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廻るセカイ-Die andere Zukunft- Episode11

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匿名ユーザー

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ヴァイスたちとシュタムファータァが交戦していると時を同じくして、場所は移り変わって東京湾。
潮の匂いと波の音が佇む、セカイの意志が保有するとある港に、二人の人の姿があった。
片方は高い身長の金髪の青年と、中世的な顔立ちをした、長い黒髪を後ろに束ねた青年。
両方共にとても整った顔立ちをしており、場所が場所なためカメラの一つでもあればドラマの撮影か何かと間違うほどだろう。

「"時の鍵人"なんて大仰な二つ名を戴いてる俺でさえ、本音を言えば怖いさ……ペネトレイター」

黒髪の青年……ペネトレイターが、金髪の青年"時の鍵人"エーヴィヒカイトに対して、心配気な視線を向ける。

「エーヴィヒカイト。それを今、私にここで言いますか?」

「今じゃなきゃ、言えないだろ。"保守派"のリーダーな上に、"クーデターの首謀者"になったら、二度とこんなこと言えなくなるだろうからな」

「"革命派"を倒すと宣言するリーダーが怖いなんて言っていたら、誰も従う気なんて無くすでしょうね」

「ああ、宣言したら最後。二度と弱音なんて許されない。甘えも何もかも。常に冷静に、冷酷でいなきゃいけない」

エーヴィヒカイトが言い聞かせるように自分の手を握る。力を込め、爪が皮膚に食い込む。

「戦力は万全とは言えない。アイツ……"ディス"の予測よりは用意出来た自信はあるが、"革命派"相手にするにはまだ足りない」

「それでも、ディスのやり方をこのまま見過ごしてるわけにもいかない。もう既に消された国々の数は多い。これ以上消されるわけにはいかない」

「ああ。だから明確な旗印が必要なんだ。たとえ俺たちが世界にとって間違いであっても。何事も、意志を通さなきゃ始まらないんだ」

肩まで伸びた金髪が潮風に流れる。翡翠色の鋭い瞳が見つめる先には、揺籃島の姿が朧気に映っている。

「心配ですか。シュタムファータァが」

「……もちろん心配だ。幼馴染だしな、これでも」

アイツが"セカイの意志"に逆らい、イェーガーを撃退したことは既に俺の耳に入っていた。最初は……いや、今も信じられていない。

俺以外には常に周囲に気を配り、自己主張することも少なかったシュタムファータァが、そんな大それた事をするなんて想像できない。

「アイツがあんな事をできるようになるまで成長したなんて、本当、今でも信じられないよ」

「私も、そんなことができるような少女にはとても見えませんでした」

だからこそ俺がクーデターを起こそうという決心が着いた。あの少女が、幼馴染の俺を頼らずにそこまで頑張ったのだ。

なら、背中を押してやるのも、アイツを助けてやるのは俺の役目だ。元々俺がやるはずだったきっかけを、アイツ自身が作ったのだから。

「まさかシュタムファータァに先を越される日が来るなんてな。おかげで、俺もやっと心が決められた」

「打倒"革命派"。目標はディスの殺害。どう考えても、成功率の低すぎる作戦ですね」

「ああ、でもやるしかないんだ。……俺に、着いてきてくれ、ペネトレイター」

するとペネトレイターは右腕を胸に当て背筋を正し、真っすぐにエーヴィヒカイトを見つめた。

「勿論。この"夜光の騎士"ペネトレイター。巨人族最強の矛と謳われるその力、貴方の元で存分に」

「ありがとう。それじゃあ行こうか、ペネトレイター。まずはこのまま揺籃に行ってシュタムファータァを助ける」

「了解です、エーヴィヒカイト」

二人が向かうは港に停泊させている小さなモーターボート。隠密で向かうにはちょうどいいサイズの船だ。



だが、その船には既に先客がいた。

黒いロングコートを身に纏った黒髪の青年と、Tシャツにジーンズというラフな格好の、肩まで届く茶髪の女性。

"漆黒の夜"ナハトに、"空裂きの射手"ヴィオツィーレン。二人とも、かなり名の知れたリーゼンゲシュレヒトだった。

そして何よりも、その二人からこちらに感じられる殺意。先ほどまでは全く感じられなかった……!

「エーヴィヒカイトっ……!」

ペネトレイターがエーヴィヒカイトを守るように前に出る。いつでも、リーゼンゲシュレヒトになれるようにセカイを集中させる。

「よう、ナハトにヴィオツィーレン。"革命派"の中でも最強クラスの"エクスツェントリシュ"二人が、一体俺たちに何の用だ?」

「話し合いはいらない。……残念ながらエーヴィヒカイト。貴方の計画はディスに読まれている。その行動も思考も、全て、な」

「……なぁヴィオツィーレン、お前、任務で海外に出てたんじゃないのか?」

ナハトの言葉を無視し、後ろにいるヴィオツィーレンに話しかける。

「ブラフだってさ。私クラスのリーゼンゲシュレヒトが近くにいなかったら、アンタ、油断するでしょ」

「相手は巨人族最強の矛に保守派のリーダーだ。気を抜くな。本気で行け、ヴィオツィーレン」

「あんまり気は乗らないんだけどね。ま、それが命令だってんなら従うよ」

全て、読まれていた。いや、誘われていた……? だとしても、何故俺たちの止めている船までわかったんだ?

頭の中を疑問が渦巻くが、その思考は止めざるを得ない。考えていては、一瞬で殺される相手だ。

四人がそれぞれ現界の詠唱を唱え、4体の巨人が港に君臨する。リーゼンゲシュレヒトの中でも最強クラスの4人が一度に集まっているのだ。

その光景は圧巻を通り越して、見る者に畏怖を与えるほどだった。

『エーヴィヒカイト。貴方は後ろに下がっていてくださいっ!』

優雅な曲線を描いた漆黒の装甲に包まれたペネトレイターが、装甲と同じ色の大剣を構え突進する。

それを迎え撃つは、同じく漆黒の装甲に包まれ、ペネトレイターとは対照的な、細身の西洋剣を構えるナハト。

異なる派閥の主を守る2体の黒騎士が、激突する。

その互いの剣戟は、眼にも止まらない攻防。黒い残像を残しながら凄まじい速度で斬り合う2体の黒騎士。

鉄と鉄がぶつかり合うような金属音を響かせ、その戦いはまさに人外の戦闘そのものだった。

『とりあえず、私がいるのも忘れないでね』

そこに混じる異なる色。戦闘に割り込む茶色の装甲の機体。ヴィオツィーレンの両手にはサブマシンガンが握られていた。

『舐めるなっ!』

咄嗟に大剣を盾のように構え銃弾を防ぐ。銃口から放たれた弾丸は剣に傷一つつけることなく止められる。

『まあ、私が倒すわけじゃないし』

その言葉と同時に振り下ろされるナハトの剣。だが、その剣はペネトレイターに当たることはなかった。

剣が、ペネトレイターの装甲の手前で何か透明の壁にでも止められたかのように停止していた。その一瞬の隙を突き、2体から距離を取るペネトレイター。

『助かりました、エーヴィヒカイト』

『気にするな、それよりも、俺も前に出るぞ』

狐を模した面に、流れるような長い金色の髪。そして背部より伸びる尻尾のようなテールスタピライザー。

"シュヴァインゲシュファイフト"と呼ばれる、ラングオーアと同じリーゼンゲシュレヒトの種族の1つであり、その意味は"長い尾"。
特徴として、"空間"や、定義が曖昧な物に干渉する能力を持っており、数が非常に少ない希少な種族でもある。

『"時を止めた"か。話には聞いていたが、恐ろしい力だな、"時の鍵人"』

『燃費は悪い。発動までに時間はかかるし手間もかかるんで使い勝手は最悪だがな。さて、ここからが本番だぞ、若造が』

金色の杓杖がエーヴィヒカイトの手に握られ、槍のように両手で持ち前に構える。

『エーヴィヒカイト。残念ですがここは私に任せて、貴方は退いてください』

突如発せられたペネトレイターの言葉に、周りの人間全てが動揺を隠せなかった。

『ほー、強気だねぇペネトレイター。私とナハトを相手にして、貴方一人で充分だって言うのかしら?』

『何言ってるんだペネトレイター。俺とお前で戦えばこいつ等だって倒せるだろうが!』

『ええ、倒せるでしょう。ですが、それでは私と貴方は深手を負うでしょう、必ず。もしそうなれば、誰がディスを倒せると言うんですか。
 そして、誰が"保守派"を指揮していくんですか。ここで余計な深手を負って宣言すれば、必ず負けるのは目に見えています』

たしかに、ペネトレイターの言うことは正しい。ナハトとヴィオツィーレンを倒すにはこちらも死を覚悟して戦わなければならない。

そして深手を負って倒して、クーデターを宣言したところで、重傷を負った俺とペネトレイターじゃ並のリーゼンゲシュレヒトにも勝てないだろう。

リーダーがそんなんじゃ、確実に成功するはずがない。だからここはナハトとヴィオツィーレンに僅かでも手傷を負わせ、俺は無傷で生還する。

そして犠牲はペネトレイター一人で済む。そう、言っているのだペネトレイターは。

『しかし、お前クラスのリーゼンゲシュレヒトがいなくなったらそれは変わらんだろ!』

『茶番だな。そんな劇に付き合っている暇も余裕もない』

ナハトがこちらに突進してくる。それに続きヴィオツィーレンも。それを真っ正面から迎え撃つペネトレイター。

『エーヴィヒカイト。何を勘違いしてるのかは知りませんが、私の命を犠牲にして貴方が助かれなんて言っているつもりはありません』

大剣がまるで台風のように振り回され、エーヴィヒカイトに到達する全ての攻撃を斬りおとす。

『私はこんな所で死ぬつもりはありません。"貴方が先に逃げろ"。そう言っているだけですよ。私も適当にこいつらをあしらったら退避します』

『……命令だ。必ず俺を守りに戻って来い。いいな、ペネトレイター』

せめてもの援護だ。杓杖を中心に"セカイ"で構築した数十発の光弾を作りだし、ナハトとヴィオツィーレン目掛け放つ。

その攻撃は微々たるものだったが、2体の足を一瞬止めるには充分だった。

『了解です、エーヴィヒカイト。常に冷静、冷酷な判断をすると言ったのは貴方なのですから気にせずに。私も後から必ず行きます』

人間状態に戻り全力でボートまで疾走して飛び乗り、即座にアクセルを踏み発進させる。

『させるか、エーヴィヒカイトッ!』

『こっちのセリフだっ!』

ボートに斬りかかろうとするナハト目掛けて大剣を振り下ろす。さしものナハトと言えどそれを無視するわけにもいかず、
斬りかかろうとする剣を止め、剣で迫りくる大剣を受け止める。

『何をしているヴィオツィーレンッ!早くヤツを落とせッ!』

『無茶言ってくれるなぁ、斬撃しか能のないくせに』

ヴィオツィーレンが何も存在しない空間に手をかざすと、そこに空間の穴が出現し中からスナイパーライフルが出てくる。

それを手に持ち、照準をボートに向け構えるヴィオツィーレン。

『エーヴィヒカイトを退かせると、そう言っただろう! それを嘘にするわけにはいかないッ!』

ペネトレイターが手に持った大剣を振りかぶり、渾身の力を込めヴィオツィーレン目掛け投擲する。

『うわああああああああっ! そんなものぶん投げるヤツがどこにいるってんのよっ!?』

悲鳴を上げながらスナイパーライフルを放り投げ、横に飛んで迫りくる大剣を回避するヴィオツィーレン。

その大剣は凄まじい轟音と地面に巨大なクレーターを作り、深々と突き刺さった。

そして、もうボートは見えない距離にまで達していた。ペネトレイターは内心で安堵の表情を浮かべる。

『びっくりしたなぁ……なにするかと思ったら、まさか剣を投げてくるなんてね』

ヴィオツィーレンが突き刺さったペネトレイターの大剣を抜きとり、海の中に投げ込む。

『でも、これでアンタは剣が使えない。そんな状態で、私たちを相手にするつもり?』

ヴィオツィーレンが再びサブマシンガンを構え、ナハトも剣を両手で構えペネトレイターに向ける。

『何を言っている。本番はここからだ。……"巨人族最強の矛"を見せてやる』

ペネトレイターの右腕に膀大かつ高密度のセカイが集中し、凄まじい光がペネトレイターの腕を包んでいく。

『来るぞ、ヴィオツィーレンッ!』

『ナハト、あんたこそ気をつけなさいってーの!』

2機がこちらを襲うだろう"巨人族最強の矛"を警戒し、防御体制を取る。そして、光に包まれた腕を軽く後ろに引き、構えるペネトレイター。

『全てを貫け……!"界侵―――





16時を過ぎた空は夕暮れで真っ赤に染まっており、空を反射して同じく赤色に染まる海。

その海の上をモーターボートでかっ飛ばしながら、目の前に見える揺籃島目掛け急ぐ。

「ペネトレイター……」

自分に忠誠を誓ってくれた、唯一無二の部下にして親友だった男を、一人置き去りにしてきてしまった。

後悔と心配が俺の胸を締めつける。だが、ここで引き返してはそれこそ意味がない。

「……あいつなら、きっと退避してるだろう」

それは何も自分に言い聞かせるためだけに言ったのではない。ペネトレイターの実力ならそれも不可能ではないから、だ。

伊達に大それた二つ名はつけられていないのだ。たとえ相手があの2機でも、彼ならきっと大丈夫だろう。そう、信じるしかない。

段々と近付いて見えてくる揺籃の港。内心で安堵した、その瞬間。

激しい轟音と衝撃と共に、ボートが真っ二つになった。同時に俺の体が海に投げ出される。

「馬鹿なっ……!?」

即座に詠唱し現界、リーゼンゲシュレヒトになり、金色の髪を揺らし錫杖を構える。

目の前には剣を構え海上に佇む漆黒のリーゼンゲシュレヒト、ナハト。奴がボートを剣で真っ二つにしたのだ。

『ペネトレイターはどうした…… いや、何故お前がもう俺に追いついている!』

『もちろん奴は殺したさ。そして質問の答えだが……そうだな、"ここが東京の海"で助かった、だ。』

『……" ヴィオツィーレンの能力"か!』

完全に盲点だった。たしかにアイツの能力を応用すれば、今ここにナハトを持ってくることは理論上は不可能ではない……!

『そして、貴方もここで終わりだ』

ナハトから振り下ろされる剣。錫杖でなんとか受け止めるが、この空間で、尚且つ近接戦でナハトと戦うのは非常にマズい。

時間を止めるにも、こんな精神状態じゃ座標計算もままならない……!

『くっ、こんなところで……!』

『" 保守派"もここで終わりだ。世界を乱す存在が!』

錫杖を弾かれ、俺の体をナハトの剣が両断し、リーゼンゲシュレヒトからヒトの姿へと戻される。

無抵抗なこのヒトの体は、重力に従って海の中をどんどん沈んでいく。

……セカイを失い過ぎたため意識が墜ちていく。このままではやがて溺死してしまうだろう。

目の前にもう港が見えるというのに、こんな、こんな簡単に終わってしまうのか。

「(く……そ。まだ……終われるか……)』

ナハトが下がっていくのが水の中から見えた。おそらく、俺はもう助からないと思っているのだろう。普通の人間が見たってきっとナハトと同じことを思うはずだ。

だからこそ、こんなところじゃ終われない。ペネトレイターだってきっと殺られていないはずだ。俺だけ、果てるわけにはいかない。

俺は落ちそうになる意識を必死につなぎ止め、手足に力を込めた。






……おそらく、俺がこのときベランダに出ていなければ俺も関わることなどなく日常を送っていたはずだろう。


その日、俺、椎名俊一はたまたまベランダに出ていた。宿題をする気にも、出掛ける気にもならずベランダからずっと海を眺めてた。

沈んでいく太陽を見てセンチな気分になるのも、たまには悪くない。

「人か?」

マンションのベランダから見える、港の近くにある砂浜に誰か倒れている。弓道で培った視力がなければ気にもしなかっただろう。

周囲には誰もいない。……このまま見捨てるのも、目覚めが悪い。

家を出てエレベーターで降り、マンションを出る。外はやはりベランダより少し暑かった。

「……外人、か」

砂浜まで行き、倒れてる人物の場所まで行き、人の姿を近くで見て思った感想だ。すっかり濡れてしまっているが、流れるように綺麗な金髪の男だ。

とりあえず急いで呼吸を確認する。……よし、どうやら人口呼吸の必要はないようだ。

「よいしょっ……と。くそ、重いな」

金髪の男性を背負うが結構重い。高い身長に体格もなかなかだ。当然だろう。

というか、救急車を呼べばいいか。何故最初にそれを思い付かなかったか自分でも不思議だった。

携帯を取り出し、119をダイヤルしようとボタンに指を乗せた瞬間、いつの間に起きたのか。金髪の男性が俺の腕を、まるで止めるかのように押さえていた。

「すまない……救急車は、呼ばないでくれ」

「…… と言っても、今の貴方を見て呼ばないというのは無理がある」

「事情がある。起こしてくれたのは助かったが、すまない」

顔を真っ青にし、今にも倒れそうな顔で言われる。まったくもって非常に困る男だ。

「と言っても貴方はどうする気だ……って、おい!」

いきなり目の前でまた倒れてしまう。体を受け止め、額に手を当てるとかなり熱かった。

「病院以外で治療出来る場所、か」

心当たりが無いわけじゃない。だが、そこに連絡するのは非常に気まずい。というかあんまり気が進まない。

でも、人の命が掛かってる。

「なら、気まずくても何でも……我慢しなくちゃな」

携帯からとある電話番号にダイヤルする。数回のコール音の後に、彼女は電話に出た。

「もしもし椎名くん? 電話をかけてくるなんて久しぶりだけど、どうしたの?」

少しおっとりとしながらも、凜とした声。電話越しで聞いても、変わることはない。

「すまん主将、頼みがある」

主将……。弓道部主将、神守遙。俺が今の状態を話すと、二つ返事でこちらに来てくれると言ってくれた。

通話が終わり、無用となった携帯をポケットに仕舞う。

「こんな形でまた行くことになるなんて、思いもしなかったよ……遙」

しかし、この男は何者なんだ? 救急車を呼ぶな、なんて、まるでどこかのヒットマンか何かなのだろうか、この男は。

とりあえず今の内に身分を調べておこうと、男に対してボディチェックを始める。すると胸ポケットに名刺入れのような物があったのを見つけ、取り出してみる。

中の名刺は水でインクが溶けていたが、なんとか比較的無事なのを見つけ、取り出してみる。

「"セカイの意志"……エーヴィヒカイト……?」

何だろう、セカイの意志。最近どこかで聞いた記憶がある。それにこの変な名前……なんか、擬視感を感じる。

「……ああ、思い出した」

思い出した、3週間くらい前だ。伊崎千春の見舞いをしに行ったときに、安田が会った空色の髪の少女……!

「"セカイの意志"。揺籃を消そうとしている組織の名前だったな」

つまりこいつは……俺の、俺たちの敵なのだろうか。俺はもしかして敵の手助けをしてしまったのだろうか。

俺がそんなことを思った瞬間、目の前で停車する一台の車。そして車の中から出てくる三つ編みの少女。

「椎名くん!その人?救急車を呼ばないでって言う高熱の男の人」

三つ編みを揺らしながら、こちらにゆっくりとした速度で走ってくる。本人は本気で走ってるのだろうが、その速度は遅い。

「……ああ」

「わかった。じゃあ、責任持ってこの人は私たちがなんとかするね」

主将がそう言うと、車から何人か大人の人が出てきて、金髪の男性……エーヴィヒカイトを車の中に運び入れる。

「こんな大人を何人も動かせるなんて、さすが揺籃島の、揺籃市市長の娘だけはあるな」

「市長の娘って言う、せっかくの肩書きなんだから、人助けで使えるのならそれは嬉しいことじゃない?」

「そうだな」

こんなでも一応主将はいわゆる"お嬢様"と言ってもおかしくはないだろう立場にいる人間だ。家はかなり大きいし、幼い頃から英才教育を叩き込まれている……らしい。

主将の家……"神守"は揺籃の有名な観光地でもある"神守神社"を始め、揺籃のかなりの主要施設を管理している家だ。揺籃にとっての財閥のような物らしいが。

だから主将に電話した。彼女の家なら空いている部屋も、病院以外での医師もいるだろうと踏んだのだ。

「じゃあ私も行かないと。今日のこと、聞いてあげたんだから、弓道部にもっとちゃんと顔出してね」

「借し1ってか。仕方ない。わかったよ」

「うん、よし。それじゃあまた学校でね!」

主将が俺に背を向け、車に乗ろうとする。俺は思わず、彼女を呼び止めていた。

「主将!」

三つ編みが揺れ、俺の方をまた振り返る。

「どうしたの?なんかあったの?」

「もし、その男が目を覚ましたら。すぐに俺に連絡をいれてくれないか」

「うん、わかった」

遙は特に何の疑問も持たず了承してくれた。これでひとまずは安心だ。

なにか、俺はとんでもないことに首を突っ込み始めている気がする。自分の日常が崩れる、何かに。

「とりあえず、明日にでも学校で安田にこの事を聞いて、シュタムファータァに取り付いでもらうか」

今電話してもどうせ男の治療で会えはしないだろうし、かと言って自宅まで着いていくこともできなかった。

話を聞いて、全てはそれからだ。あのとき病院の屋上で知ったこと。今でも全く理解出来ていないが、こうして新たに接触してしまった以上、彼女以外に相談出来る存在はいない。

誰しも変わるときには"きっかけ"がある。"椎名俊一"が"非日常"に関わるきっかけが今だったように、きっと安田俊明にも同じようにきっかけがあったはずなのだから。

そんなことを思いながら、不安に思う心を殺して、俺は自分のマンションに戻った。

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