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ゴミ箱の中の子供達 第26話
26-1/5
昼下がりの廃民街をゲオルグは歩いていた。時折手にした端末に目を移しながら進む彼の進行方向は孤児院の
方角ではなかった。大通りから2~3離れたこのうらびれた通りの往来は疎らだ。両側に並ぶくすんだ色合いの建物の
軒下では3~4人程の若者達の集まりが、ぽつぽつと流れる人影を何するでもなく眺めている。彼らはこの付近を
縄張りとしているギャングなのだろう。ゲオルグが属する"王朝"とは系列が異なるようだ。だが縄張りが異なるからと言って、
その地域が立ち入り禁止になるわけでもなし。彼らの商売の邪魔をする気など毛頭無いゲオルグの足に戸惑いは無かった。
たむろする若者達をすり抜けて、ゲオルグの足が交差点に差し掛かったとき、彼の手の中の端末が声を上げた。
方角ではなかった。大通りから2~3離れたこのうらびれた通りの往来は疎らだ。両側に並ぶくすんだ色合いの建物の
軒下では3~4人程の若者達の集まりが、ぽつぽつと流れる人影を何するでもなく眺めている。彼らはこの付近を
縄張りとしているギャングなのだろう。ゲオルグが属する"王朝"とは系列が異なるようだ。だが縄張りが異なるからと言って、
その地域が立ち入り禁止になるわけでもなし。彼らの商売の邪魔をする気など毛頭無いゲオルグの足に戸惑いは無かった。
たむろする若者達をすり抜けて、ゲオルグの足が交差点に差し掛かったとき、彼の手の中の端末が声を上げた。
「正面の 交差点を 右折 してください」
女性だが機械らしい独特の調子で、声は告げる。漫然と通りを歩いていたゲオルグはその声に反応して、手元を
一瞥した。手の中の端末のディスプレイには、ゲオルグがたった今見ていた交差点とほぼ同じ画像が表示されており、
下から伸びた青い線が画面中央で直角に右に折れ曲がり、画面端へと走っている。この線が目的地までの道筋で、
ゲオルグに右に曲がるように表していた。ゲオルグは端末の助言に従い、この交差点を右に曲がった。角を曲がり、
僅かに変わった風景に、ゲオルグは端末をもう一度一瞥する。画面と視界の景色は同一で、青い線のガイドは画面中央に
消えていた。このまま直進。目的地までは順調に進んでいるようだった。
昨今のデジモノと言うのは便利な物だ。経路案内といえども、出発地点から目的地までの地図を表示するに飽き足らず、
ストリートビューと連動し、経路の上の視界を確認することが出来る。更に位置測位システムによって、常に現在位置が
把握でき、万が一道を間違えたとしても、リアルタイムで経路の最探索が行われ、すぐに代わりの経路が案内されるように
なっていた。このサービスにより、もはや迷子と言う言葉は過去のものとなった。
経路案内の声に従い道を折れたところで、今度はゲオルグの背後から声が上がった。男の声だが、どこと無く少年を
思わせる跳ね上がった調子の声の主は、ゲオルグの弟、アレックスだった。
一瞥した。手の中の端末のディスプレイには、ゲオルグがたった今見ていた交差点とほぼ同じ画像が表示されており、
下から伸びた青い線が画面中央で直角に右に折れ曲がり、画面端へと走っている。この線が目的地までの道筋で、
ゲオルグに右に曲がるように表していた。ゲオルグは端末の助言に従い、この交差点を右に曲がった。角を曲がり、
僅かに変わった風景に、ゲオルグは端末をもう一度一瞥する。画面と視界の景色は同一で、青い線のガイドは画面中央に
消えていた。このまま直進。目的地までは順調に進んでいるようだった。
昨今のデジモノと言うのは便利な物だ。経路案内といえども、出発地点から目的地までの地図を表示するに飽き足らず、
ストリートビューと連動し、経路の上の視界を確認することが出来る。更に位置測位システムによって、常に現在位置が
把握でき、万が一道を間違えたとしても、リアルタイムで経路の最探索が行われ、すぐに代わりの経路が案内されるように
なっていた。このサービスにより、もはや迷子と言う言葉は過去のものとなった。
経路案内の声に従い道を折れたところで、今度はゲオルグの背後から声が上がった。男の声だが、どこと無く少年を
思わせる跳ね上がった調子の声の主は、ゲオルグの弟、アレックスだった。
「けっこう歩いたけどまだつかないの?」
ゲオルグの背を追いかけるアレックスは、辛抱できないとばかりに言葉を跳ね上げる。
「もうすぐだ。ぼやくな」
「なんかどんどん寂れてきてるし、本当にこんなところでやってるのかなあ」
「別についてこなくてもよかったんだぞ。それにお前にはいるだろ、ブクリエの……えーと」
「なんかどんどん寂れてきてるし、本当にこんなところでやってるのかなあ」
「別についてこなくてもよかったんだぞ。それにお前にはいるだろ、ブクリエの……えーと」
口を尖らせて続けるアレックスにゲオルグは切り返すが、肝心なところで名前が出てこない。そもそもゲオルグはあまり
人の名前を覚えようとしない悪癖がある。それ故に、いざというとき人の名前が出てこないのは当然の報いだった。
人の名前を覚えようとしない悪癖がある。それ故に、いざというとき人の名前が出てこないのは当然の報いだった。
「クレアちゃん?」
ゲオルグの欠けた言葉を補完するようにアレックスが口を出してくる。その名前がゲオルグの記憶の鍵穴にぴったりと
はまった。
はまった。
「そうそう、そのクレアとかいう娘。彼女をどこか遊びに誘ったりとかはしないのか?」
ブクリエの店員は多かれ少なかれ愛嬌のあるアレックスに好意を持っているようだが、クレアという子はその中でも
一番好意を表に出している娘だ。いつぞやのアップルティーの送り主であり、その後もことある度にやれマドレーヌだの
マフィンだのをプレゼントしている。対するアレックスもまんざらではないようで、この間などは遂に二人で出かけるまでに
至っている。ここまで来たのならば、たまの休みは二人で楽しむことに費やすべきだろう。わざわざ男の用事に付き合う
必要などないのだ。
小言を言うようにゲオルグは言う。対するアレックスはゲオルグの言葉に、いや、と言葉を詰まらせた。歩く調子が乱れて、
ゲオルグとの間に差が開く。
一番好意を表に出している娘だ。いつぞやのアップルティーの送り主であり、その後もことある度にやれマドレーヌだの
マフィンだのをプレゼントしている。対するアレックスもまんざらではないようで、この間などは遂に二人で出かけるまでに
至っている。ここまで来たのならば、たまの休みは二人で楽しむことに費やすべきだろう。わざわざ男の用事に付き合う
必要などないのだ。
小言を言うようにゲオルグは言う。対するアレックスはゲオルグの言葉に、いや、と言葉を詰まらせた。歩く調子が乱れて、
ゲオルグとの間に差が開く。
26-2/5
「いや、クレアちゃんとは、まだそういう関係じゃなくて、えっと……」
開いた差に気づいて小走りに後を追うアレックスの言葉は後が濁って尻すぼみだ。視線は明後日の方向を泳いでいる。
微かに赤みを帯びた頬。その姿にゲオルグは心の中で簡単の息を漏らした。こいつ、一丁前に照れていやがる。
それも、かなりうぶな反応だ。自慢の中性的な可愛らしい顔立ちで遊んでいたと思っていたが、案外そうでもないらしい。
弟の意外な一面にゲオルグは感心するばかりだった。
微かに赤みを帯びた頬。その姿にゲオルグは心の中で簡単の息を漏らした。こいつ、一丁前に照れていやがる。
それも、かなりうぶな反応だ。自慢の中性的な可愛らしい顔立ちで遊んでいたと思っていたが、案外そうでもないらしい。
弟の意外な一面にゲオルグは感心するばかりだった。
「なんだよ、なんかニヤニヤして」
おおっと、どうやら心持が顔に出てしまったようだ。らしくない。アレックスに突かれてゲオルグは表情筋を引き締める。
だが、弟が見せた可愛らしい一面を思うと、ついつい表情が緩んでしまうのだった。
それにゲオルグは思う。これだけ面白い反応を見せたのだから、クレアの単語はアレックスに対する一つの武器に
なるかも知れぬ。色恋沙汰では甘んじて後塵を拝しているが、これで一矢報いれるかもしれない。ゲオルグに自然と
浮かぶ笑みは、けっしてただの感心だけではなかったのだ。
だが、弟が見せた可愛らしい一面を思うと、ついつい表情が緩んでしまうのだった。
それにゲオルグは思う。これだけ面白い反応を見せたのだから、クレアの単語はアレックスに対する一つの武器に
なるかも知れぬ。色恋沙汰では甘んじて後塵を拝しているが、これで一矢報いれるかもしれない。ゲオルグに自然と
浮かぶ笑みは、けっしてただの感心だけではなかったのだ。
「ああ、なんでもない。なんでもないぞ」
突っかかるアレックスをゲオルグは適当にあしらう。ちょうどその時ゲオルグが手にしていた端末が声を上げた。
「目的地に到着しました」
戯れを楽しんでいる間に、どうやら目的地に着いたようだ。端末が発した女性の声に、ゲオルグはアレックスとの
じゃれ合いを止めて、その場に立ち止まる。アレックス共々、揃って首を回して辺りを見渡した。周りは大通りを離れて
住宅街に差し掛かったところだ。雑居ビルやアパートメントが軒を連ね、更にスラム特有の違法建築によって、商店や
住居が隙間を埋めて、建物の境界を消失させている。右から左の端から端まで一体化した建物が、各ブロックごとに
色分けされて、幻覚じみたグラデーションを見せている姿は、まさに廃民街の混沌の賜物だ。
廃民街の名物に目を痛めていると、程なくアレックスが一点を指差した。
じゃれ合いを止めて、その場に立ち止まる。アレックス共々、揃って首を回して辺りを見渡した。周りは大通りを離れて
住宅街に差し掛かったところだ。雑居ビルやアパートメントが軒を連ね、更にスラム特有の違法建築によって、商店や
住居が隙間を埋めて、建物の境界を消失させている。右から左の端から端まで一体化した建物が、各ブロックごとに
色分けされて、幻覚じみたグラデーションを見せている姿は、まさに廃民街の混沌の賜物だ。
廃民街の名物に目を痛めていると、程なくアレックスが一点を指差した。
「あったあった、神谷探偵事務所」
アレックスの指に導かれてゲオルグも目を向ける。指の先には、神谷探偵事務所、と書かれた看板が、他の商店や
工務店の事務所の看板に混じって、随分とくたびれた様子で佇んでいた。
この探偵事務所がゲオルグの目的地だった。ここで探偵に、ある調査を依頼するのが彼の目的だった。神谷探偵事務所を
彼が選んだのは廃民街に事務所を構えているからの一点で、それ以外には特に理由などなかった。だがこの事務所を
検索したときからゲオルグはどうしてもその名前が気になってならなかった。この神谷という名前、どこかで聞いたことが
あるような。だがそれは目的地に到着しても思い出せなかった。
工務店の事務所の看板に混じって、随分とくたびれた様子で佇んでいた。
この探偵事務所がゲオルグの目的地だった。ここで探偵に、ある調査を依頼するのが彼の目的だった。神谷探偵事務所を
彼が選んだのは廃民街に事務所を構えているからの一点で、それ以外には特に理由などなかった。だがこの事務所を
検索したときからゲオルグはどうしてもその名前が気になってならなかった。この神谷という名前、どこかで聞いたことが
あるような。だがそれは目的地に到着しても思い出せなかった。
26-3/5
ドアを開けて件の事務所に入ったゲオルグは、出迎えた青年の顔を見て固まった。
「いらっしゃいゲオルグさん」
声の主は穏やかな笑みをたたえた美青年。肩まで伸ばした黒髪を微かに揺らしている。ゲオルグにとって敬遠するものがある、
自称告死天使のクラウス・ブライトだった。
驚きが瞬きゲオルグの思考を停止させる。刹那の間を空けて再起動に成功したゲオルグの思考は、まず己の表情を検査した。
他人との間に用いる鉄面皮。自分はこの驚きを顔に出してはいないだろうか。検知される目元の緊張。恐らく目は見開かれて
いるだろう。驚きを隠せた気はしなかった。
出てしまったものは仕方ない。ここからは自然に振舞え。ゲオルグの脳は次善の策を素早く下す。目元の力をさり気なく抜いた
ゲオルグは、鷹揚な素振りで右手を上げた。
自称告死天使のクラウス・ブライトだった。
驚きが瞬きゲオルグの思考を停止させる。刹那の間を空けて再起動に成功したゲオルグの思考は、まず己の表情を検査した。
他人との間に用いる鉄面皮。自分はこの驚きを顔に出してはいないだろうか。検知される目元の緊張。恐らく目は見開かれて
いるだろう。驚きを隠せた気はしなかった。
出てしまったものは仕方ない。ここからは自然に振舞え。ゲオルグの脳は次善の策を素早く下す。目元の力をさり気なく抜いた
ゲオルグは、鷹揚な素振りで右手を上げた。
「やあクラウス君。今日は神谷さんに用事があってきたんだ」
「じゃあ案内しますね」
「じゃあ案内しますね」
ゲオルグの応答に、クラウスは笑みを崩さず答えると、踵を返して事務所の奥に向かう。このやり取りに不自然なところはなかったはずだ。
クラウスの後を追いながら自問したゲオルグは、最後に心の中でうなだれた。神谷という名の違和感はこれだったか。
クラウスの後を追いながら自問したゲオルグは、最後に心の中でうなだれた。神谷という名の違和感はこれだったか。
事務室の片隅に設置されたソファーセットにゲオルグがアレックスと並んで腰掛けたところで、事務所の奥から中年の男が現れた。
顎に浮かぶ無精ひげがどことなくだらしなさを感じさせるこの男の顔にゲオルグはうっすらとだが見覚えがあった。病院でクラウスと
始めて出会ったとき、クラウスと一緒にいた男だ。この男が神谷だろう。
顎に浮かぶ無精ひげがどことなくだらしなさを感じさせるこの男の顔にゲオルグはうっすらとだが見覚えがあった。病院でクラウスと
始めて出会ったとき、クラウスと一緒にいた男だ。この男が神谷だろう。
「これはどうもゲオルグさん。本日はどんな用件で」
「今日は仕事の依頼です」
「今日は仕事の依頼です」
対面の一人掛けソファーに腰を下ろす神谷にゲオルグは端末を見せる。端末には線の細そうなハイティーンの少年が表示されている。
ドラギーチだった。
ドラギーチだった。
「少々説明が長くなります」
テーブルの上に並べられた端末にちらりと視線を向けた神谷に、ゲオルグはそう前置きして、事の経緯を語り始めた。
26-4/5
調べて欲しいものがあるんじゃが。ある休日、孤児院の院長室で毎度の寄付の手続きをしていたゲオルグに、院長のエリナ・ペトロワは
そう切り出しだ。
そう切り出しだ。
「調べるって何を?」
突然の要請にゲオルグはボールペンの手を止めて顔を上げる。対面に座る院長は困ったように眉を寄せていた。
「ドラギーチの事なんじゃが」
「ドラギーチ……」
「ドラギーチ……」
ドラギーチの名前に、ゲオルグの胸は僅かにざわめいた。彼がゲオルグに向ける嫌悪の念は、ゲオルグにとっても大きな壁だったからだ。
「あいつが何かしたのか?」
平静を装って、ゲオルグは聞き返す。院長は小さく溜め息をついた。
「少し前のことなんじゃが、突然無断外泊をしての、その日を境に遅くまで出かけているようになったんじゃ。門限も何度か破っておる」
そこまで言って院長は息をつくようにテーブルに並んでいたティーカップに口をつけた。ゲオルグもつられてカップに口をつける。二人の間に
開く一拍の間。口内を満たす紅茶の芳香の傍らでゲオルグは先んじて推論した。ドラギーチの素行がよろしくないようだが、これについての
調査なのだろうか。
ティーカップがソーサーに乗る、かちゃり、と言う音でゲオルグの推論は中断する。
開く一拍の間。口内を満たす紅茶の芳香の傍らでゲオルグは先んじて推論した。ドラギーチの素行がよろしくないようだが、これについての
調査なのだろうか。
ティーカップがソーサーに乗る、かちゃり、と言う音でゲオルグの推論は中断する。
「流石に黙ってられなくての、いろいろと聞き出したら、妙な宗教に入れ込んでることが分かったんじゃ」
「宗教?」
「"CCC"、救世コンピュータ教会という名の新手の宗教じゃ」
「宗教?」
「"CCC"、救世コンピュータ教会という名の新手の宗教じゃ」
"CCC"の名をゲオルグはどこかで聞いた様な気がした。だが、思い出せない。もっとも禄でもないことには変わりないだろう。
「この"CCC"について、調べてくれんかの?」
「調べる? 連れ戻すじゃなくて?」
「調べる? 連れ戻すじゃなくて?」
院長の言葉にゲオルグは聞き返した。実態はどうであれ、この孤児院はミッション系の団体によって運営されていることになっている。
院長も敬虔なクリスチャンだ。孤児院の子供が異教に走るのは決して見過ごせないはずだ。
ゲオルグの言葉に院長は難しい顔をしたまま答えた。
院長も敬虔なクリスチャンだ。孤児院の子供が異教に走るのは決して見過ごせないはずだ。
ゲオルグの言葉に院長は難しい顔をしたまま答えた。
「重要なのは愛じゃ。自分、友人、他人、万人に対する愛の心じゃ。それさえ忘れなければ、教えを異にするのは些細なことじゃ」
「愛があるなら、無理に引き戻す必要は無い、と」
「愛があるなら、無理に引き戻す必要は無い、と」
ゲオルグが相槌を打つと、院長は皺だらけの顔を憎憎しげに歪ませた。
「そこなんじゃ。問題は。"CCC"とやらに愛があるのか。そこがわしには分からないんじゃ」
「それで調べろ、と」
「頼まれてはくれんかの」
「それで調べろ、と」
「頼まれてはくれんかの」
白くなった眉を下げて院長は頼み込む。ゲオルグは僅かに躊躇った。ドラギーチとの間には大きなしこりがある。だからこそドラギーチとは
相互に不可侵でいるべきだと思ったからだ。しかし、それは拒絶する理由になりはしない。たとえ向こうに嫌われていたとしても、ドラギーチが
大切な弟には変わりないのだ。ゲオルグは首を縦に降った。
相互に不可侵でいるべきだと思ったからだ。しかし、それは拒絶する理由になりはしない。たとえ向こうに嫌われていたとしても、ドラギーチが
大切な弟には変わりないのだ。ゲオルグは首を縦に降った。
「分かった。引き受けよう」
26-5/5
「と言うのが、事のあらましです。しかしこちらは調査に関してはずぶの素人。そこで神谷さんに調査を依頼したいのです」
ようやくゲオルグが説明を終える。対面でゲオルグの話を聞いていた神谷は、合点が言ったように頬をかいた。
「なるほど。一種の法人の信用調査か。おいステファン、価格表をもってこい」
神谷はゲオルグから視線を外すと、事務スペースに向けて声を上げた。椅子に座って雑誌を読んでいたステファンと呼ばれた少年は、
神谷の声に弾かれたように立ち上がってキャビネットに向かった。その姿を見届けると、神谷はゲオルグに視線を戻す。
神谷の声に弾かれたように立ち上がってキャビネットに向かった。その姿を見届けると、神谷はゲオルグに視線を戻す。
「経緯は分かった。それで、具体的に"CCC"とやらのどこまでを調べればいい?」
ゲオルグに向き直った神谷は、改めるように言った。到達点をどこに置くか、というのはビジネスにおいて重要なことだろう。ゲオルグは
軽く頷いて、逡巡した。
"CCC"に人に対する愛があるのか。それが院長が一番知りたがっていることだ。教義の情報は必須だろう。だが、それだけでは十分でない。
どんなカルトも口先では博愛を唱えるものだ。その裏で、肉体的、化学的、心理的、あらゆる暴力を用いて信者の心を破壊し、信者を教団の
操り人形に改造するというのがカルトというものだ。"CCC"がこういったことをしているのか、も重要な点だ。
軽く頷いて、逡巡した。
"CCC"に人に対する愛があるのか。それが院長が一番知りたがっていることだ。教義の情報は必須だろう。だが、それだけでは十分でない。
どんなカルトも口先では博愛を唱えるものだ。その裏で、肉体的、化学的、心理的、あらゆる暴力を用いて信者の心を破壊し、信者を教団の
操り人形に改造するというのがカルトというものだ。"CCC"がこういったことをしているのか、も重要な点だ。
「"CCC"の教義。それと、信者に対する洗脳などのいかがわしい行為、危険な行為の有無。以上の2点」
ゲオルグが答えたところで、金髪の少年が割って入るようにテーブルの上に一枚の紙を滑らした。神谷はその紙をゲオルグに見やすいように
向き直す。紙には2つの列からなる表が印刷されていた。片方には信用調査、個別調査、といった文字が並び、もう片方には数字が並んでいる。
これが価格表と言うものらしい。
向き直す。紙には2つの列からなる表が印刷されていた。片方には信用調査、個別調査、といった文字が並び、もう片方には数字が並んでいる。
これが価格表と言うものらしい。
「おたくらはクラウスの友人らしいが、だからといって友達価格と言うのはなしだ。こういうことはきっちりさせてもらうよ」
「ああ、承知している」
「ああ、承知している」
ゲオルグが頷くと、神谷は身を乗り出して、表の一点を中指で叩いた。
「さっき言った2点だと、内部の調査も含まれる。価格はこれくらいだな」
神谷が示す指先に描かれた数字を見て、ゲオルグは微かに呻いた。想像よりも金額が高い。探偵と言うのはかくも金がかかるものなのか。
「なにか不都合でも」
唸り声が聞こえたのか、神谷が怪しげな目を向ける。ゲオルグは平静を装って首を横に降った。
「いや、大丈夫だ。それでやって欲しい」
"子供達"の給料は、閉鎖都市の水準からすれば、いくらか高い水準にある。だが命のやりとりをする職業柄か、貯蓄に精を出す者は
少ない。ゲオルグも同様で、やれ孤児院のケーキだので散財している。だが、決して捻出できない額ではなかった。
ゲオルグが答えると神谷は満足げにソファーにもたれかかった。
少ない。ゲオルグも同様で、やれ孤児院のケーキだので散財している。だが、決して捻出できない額ではなかった。
ゲオルグが答えると神谷は満足げにソファーにもたれかかった。
「よし、じゃあ明日から取り掛かろう。料金は成功報酬、後払いでかまわない。では契約書にサインを頼む」
また金髪の少年が呼ばれ、机には新たに契約書が乗せられる。その署名欄にゲオルグはボールペンを滑らした。
これで契約完了。後は神谷の報告書を待てばいい。"CCC"の名前のいかがわしさからすれば、安心できるような調査内容は
期待できないだろう。だが、それ以上にゲオルグの心は憂鬱だった。それは己の信仰のことだった。院長、あなたとは宗派を
別にすることになりそうです。自分はしばらくクエーカーになります。
これで契約完了。後は神谷の報告書を待てばいい。"CCC"の名前のいかがわしさからすれば、安心できるような調査内容は
期待できないだろう。だが、それ以上にゲオルグの心は憂鬱だった。それは己の信仰のことだった。院長、あなたとは宗派を
別にすることになりそうです。自分はしばらくクエーカーになります。