけた名を名乗って妙に飄々とするのは、複雑さの裏返しか……

「門谷隊長、二人以上で輪を作り、両手こぶしを縦に併せて親指を上下できるよう構え、
いっせーので、の掛け声とともに手番の人間が親指が上昇するであろう予想数値を発言し、
それが正解であれば一つこぶしを引く事で、先に二度の予想数値を言い当てた者が勝者となる、
単純明快ながら親指が上がる数が零まで有り得る心理合戦極まりない遊戯の名称を知らんかね?」

真達羅と門谷に桃太郎が割って入ってきた。
複雑さの裏返しか……とか真面目に考えた自分が馬鹿みたいだと門谷がげんなりする。

「店長も門谷隊長にお礼を言いましょう」
「俺は「甘味処出してくれてありがとう。抱いて」と言われる立場ではないのか?」
「違います」
「そうか、門谷隊長、ありがとう」

力関係がいまいち分からない二人であった。
まさかこの男から感謝の言葉が出ると思っていなかった門谷も毒気を抜かれる。

「まぁ……がんばってくれ、団子作り」
「言われるまでもない」
「この村には子供たちも多い。そいつらの楽しみのひとつにしてやってくれ」
「あぁ、そんな事言うと真達羅が張り切るぞ」
「子供好きなのか、真達羅?」
「ええ、子供たちをかわ 「ロリコンでショタコンだ」
「ちょっと!? 店長!? 誤解招く事言わないでくれませんか!?」
「最近のロリはあざとくて金髪ツインテロボでデスサイズ振り回すから気をつけろよ」
「……? なんの話です?」
「性的な目で見てると門谷隊長に捕縛されるぞ、という話だ」
「見ませんよ! やめてください、そんな根も葉もない!」

門谷がこめかみを押さえてげんなりする。
桃太郎がいると場が乱れる。
真達羅が旅すがらこのようにいじられていたのだと思うと不憫になってしまった。

「ところで門谷隊長、こいつら三人にどこまでさせる気だ?」
「さっきも真達羅に聞かれたところだ。とりあえず荒事には近づけさせんよ。それは約束する。だが事務から武器の手入れ、公共工事までいくらか幅広く仕事をしてもらうぞ」
「そうか。真達羅は根性がなくてな、できればなんか体育会系なしごきのひとつやふたつやみっつやよっつやいつつやむっつやななつややっつやここのつとう施してやってくれんか」
「多い多い多い多いですよ、店長」
「こいつの性的な嗜好を健全に戻すた おぶッ!?」
「殴りますよ、店長」
「今殴ったよな? 宣言する以前に攻撃を実行したよな?」
「まぁ……ほどほどにな、二人とも」

桃太郎が繊細だと真達羅は言った。
言ったがちょっとこれは信じられなくなってしまう。

ただ、しかし。
それはつまりまだ門谷が見えぬ部分を真達羅が知っているということなのだろう。
ならばきっとそれは気を許している。この殴るなりなんなりもじゃれて、いるのだろう。
それはきっと。まるで例えば。
家族のような。

「さて、門谷隊長。隊長に重大な話があるのだ」
「? お前が重大な話」
「そうだ」

威厳と風格さえ備えた微笑を浮かべて桃太郎が門谷を真正面から見据える。
そっと肩に手を置いてくるが、門谷はそれが払えない。
旧友と邂逅したかのような親しみを込めて桃太郎が一つ頷いた。
そして、それがとてもとても当然であるかのように言うのだ。

「開店祝いくれ」
「……」

畑で取れた大豆をあげた。
事のほか、桃太郎が喜んだ。





<甘味処 『鬼が島』>
店長:桃太郎
従業員:真達羅

不在:摩虎羅、招杜羅

<お品書き>
 ・吉備団子
 ・きなこ吉備団子 New!


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