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GEARS 第五話

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匿名ユーザー

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統合歴329年6月1日

朝連を終え、クラスメイトの霧坂と雑談しながら校舎に向かうべく校内モノレールの到着を待っていた。
守屋一刀がスポーツギア部に入部してから毎日のように繰り返すようになった普段の日常である。

しかし、到着時刻になってもモノレールが到着しない。

「あれ…今日って平日だよな?」

何かの問題が発生しない限りプログラム制御されたモノレールは秒単位で正確に動く。
到着予定時刻になってもモノレールが到着しないとなれば、今日が実は祝日でダイアが変わっている。
もしくは…

「わ…守屋君、アレ…」

霧坂が喜色満面で校舎を指を指す。
絶対にロクでも無い事だと指の先に目を向けると矢張り、ロクでも無い事だった。
ニュースで何度か見た事のある光景が自分の目の前で繰り広げられようとは。

「…何かとトラブルの尽きない学校だな?」

やれやれと肩を竦めると霧坂から辛辣な言葉が返ってきた。

「今年度、一番大きなトラブルを起こした人が言う言葉じゃないと思うのだけど?」

「…俺は被害者だ。」

憮然としながら答えるが、如何したものやら…校庭には武装したスポーツギアが校舎に火器を突き付けていた。
機体は兎も角…ギアが装備している火器が問題だ。ミサイルポッドにロケットランチャー。そして、バズーカ。

「アレって、前みたいに他校生が乱入して来たってのとは違うよね?」

「一介の学生が戦闘用の兵装を易々と手に入れられてたまるか。」

さて、如何したものだろうかと頭を抱えていると霧坂を喜ばせ、守屋を辟易させる事態が発生する。
新手の登場である。それもよりによって、スタジアムの中に4機新手のギアが現れた。

「7機…目的はギア部の機体か?」

「アイリス・ジョーカーもそうだけど、スカーレットにクランも最新型だしね。
歳方先輩のブクレスティアに内田先輩のブレイジンも能力特化型の高性能機。
阿部先輩のリヴァイド・カスタムにいたっては八坂が誇る魔改造機!
あの手の違法ギアに狙われても仕方が無いかもねー。」

妙に嬉しそうな霧坂はさて置き、此方も此方で非常に危険な状況に晒されている。
奴等の目当てがスポーツギアだと言うのなら、此の侭放置しておけば身の安全だけは保証される。

「さてと、どーしよっか?」

霧坂の頭の中に後退の二文字は無い。これを如何にかするつもりでいる。
いや、如何にかさせる気でいる。勿論、如何にかするのは守屋だ。

「どうしたものやら…」

とぼけて見せるが、諦めた方が早い。

「守屋君がやっつけらんない?」

意訳すると今すぐ片付けろという事らしい。
幸い此方側に来ている連中は作業要員らしく火器の類は装備していない。
校舎を占拠している連中を相手するよりは幾らか楽だろう。

「上手くいけば君はヒーローだ!守屋君頑張ってね~!」

(そんな事言ってる場合じゃないだろ…)

この状況を楽しんでいる霧坂の声援を辟易しながら背中で受けつつ格納庫へ向かって駆け出した。
辟易するが変にパニック起こされるよりはマシだ。それ以上に今後もこの手のトラブルが我が身に降りかかる気がしてならない。
何故か、そんな気がしてならなかった。そして、その未来視は概ね正解。
勿論、それを知るのは当分、先…守屋が忘れた頃になるのだが。

愚にも付かない思考を中断、工場から戻ってきたばかりのアイリス・ジョーカーを視界に入ると妙にやる気が出るから不思議だ。
霧坂に言われて渋々だったが、八坂高校とギア部に舐めた真似をした報いを受けてもらわねば。
それに守屋の名が示す通り、守る事を生業とする一族だ。

「こんな事、お前の役目じゃないんだが、付き合ってもらうぞ。相棒。」

今回で共に戦うのは二度目。守屋が相棒と称した鋼鉄の巨人、アイリス・ジョーカーを起動。
ジェネレーターの唸り声はさながら獣の咆哮。共に戦える事を喜んでいるようにも感じ否応無しに心が猛る。
最終調整もまだ完了していないが初めて戦った時に比べたら、搭乗者のレベルも上がっている。
数が多い上、試合ではまず出て来ないであろう戦闘用の兵装を持っている敵も居る。

「ハッ…知った事かよッ!!」

態々、行儀良くシャッターを開け、戦闘開始などやるつもりは無い。
床を蹴り、勢い良くシャッターを突き破り、手近なギアにスライディングタックルを繰り出す。
違法ギアの脚部はアイリス・ジョーカーの脚部と格納庫の壁に挟み潰され崩れ落ちる。

「まずは一機。」

倒れた違法ギアの頭部を踏み潰しながら、残りの3機に向き直る。

「まだギアを隠し持っていやがったか!」

残りの3機がブースターを吹かし離脱しようとしているが既に手遅れだ。

「隠していたんじゃない。お前達の目が節穴だっただけだ。」

上昇しきるよりも早く足を掴み、地面に叩きつけコクピットに鋼拳を振り落とす。
違法ギアとは言え大半は強奪したスポーツギアだ。コクピット周りの装甲を破壊するのは容易では無い。
だが、守屋の打撃で殺傷は出来ずとも搭乗者を昏倒させる事が出来るのは最近のシミュレーター訓練で実証済みである。

「残り二機。」

「畜生!校舎に居るガキ共がどうなっても…」

違法ギアの搭乗者が悲痛な叫びをあげるが知った事では無い。
仲間に攻撃指示を出す前に殲滅する。俺とジョーカーなら出来る。
全く、根拠の無い自信と確信を胸に秘め、戦闘不能になった違法ギアをジャイアントスイングの要領で
空に離脱した違法ギアに目掛けて放り投げる。見事直撃、二機は錐揉みしながらスタジアムの真ん中に墜落。

「残り一機。」

アイリス・ジョーカーに飛び道具等の固定武装は無い。今更、格納庫に戻ってライフルを取って来るのも間抜けだ。
幸い、飛び道具の代わりになりそうなモノも都合良く、アイリス・ジョーカーの手の中にある。
今し方、撃破したギアの頭部である。守屋は高校球児さながらのポーズで振りかぶり、投げた。

「デッドボール。脳味噌飛び出て再起不能ってな。」

アイリス・ジョーカーが投げた剛速球は違法ギアの頭部を一撃で撃抜き、大地に叩き落した。

「ベースボール部ってのも悪く無いかも知れないな…」

ギアを通したにも関わらず、驚異的なコントロールに自画自賛する。
確かに守屋ならば野球部に行っても優秀なデッドボーラー兼、乱闘担当として重宝されるだろう。

「守屋君、次は校舎の敵。行けるよね?」

「此処でリタイアするくらいなら最初から戦っていない。」

アイリス・ジョーカー起動から一分が経過しようとしていた。
違法ギアの搭乗者達がどれくらいの頻度で連絡を取り合っているのか?
校舎側の敵ギアのレーダーがアイリス・ジョーカーの反応を捉えているとしたら?
違法ギア4機を秒殺したからと言って安心出来る状態では無い。
此処から先は時間との勝負だ。事態を進めてしまった以上、後戻りは出来ない。

「だよね!良い物があるから、こっちに!」

霧坂はアイリス・ジョーカーのレーダーに方向指示用のマーカーを表示させ守屋を誘導。
守屋が向かった先には何故か、射出用のカタパルトが鎮座していた。

「…もう、何でもアリだな。この学校。」

「あはは…何かねスポンサーが折角だから買ってみようって…」

折角だから何なんだ。これには流石の霧坂も苦笑するしか無いようだ。
しかも、使われた形跡が全く無いと来ている。実際、何時何処で使えば良いのか分からない。

「本当に役に立つ日が来るなんて思わなかったけどね。」

「確かに…これが最初で最後と願いたいがな。霧坂、カタパルトの射出制御を頼む。」

カタパルトの射出口に機体をセットしコントロールを管制塔に居る霧坂に委ねる。

「オッケーオッケー、超特急で吹っ飛ばしてあげるよ。」

霧坂の妙に嬉しそうな声が、何故か守屋の恐怖心を煽った。

「一つ確認しておきたいんだが…この全く使われた形跡の無いカタパルト…使い方分かるんだよな?」

「んーん。こんな使い道の無い上に訳の分からない物に時間を費やしてらんないってば。」

と言う割には妙に手馴れた手付きで、コンソールを叩いている。

「ま、この手の装置の操作方法なんてどれも似たようなものだしね。あ、機体の固定スイッチ見っけ。」

カタパルトから離れようとするが時既に遅し、アイリス・ジョーカーはカタパルトの射出口の中で電磁ロックされる。
何故、よりによってそんな面倒な物を見つけてくるんだと泣きたくなるが状況が状況だ。霧坂を信じるしかない。

「頼むから、しくじるなよ?」

「大丈夫!少しミスってもMCIって頑丈だし!」

聞き捨てならない言葉を聞いて、相棒を見捨てて逃げ出したくなった。
今は霧坂を信じるしか無いのだが、信用出来る筈が無い。
こうなっては自分の運を信じるしか無い…信じるしか無いが八坂に転入して以来、ケチの付きっ放しだ。
よくよく考えたら、霧坂よりも自分の運の方が信用ならない。
最早、頼る事の出来る相手は相棒であるアイリス・ジョーカーの装甲だけだ。

「えーと、突入角?意味分かんない。取り合えず、真っ直ぐ一直線。」

「お前、俺を殺す気か?実は俺の事、相当嫌いだろ?」

「割りと好きだけど?ほら女は愛嬌、男は度胸って昔の人も言ってたしね?」

そんな、ン千年も昔の言葉を持ち出されても納得が出来るわけが無い。

守屋の嘆きを一切無視して、霧坂は面白半分、勘任せでカタパルトの射出設定を終え
校舎にバズーカを突きつけている違法ギアに【照準を合わせて】射出スイッチを押した。

「準備完了、れっつごー♪」

(もう如何にでもしてくれ…)

小さく映っていた校舎が一瞬で大きくなり、通り過ぎていった。
辟易する程、景色が高速で流れていく光景を見て、守屋はただただ戦慄する他無かった。

(霧坂の奴…ッ!俺をライフルの砲弾か何かと勘違いしているんじゃないのか!?)

この侭ではバズーカを持った違法ギアと頭から衝突する。
当然だ。霧坂は違法ギアに照準を合わせ、さながらカタパルトが飛び道具かのように守屋を飛ばしたのだから。
そして、放物線を描くように守屋を飛ばせば安全に着地出来たのにも関わらず、一直線の直撃コースである。

(俺…何かアイツに恨まれるような事したか?)

恨みは無い。ただ使い方をよく分かっていなかった。
更に言えば、初めて触る装置が存外に面白くて、悪乗りしてしまっただけだ。

幸い、視界の中に違法ギアが入ったお陰で恐怖も嘆きも忘れて、思考が切り替わる。
足から着地が出来るようにと機体を半回転させ敵機の肩部に目測で狙いを付ける。
違法ギアをクッション代わりに使い衝撃を全て押し付ける腹積もりである。
だが、最悪の場合、ギアの搭乗者を圧死させる危険性がある。それは守屋自身も承知している。

「俺が死ぬくらいなら…お前が死ねぇぇぇぇぇッ!!」

自分が死なない事が絶対条件だと判断し、違法ギアのパイロットは見捨てる事に…
寧ろ、殺意を込めて飛び蹴り気味に違法ギアの肩口に着地すると同時に衝撃緩和剤を全放出。

MCIギアの脚部にはブースターが無い代わり、過剰スペースに足技用に大量の衝撃緩和剤が収納されている。
本来ならば打撃の威力に応じて自動的に緩和剤が放出されるのだが、今回に限って言えば自動制御に頼るまでも無い。

分かってはいたが緩衝材を全放出しても、まだ全然足りないくらいだ。
殺しきれなかった衝撃は足元の違法ギアがある程度、肩代わりしてくれるがこちらも無傷とは言えない。
脚部フレームが悲鳴にも近いような軋む音を立てながら歪み裂けていく。

モニタにアイリス・ジョーカーのダメージレポートが次々に更新されていくのを見るのは流石に怖気が走る。
遂にイエローのフォントがレッドに切り替わり、試合の即時中断を求め出した。

(こんな出鱈目な試合があってたまるか…)

漸く、装甲が軋む音が止み、無残な姿になった違法ギアから飛び退き、地面に着地する寸前に胴回し蹴りを見舞い
ミサイルランチャーを装備している違法ギアに向けて吹き飛ばし体制を崩した隙に距離を詰め頭部を掌底で叩き潰す。
崩れ落ちる敵機のコクピットブロックに膝蹴りを一撃。蹴りを打つ度に脚部のダメージレポートが更新されていく。

(緩衝材無しで足技はヤバイな…)

脚部の緩和剤が尽きている上に装甲もフレームもあらぬ方向に折れ曲がっている事もあり
蹴撃の衝撃が、自身の脚部にも甚大なダメージを与え、足技どころか歩くだけでダメージが蓄積されていく。
コクピット内部でアラートがけたたましく鳴り出すが無視して、最後の一機に向き直る。

「これで残りはお前一人だ。ここで自首すれば他の連中よりは軽い罪で済むと思うんだが?」

「ガキが調子に乗るなッ!」

違法ギアがロケットランチャーをパージし腰部からダガーを引き抜く。
流石にこんな至近距離でロケットランチャーなんて撃てば、自滅するのがオチだ。

(それにしたって、ダガーは無いだろ…)

ダガーの一閃を左腕部のナックルシールドで軽々と受け止め、頭部をもぎ取りコクピットブロックに拳打を叩き込む。

「こちとら毎日、シミュレーターで鍛えられているんだ。お前等如きに負けるわけが無いだろ…」

やれやれと肩を竦めると、左腕部の反応が妙に軽い気がする。
サブカメラで機体の状況を確認すると左腕の肘から先が綺麗に切断され足元に転がっていた。
倒したギアのダガーを改めて見ると刀身から薄っすらと光が放たれていた。

「ビームコートダガー…こんな物騒な代物、何処から持ち出してきたんだか」

柄、または刀身等に低出力のビーム発生装置を取り付けた安価で粗悪なビーム兵器もどきだ。
だが、安価で粗悪とは言え腐ってもアームドギア専用の戦闘兵装で威力の程はこの通りである。
一歩間違えたらコクピットの中で蒸発していたかも知れないと思うと、流石に冷や汗が流れる。

「霧坂。殲滅に成功したぞ。」

「お疲れ様!警察に違法ギアの引き取りをお願いしといたから。」

「ついでに業者も呼んでくれ。ジョーカーも限界気味だ。」

そう言うと同時に脚部から火を噴き転倒する。左腕、右足欠損。左足も外部装甲が剥がれ落ちフレームが歪み骨格が剥き出ている。
更に機体の隙間からは緩衝材と燃料が飛沫となって漏れ出し、誰の目から見ても再起不能である。

「だ、大丈夫!?死んでないよね!?」

珍しく慌てる霧坂を見ていると妙に安心する。元気そうにしていると、また何かやらかしかねない。

「そうだな。霧坂が変な飛ばし方をしなけれ、こんな事にはならなかったんだけどな。」

実際、戦闘で受けたダメージはビームコートダガーで切り落とされた左腕だけで下半身の惨状は霧坂がもたらした事だ。

「まあまあ、結果オーライって事で」

「物的被害しか出てないから結果は上々か…だけど、次からはミスんなよ?俺だって、まだ死にたくない。」

事実、結果オーライなのだから驚きだ。被害は決して小さくは無いがどれも金で解決出来る問題だ。
とりわけ騒ぐ必要も無いが釘を刺しておかなければ、また何処かで殺されかけてはたまらない。

「はーい。肝に銘じときまーす。それは兎も角、業者さん呼ばなきゃだね。」

「だな…これじゃ、修理どころかパーツごと交換だな…」

(悪いな相棒…工場から戻って来て早々、また工場行きだ。)

全く持って搭乗者に恵まれないギアである。
漸く巡り会えた搭乗者は乗る度に工場送りになる程の損傷を受けてしまうのか。
もしも、アイリス・ジョーカーに意思があるとすれば、八坂高校から一目散に逃げ出すだろう。
この調子では次回搭乗時は頭部を潰され正真正銘の敗北を喫する事になりかねないからだ。

統合歴329年6月2日

今日も今日とて、霧坂は其処に居るのが当然という顔をして守屋の隣に並んび
守屋は今更ながら如何してこうなったと辟易しながら学校へ向かっていた。

「結局、被害らしい被害も出なかったし違法ギアも7機撃破!
これぞヒーローの活躍だよね~♪守屋君って結構、ヒーロー体質だったり?」

大辛勝とは言え、1対4、1対3と立て続けに戦っていずれも秒殺で勝利を治めている。
霧坂は、その様を眼前で見ているのだから、そう評するのも無理は無い。

「どうだろうな…ああいう事やるの初めてだしな…」

興奮気味の霧坂に比べて、守屋のテンションは昨日からかなり低い。

「そっけない…もしかして、怒ってる?」

ある意味、殺されかけたのだから普通なら怒りもする。
だが、別に守屋は怒っているわけでは無い。結果オーライで終わったのは事実だし
終わった事も引き摺っても仕方が無い。恐らく、昨日のような無茶は二度とやらないだろう。

何故か?単純に霧坂がMCI搭載ギアが動く姿を見るのが好きだからだ。
それだけの為にギア部に入部し、守屋をギア部に引き入れたと言うのに宋銭の生徒と戦ったせいで
アイリス・ジョーカーは工場送りになり、自分の欲求を満たす事が出来ずにいた。

漸く、工場から戻って来たと思ったら違法ギアの乱入である。
実に守屋は自分の欲求を満たすのに最適な人物であった。奇襲とは言え一瞬で違法ギアを4機片付けたのだ。
当然の事ながら興奮もするし、悪乗りもする。だが、自分が悪乗りした結果がこの様だ。

そこは守屋も何と無く理解している。利己的な考えに基づいた上で、あんな事はやらないと言っているのだ。
迷惑をかけてごめんなさい。反省しています。二度とやりませんなど言われるよりも余程、信用出来るというものだ。

「別に昨日の事なら少しも怒っていない。ただ今度は停学何週間かな…とか思っていただけだ。」

違法ギアを7機破壊し、人的被害を一切出さずに事件を鎮めた。物的被害のみでいずれも金で解決出来る。
出来るが問題はその金額である。アイリス・ジョーカーの修理費用は勿論、その他の校内施設の修理費用。
相場は分からないが、全て合わせると目玉が飛び出る程の金額になる事は間違い無いだろう。

「だ、大丈夫だよ!昨日だって警察庁から表彰されたんだし…それと…ほら、メディアにも取り上げられたんだし?
が、学校の評判も…多分、上がっただろうし…ね?きっと、多分、大丈夫!!」

「そこは嘘でも断言してくれ…」

「あ、あはは…ご、ごめん…」

守屋の顔に暗い影が覆い被さっているように見えて、無理にでも笑い飛ばそうとするが無理だ。
流石に退学という事は無いだろうが、流石の霧坂でも素直に謝罪する事しか出来なかった。

守屋が教室に着くと、中に居る生徒は皆、静かになる。停学が明けてから続く慣習みたいなものである。
教室棟の廊下を文字通り血の海に変え、その血の上の真ん中で返り血塗れで立っていたのだから、脅えもする。

そして、昨日の事件である。違法ギアを自分達の目の前で一方的に叩きのめした。
スポーツギアは今、最も勢いのある娯楽である。元々は戦闘兵器だが試合の内容自体はクリーンなものだ。
なのにも関わらず、燃料や緩衝材を撒き散らし、けたたましい音を鳴らしながら装甲やフレームを歪ませ、最後は爆発。
大半の生徒は守屋をこう評している。『鋼鉄の破壊神』と。

そんなわけで、八坂高校の生徒と守屋の間には深い溝があり、昨日の一件で更に溝が深まった。
ギア部のメンバー以外で守屋に話しかけるような命知らずの生徒は一人も居ない。

だからこそだ。守屋はクラスメイトに声をかけられて少しばかり驚いた。

「あ、守屋・・・君。り、理事長がスタジアムに来るようにって…」

(伝言か…昨日のアレは…ヒーローとかじゃなくて脅えさせるだけに決まっているよな。)

流石に鋼鉄の破壊神とか呼ばれている事は知らないが
顔も名前もよく覚えていないクラスメイトの脅えっぷりに
ただでさえ深い溝が更に深くなっている事を何と無く感じ取り、無言で頷いた。

「何の用だろ?」

「昨日のアレだろ?ちょっと行って来る。」

静かな教室に守屋の声はよく通る。
昨日のアレという言葉に反応する生徒が数名。

教室に長く居ると生徒の反応に心が折れそうになるので辟易しながら廊下に出る。
これではまるで苛められっ子だ。実際、昼休みは屋上で独り寂しく食事をしているか
スタジアムのシミュレーターで黙々と訓練をしているかのどちらかで、苛められっ子に近い行動パターンだ。

尤も生徒からすれば猛獣が居る檻の中に放り込まれたような気分で気の休まる時が無いのだが。

「守屋君、私も行くよ。」

廊下を足早に進んでいると霧坂が後を追って来た。
どうして、コイツはこう大人しく出来ないのだろうか。

「霧坂…もうすぐ授業、始まるぞ?」

「だーいじょーぶ♪私も理事長に呼ばれたって事にしてもらっておいたから。
それに昨日のアレは私にも責任があるわけだし…ね?」

てっきり呼び出しを利用してサボる気だと決め付けていただけに
霧坂の口から責任なんて言葉が出て来て絶句するしか無かった。

それにしても遂に理事長の呼び出されるとは…コイツはいよいよ退学か。
何故か着いて来てしまった霧坂が説得してくれるのではか期待してしまうが間違い無く状況を悪化させるだけだろう。
今更になって気付いて追い返そうとするが既に手遅れだ。既に理事長の目の前に居るのだから。

「やあ、守屋一刀君だね?」

「はい。」

理事長と言う割には若い男が守屋の姿を見るなり屈託の無い笑顔を向ける。
怒りが通り越してという奴なのだろうか、笑顔の若い理事長の姿はさながら死刑執行人に見えた。

「先日の騒動でご迷惑をおかけしました事、申し訳御座いませんでした。」

謝って解決するわけでは無いが、理事長に向かって頭を下げる。
死人が出なかっただけマシというだけの話に過ぎず、かなりの被害額が出ている筈だ。
あまりの申し訳無さに思わず謝罪の言葉が勝手に出てしまったのはルーツが倭国人だからだろうか。

勿論、出来れば処分は反省文だけで勘弁して下さいという思いも大いにあるが。

「おや?謝る事は無いんじゃないのかな?」

「え?」

守屋がふと顔を上げると、理事長から笑顔が消える代わりに心底、不思議そうな表情をしていた。
何故、この生徒は自分に向かって頭を下げて謝罪の言葉を述べているのだろうかと。

「今日は君にお礼が言いたくてね。人的被害を一切出さず、違法ギアを無力化し無事に逮捕出来た。
君のお陰で誰も傷付かず、悲しまずに済んだ。本当に有難う。」

屈託の無い笑顔を守屋に向けられ守屋は仰天するしか無かった。
霧坂はさて置き、クラスメイトは独り残らず自分を恐れているというのに、感謝の言葉を受けるとは。

「お、俺はただ衝動的に動いただけで…一歩間違えれば大惨事に…」

「確かにそうだね。だけど、結果が全てさ。君の行いが八坂高校の生徒と職員、452名を救ったんだ。
誰も君を罰する事なんて出来やしないさ。寧ろ、僕等大人が不甲斐ないせいで君に全て押し付けてしまって申し訳無く思うよ。」

罰せられるのが当然くらいの気持ちで来ていた守屋には理事長の言葉はどれも寝耳に水である。
だから、驚き戸惑う守屋の態度が理事長は不思議でならなかった。

「君は大人でも簡単には出来ない事をやってのけた。誇るべき…にも関わらず、何故そんなに罪悪感を持っているのかな?」

罪悪感だらけで咄嗟に言うべき言葉が見つからない。言葉を詰まらせていると理事長は言葉を続けた。

「君が何を思うと誇っても良いだけの事をやった。君の行いに勇気を持った者、感謝の念を持った者が居る事を忘れないでくれ。
そういった者達の為にも、あまり自分を卑下しない事だね。」

「そうだよ?私もその一人だしね?」

理事長と霧坂の一言を嬉しく思う反面、霧坂が言うと胡散臭く感じるから不思議だ。

「それで…授業中にも関わらず何故、君が此処に?」

処罰無しなら、最初から霧坂が居ない方が良かった。
折角、丸く納まりそうだったのに一騒動起きそうだ。

「守屋君に停学処分とか下すんだったら私も一緒に罪を被ってやろうかと思ってね。
守屋君を違法ギアに差し向けたのもアイリス・ジョーカーをカタパルトで校庭にぶっ飛ばしたのも私だからね。」

「おいおい…酷いな。僕がそんな事をする人間に見えるのかい?」

「そんな事言ったって、大人の世界は理屈や結果だけじゃ通らない事ばっかりでしょ?」

「霧坂、言葉が過ぎるぞ。」

普段の霧坂からは想像も出来ない程、刺々しい物言いに守屋もまたきつく嗜める。
折角、丸く納まりそうなんだ。お前は空気か地蔵のように大人しくしていてくれと思ったが
霧坂は守屋の心配なぞ何処吹く風だ。

「あ、言ってなかったっけ?コレ、私の従兄。ただのギアオタク。でもって、ギア部の顧問にしてスポンサー。」

色んな意味で衝撃的な事実である。八坂栄治(ヤサカ エイジ)34歳。
本来、アームドギアマニアだったのだが、今から10年程前に開催されたマシンフェスタにて初公開されたスポーツギアに魅せられ
スポーツギアチームを結成する為、資産家である両親から金を無心しようとするが放蕩息子にそんな大金を引き渡す筈も無い。
金が欲しければ仕事を手伝えという流れになり、八坂高校の理事を勤める事になったらしい。

そして、現在。理事長という立場をフル活用しスポーツギア部を設立し
ギアスタジアム一棟、MCI一機、SCI五機、シミュレーター10台、カタパルト一基を購入
とんでも無いドラ息子である事と同時に、霧坂の血縁者である理由がよく分かった。
きっと、霧坂を男にして金を持たせたらこうなるに違いないと失礼極まり無い事を考えていた。

「まあ、そんなわけで、今後も従妹を宜しく頼むよ。」

そればかりは本気でご免被りたい。既に限界気味だ。
理事長の不穏なお言葉はただの社交辞令だと聞き流す事にした。

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