「どこなんだ、ここはッ!?いったいどうなってるッ!?」
街道のはずれで、アルガス・サダルファスはわめき散らしていた。
先ほどの出来事を把握する間もなく、気がつけば全く見知らぬ場所に立っていた。
「……そうだッ! オレはジークデン砦で、
ディリータや
ラムザと戦っていたはずだッ!」
アルガスは自らの記憶をたどり、そこまでは思い出すことができた。
しかし、その記憶はとても不条理なものだった。
「そうだ……オレは、ディリータに石を投げられて……」
人質ごと骸旅団の残党に矢を浴びせた直後、駆けつけてきたラムザ達。
激高した彼らは、まるで狂戦士の如き勢いで襲いかかってきたのだ。
ザルバッグが手配した兵士を滅多斬りにし、アルガスに猛烈な体当たりを浴びせた。
そして橋に追いつめられ、ディリータが渾身の力で投げた石が頭を直撃し、橋から転落。
無様としかいえない最期だった。
「クソッ!あいつらみたいな見習いの軟弱者どもにやられるなんてッ!!」
しかし、ここでアルガスの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。
「……?オレは……死んだのか?」
アルガスは、慌てて自分の体を探りだした。頭をなで回し、体をまさぐり、手足をつかみ、
ついでにほほを思い切りつねった。
「イテッ……生きてるのかッ、オレはッ……」
胸の奥から、安堵の溜息が漏れ出る。同時に、腹の底から笑い声が湧き出てきた。
「ククッ、ハハハッ、ヒャーッハッハッハッ!! 生きてるッ!
ざまあみろ、ラムザッ! ディリータッ! オレは生きてるぞッ!!
お前達みたいな軟弱者どもに、オレは絶対にやられたりはしないッ!!
そうだッ! 殺してやるッ! このオレが殺してやるよッ!!
ディリータッ! すぐに妹のところに送ってやるッ!!
ラムザッ! お前みたいなお人好しに、オレが世界の仕組みを教えてやるよッ!!」
そうして、しばらくアルガスは笑っていた。
貴族として、騎士として、平民に殺されるなど屈辱以外の何者でもない。
その屈辱が雪がれた今、アルガスの精神はすこぶる高揚したのだった。
ひとしきり笑ったあと、彼は再び視線を周囲に移した。
「さて……生きているのはいいが、ここはいったいどこなんだ?」
辺りを見回すが、人間の姿は一人として見えない。あるのはただ、目の前をまっすぐ横切る街道だけ。
「ん?」
ここでアルガスは足下に転がる袋に気がついた。
「この袋は……支給品ってやつか。何が入ってるんだろうな……」
アルガスはその場にしゃがみ込むと、袋の中を物色し始めた。
出てきたのは、刀身ほどもある長い柄と、つばのないシンプルな見た目が特徴的な剣。
今までに見たことのない形の剣に、アルガスは少し困惑した。
だが、その大きさの割にはさほど重さを感じない。鞘に納めたまま、片手で何度か振り抜いてみる。
「思ったよりは使いやすいな。もしかして、ただ柄が長いだけの片手剣か?」
どうやら自分でも問題なく使えそうだ、そう判断したアルガスは再び袋の中へ手を伸ばした。
次に取り出したのは、『取扱説明書』と書かれた小さな紙だった。
「ん?なになに……『絶対勇者剣』?」
剣の名前と、『剣』という分類。説明書の記述は、たったこの2行だけ。
目を通し終えたアルガスは説明書をくしゃくしゃと丸め、道の向こうへ投げ捨てた。
「フン、いけすかない名前だなッ! オレは絶対なんて言葉、絶対に信じないからな」
いらだった様子で次の支給品を確認するアルガス。
すると、指に何かが絡み付いてきた。
「うわッ!? な、なんだこれはッ!?」
異様な感触に驚き、とっさに手を引っ込める。その指先には、かんだガムがへばりついていた。
ガムという食品がないイヴァリースの住人であるアルガスだが、
これが何か不衛生なものであることを直感的に悟った。
「クッ! こいつ、なめやがってッ!!」
これもまた、地面へと放り投げる。しかし、ガムは指にしっかりと貼り付いて離れない。
「オレは貴族だぞッ! アルガス・サダルファスなんだぞッ!! このッ、このやろうッ!!」
指をこすり合わせて引き離し、地面へとたたきつけようとする。だが、
ガムは一向にとれる気配がなく、アルガスの手にくっついたままだ。
「畜生ッ! 畜生ッ!!」
アルガスは指を地面に擦りつけてガムをはがし、立ち上がりながら剣を抜くと力の限り振り下ろした。
「畜生ッ!! 貴様ッ! 貴様なんかがッ! このオレにッ!!」
土と砂利にまみれたガムを、アルガスは何度も何度も斬りつけた。
「はぁッ、はぁッ、はぁッ……」
いつまでそうしていただろうか。砂埃が収まった地面の草は削り取られ、ガムもその姿を消していた。
「まったく、とんだ支給品だなッ! そうだ、この剣もだッ!」
握りしめた剣を忌々しそうに睨みつけ、道ばたの岩へと向き直ると思い切り振りかぶった。
そして今まで以上の力を込めて振り下ろし、剣を壊そうとした刹那。
「やめてください!」
「!? 誰だッ!!」
背後からの声にアルガスが振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。緑色の服に身を包み、
頭からは角のような角張った突起が生えている。その顔は怒りに染まり、まっすぐアルガスに向かってくる。
「な、なんだお前はッ! 近寄るなッ!」
自分よりも体の小さい少年に、アルガスは気圧されていた。剣を振り上げた体勢のまま、一歩後ずさる。
その間にも、目の前の少年はどんどんと近づいてくる。
「ご主人様の剣……」
「や、やめろッ! オレは貴族なんだぞッ!?」
また一歩、後ろへ退く。そのかかとに、剣を打ちつけようとした岩がぶつかる。
少年は接近をやめようとしない。その目はまばゆいほどの光をたたえ、
「く……ッ、来るな……ッ!」
目がくらんだアルガスは、剣を振り下ろした。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
レシィはうっそうとした森を走っていた。両腕で、自分の支給品袋と絶対勇者剣を抱えている。
絶対勇者剣。レシィの召還主、
マグナがメルギトスとの決戦時に愛用していた武器。
切れ味、強度ともに申し分ない逸品だ。道ばたに転がる岩ごときにたたきつけたところで、
刃こぼれするどころか逆に岩を切り裂いてしまうだろう。
だが、わけのわからないことをわめき散らしていたあのニンゲンは、
確かにこの剣を折ろうとして岩に向き合っていた。
主人の大切な武器を壊そうとする行為が、護衛獣のレシィにはどうしても許せなかった。
「ご主人様、無事でいてください…… ボクがきっと、ご主人様の剣を届けてあげます……!」
主人マグナがどこにいるかも知らず、レシィはひたすらに森の中を走り続けた。
「くそッ…… あんな、軟弱者に、やられッ……」
街道のはずれで、アルガスは岩にもたれかかっていた。右腕を前に突き出した、不自然な体勢で。
「何なんだッ、あの目…… あいつ、が、モンスターだって、いうのか……」
『メトラルの魔眼』。幻獣界メイトルパに住む種族の一つメトラルが持つ特殊能力。
目にした者の体を痺れさせ、自由を奪う眼光を、アルガスはまともに受けたのだ。
そのため、剣を振り切る前に全身が麻痺してしまい、そのまま少年に剣を奪われたのだった。
「お、ぼ、え、て、ろ…… オレ、は、アルガス、だぞッ……!」
屈辱だった。殺されることもなく、ただ武器を奪われ、逃げられる。
身動き一つとれないまま、アルガスはレシィの走り去った方向を睨みつけていた。
【F-2/森/1日目・朝】
【レシィ@サモンナイト2】
[状態]: やや焦りと不安 魔眼を使ったため少し疲労
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式、絶対勇者剣@サモンナイト2
[思考]1:マグナに剣を届ける
2:殺し合いには参加しない
[備考]参戦時期は本編終了後(護衛獣ED)
支給品2つは[不明]です
『メトラルの魔眼』について
眼光をまともに見ると、全身が10分程度麻痺します。
そのため、とっさに目を逸らすなどして光を直接見なければ麻痺の程度は軽くなります。
麻痺を治療できる手段で即座に解消でき、麻痺を無効化できるアイテムも効果があります。
また、強い気合いを入れれば体の麻痺を無効化させることができます。
魔眼を使用すると、レシィの体に疲労が蓄積します。
【F-3/街道/1日目・朝】
【アルガス@FFT】
[状態]: 麻痺、激しいいらだち
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式
[思考]1:緑のガキを追い、剣をころしてでもうばいとる
2:ラムザとディリータを殺す
[備考]参戦時期は本編退場時(ジークデン砦でディリータに殺された直後)
【かんだガム@魔界戦記ディスガイア 死亡】
最終更新:2009年06月11日 12:21