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ビューティフル・ワールド 第六話 神威

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やおよろずの面々が各々の仕事を終え床に着き、ライオネルとリシェルがカルマスと対峙している頃―――――。
あの謎の老人が観察していた発掘現場から大分離れた、辺り一面が厚い雪で覆われた平地に、その建物はある。
ペンタゴンを思わせる五角形で、灰色の壁面が印象的なその建物は、高いフェンスに囲まれ、窓やその他一切の中の様子が伺える様子は無くまるで要塞の様だ。
銃火器を携帯し、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない装甲服を着た男達が厳重に出入り口を警備している。

中では発掘品だろうか、50cm大の、氷漬けになっている数基のカプセル状の物体が、防寒服を着た人々によって慎重に運び込まれている。
カプセルの外面は凍結している為か、真っ白で何が入っているかさえ知る事が出来ない。ふと、カプセルの中から一瞬緑色の光が見えた気がするが、気のせいであろう。



――――何故だ? 何故俺を生かす? 殺せ、俺を……殺せ!

――――お前に対して敬意を払うよ、ジャック・トライン。これはその分の報酬だ。好きに使え。

――――イカれてやがる。テメェはイカれてるぜ、ジジィ……いや、レファロ・グレイ。

――――その言葉は褒め言葉として受け取って置くぞ。

――――必ず……必ず殺してやる。覚えてろ、ジジィ。

「む……」
待っている内に眠っていた様だ。老人はぼんやりとしていた目を開ける。
そして一息吐くと、何故か自嘲する様に小さく笑った。今になって奴に関する夢を見るとは。
本当に奴が私を殺しに来るのだろうか。そう考えると、老人は自然と小躍りしたい気分に駆られた。何て愉快な事だろうと。

高級素材で出来たデスクチェアーに身を任せ、うつらうつらと眠っていた老人がいるこの部屋は、何から何まで非常に高級感に溢れている。
黄金色とオレンジ色が入り混じった落ち着いた色調の壁には、金色の額縁に入れられた有名絵画のレプリカや、ミニチュア化された歴史的に貴重な彫刻が幾つも飾られている。
客人が来た際に使用するであろう、二組のソファーとテーブルも勿論高級志向だ。ある意味、老人のいる部屋その物が一つの財産と言っても過言では無い。

しかし老人はそれらに対して何ら興味など無い。
両手を組んで置いている世界有数なブランドが制作したデスクにも、更に言えば、デスクの上で光る総責任者というプレートにも。
と、固く閉じている両開きのドアをノックする音が聞こえる。老人はさぞめんどくさそうに、ノックする人物に対して声を掛けた。

「入れ」

老人の言葉に、ドアを開けて何者かが部屋に入って来た。老人に情報端末を見ながら何かを伝えていた黒服だ。
黒服は失礼しますとはっきりした声で言い老人に一礼すると、続けて用件を話しだした。

「レギアスの実験準備が整いました。何時でも始められます」

黒服が離した用件を聞いた途端、死んだ魚の様に沈んでいた老人の目が、発掘現場を見ていた時と同じようにギラギラと生気を帯びてきた。
聞くが早く、老人はデスクチェアーから立ち上がり、黒服の元へと歩む。防寒服の中に隠れていた老人の全身像が明らかになる。
身長は意外と高く、常備着ているのだろうか、薄汚れた白衣の下には人民服とスーツを足して2で割ったような独特のデザインの服を着ている。
しかし気になる点はそこではない。老人の手足から上へと伸びる様に、いくつものチューブが這っている。何のチューブかは、今は分からない。

黒服の元を通り過ぎる際、老人は口の端々に笑みを浮かべながら、黒服に言った。

「武装隊も招集しておけ。何が起こっても、対処できるようにな」



                       ビューティフル・ワールド

                    the gun with the knight and the rabbit



リシェルが勢い良く杖を突き、その言葉――――パラべラムを言いきった瞬間、禍々しき赤紫の光が、杖に嵌められた球体から渦の様に放たれる。
その強烈な光はカルマスの視界を激しく遮り、カルマスは反射的に目元を両腕で覆った。このまま見続けていると目が潰れそうだ。
リシェルは別人の如き、不気味な笑みを浮かべながら、続けて杖を空中へと放り投げた。夜空を激しく照らす、毒々しき閃光。

「何がしたいかは知らんが……向かうなら女子供とて容赦はせんぞ!」
あくまで冷静を気取りつつも正直、怒り心頭なカルマスはそう言いながら銀色の球体が嵌めこまれたリストバンドを空中へと向け、その言葉を言い放った。

「パラべラム!」

すると、カルマスのリストバンドを固定した金属具が自ら外れ、リストバンドは杖の方向を向いた。瞬間、銀色の球体も共鳴するように激しく光り出した。
ほぼ同時に、杖とリストバンドをそれぞれの球体の色であるラインが大量に走りだし、輝きを増しながら覆い、やがて光と化して四散した。

四散した光は、地上で再構築され、本来の姿である――――オートマタへと形を変える。
銀色の関節色に所々に施された追加装甲、そして闘牛を彷彿とさせる二門のホーンとツインアイが特徴なカルマスのオートマタ、ガズム・レガシ―だ。
レガシ―は、召喚されるが早く、手元に持った、先端が鈍く鋭く光る、鉄球にびっしりと付いた棘が恐怖心を煽るチェーンハンマーを頭上で振り回した。だが……。

<……何処に行った?>
レガシ―が首を傾げるのも無理はない。先程まで自分達を挑発していた二人の姿が、何処にも見えないからだ。高揚していた気分が萎え、レガシ―はハンマーを持ち直す。

「油断するな、レガシ―。奴らは必ずどこかに隠れている筈だ」
そう言いながらも、カルマスも二人が何処にいるのかが分からない。深夜である事もあり、闇に紛れてこちらを伺っているのだろうか?
もしや奴らの持っているオートマタは遠距離戦主体なのか? なら少しばかり不利だ。いや……なら何故攻撃してこない?
様々な疑問がカルマスの中に浮かんだ――――その時。

<……貴様か>
レガシ―がその気配に気づき、背後を振り向いた。レガシ―から数メートル離れた場所に――――そのオートマタは、いた。

柳の様にゆらりと佇むその姿は、遠目から見ると人間と間違えそうになるほど細い。しかし全長から言えば、絶対に人間では無い。
レガシ―に続く様にカルマスも背後を振り向く。街灯と月明かりに照らされ、そのオートマタが姿を現す。


オートマタの機体色は、赤紫でかつ、赤い部分が鮮血の様に鮮やかだ。しかしそれでいて美しい。
体型と言えばレガシ―は勿論、リヒタ―やヘ―シェンとは全く違う――――言うなれば細身である。それも異様に。
腕部と脚部はスラリとしており尚且つ長いが、軟弱な印象はない。むしろ強靭さを感じさせる。

手足と同じく細い胴体には、大極図の如き白黒で描かれた円形の塗装が施されており、目の様な赤と緑の穴がどちらもはっきりと発光している。
全身の排気口であろう部分から、赤い粒子が少量づつ排出しており、特徴的な頭部の排気口から排出されている赤い粒子は、髪の毛の様に夜風に靡く。
黒いツインアイから覗く、紅き光を放ちながらレガシ―を見据えるカメラアイ。
そして右手に持ちし、闇夜でありながら妖しき光沢を放つ、自らの全長の半分はあろうかという程に長き刃の日本刀。

そのオートマタを一言で言えば、武士。しかしながら正義の名の元に力を使う、品行方正な武士では無い。
人斬り――――対象を一片残さず斬り殺し、あまつさえ殺し合いを愉しむ、あまりにも危険かつ残酷な――――人斬りの雰囲気を感じる。

「貴様か……名は何と言う?」

カルマスが警戒しつつ、オートマタに向かって名前を聞いた。しかしオートマタはカルマスに対しても、レガシ―に対しても何ら反応を見せない。
否、下げていた右腕をゆっくりと上げて、レガシ―に向かいオートマタは日本刀を向けた。恐らく……いや、考えるまでも無い。
カルマスはオートマタのその行動に訝しげな表情になりながらも、不敵な笑みを浮かべながら言った。

「言葉は不要か……叩き潰せ、レガシ―!」
<了承した!>

カルマスの合図とともに、レガシ―は再びハンマーを頭上で振り回しながらオートマタに向かって突進する。
しかしオートマタに反応は無い。ただ静かに、レガシ―に向かって日本刀を突きつけているだけだ。
距離が縮まってきた。カルマスは口元をニヤリとさせ、右手を思いっきり振り上げながら、叫んだ。

「潰れろぉ!」

カルマスの叫びと共に振り下ろされるチェーンハンマー。このまま落とされれば、間違いなくオートマタは一巻の――――。


<――――陽炎>

オートマタが聞こえない程の小さな、しかし芯が通った低い声でそう呟いた。



<……何?>                          
目の前で起こった事に、レガシ―は驚嘆する。確かに今、ハンマーはオートマタに向かって振り下ろされ、次の瞬間棘と鉄球の重量によって、無残な姿を晒す、筈だった。
だがしかし、目の前にオートマタの姿は無い。そこに映るは、ハンマーによって貫かれてぽっかりと空いた穴と、激しくかつ深く凹んだ瓦礫のクレーターだけだ。
振り下ろした時の衝撃で、2メートル程のクレーターと大穴が出来る程の威力とスピードを持つこの攻撃を、寸前で交わしたというのか? 
ハンマーを持ちあげ直し、レガシ―は再びオートマタの姿を探す。今度こそ逃がさない、絶対に。

「奴め……一体何処へ……」
未だに姿の見えない二人と、姿を消したオートマタに辟易しながら、カルマスは周辺を注意深く探す。

と、カルマスは気付いた。レガシ―の背後で、日本刀を肩を回して構えている、オートマタの姿に。

「レガシ―! 背後だ!」
カルマスがそう叫んだ。レガシ―は反射的にハンマーを背後へと放る。その、刹那。

<なっ……!>
捉えた筈のオートマタの姿が、陽炎の様に薄くなって、煙の様に消えた。残像だというのか?
……違う。残像じゃない。これは――――レガシ―は焦りを覚えながら、上空へと頭部を向けた。
そしてハンマーを高速で回転させながら、上空より襲いくるオートマタに向かって、全力で放る。凄ましく回転しながら飛んでいく鉄球。


<――――三日月>
呟きながら、オートマタは日本刀をハンマーに向かって振り下ろした。
三日月の様に美しい軌跡を描きながら振り下ろされたその太刀により――――ハンマーは音も無く切断され、地上に叩き落ちた
レガシ―は驚嘆しているのか、その場から動けない。動揺したカルマスが、必死に声を荒げてレガシ―に避ける様に叫ぶ。

<散れ、弱き者よ>

一瞬の閃光が両機の間を奔り、レガシ―の背後にオートマタが着地する。膝を付くレガシ―。
オートマタは日本刀を静かに振り下ろした。レガシ―は何故か、肩をユラユラさせて手元から落ちているチェーンハンマーを拾おうとしない。いや、拾えないようだ。
明らかに異常を感じ、カルマスが自分の中に湧きつつある恐れを押えながら、オートマタに聞いた。

「……レガシ―に何をした?」
<人間で例えれば腱の筋を切断した。破壊した訳ではないから安心しろ。再利用させてもらうからな>

そしてオートマタはレガシ―に向き直ると、日本刀を向けた。レガシ―は肩が動かせず、ただ膝を付き最後の時を待つ――――訳ではない。
オートマタに気づかれぬ様、両方のつま先に収納されている隠しナイフを起こした。刃先がギザギザになっており、如何にも好戦的なデザインだ。
足裏にマナを収束させながら、レガシ―はカルマスのサインを待つ。カルマスがそれに気付き、レガシ―に小さく頷いた。

次の瞬間、レガシ―はその場から勢い良く飛び跳ねると、半回転しながらオートマタを捉え、隠しナイフを90度下ろした。
<我らに……敗北は無いのだ!>
レガシ―が両足を揃えて、オートマタへと脚部を伸ばし、胴体を突き刺すべく飛び降りる。
カルマスも、レガシ―もこの時点で勝負の終わり――――自らの勝利を予感した。

かつて、数多のオートマタと戦ってきたが、レガシ―のこの意表を突いた攻撃を受け、立ち上がったオートマタはいないからだ。
例えバリアを張った所で、この攻撃は上空からの攻撃と、ナイフに収束されたマナによってバリアでさえ貫通するほどの衝撃力を持ち得る。決まった――――筈だった。

<――――所詮、弱者は弱者、か>

<―――――空蝉>

そう呟き、オートマタは日本刀を逆手持ちした。そして――――。

――――カルマスにも、ましてやレガシ―にも、その瞬間を認識する事は出来なかった。しかし1つだけ、確かな事がある。

レガシ―の、敗北だ。そして同時に、カルマスの敗北でもある。
つま先の隠しナイフは、これ以上無い程綺麗な切断面を見せており、レガシ―の脚部は切れたゴムの様に伸びきっている。
手足の一切の自由を無くし、レガシ―はそのまま地上に墜落した。仰向けでレガシ―に、闘志はもう無い。

「ば……馬鹿な……そんな、馬鹿な……!」
カルマスはただただ、目の前の現実を許容できず、わなわなと肩と声を震えさせた。
それもそうだろう。今までどんなオートマタでさえ、その強さで圧倒してきたレガシ―が、どこの馬の骨かも分からないオートマタによって完膚なきまでに敗北を期したのだ。
戦意を喪失したのか、レガシ―は何も言わず、時折苦しそうに呻いている。オートマタは日本刀を持ちかえると、素早く振り下ろし、頭部を少しだけ、カルマスに向けた。

<失せろ。ライオネルが何も言わん内になら、怪我をしなくて済むぞ>
立ち尽くしているカルマスにそう言い、オートマタは呆然としているレガシ―の近くへと悠然と歩いていく。

<何を……する気……だ>
<すぐ楽にしてやる>
レガシ―に返答しながら、オートマタはしゃがんで、レガシ―の胸元に左手を当てた。
するとオートマタの左手に、レガシ―のマナであろう光を帯びたラインが各部から集束しだし、オートマタの左手をを淡くおぼろげに照らし出す。

<あ……うう……>
<お前の――――命を貰う>
そう言いながらオートマタが左手を握った途端、オートマタの大極図の黒に位置する赤き穴が一瞬眩しく光ると、すぐに元に戻った。
レガシ―のツインアイは真っ暗になっており、完全に事切れている。事切れているというより、マナが残らず吸収されたといっても良い。

「き……貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
オートマタがレガシ―に行った所業に、遂にカルマスの堪忍袋の緒が切れた。
腰元に備えた大型ナイフを取り出し、オートマタに少しでもダメージを与えようと走り出す――――その時。

「失せろっつったのが聞こえなかったか?」
背後から声が聞こえた途端、カルマスは肩を掴まれて無理やり振り返らされると、みぞおちに向かってライオネルによる強烈なアッパーを喰らった。
内臓を抉る様な激痛に、カルマスは持っていた大型ナイフを落として、膝を付き口から胃液らしき白い液体をぶちまける。

「帰るぞ、神威」
カルマスに対して何の反応も見せず、通り過ぎたライオネルが眠そうに髪の毛を掻きながら、オートマタに声を掛ける。
神威と呼ばれたオートマタは無言でレガシ―を左肩で担ぐと、その場を後にすべく、ライオネルと共に歩き出す。その後ろから追いかけるリシェル。

「ま……待て」
必死に激痛を抑え、薄れて行く意識を保ちながら、カルマスは去っていく二人と一機に声をかけた。しかし止まる気配はない。
どうにか立ち上がり、カルマスはふらついた足元を少しづつ動かしながら、近づいていく。

「レガシ―を……持っていく……な……俺に……は……そいつし……か……」
「……神威」
リシェルが立ち止まり、憐れんだ目をカルマスに向けると、オートマタに向かって囁くように呟いた。
神威と呼ばれたオートマタはリシェルの呼びかけに無言で頷くと、振り返り、カルマスの姿を見据えた。そして日本刀を構え――――言った。

<光陰>

カルマスの背後で、神威が静かに、日本刀を振り払う。
カルマスは白目を剥くと、その場にゴロンと横たわった。その表情、状態から察するに気絶、もとい失神したのだろう。

「お疲れさま、神威」
戻って来た神威に、リシェルは装甲に優しく触れながら、労いの言葉を掛ける。
神威はリシェルに小さく頷くと、再び歩きはじめた。かなりの重量である筈のレガシ―を、その姿見に反して神威は軽々と担いでいる。

<しかし主、ライオネル。私には疑問がある>
神威の言葉に、リシェルは小さく首を傾けた。

<ここに至るまで、我々の強奪計画は成功しているが、何故オートマタの持ち主を始末してはならぬのだ? 計画が知られぬとも>
「神威」

リシェルが少し困り顔を浮かべながら、神威にその訳を話す。


「良いんだよ、アレで。神威の峰打ちで立ち上がれる人なんている訳無いんだから。それに」

「人――――殺したくないから」

そう言って、リシェルは儚げな笑顔を見せた。
今にも消えてしまいそうなその笑顔は、さっきまで殺気立っていた、好戦的な笑顔を見せていた少女とは、まるで別人の様だ。

<主がそう言うなら……すまない>

再び歩き出す、2人と1機。と、ライオネルがあくび交じりに、リシェルを褒める。
「にしてもリシェル、毎回思うがお前の戦術は的確だな。大した奴だよ、お前は」

ライオネルのその言葉に、リシェルは首を振ると、至極当たり前な感じで答えた。


「簡単だよ。私見えるもん。戦う前から――――」


「その人の、未来が」


蛍光灯が照らす、無機質な長い廊下を老人と黒服、そして物々しい銃火器と装甲服に身を包んだ、数人の男達が歩く。
しばらく歩いていくと、鉄製の大きなドアが。老人達の前に現れた。黒服がドアの横に配置された電子機器に親指を当てる。
するとドアが音を立てて左右にスライドした。黒服が先導する様に中に入る。

中には、白衣を着た者達が各々の作業を行っていた。ある者は電子顕微鏡を観察しながらレポートを書き、またある者はパソコンに膨大なデータを打ち込む。
どうやらここは研究室の様だ。何の研究かは分からないが、大勢の研究者達がある研究について設備を使って励んでいる。
研究者たちは老人を見ると、深く一礼する。それほど、この老人の権威は高いようだ。と、その内の一人である太めの男(以下太め)が、老人達に近づいてきた。

「実験はどうなっている?」
「今すぐにでも始められます。こちらへどうぞ」

老人に答えるが早く、太めが老人達を先導すべく歩き出す。老人達はそれに続く。
研究室の奥、この部屋に入る時と同じく、鉄製のドア。男が黒服と同じ動作をし、ドアを開いた。太めから黒服、老人、男達と言った順序で、その部屋に入る。

その部屋は実に異様な形をしていた。
U字型に設計されており、真ん中には見るからに厚く施された防弾ガラスと、防弾ガラスの先には実験を行う為の真っ白い部屋が見える。
ドアを入るとすぐに、大きな機材を弄っているもう一人の眼鏡を掛けた男が見えた。男は驚いたのか、老人を見、慌てて一礼した。

ガラスの先に見える白い部屋には、解凍されたものの、未だに中身が見えない冒頭で運び込まれていたカプセル一基。
それとカプセルからまっすぐ、無造作に置かれた巨大な鉄塊が置かれている。
「実験はロボットアームを使用して行います。また、このガラスは非常に高い強度を持っており」
「能書きは良い。さっさと始めてくれ」

男老人がそう言うと、太めは若干不満げな表情を浮かべそうになるが、黒服の視線に気づいてすぐに取り消し眼鏡に指示を出した。
眼鏡は頷くと、機材を動かし、天井からロボットアームという名が示す見ようによってユーモラスな機械が降りてくる。
ロボットアームはカプセルの蓋を掴み、くるくると回すとゆっくりと慎重に、カプセルの蓋を外した。

すると、カプセルの中身であろう6段に積み重ねられた円形ブロックの中から、謎の物体がぞろぞろとアリの行列の様に出てきた。
肉眼で確認できるものの、非常に小さいそれは異常な数で、白き床を真っ黒に染めていく。物体はまっすぐ、目の前に置かれている鉄塊へと向かう。
鉄塊に群がりだした物体は、瞬く間に鉄塊を覆い尽くしていく。その様子は、まるで鉄塊を捕食している様に見える。

と、物体に変化が生じ始めた。一部分の群がっている物体が、一つの平面的な五面体を創り出した。
その反応は連鎖的に起こっており、物体と物体同士が五面体となって合体し、一つの形となりながら成型し続け、やがて確固たる形へと姿を変えていく。
物体によって巣食われた鉄塊は既に原型が無い。物体は粘土の如くグニャグニャと変形しながら――――遂に一つの形になった。

それは人、だ。2メートル近くあるその人は、彫刻を思わせるがごとく、見事かつ美しき姿。しかし、顔は無い。

「やった……! 実験は成功だ!」
太めが興奮を押えきれない様に声を上げた。おなじく、ロボットアームを操っている眼鏡も歓喜の声を上げる。
黒服と男達は関心が無いのか、とくにリアクションが無い。リアクションが無いと言えば、この実験に喜々としていた老人も―――――否。
何故か老人の目は笑っていた。まるでこれから起こる、何かを心待ちにしている様に。

「よし、実験は成功だ。それじゃ……」
眼鏡にロボットアームを停止させるよう、太めは声を掛けようとした、が太めは一寸、声が出なくなる。

眼鏡の口を、先端が異常に尖った針が突き刺していた。眼鏡は喉から大量の血を流しながら仰向けに倒れた。
安全に問題が無い筈の防弾ガラスを、物体の針と化した指が穴を開けていた。物体は何がおかしいのか、首を傾けた。

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
太めが金切り声を上げると同時に、黒服が後ろの男達に鍵を渡した。隊長らしき男が、鍵を差して白き部屋へと突入する。
銃火器を構えて入って来た男達を、物体は不思議そうに眺めている。本当に状況が飲みこめていないのだろうか……それとも。

「撃て―!」
隊長が叫び、他の隊員達が隊長と共に銃火器を物体へと一点集中させて乱射する。部屋に響く耳を張り裂けそうな銃声音。
しかし、幾ら銃火器を乱射しても、物体は弾丸を吸収し、無に還す。物体の後ろで壁一面に大量の弾痕が出来る。

ごろんっと音がして、隊員達があっけに取られた。隊長の生首が、物体の近くをコロコロと転がっている。
続けて隊長の近くに居た隊員の脇腹が、血液を床に散らばしながら切断された。ぐちゃりと零れる、腹腸と臓物。
物体は自らの手足を鋭利な刃物に変化させて、男達を斬殺した。そこには、一切の情も無ければ、遠慮も無い。

「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
恐怖のあまり絶叫しながら、隊員の一人が物体に向けて再び銃火器の引き金を引いた――――途端、重火器を握っていた両腕が、宙を飛んだ、
トリガーを押しっぱなしであるそれは、弾丸を発射しながら残っていた二人の顔面をぶち抜く。弾ける、顔と顔。
一人両腕を切断された隊員が、恐怖におののいた表情で物体を見上げた――――途端、額を貫かれて、絶命した。ちなみに太めはガタガタを隅で震えて動く気配すらない。
「私だ、いますぐ」
あまりの緊急事態に、黒服が備えられた電話を取った。が、その手を老人が制する。

「ここで起こった事は事故として処理しろ。外に絶対に漏らすな。良いな」
老人のその言葉に、黒服は少し俯くと、電話を戻した。と、老人が白い部屋の中へと入ろうと歩きだす。

「博士!」
黒服が呼びかけるが、老人は一切聞こうともせず、むしろ足を速めて、白い部屋に入った。
黒服は苦虫を潰した様な顔になると、ため息を付いてホルダーから拳銃を取り出し、太めの頭を撃ち抜いた。

白い部屋に入った老人を迎えたのは、この世のモノとは思えない地獄の様な光景だった。
辺りを染めるまだ温かい鮮血の色と匂い、散らばった臓器。だが、老人はそんな光景に、眉一つ動かさない。
物体は手足を元の状態に戻すと、老人に頭を向け――――無機質な声で、聞いた。

<――――オマエ、ナニモノ、ダ?>

老人はおもちゃを見つけた子供の様な、満面の笑みを浮かべたまま、答えた。


「私の名はレファロ。レファロ・グレイ」


「レギアス、お前のマスターだ」



やおよろず宅。各々の仕事が終わり、皆就寝した中、青年――――隆昭は壁に寄りかかり、座って窓から月を眺めていた。
どっと疲れが出ている筈なのに、何故だか眠れないのだ。理由は分からないが、目が覚めてしまって困る。
なので眠くなるまで月を眺めている。良絵う空には見事に程に真ん丸な月が浮かんでいる。

「鈴木君?」

ふと呼びかけられ、そちらに顔を向けた。髪を解いたロングヘア姿の遥が立っていた。
三つ編みの活発な時とは違い、落ちついているその雰囲気は、まるでお姉さんの様な感じだ。

「もう夜遅いけど……眠れないの?」

遥の質問に、隆昭は少し俯いて、遠慮がちに答えた。

「すみません、ちょっと目が覚めちゃってて……」

隆昭がそう言って頭を下げると、遥は隆昭の隣に座った。
「明日、メルフィーちゃんと一緒に町に行こうよ。君達の生活用品、揃えなきゃね。それに」

遥の言葉に隆昭は一瞬目を丸くしたが、遥は柔らかい笑顔を浮かべて、続ける。

「この世界の事、もう少し知らないと」

月明かりのせいか、隆昭は遥の姿にやけに大人びて見えて、すこし照れる。


「……はい」

隆昭の返事に嬉しそうに頷き、遥は月に目を向ける。

「綺麗だね、お月さま」

「綺麗ですね……月」



                              第6話




                              神威


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