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「第五話 「新人研修?(後)」

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 第五話「新人研修?(後)」



 第二地球暦148年 6月18日 9時11分
 Θ(シータ)33遺跡付近


 補助者であるメリッサが後ろの席に乗り込んだのを確認し、ユトは自分の操縦席に乗り込むと、腿をぽんぽんと叩く。その席にエリアーヌがよじ登ると、背中を向けて座った。
 潜水機の座席備え付けのシートベルトを、エリアーヌの身体をひきつけてからお互いが密着するかのように締めていく。

 「キツかったら言ってくれよな。俺は自分のいつもの強さで締めちゃうから」
 「いえ、だいじょうぶです」

 傍から見たら兄妹ほどの外見に違いがあるが、これでも同年代だというのだから人間というのは不思議な生き物だ。
 舌っ足らずな言葉を聞きつつシートベルトを締めると、各部を調整するように身体を揺する。きつくも無く緩くもない。いつもならややキツめに締めるが、エリアーヌが居る関係上これ以上は酷か。
 女の子の外見の人物を膝の上に乗せる。ユトは自然と赤面せざるを得ない。
 ロリだとかなんとかの趣味は無くても仕方が無いのだ。
 なんかお尻っぽいとことか柔らかかったり、背筋から漂う甘い香りも全て幻覚である。
 そう言い聞かせながら機体のメインシステムを起動させる。
 電池から送られた膨大な電流が機体を目覚めさせ、間接のモーターを駆動させて、電子機器や生命維持装置を含めた全てに活力を与える。獣が唸り声を上げるかのような、体を震わせてきそうな音が操縦席を満たした。

 「―――……全システムオールグリーン。いつでもいけるわよ」
 「メリッサ、一ついいかな」
 「なによ」
 「なんで笑ってるんだよ」
 「さぁね」

 ユトは、自分の前のモニターに映っているメリッサのニヤけ顔を指差しつつ言うが、映像そのものが掻き消されてしまった。メリッサが操作して消したらしい。
 ユトは暫くぼーっとしていたが、小さく溜息をついて、潜水機の操縦システムを起動させる。メリッサは起動に合わせて周囲の映像を操縦席内部に投影させる。船の内部の映像が映し出された。
 装備品の再確認を行う。メリッサは手際よくキーボードを叩くとユトの目の前に表示させる。
 小さく頷いてみる。
 魚雷ランチャーとブレード。
 遺跡に潜らずに撮影だけ行うにしては破格の武装と装備である。
 今回は本格的に内部に潜入するのではなく、外部から遺跡の構造を調べるためのダイヴである。エリアーヌという「研修生」が居るため、大きく戦闘をしたり、長時間潜航するわけにもいかない。ユトの上にエリアーヌなので動きが阻害というのもある。
 エリアーヌは、知識でしか知らなかったことが自分の目の前で展開されるのを、目を輝かせながら座って見ている。
 潜水機が船の一角に移動し、床が勢い良く割れる。潜水機の巨体は海へと投じられて、大きな水しぶきがたった。
 生じた衝撃に機体が微かに動揺して、やがて静寂につつまれる。
 操縦席内部ではメリッサが機器を操作する音が妙に大きく聞こえた。
 表示されている水深を見れば、足から沈んでいっている機体を、頭部を下に向けるように、逆落としに潜っていく。
 エリアーヌは不安げに息を漏らしつつ無意識にユトの身体にしがみ付くようにする。ユトは、落ち着かせるためにエリアーヌの髪の毛に手を乗せて軽く撫でた。

 「大丈夫。潜水機はちょっとやそっとじゃ壊れたりしないから」
 「わかって……るんですけど……怖くて」

 すると後ろの座席に座っているメリッサがここぞとばかりに口笛を吹いて茶化してくる。

 「お兄ちゃんモテモテー! ひゅーひゅー!」
 「メリッサ……お兄ちゃんって兄弟じゃないから……あと年齢を考えてくれよ」

 メリッサは楽しくて仕方がないというか、弄りがいのあるオモチャを見つけたというか、そんな感じの雰囲気を隠そうともせず、口笛を吹くような音をだしてくる。
 身を縮ませたエリアーヌは、恥ずかしげに両脚をすり合わせると、首を後ろに回してユトに囁く。

 「……………って呼んでもいいです……か?」
 「へ?」
 「おにい…………いえ……、なんでもないです」

 妙な沈黙が潜水機の中を満たす。
 混乱で頭が過熱されてきたことを感じたユトは、瞑想に入りつつ仕事に専念することにした。
 ポンピリウスをぐっと沈ませていき、両腕で速度を調整。各部のスラスターから水を噴出させて微調整。操縦桿を握る力がやや強くなる。
 深度1000mに到達。
 人間の視覚では光を捉える事が不可能になる。潜水機の操縦席には光を増幅された映像が映し出される。深海魚と思しき生き物が横切る。
 膝の上で身じろぐエリアーヌを余り意識しないでの作業はなかなか酷だった。
 深度3000m地点に到達。
 潜水機の限界潜航深度には遠く及ばずであるが、どこかが軽く軋むのが聞こえてきた。
 すかさずメリッサがいくつかならんだキーボードを叩き、情報を確認してユトに送ってくる。ユトはそれに目を通しつつ、機体各部のライトに光を灯した。
 暗闇を切り裂くように巨体から光が伸びていき、深海の水に溶けていく。頭部ライトも深海に向けて照らされる。すると、亡霊の残骸であるかのような白くあやふやな存在が操縦席に映し出される。
 マリンスノーだ。
 最大でも直径3~4cmはあろうかという白い塊が浮遊している。潜水機が潜っていっているので、それこそ海底の方から降り注いでいるかのような錯覚に陥らせる。
 潜水機という殻の中に海という空が広がっているかのよう。

 「きれい………」

 心から湧き出してきた感情を吐露するかのように一言だけ呟いたエリアーヌは、操縦席の壁面に投影されている映像を目を輝かせながらみて、やや身体を乗り出すようにする。
 円形に近い操縦席の内部に貼り付けられている映像素子は非常に高い精度を持っている。人間の目に迫る性能とまではいかなくても、違和感を覚えない程度の高画質を届けてくれる。操縦席に座って居るのに自分が生身で海に。そんな感覚を与えるに十分なのである。
 沈黙に投じられた一言に、知らずの内にユトとメリッサも目を周囲に向けていた。
 これだから止められないのだ。

 「綺麗だけど、マリンスノーっていうのは微生物の死骸なのよ。その死骸が海底に降り注ぐことで光の無い世界に栄養を届けて生命を育む……人間が造り得ない自然の循環システムの一つね」


 さらりと解説をして見せたメリッサは、ライトの光量を調節して、周辺のデータを採り始める。
 誰も喋らないでいると、それこそ海を満たす死と黒色に取り込まれていくよう。
 更に深く潜っていく三人。ユトは、潜水機の脚を下に向けるように操作すると、脚部のメインスラスターを弱めに噴射し始めた。
 沈んでいく速度がぐっと弱まり、ライトの向きが全て深海へと向けられる。今までライトの光が吸収される一方だったのと違って微弱ながら反射があった。
 深度5000m付近。海底へと到達した。
 海底にへばりつく様にして確かにそこにある建築物。マリンスノーで化粧をしていながら、水の重圧にも屈せずに永い時を経ても朽ち果てることなく存在している超文明の遺産。遺跡。要塞を思わせる形状のそれが三人を待ち受けていた。
 溜息に近い感嘆の声を漏らすエリアーヌ。さっそくユトとメリッサは、今回の目的を果たすために行動を開始した。
 遺跡に入るのは危険過ぎるため、上から撮影して構造を探るという作業である。
 ブレードと魚雷ランチャーが肩の担架システムに装着されていることを確かめ、頭部のメインカメラのモードを切り替える。
 ヴン、と音がしてメインカメラの色が微かに変化する。
 ユトは、巧みに手足を操作して、遺跡の上を水平に進むようにすると、撮影を開始した。
 スラスターの稼働音が頼もしく思えた。


 「横に長い遺跡っていうのも珍しいなぁ。今度潜ってみようかな」
 「つい最近見つかった遺跡だから保障は出来ないわよ。もうちょっと様子を見たほうがいいと思うんだけど」

 ポンピリウスはバタ足をするようにスラスターの位置を調整しつつ、撮影を続けていく。空間投影モニターには分析結果などが絶えず表示されていて、それに目を通しながら機体を反転させて別の場所を撮影したりする。
 攪拌された海水が不機嫌に揺れる。
 ポンピリウスは徐々に深いところに潜っていくと、遺跡すれすれを泳ぐようにする。
 遺跡表面の模様まで見えてくるようだ。
 エリアーヌはぐっと身を乗り出してみようとするためにユトの上半身が引き寄せられて苦しくなる。ユトは、エリアーヌの肩を押さえて手前に引き寄せた。
 子猫のようにしなやかなエリアーヌの肢体が震える。

 「―――……あっ……すいません」
 「いいよ、謝るほどのことじゃない」

 なんか弟か妹が居るみたいだなぁと考えつつ、頭の端っこに沸きあがってきた煩悩のような何かを撲殺して作業に勤しむ。考えてはいけないのだ。そう、考えなければいいのだ、と。
 活動限界時間はまだ余裕がある。急ぐことも無い。のんびりとすればいい。
 ポンピリウスは遺跡を舐めるようなギリギリの線を進んでいき、消えていった。


 予定よりも大幅に延長された作業が終わったとき、エリアーヌの頭は櫓を漕いでいたという。勿論ユトが運ぶ羽目となり、メリッサにからかわれたとか。
 結局、眠ったままのエリアーヌは一晩ユトとメリッサの家に泊まることになって、翌日まで過ごすこととなった。

 ダイブスーツを脱がしてパジャマを着せたのはユトであるとだけ記しておこう。



         【終】

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