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廻るセカイ-Die andere Zukunft- Episode4-2

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朝、携帯のアラームが鳴り響き、意識が目覚めていく。
「……朝、か」
携帯のアラームを止め、いつも通り窓を開け放つ。昨日の曇天からうってかわっての雲一つ無い晴天。いつもならば清々しい朝だ、と気分が優れるのだが、さすがに今日はそんなことを考える余裕はなかった。
「……三時か」
今日の十五時に住宅地区南部の廃墟群。相手はオレを殺そうとしてきたイェーガー。緊張しないわけがなかった。
だが、と言っても今の自分には出来ることはない。時間まではいつも通りに過ごすことにしよう。
さすがにイェーガーとて、白昼堂々とは仕掛けてこないだろう。
ベッドから降り制服に着替え、バックを担いでリビングに向かう。
いつもと変わらずに両親に挨拶をし、朝食を食べ、家を出る。
守屋神社の石段をゆっくりと登って行く。夏のような日差しが眩しい。だが、神社の境内は外よりか涼しく感じられるような気がした。
そのまま境内を進んで行き、奥にある千尋の家のインターホンを押す。そしてあまり時間を置かずに玄関の扉が開く。
「うぃーっす」
長い茶髪を揺らし、気だるそうに挨拶をする千尋。
「おう」
それにいつもと同じように返し、並んで歩き出す。
「今日どーする?バス?」
「自転車でいいだろ」
空を見上げる。空は自室の窓から見た色と同じ青一色だった。
千尋と並んで石段を降り、入口に停めておいた自転車に跨りペダルを踏む。
少し後ろから自転車を走らせた千尋も追い付き、鋪装された道路を並走する。
「なんかヤスっち、今日雰囲気変だぜ」
「オレが?」
走り出して十分もしない内に千尋が口を開く。一瞬後ろを振り向くと、そこには千尋の訝しげな顔があった。
「そうか?別に…オレはいつも通りだけど」
「なんか違うよーな気がする。多分私とこーちゃん、あと千春くらいしかわからないんじゃないか、ってくらいだけど」
よく聞く言葉に出来ない違和感というヤツだろうか。実際緊張や警戒はしているから千尋の感じている違和感は、間違っていないのだが。
「…トイレ我慢してるだけだ」
結局誤魔化すことにした。話したら千尋に迷惑がかかる可能性があるし、話しても意味はないだろう。
「ま、そういうことなら別にいいよ」
千尋は軽く笑い、話をそのまま切った。付き合いが長いのだ。オレの緊張を些細な違和感として感じたように、これもオレが話す気がないという事が伝わったのだろう。そう、思うことにした。
そのまま関係がないくだらない事を話しながら、あっという間に学校へ着いてしまう。
駐輪場に自転車を停め、校舎に入り自分の教室へと向かう。


「おっはよー」
千尋が先に挨拶をしながら教室に入り、オレもそれに続くように入る。
自分の机の上にバックを置き、椎名のとこに向かう。
「おっす、椎名」
椎名は自分の机に座り、動かしていた右腕を止め、こちらに向き直る。
「おう、安田か」
「椎名、お前何書いてんだ?」
すると椎名は机の上に置かれていた冊子を軽く叩き、軽く疲れたように口を開く。
「弓道部の日誌。どんな練習したとか反省点とか、そんな感じのことを書くんだ。この前の金曜日サボろうとしたツケで休日練習に駆り出されたからな。土日分の日誌を今書いてるんだ」
金曜日というと、椎名がオレたちとゲーセン行こうとして遥先輩に捕まった件か。
「サボろうとしただけでそんな罰があるのか。意外に厳しいんだな……自業自得だが」
「曲がりなりにも運動部だからな。筋トレじゃないだけまだマシだ」
椎名なら筋トレでも余裕な気がするが、できてもやりたくはないんだろう。
「ちょっと、安田くん」
後ろから肩を叩かれ、振り向くとそこには不機嫌そうな表情の宮部がいた。
「どうした?なんか提出してないのでもあったか、オレ?」
「違うわよ、はい」
宮部はオレの手を取ると、そこにレシートと小銭を握らせた。
「お釣りよ、まったく。用事があるならあるって言ってくれれば良かったのに。あんな行き方しなくてもいいじゃない」
日曜日のか…。釣りはいらないと言ったのに、さすが律義というか…真面目なヤツだ。
「悪い、ありがとな」
オレはとりあえず礼を言い、小銭とレシートをとりあえずズボンのポケットに突っ込む。
「あとで、志帆にも謝っておきなさいよ」
それだけ言うと、宮部は自分の席へと戻っていった。そして、先程から感じる視線の主へ目を向ける。
「どうした、椎名」
「あれか、援交か」
いつもの真面目な眼で椎名が見てくる。
「最近の援交はレシートが出てきてお釣りが渡されるのか。しかも手渡しか」
「…違うのか」
椎名のヤツ…真面目に援交だと思ってたのか?
「当たり前だ。日曜日にショッピングモールで会っただけだ。それ以外に何もない」
椎名は興味をなくしたように「そうか」と返事をすると、日誌を書く作業に戻った。それと同時にチャイムが鳴り、オレは自分の席に戻ることにした。
朝のHR中、教師の話を右から左に流しながらふと時計に目をやる。
AM8時46分。指定の時間は15時ジャスト。帰りの時間を含めて14時には学校を出たかった。
授業なんてどうでもいいが…とりあえず昼まではいることにして、5時限目からサボることにしよう。
オレはそう思うと机に突っ伏し、眠ることにした。緊張しっぱなしっいうのはやっぱり神経を使うから疲れてしまう。さほど時間を置かずにオレの意識は落ちていった。


昼休み。千尋に叩き起こされ、いつもの面子で昼飯を済ませたあと、オレは早々に退散することにした。元々オレは教室の中で存在感が薄い方だ。千尋にさえ気を付けていれば、誰にも気付かれず教室を抜けることはさほど難しくもなかった。
駐輪場に停めてある自転車を引き出し、跨りペダルを踏む。
軽快な車輪の回る音と共に、学校が段々と離れていく。
日常と、非日常。離れていく学校が、離れていく日常に思えてくるような気がして、オレは視線を前に戻した。
見慣れたいつもの景色。何一つ変わらない。
「(今日が、境目かもな)」
思わずため息を吐いてしまう。しかし、自業自得だ。あの時関わってしまったのは自分からなのだから。
それから程無くして自宅前に着く。自転車を停めポケットに仕舞ってある鍵を取り出し、ドアを開ける。
どうせ誰もいないので、ただいまを言う必要はない。親父は仕事だし母親は買い物だろう。
「……あ?」
靴を脱ごうとしてふと気付く。本来ならばそこには誰の靴もなかったろう場所にある、一組の小さなスニーカー。
胸中に不安を抱えながらもそのまま前進し、階段を登り自室の前に到着する。そして、そのままドアを開け放つ。
「あ、ヤスっちさん。おかえりなさい」
「いや、お前、何してるんだ」
靴から軽く予想はしていたが、非常に残念なことに予想を裏切らず、シュタムファータァがオレの部屋でくつろいでいた。
「何って、そろそろ帰ってくる頃かと思い部屋で待っていただけですよ?」
「ああ…そう…」
この娘には人の家に勝手に入るのは不法侵入という犯罪であり、尚且つ両親不在の状況で若い男の部屋に二人きりになるというのが色々と危ないというのがわからないらしい。
「まぁ、迎えに行く手間が省けたからいいけどな…」
そう呟きながらとりあえずバッグを机の上に置く。本来ならベッドの上に放り投げるのだがシュタムファータァに占領されているためできなかった。
「もう早速行きますか?」
「お前が行きたいってなら、別に今からでも構わない」
どうせオレは直接は会わないし、服なんて制服のままで大丈夫だろう。
「そうですか。なら、早速行きましょう。こちらが遅刻するわけにもいかないですしね」
そう言いながらベッドから軽やかに飛び降りる。
そうして二人で家を出て、オレは自転車に跨る。
「私はどこに乗れば?」
「……走れ」
オレがそう言うとシュタムファータァはとても驚いた表情を浮かべ、次に悲しそうな表情を浮かべる。
……感情表現がわかりやすいヤツだ。
「嘘だよ。ホラ、後ろ乗れ」
「はぁ、良かったです。ホントに走れなんて言われたら私絶望しました」
嬉しそうな表情を浮かべ、自転車の後ろに座ることなく、両足で立つ。
「やっぱりお前、軽いよな」
「……すいません、見掛けは子供で頭脳は大人なので」
「嘘つけ、頭も子供だろお前」
そうしてペダルを踏む足に力を入れ、自転車は走り出す。
滅多に行かない廃墟群までの道を間違えることなく進んでいく。
まさか、もう一度廃墟群の近くに来るとは思わなかった。
今から60年前の第二次世界大戦のときに大空襲に遭い、そのまま現在に至るまで修復されることなく閉鎖されたままの地域。
勿論お約束通り怪談話には欠かさない。肝試しにと夏場には若者が訪れることも珍しくはないらしい。
住宅地区南部に起きた12年前の事件。
それ以来オレは廃墟群は勿論のこと、住宅地区南部に近付くことも避けていた。
「(……オレはアイツらほどトラウマになってるわけじゃないから、近付けないってほどじゃあないけどな)」
だからって、気分が良いわけもなかった。
そして三十分くらい自転車を走らせ、廃墟群の入口に到着する。
巨大な鉄の門に、コンクリートの壁と鉄条網に囲まれた区域。だが外見とは裏腹に、入ることはそこまで難しくはない。
「これ、どこから入るんですかね」
「クラスのヤツから聞いた限りは、作業員用の扉があって、そこには鍵がぶっこわれてるらしいけどな」
「……思ったんですけど、私がリーゼ状態になっちゃって飛び越えればいいんじゃないでしょうか」
たしかにあのリーゼ状態の大きさなら飛び越えられるだろう。
「では失礼して。…ヤスっちさんどうします?私に同化するか、私の手に乗りますか?」
「……同化?」
聞き慣れない言葉に疑問を覚え、思わず問い掛ける。
「なんと言えばいいんでしょうか。まぁ、外観が外観なんで人型ロボットに搭乗すると言った解釈で構わないと思います。リーゼンゲシュレヒトが同化すると事情は少々変わるんですが、人が乗るのには特に問題はありません」
「……じゃあ、それで頼む」
手に乗るのは怖そうだし、人型ロボットのようなリーゼンゲシュレヒトという存在に搭乗する感覚というのも興味はある。
「私に同化して、目の前が真っ白になったらコックピットとかを適当に思い浮かべて下さい。リーゼンゲシュレヒトはセカイの塊。
 その内部は貴方の意識によって変幻自在になります。和室だろうと宮殿だろうと。あんまり大きい場所をイメージすると維持にも負担掛かりますし、コックピットみたいな狭くてイメージしやすい空間の方がいいでしょう」
たしかに。そうだな、イメージするとしらATTのコックピットかな……。
「では準備はいいですか?大したことでもないんでリラックスして下さい。私にとっては服を着る程度の負担なので安心して下さい」
シュタムファータァがオレの前に立ち、目を閉じる。
「現界せよ、我が体。-罪深き始祖-シュタムファータァ」
シュタムファータァがゆっくりと言葉を紡ぐと、シュタムファータァを中心に真っ白な光に包まれ、オレの体も白い光に包まれていった。
段々と視界がクリアになっていく。そして目に映った光景はにわかに信じがたいものだった。
「(いや、信じがたいって言ったらもうリーゼンゲシュレヒトの存在自体が信じがたいな・・・)」
眼に映るのは柵の向こうに映る廃墟の街。そして手元にはお馴染みのATTのスティック。
見回してみると、ここはもうATTのドーム状のコックピットの中であった。
「これ、スペックデータとか表示されんのかな・・・」
右にあるコンソールからスペックデータを呼び出す。が、画面には何も表示されることはなかった。
「(ま、当たり前か)」
シュタムファータァ、というよりリーゼンゲシュレヒトはロボットではない。考えてみれば当然のことだっあ。
機体の耐久力が表示される部分や、武器の弾数を表示する部分にも何も表示はない。
だが、EN表示とレーダーだけはきちんと映っていた。どういうことだろうか。
「(EN・・・なんだこの量、おかしいだろ・・・!?)」
そこに表示されていた数値は、ATTの常識を覆すものだった。EN容量重視に組んだ機体の、およそ10倍以上の数値だ。
『ヤスっちさーん。大丈夫ですか?体調とかに変化はないですかー?』
「うおっ、ああ、まぁ特に変化はない。大丈夫だ」
仲間との交信用に使われているスピーカーからいきなりシュタムファータァの声がし、思わずビクっとなってしまう。
『それはよかったです。じゃあ、ちゃっちゃと入ってしまいましょう』
軽くそういうシュタムファータァに呆気に取られながらも、モニターに映る景色は壁を軽々と越え廃墟群の中に入ってしまう。
いつものATTだともちろん景色はCGなので、実際の景色が映るのは新鮮味より圧巻の気持ちが大きかった。
試しにグリップを握り前に倒してみる。が、機体が前進することはなかった。
『あ、ヤスっちさん。コックピットと言っても私を直接動かすことはできないですよー。セカイ量くらいならわかるかもですけど』
「・・・そうなのか」
ちょっとガッカリしたのは黙っておく。やはり動かしてみたいという欲求はあった。
『えーっとですね、その状態でできるのは私に対しての交信と、レーダー等での私の援護だけです』
「完全支援用だな。そんなものなのか」
『そんなものですね。リーゼにリーゼを乗せるときなんて、負傷した仲間を運ぶときとかくらいですから』
そうして互いに無言になり、廃墟の中を進んでいく。周囲は一面の廃墟でありとても同じ揺藍とは思えない。
『……そろそろ、待ち合わせ場所のはずです』
廃墟の中を進むこと十数分くらい経っただろうか。ようやく待ち合わせ場所に着くようだ。
「案外遠かったな。というか、廃墟の中で待ち合わせ場所ってどうやって決めたんだよ」
『ん? メールでGPS座標が送られてきただけですよ』
……オレとしては、あまり市街地から離れたくなかったというのが本音だ。万が一イェーガーに襲われた場合にすぐ逃走できる状況ではないと不安である。
何しろ、オレを殺そうとしたときだって躊躇い一つなかった男だ。何があるかわかったものではない。
もしもあのときのイェーガーの一撃が打撃ではなく、刃物によるものだったら―――と想像すると、今生きているのが奇跡のように思える。
「お、アイツじゃないか?」
廃墟の奥の広場の瓦礫に座る人影が見える。遠目だから何とも言えないのだが、おそらくイェーガーと見て間違いないだろう。
『そのようです。ではヤスっちさん。リーゼンゲシュレヒト状態を解除しますね』
シュタムファータァがそう言うと、オレが搭乗したときと同じ白銀の光がオレを包み込み、思わず目を閉じてしまう。
再び目を開けるとオレは地面に自分の足で立っており、隣りにはシュタムファータァが立っていた。
「ヤスっちさん、これだけは絶対に守ってください」
シュタムファータァがこちらを真剣な眼で見据える。オレは黙って聞くしかなかった。
「イェーガーは好戦的ではありますが《赤銅色の狩人》の名の通り、狩猟に特化しています。つまり、索敵能力も高いんです。
ですから、ヤツと私がもし戦闘になった場合、ここに隠れているヤスっちさんの場所に気が付いている場合が考えられます。
そのとき、ヤツがヤスっちさんを狙う可能性は非常に高いでしょう」
狩人は一度狙った獲物を逃さないとかよく聞くが、アイツもその例に当てはまるだろう。そのときは、殺し損っているオレを狙う可能性はたしかに高い。
「そのときには、先ほどのように私に搭乗してください。私も弱いのであまり自信はないのですが、ヤスっちさんだけは逃がしてみせます」
「搭乗って言っても、オレから搭乗するやり方なんてわかんねぇぞ」
「私の名前を呼んでください。そうすれば、すぐ乗ることができますから」
思わず拍子抜けしてしまう。そんな、簡単でいいのか。
「でもそれだったら、シュタムファータァって呼んでる時点で乗れてるはずじゃないのか?」
「いいえ、ですから……契約を、結びましょう」
「契約?またなんか、それっぽいファンタジー要素がでてきたもんだな」
いかにもな話である。契約ときたらもうお約束と言ってもおかしくはない。
「まぁ、契約と言っても私とヤスっちさんのセカイを軽く繋げるだけですよ。無言でもできますけど、ここはセカイの意志に伝わっている口上を言わせてください」
と、軽く笑って言ったシュタムファータァは、オレの胸に手を当てる。
「口上って……身も蓋も無いな」
「葬式とかで坊さんが意味わからないことをベラベラ喋ってるのと同じです」
すげぇバチ当たりな台詞だな、おい。お経って言ってあの言葉全部意味あるんだぞ。多分。
「まぁ、形式が大事って意味で取っておくわ」
そしてシュタムファータァの手の平に白銀の光が包み込み始める。
「絶えなく廻るセカイの下に、我ら誓いを立てん。、――――我が名を唱えよ、我が名は“罪深き始祖”」
「っ……」
ハーゼがオレの体にセカイを送り込んだときとは違う。言いようのない違和感が電流のようにオレの体に走る。
「……はい、これで大丈夫です。後は私に対して心の中で呼び掛ければ、一瞬で搭乗できます」
「なんか曖昧だな。大丈夫なのか」
感覚的には先ほどとあまり変わりはないように思える。
「はい。これで私のセカイを通じて会話ができるようになってます。ある程度距離が離れていると駄目なんですけどね」
よく漫画とかである念話みたいなヤツか。まさか自分が実際に体験するとは思わなかった。
……いや、今さらか。人間が巨大ロボットみたいなのになったりする方がよほど非常識だ。
「それで呼べばいいんだな。わかった」
「お願いしますね。じゃあ、行ってきます」
オレの胸から手を離すと、シュタムファータァは後ろで結んだ空色の髪を揺らし、こちらを振り返ることなく歩き出した。
その小さな背中に自分の命を……この街の命運を託さなければいけないことに、若干の不安と自分の無力さを痛感する。
「(それも偽善……か)」
溜め息を吐く。そうだ。自分はただ彼女を利用しているだけだ。この街を守ってもらえるように精神的に誘導し、そして今、彼女は一人で戦おうとしている。
だが、たとえば仮にオレにこの街を守れる力があったとしたら彼女のように一人でも戦ったのだろうか? 答えはNOだろう。何かしらの言い訳をして逃げている自分の姿が目に浮かぶ。
要するに、自分でやりたくないから。自分が傷つきたくないから、彼女を利用している。たまたま出会えた格好の存在。その存在を逃さないために、自分は今ここにいるのだから。
「(汚ぇよな、本当……)」
そんな自分に嫌気が差さないわけではないが、同時に自分でもそれが変えられない臆病者なのもわかっている。
だから、自分はこのままで行く。たとえ自分の心がオレ自身を責めようと。この街を守るためには仕方ないという免罪符を片手に、オレは彼女を見守ろう。
それが、オレのせめてもの責任だ。
『ヤスっちさん、聞こえますか?』
『……っと、これで本当に聞こえてんのかな……。ああ、問題なく聞こえてるぞ、シュタムファータァ』
『今からイェーガーと接触します。聴覚を共有しますので、危険な状況になったらすぐ退避してください』
実際にあんなやりとりで会話できるのかは不安だったが、どうやら大丈夫みたいだ。この調子だと搭乗も平気そうだな。
『おや、やっと来ましたか"罪深き始祖"。じゃあ早速ですが行くとしますか?こんな任務、とっとと終わらせて休暇を取りたいもんです。貴女も担当地区が終了になりますから少しは楽に―――』
『私は、揺藍の消滅任務を拒否します』
廃墟の街々に、イェーガーの声を遮るようにシュタムファータァの凜とした声が響く。
『それは、保守派になるとも違う。我ら"セカイの意志"を裏切る行為になりますよ?』
『はい。私は"セカイの意志"には従いません。私は、私のやりたいように生きます』
その声は震えることはなく。前回とは違う、確固とした意志がある。
『貴女が個人的にお世話になっているディスの気持ちを裏切ることになりますが、いいんですか?』
『はい。ディスには感謝していますが、私は自分の意志を曲げてまでディスには従いません。たとえそれが間違っている道だとしても、私はこの街を守ります』
姿が見えなくても伝わってくる。彼女の小さい体で、大の男を真っ直ぐに見据えている姿が。
――難しく考える必要はないぜ? もっと、シンプルに考えるんだ―――
『いやぁ、ディスがなんで"狩人"であるオレを寄越したのかわかったわ。アイツ、ここまで予想してたってのか?』
『たとえ相手が貴方であろうと。相手が誰であろうと守りますよ』
彼女は、今やっと、"彼女自身の意志"というシンプルかつ、気付くのが難しい、自分の本当の気持ちを確固にしたのだろう。つまり、それは―――
『だって私は、揺藍の人たちが好きですから』
温かい人たちを失いたくないという、少女の些細な想い―――。
『まぁオレもその方が楽しいからいいんだけどな。んじゃ、"セカイの意志"から派遣されたオレが何をするか……わかってるよな、罪深き始祖?』
『ええ。その覚悟はあります』
シュタムファータァとセカイの共有をしたせいで、互いのリーゼンゲシュレヒトがセカイを集中していくのがわかる。
『現界せよ、我が体。"罪深き始祖"シュタムファータァ!』
『我は獲物を捉える紅の牙。"赤銅色の狩人"イェーガーッ!』
二人がそう紡ぐと同時に、遠目からも赤銅色の光と白銀の光が確認できた。それ以上に、"セカイ"の奔流が知覚できる。
そして、光が晴れた先にあったものは、2体の巨人。非日常の塊。
見るのは三度目になる白銀の機体。頭部は二本のブレードアンテナに一本の角に、特徴的な本人と同じ空色の髪が頭背部より靡く。そして始祖を象徴するかのように彼の機体の背部に展開する六枚のプレート。
対するは赤銅色の機体。狩人を彷彿させる全体的に鋭角的なフォルムに身を包み、シュタムファータァのような神々しさはないが、攻撃的な威圧さが感じられる。
今こそが非日常の世界。日常を守り通すために、彼女は非日常を以て非日常に抗う。

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