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ゴミ箱の中の子供達 第10話 2/2
前をのろのろと走る車に追越をかける。反対車線に入ったところで前方からのヘッドライトがイズマッシュ
の目を刺した。イズマッシュはすばやくハンドルを切り返す。タイヤが地面をつかむグリップ音を響かせながら
車体は間一髪で遅く走っていた車両の前に滑り込んだ。
バックミラーを確認すると、追跡車は対向車をやり過ごしてから、行く手をさえぎる車を悠々と追い越して
イズマッシュに迫った。
前方の夜の交差点で律儀に停車する車のテールランプが見えた。あの車は俺の車体で見えないはずだ。
瞬く間に近づくテールランプにイズマッシュは高鳴る心臓を押さえ込む。まだだ、まだだ。
の目を刺した。イズマッシュはすばやくハンドルを切り返す。タイヤが地面をつかむグリップ音を響かせながら
車体は間一髪で遅く走っていた車両の前に滑り込んだ。
バックミラーを確認すると、追跡車は対向車をやり過ごしてから、行く手をさえぎる車を悠々と追い越して
イズマッシュに迫った。
前方の夜の交差点で律儀に停車する車のテールランプが見えた。あの車は俺の車体で見えないはずだ。
瞬く間に近づくテールランプにイズマッシュは高鳴る心臓を押さえ込む。まだだ、まだだ。
「イズマッシュさん、前、まえっ」
助手席のニコノフが情けない声を上げる。が、無視する。まだだ。イズマッシュは前を見据え直進を続ける。
とうとうニコノフが悲鳴にも似た絶叫を上げた。今だ。イズマッシュはハンドルを左に切った。
突然の取り舵に車体にはヨートルクが発生する。強力な横滑りの力に車を支えていたタイヤは身を削って
いきながら、遂にその職務を全うした。路上に黒々としたタイヤ痕を残しながらも、イズマッシュの車は停車
していた車のすぐ脇を駆け抜けた。
このタイヤ痕が分岐点だった。追跡車は反応が遅れ、イズマッシュの痕跡より深い位置でより大きくハンドル
を切った。より強い力にタイヤは耐え切れずとうとうスリップを起こす。かくして追跡車は横滑りを始めた。
こうなってしまってはブレーキは利かない。運転手が健気にもハンドルを切ってカウンターステアを利かせるが、
最早気休めにもならなかった。哀れ追跡車はドリフト状態で車体側面から停止車両の後部に突っ込んだ。
やったか。バックミラーに移るクラッシュの光景にイズマッシュは安心してアクセルを緩める。だが、衝突
した2台の車の脇を抜けて、新たな車両がイズマッシュに追いすがった。畜生、とイズマッシュは心の中で
毒づいた。
アクセルを踏み込み再度車を加速させる。のしかかる加速度がイズマッシュをシートに押し付けた。圧迫感
を感じながら後方を見ればヘッドライトがじわりじわりと接近しつつあった。どんなエンジンを搭載しているの
だろうか。
交差点で急ハンドルを切り振り切ろうと試みるが、甲高いスキール音を響かせながら追跡車は猛追する。
距離は縮まるばかりだ。
とうとう追いつかれた。追跡車との間隔はほとんどなく、今にもバンパーがぶつかりそうだ。
突然追跡車が右へ流れた。サイドミラーに姿を移した追跡車に何をするつもりなのかとイズマッシュは訝しむ。
追跡車は左に首を振ると、イズマッシュの車の角にバンパーをぶつけた。車同志の衝突によりテールスライド
が発生する。後部タイヤは空転を開始し、車体はコントロールを失って時計回りに回転する。とどのつまり
スピンだ。
とうとうニコノフが悲鳴にも似た絶叫を上げた。今だ。イズマッシュはハンドルを左に切った。
突然の取り舵に車体にはヨートルクが発生する。強力な横滑りの力に車を支えていたタイヤは身を削って
いきながら、遂にその職務を全うした。路上に黒々としたタイヤ痕を残しながらも、イズマッシュの車は停車
していた車のすぐ脇を駆け抜けた。
このタイヤ痕が分岐点だった。追跡車は反応が遅れ、イズマッシュの痕跡より深い位置でより大きくハンドル
を切った。より強い力にタイヤは耐え切れずとうとうスリップを起こす。かくして追跡車は横滑りを始めた。
こうなってしまってはブレーキは利かない。運転手が健気にもハンドルを切ってカウンターステアを利かせるが、
最早気休めにもならなかった。哀れ追跡車はドリフト状態で車体側面から停止車両の後部に突っ込んだ。
やったか。バックミラーに移るクラッシュの光景にイズマッシュは安心してアクセルを緩める。だが、衝突
した2台の車の脇を抜けて、新たな車両がイズマッシュに追いすがった。畜生、とイズマッシュは心の中で
毒づいた。
アクセルを踏み込み再度車を加速させる。のしかかる加速度がイズマッシュをシートに押し付けた。圧迫感
を感じながら後方を見ればヘッドライトがじわりじわりと接近しつつあった。どんなエンジンを搭載しているの
だろうか。
交差点で急ハンドルを切り振り切ろうと試みるが、甲高いスキール音を響かせながら追跡車は猛追する。
距離は縮まるばかりだ。
とうとう追いつかれた。追跡車との間隔はほとんどなく、今にもバンパーがぶつかりそうだ。
突然追跡車が右へ流れた。サイドミラーに姿を移した追跡車に何をするつもりなのかとイズマッシュは訝しむ。
追跡車は左に首を振ると、イズマッシュの車の角にバンパーをぶつけた。車同志の衝突によりテールスライド
が発生する。後部タイヤは空転を開始し、車体はコントロールを失って時計回りに回転する。とどのつまり
スピンだ。
「うわぁぁぁっ」
「くそったれが」
「くそったれが」
車内をかき回す回転運動にニコノフが悲鳴を上げる。イズマッシュは悪態をついた。
イズマッシュはアクセルを緩めてグリップを利かせ、同時にカウンターステアをあてて制動を試す。滑り
続けていたタイヤはイズマッシュの努力答え、遂にアスファルトをつかんだ。車体は360度回転したところで
スピンを止めた。
イズマッシュが車が安定したことに一息つこうとすると、いつのまにか目の前に前に躍り出ていた追跡車が
ブレーキランプを点灯させた。イズマッシュはハンドルを切って回避を試みる。サイドミラーが相手の車に
引っかかり吹き飛んだ。車体側面がこすれあい火花を散らす。だが、運よくよけることに成功した。
後ろへと流れた追跡車両はやや左側からまた距離をつめてきた。またスピンさせるつもりだろう。そうは
いくか。イズマッシュは思い浮かんだ咄嗟のアイデアに全てを託すとハンドルを切った。
僅かに右に振られた追跡車の首に合わせて、イズマッシュの車の尾部も右にスライドを始める。テール
スライドを確認したイズマッシュは左に急ハンドルを切った。典型的なフェイントモーションだ。テールスライド
の方向とは逆方向のステアリングに巨大なヨーが発生する。その強さに車のタイヤは耐えられない。果たして
車は90度方向転換した状態でドリフトを開始した。横滑りをしながら速度を落とした車体側面に追跡車が
ぶつかる。だが、相対速度が小さいため、衝撃はさほどではない。すぐ隣のドアを押し込む追跡車に怯える
ニコノフをそのままにイズマッシュはアクセルを緩めてグリップを試みる。追跡車もブレーキをかけているの
だろう。ぶつかり合った車は徐々に速度を落としていく。そろそろ停止かと思われたそのとき、イズマッシュの
車のタイヤがようやく地面を掴んだ。速度計の値は急上昇し、突然の加速度にイズマッシュ達はシートに
押し付けられる。果たしてイズマッシュの車は追跡車に対し直角方向へ離脱した。のろのろと方向転換を
開始する追跡車両はどんどん小さくなっていき、やがては消えた。
イズマッシュはアクセルを緩めてグリップを利かせ、同時にカウンターステアをあてて制動を試す。滑り
続けていたタイヤはイズマッシュの努力答え、遂にアスファルトをつかんだ。車体は360度回転したところで
スピンを止めた。
イズマッシュが車が安定したことに一息つこうとすると、いつのまにか目の前に前に躍り出ていた追跡車が
ブレーキランプを点灯させた。イズマッシュはハンドルを切って回避を試みる。サイドミラーが相手の車に
引っかかり吹き飛んだ。車体側面がこすれあい火花を散らす。だが、運よくよけることに成功した。
後ろへと流れた追跡車両はやや左側からまた距離をつめてきた。またスピンさせるつもりだろう。そうは
いくか。イズマッシュは思い浮かんだ咄嗟のアイデアに全てを託すとハンドルを切った。
僅かに右に振られた追跡車の首に合わせて、イズマッシュの車の尾部も右にスライドを始める。テール
スライドを確認したイズマッシュは左に急ハンドルを切った。典型的なフェイントモーションだ。テールスライド
の方向とは逆方向のステアリングに巨大なヨーが発生する。その強さに車のタイヤは耐えられない。果たして
車は90度方向転換した状態でドリフトを開始した。横滑りをしながら速度を落とした車体側面に追跡車が
ぶつかる。だが、相対速度が小さいため、衝撃はさほどではない。すぐ隣のドアを押し込む追跡車に怯える
ニコノフをそのままにイズマッシュはアクセルを緩めてグリップを試みる。追跡車もブレーキをかけているの
だろう。ぶつかり合った車は徐々に速度を落としていく。そろそろ停止かと思われたそのとき、イズマッシュの
車のタイヤがようやく地面を掴んだ。速度計の値は急上昇し、突然の加速度にイズマッシュ達はシートに
押し付けられる。果たしてイズマッシュの車は追跡車に対し直角方向へ離脱した。のろのろと方向転換を
開始する追跡車両はどんどん小さくなっていき、やがては消えた。
「はは、やったぞ」
追っ手を振り払ったイズマッシュは喜びのあまりハンドルを叩いた。助手席のニコノフも安心したように顔
を緩ませている。
だが、すぐにイズマッシュの笑顔は凍りついた。後ろに流れていく看板。現在位置を確認するために見た
その看板には認めたくない事実が記載されていたからだ。
を緩ませている。
だが、すぐにイズマッシュの笑顔は凍りついた。後ろに流れていく看板。現在位置を確認するために見た
その看板には認めたくない事実が記載されていたからだ。
『避民地区 2km』
このまま進めば"王朝"の本拠地に乗り込んでしまう。追跡車はこれを計算していたのか。もがけばもがく
ほどに深みにはまる底なし沼のような暗澹とした絶望が心の底から滲み出た。
いいや、偶然だ。イズマッシュは己を奮い立たせてハンドルを切った。廃民街から遠ざかる方向へ。
だが、イズマッシュの抵抗を嘲笑うように爛々と輝く明かりが行く手をさえぎった。
道路をふさぐオレンジと黒の縞模様の衝立。その向こうではヘルメットを被った作業員の頭や、停車している
トラックやショベルカーが覗いている。その奥では、大きなバルーンライトが一際白く輝いていた。工事のため
に道路が封鎖されているようだ。
ほどに深みにはまる底なし沼のような暗澹とした絶望が心の底から滲み出た。
いいや、偶然だ。イズマッシュは己を奮い立たせてハンドルを切った。廃民街から遠ざかる方向へ。
だが、イズマッシュの抵抗を嘲笑うように爛々と輝く明かりが行く手をさえぎった。
道路をふさぐオレンジと黒の縞模様の衝立。その向こうではヘルメットを被った作業員の頭や、停車している
トラックやショベルカーが覗いている。その奥では、大きなバルーンライトが一際白く輝いていた。工事のため
に道路が封鎖されているようだ。
「畜生、何でこんなときに」
悪態をついてイズマッシュはブレーキを踏む。下がっていく速度計に焦燥を募らせながらイジュマッシュは
Uターンを試みた。ぐるりと車が180度回頭下ところでハイビームのヘッドライトがイズマッシュの目を刺した。
2台の車がご丁寧に進行対向両車線を塞いで接近する。恐らく追っ手だろう。わき道も無い。どこへも行けない。
Uターンを試みた。ぐるりと車が180度回頭下ところでハイビームのヘッドライトがイズマッシュの目を刺した。
2台の車がご丁寧に進行対向両車線を塞いで接近する。恐らく追っ手だろう。わき道も無い。どこへも行けない。
「ニコノフ、降りるぞ」
イズマッシュは車での逃亡を諦めた。車を停止させると、シートベルトをすばやく解いて車から降りる。トランク
につめたスーツケースをそのままに、イズマッシュ達は藁にもすがる思いで工事現場に向けて走った。
につめたスーツケースをそのままに、イズマッシュ達は藁にもすがる思いで工事現場に向けて走った。
「助けてくれ」
工事現場から訝しげにこちらを眺める男にイズマッシュは助けを求めた。駆け寄るイズマッシュに男はまるで
挨拶をするように片手を挙げた。途端、周囲にいた別の作業員達が懐から銃を取り出すとイズマッシュに向けて
構えた。
挨拶をするように片手を挙げた。途端、周囲にいた別の作業員達が懐から銃を取り出すとイズマッシュに向けて
構えた。
「なっ」
幾多もの銃口を突きつけられイズマッシュはようやく理解した。この工事現場は"王朝"の罠だと。それまで
の追跡はこの罠へと追い立てる行為だったのだ。全ては計算されていたのだ。イズマシュは自分の浅はかさ
を呪った。
最早万策尽き果てた。それでもイズマッシュは保護者の義務を果たそうとニコノフを抱き寄せる。イズマッシュ
の健気な行為を嘲笑うかのように男は頬を吊り上げた。男は工事用の衝立を押し開くと、銃を構えた男達を
従えてイズマッシュに歩み寄った。
の追跡はこの罠へと追い立てる行為だったのだ。全ては計算されていたのだ。イズマシュは自分の浅はかさ
を呪った。
最早万策尽き果てた。それでもイズマッシュは保護者の義務を果たそうとニコノフを抱き寄せる。イズマッシュ
の健気な行為を嘲笑うかのように男は頬を吊り上げた。男は工事用の衝立を押し開くと、銃を構えた男達を
従えてイズマッシュに歩み寄った。
「長旅ご苦労だった。早速だがご足労願おうか」
「何が目的だ」
「何が目的だ」
慇懃無礼な、されど誰もが膝を屈するような威圧感のある男の言葉。イズマッシュはそれに負けぬよう、
吼えるように問うた。
イズマッシュの問いに片眉を上げた男は胸ポケットに手を滑らせると、小指大の何かを取り出し、イズマッシュ
に向けて放り投げた。イズマッシュは掌で受け取ると、それがいったい何なのか確認する。それはライフル弾
の薬莢だった。
吼えるように問うた。
イズマッシュの問いに片眉を上げた男は胸ポケットに手を滑らせると、小指大の何かを取り出し、イズマッシュ
に向けて放り投げた。イズマッシュは掌で受け取ると、それがいったい何なのか確認する。それはライフル弾
の薬莢だった。
「貴様が卸した弾丸だろう。どこに卸した」
箱単位で卸す弾丸の1発1発を見分けられるほどイズマッシュは弾丸に偏執的な愛を持っていない。だが、
場を包む状況はこれがイズマッシュのものだと暗黙のうちに示していた。
恐らくこの薬莢は先日の廃民街銃撃事件のものだろう。あれは"アンク"配下の民兵組織"人民の銃"が
行ったものだ。そして"人民の銃"の武器弾薬は概ねイズマッシュが供給している。
ただ、男達の目的がこの薬莢の情報だというのは僥倖だ。情報を盾に、うまくすれば生き延びることが
できる。ニコノフを守ることができる。微かに見えた希望に、蜘蛛の糸にすがるような気持ちでイズマッシュ
は顔を上げると、男を見据えた。
場を包む状況はこれがイズマッシュのものだと暗黙のうちに示していた。
恐らくこの薬莢は先日の廃民街銃撃事件のものだろう。あれは"アンク"配下の民兵組織"人民の銃"が
行ったものだ。そして"人民の銃"の武器弾薬は概ねイズマッシュが供給している。
ただ、男達の目的がこの薬莢の情報だというのは僥倖だ。情報を盾に、うまくすれば生き延びることが
できる。ニコノフを守ることができる。微かに見えた希望に、蜘蛛の糸にすがるような気持ちでイズマッシュ
は顔を上げると、男を見据えた。
「分かった。話そう。だが、ニコノフは関係ないから、ニコノフだけは放して――」
イズマッシュの台詞に男は一歩踏み出した。途端、イズマッシュの眼前に掌が現れた。踏み込みと同時に
繰り出された掌底だった。掌はイズマッシュの言葉ごと鼻柱を打ち砕く。顔面を貫く衝撃はイズマッシュの
意識をも貫通した。気がついたときにはイズマッシュは尻餅をついていた。熱を持った鼻からは何か液体が
流れる感覚がする。手でぬぐうと赤い。鼻血だ。
男は突き出した右手を気だるげに払うと、足に履いた安全靴を広がったイズマッシュの股間に押し当てた。
繰り出された掌底だった。掌はイズマッシュの言葉ごと鼻柱を打ち砕く。顔面を貫く衝撃はイズマッシュの
意識をも貫通した。気がついたときにはイズマッシュは尻餅をついていた。熱を持った鼻からは何か液体が
流れる感覚がする。手でぬぐうと赤い。鼻血だ。
男は突き出した右手を気だるげに払うと、足に履いた安全靴を広がったイズマッシュの股間に押し当てた。
「睾丸をつぶされたくなければ黙ることだ。いいか、条件を提示するのは我々だ。貴様はただイエスと答えて
いれば良いんだ」
いれば良いんだ」
頭上から降り注ぐ威圧の言葉がイズマッシュを圧迫する。だがイズマッシュはそれを跳ね除けるように声を
上げた。
上げた。
「かってにしやがれ。ニコノフに手を出してみろ。俺は絶対にしゃべらないからな」
男がイズマッシュの股間に乗せた足に体重をかける。圧迫された睾丸が痛みの信号を脳に送る。漏れ
かけたうめき声をイズマッシュは保護者の意地をかけて押し込んだ。
弱みを見せてはいけない。絶対に。でないとニコノフを守れない。
かけたうめき声をイズマッシュは保護者の意地をかけて押し込んだ。
弱みを見せてはいけない。絶対に。でないとニコノフを守れない。
「ほざけ、ほざけ。なに、貴様もそのうち話したくてたまらなくなる。貴様は半田ごての味を知っているか。
知らないだろう。喜べ、たっぷりと味わわせてやる。奥歯にドリルで穴を開けて、歯の1本1本で、存分にな」
知らないだろう。喜べ、たっぷりと味わわせてやる。奥歯にドリルで穴を開けて、歯の1本1本で、存分にな」
身の毛がよだつことをさも愉快そうに男は語る。男の頬を限界まで吊り上げた笑みは、獰猛な肉食獣を
思わせるおぞましい笑みだった。
睾丸にかかる体重がさらに増した。下腹部でうねりを上げる痛みにイズマッシュは歯を食いしばる。奥歯
がぎりぎりと音を立てた。
心の中の弱い部分が囁く。屈しろ。従え。ここで金玉が潰されるまで耐えても、やってくるのは歯の神経破壊
のフルコースだ。へこたれたってニコノフは恨まないさ。
うるさいだまれ。イズマッシュは心の中で怒鳴った。俺は約束したんだ。死地の親友と。死に行く親友の
代わりにニコノフを守ると。親友を死に誘った銃創に比べれば、生の保障がある拷問の苦しみなんて比べる
までも無いのだ。
弱い心を押しつぶし、下腹部から立ち上る苦悶を押さえつける。全身全霊をかけた反抗の眼差しでイズマッシュ
は男をにらみつけた。
思わせるおぞましい笑みだった。
睾丸にかかる体重がさらに増した。下腹部でうねりを上げる痛みにイズマッシュは歯を食いしばる。奥歯
がぎりぎりと音を立てた。
心の中の弱い部分が囁く。屈しろ。従え。ここで金玉が潰されるまで耐えても、やってくるのは歯の神経破壊
のフルコースだ。へこたれたってニコノフは恨まないさ。
うるさいだまれ。イズマッシュは心の中で怒鳴った。俺は約束したんだ。死地の親友と。死に行く親友の
代わりにニコノフを守ると。親友を死に誘った銃創に比べれば、生の保障がある拷問の苦しみなんて比べる
までも無いのだ。
弱い心を押しつぶし、下腹部から立ち上る苦悶を押さえつける。全身全霊をかけた反抗の眼差しでイズマッシュ
は男をにらみつけた。
「殊勝な男だな」
不意に男がイズマッシュの股間から足を離した。睾丸への圧迫が解かれ、イズマッシュは脱力の息を吐く。
荒い息を吐くイズマッシュを無視して男はニコノフの方を向いた。
荒い息を吐くイズマッシュを無視して男はニコノフの方を向いた。
「少年、名前は」
「ニコノフ。ニコノフ・アブトマットです」
「そうか、いい名だな。名前は親からもらう最初の贈り物だ。大切にするといい」
「ニコノフ。ニコノフ・アブトマットです」
「そうか、いい名だな。名前は親からもらう最初の贈り物だ。大切にするといい」
感慨深げに男は呟く。急に態度を柔らかくした男の意図がイズマッシュにはつかめなかった。
男が懐に手を入れる。すわ拳銃かと思いきや、出てきたものはどこにでもある黒皮の長財布だった。男は
開いた財布から2つ折にした紙幣の塊を指で挟むと、ニコノフに向けて差し出した。
男が懐に手を入れる。すわ拳銃かと思いきや、出てきたものはどこにでもある黒皮の長財布だった。男は
開いた財布から2つ折にした紙幣の塊を指で挟むと、ニコノフに向けて差し出した。
「この金でどこか適当なところへ行け」
「えっ」
「えっ」
男の申し出に戸惑ったニコノフは、不安げな表情でイズマッシュを伺った。イズマッシュは、受け取れ、と
ニコノフに言う。イズマッシュの言葉にニコノフがおずおずといった様子で金に手を伸ばす。その姿にイズマッシュ
は肩をおろした。
どういう風の吹き回しか分からないがあの男はニコノフを見逃してくれるみたいだ。安堵感が駆け巡り、
イズマッシュの身体は弛緩していく。
ニコノフに言う。イズマッシュの言葉にニコノフがおずおずといった様子で金に手を伸ばす。その姿にイズマッシュ
は肩をおろした。
どういう風の吹き回しか分からないがあの男はニコノフを見逃してくれるみたいだ。安堵感が駆け巡り、
イズマッシュの身体は弛緩していく。
「ただし、ここでおきたことは全て秘密だ。いいな」
ニコノフが紙幣をつかんだとき、男がニコノフの瞳を覗き込み、言い聞かせるように囁く。ニコノフが小さく
頷くと、男は紙幣から手を放した。
ニコノフが胸元で紙幣を握り締める姿に満足そうに頷いた男はイズマッシュに向き直った。
頷くと、男は紙幣から手を放した。
ニコノフが胸元で紙幣を握り締める姿に満足そうに頷いた男はイズマッシュに向き直った。
「さて、話してもらうぞ。全部」
「ああ、言うさ。男に二言はねえ」
「ああ、言うさ。男に二言はねえ」
立て、という男の命令にイズマッシュは尻を払いながら立ち上がった。男は工事現場の中に入るよう
イズマッシュに促す。おそらくそこに停車しているトラックの中にでも連れ込むのだろう。イズマッシュは
ポケットから取り出したハンカチで鼻を押さえながら男についていった。
イズマッシュに促す。おそらくそこに停車しているトラックの中にでも連れ込むのだろう。イズマッシュは
ポケットから取り出したハンカチで鼻を押さえながら男についていった。
「イズマッシュさん」
イズマッシュの背後からニコノフが呼びかける。イズマッシュは振り返ることも無く、右手をあげると言った。
「じゃあな」