(さて、これからどうしろってンだ?)
ガフガリオンは考えた。
饒舌なじいさんの臨終の言葉も聞き、荷物整理も終えた。
とりあえず、こんなに見晴らしのいい平原にいつまでもいる理由はない。
弓や銃を持った人間がいれば、自分を殺すことなんぞわけもないだろう。
吹き矢こそあるが、あいにく忍者の修行はしていなかった。
「森に行くか、城に行くか、だな」
その周辺に、どれほど人が密集しているかなぞはもちろん知る由もない。
だが、今の自分は無力だ。素直に認める。
窮地で生き残るのは現実主義者だ。
誇り高い奴や勇者気取りの奴は華々しく勝手に散っていく。
冷静に状況を見極め、するべきことをした人間は生き残れる。
そういうふうに、世界はうまくできているのだ。
事実、敵――
ラムザの力量を見誤った結果が、自分の死だった。
状況を見極めることができれば死ぬことはない。
まず必要なのは自分の扱える武器―――特に剣だ。
剣を手に入れることができれば、簡単には死なない自信がある。
敵の体力を自分のものできる、闇の剣。
剣があればこれが使える。数々の修羅場をこの技で生き延びてきた。
それだけの自負がある。
剣が手に入らなかったとしても、仲間が欲しい。
先程のじいさんと違い、最低限の戦力を持った仲間が。
自分を守ってくれる仲間。戦闘員として――状況次第では囮として。
だからこそ、誰かと接触する必要がある。
「森に行くか、城に行くか、か」
先程つぶやいた言葉と同じようなことをもう一度つぶやき、自問自答する。
分隊長をしていた身とすれば、偵察なり捨て駒なりを配置して様子を見たいところだが、
あいにくと手駒は自分のみだ。
「………森に行くとするか」
城は入り口が限られている。万が一、待ち伏せされた場合、
逃げることができるかは分からない。
森ならば隠れながら逃げることは容易だ。慣れている。
運良くチョコボにでも遭遇すれば手なずけることもできる。
うまく潜めば、街道で城を目指す参加者と会えるかもしれない。
「………会った後、オレがどうするかはオレも知らンがな」
「はぁ、はぁ、はぁ……………ふぅ…」
森を随分と行ったところで、
レシィはようやく立ち止まった。
両腕には自分の支給品と絶対勇者剣を抱えている。
剣はあのちょっと狂ったニンゲンの青年から奪ったもの――――
いや、自分のご主人様である
マグナが愛用していたものだ。
「こ……ここまでくれば大丈夫ですよね?」
周りを見渡してみても、人の気配はない。
ようやく緊張を解いて、近くの木の根元に腰掛ける。
「…ご主人様」
剣をみつめながら、屈託のない笑顔を浮かべる自分の大切な人を思い描く。
名簿を見て、知り合いが何人かいるのは確認した。
争いをしたくないレシィとしては好都合だ。
(うまく
ネスティさん達や、心優しい人達と合流して…
まずはご主人様と無事に会わないと。)
それから先のことを考えるのは後だ。
まずは身体を休める。
その後、みんなを探そう。
幸いにも、みんなのにおいはしっかりと覚えている―――――
………ん、これは…?
風向きが変わったのだろうか、先程までしなかったにおいがする。
しかもこれは―――血の匂い。ニンゲンの血の匂いだ。
そうと分かった瞬間、レシィは心臓を鷲掴みされたような感覚に陥った。
(もし、この血がご主人様の――いや、そうでなくても仲間の誰かのものだったら?)
もしかしたら、出血はしているけど応急手当すれば問題ないような怪我かもしれない。
でも、今すぐにでも治療しなければならないような怪我なら…。
気付いたときには、レシィは荷物を抱えて血臭のするほうへと走り出していた。
街道に近い木の上に潜んでいたガフガリオンはすぐに気配を完全に消した。
自分のいる方へと一直線に向かってくる足音があったのだから、当然だ。
だが、気配を消したところでにおいが消えるはずもない。
「……木の上に誰かいますね?」
「よく分かったもンだ」
声の主はわざわざ顔を見せることはしない。もちろん、木の上から降りるなんてこともしない。
戦場では高さがアドバンテージになることはレシィもよく分かっている。
(…知ってる人じゃない)
レシィはすぐに判断した。声はもちろん、匂いも知っているものではなかった。
「オレに何か用か?」
そう言いつつ、木の上のガフガリオンは手の中の吹き矢を握りなおす。
「あなた、怪我していますか?」
「…………なンでそンなことを聞く?」
(俺が手負いだったとしたら、攻撃してくるつもりなのか?)
どちらにせよ、自分の情報をわざわざ教える義理もない。
「あなたから、血のにおいがします」
「…………なるほど、それは気付かンかった」
葉の隙間から下を一瞬だけ見る。
緑の髪の毛―その中の、白い塊が目を引く少年がこちらを見ていた。
(俺ですら気にならン血のにおいを遠くから嗅ぎ取ったことといい、あれは…角……か?
人間じゃねぇ…魔物みたいなもンか?)
とはいうものの、その少年は――魔物というにはあまりにも……迫力が無い。
風が吹き、木の葉がざわめく。
レシィの喉が鳴る。次の言葉を出すのに、相当の勇気を使った。
「………………誰かと戦ったんですか?」
「一応、な」
心臓が、ドクン、と膨らんだ。
もし、その血が――――ご主人様のなら。
血の気が引き立ちくらみそうになるが、そこは踏みとどまり上を見上げた。
「ど、どんな人と戦ったんですかっ!!?」
声を荒げて慌てて問いただす。
もし、それが自分の知ってる人なら、すぐにでもそこに行かないと。
「…………じいさンだ。ヒゲたっぷりのな」
ガフガリオンは動揺しまくりの少年を冷静に吟味していた。
一瞬見ただけだが、見るからに気の弱そうな顔をしている。
さっき、こちらまで走ってきたときの速度からするに、足はかなり速そうだ。
そしてなにより、その少年が腕に抱いているもの。
剣だ。
見たところ、十分な性能の剣のように思えた。
どうにかして手に入れたい。どんな方法でも。
一方のレシィは内心では安心していた。
おじいさんということはとりあえずは自分の仲間ではないだろう。
だが、そこで一旦頭を冷やしてみると―――
なるほど、明らかに自分が危険である。
なんといっても、わざわざ高い位置を確保している
誰かを傷つけた男のもとに自分から来てしまったのだから。
(に…逃げたほうがいい…?)
だからといって慌てて逃げたところで、遠距離からの攻撃を受けないとも限らない。
それ以上に、自分ひとりでは心細すぎる。
もし、この人がいい人ならば一緒に仲間を捜してくれるかもしれない。
と、なると――レシィがすることはただ一つ。
「あ、あなたはこのゲームに乗っているんですか!!?」
尋ねながら、今更ながらではあるが
いつ攻撃されても避けれるようにレシィは身構えた。
戦う気はさらさらない。対話による解決こそが最善の道だ。
身構えた青年を見て、ガフガリオンは内心、驚いていた。
(単なる甘ちゃンかと思ったら……)
その顔と気配から、こちらに対してかなりの警戒と少しの恐怖を持っているのは分かる。
構えているわりに、殺気は全く無い。こちらを襲ってくる気はないようだ。
しかし、そんなことに驚いたのではない。
スキがない。
少年、しかも素手の相手で、ここまでスキのない構えをする奴とは会ったことはなかった。
いや、少年という括りをしなくとも、ここまでスキのないモンク(格闘家)は
片手で数えられる程度しか相対したことはない。
手に自然と力がこもる。
ガフガリオンも、ある程度なら拳術も使える。
今、体術にこの吹き矢と辞典に、支給品を駆使したところで、
この少年―――いや、この男に勝つことができるか?
うまく剣を奪えれば勝機はあるだろう。
だが――剣を奪えるかどうかだ。
剣を奪える確率も考慮すれば勝率は贔屓目に見たところで3割ぐらいか。
この男からは殺気を感じない。と、いうことは友好的に接すれば戦闘になることはない。
「いや、オレも殺し合いなンて好きじゃないしな、ゲームに乗る気はないンだ」
そう言って、ガフガリオンは木の上から飛び降りた。
慌てて緑の髪の男は後ろに跳ね、ガフガリオンとの間を取る。
「じゃあ、その血のにおいは一体なんなんですか…!?」
「襲われたから反撃しただけだ。殺しちゃおらン」
もちろん、嘘である。
だが、わざわざ殺したと宣言して事態が好転するとは思えなかった。
「そ、そうなんですか?」
「ああ。ったく、こんな訳の分からン所に突然放り込まれて殺しあえだなンて、
まったくもってやっとれン」
オイゲンに対する皮肉なのか、つい先程と同じセリフを言う。
「ふぅ~…悪い人でなくてよかったです…」
やっとのことで緊張を解き、レシィは気の抜けた笑顔を見せた。
だが、それでもスキはなかった。
「ボクの名前はレシィといいます。あなたは?」
「ガフ・ガフガリオンだ。」
近くの木陰に並んで座り、二人は話を始めた。
「ところでガフおじいさん、ご主人様と会いませんでしたか?
20歳くらいのニンゲンの男性なんですが…」
「……おじいさン…まぁいいが…。さっき言ったじいさン以外ではお前が始めて会ったヤツだ」
「…そうですか。」
心底残念そうに肩を落とした後、再びレシィはガフガリオンを見た。
「ガフおじいさんは、
参加者名簿………見ました?」
「ああ」
再び、沈黙。またしても、木の葉がざわめく。
「ガフおじいさんも知ってる人…大切な人が、参加者の中にいたりしますか?」
神妙な顔をして、レシィが聞いてくる。
自分の命すら危ない状況で人の些細なことにまで心配してくる。
なんとなく、アイツに似ている気もする。
「いや…何人か知り合いはいるけどな」
だからといって味方かどうかは別だ。
ラムザはともかく、
アグリアスは自分を許さないだろう。
「お前はこれからどうするンだ?」
ガフガリオンはレシィを見やって、尋ねた。
「とりあえずはご主人様を捜します。その後のことはそれから、ご主人様と話し合って決めます」
「ご主人様、ねぇ…。マグナとかいったな。そうか……」
少し間を空けてから、再びガフガリオンは口を開いた。
「よかったら、その剣とオレの持ち物を交換しないか?
お前は剣を使えンのだろ?」
剣さえ手に入れば、レシィを始末するにしろ野放しにするにしろどうでもいい。
正直なところ、仲間は欲しいが危険人物が何人いるかも分からないこの状況で
人捜しという面倒な上に危険なことはしたくはなかった。
いや、他の参加者と接触していくのはどちらにせよ避けれない。
単純に、甘々のレシィと一緒にいることがハイリスクと感じたのかもしれない。
だが、そう簡単には事は進まない。
「ダメです!この剣はご主人様の剣、ボクの物じゃないのに物々交換なんてできません!」
自分の抱えていた剣を慌てて背中に回して、ガフガリオンを見つめるレシィ。
(チッ、面倒だが…。仕方ないな)
内心で舌打ちしながらも、ガフガリオンにできる最大限の友好的な表情で次の言葉を言う。
「それじゃあ、お前のご主人が見つかるまではお前と一緒にいるから、その間だけでも貸してくれンか?
もちろん、こっちもオレの持ち物でお前が欲しいものがあれば貸すぞ」
その言葉を聞き、レシィは下を向いて考え始めた。
(この人は悪い人ではなさそうだし……貸すだけなら…)
レシィはそう考え始めてた。それが後々、天国と地獄、どちらに転ぶかは今は誰にも分からない。
「わかりました。でも、ご主人様に会えたら絶対に返して下さいよ!?」
かなり不安そうな、ちょっと泣きそうな顔でレシィがガフガリオンを見つめる。
「オレはこれでも傭兵だ。契約は守るから安心するンだ」
(ま、傭兵が口約束を守るとは限らンがな)
ここで老練な傭兵でなければ、口の端でも吊りあがってたかもしれない。
ガフガリオンはレシィから剣を受け取ると、自分の荷物袋を掴んだ。
「ほらレシィ、オレの荷物袋だ」
ガフガリオンはレシィのほうへと自分の荷物を放り投げた。
両手でしっかりとキャッチするレシィ。
「武器でもなんでもいい、好きなもンを選ンでいいぞ」
「は、はい。では失礼します…」
ちょっと申し訳なさそうにレシィは荷物をあさり始める。
「…二人分ありますね」
「じいさンを撃退したときに奪ったやつだ。何か厄介なものを持っていたら困るしな」
「た、確かに…」
そんなこんなの会話をしつつ、レシィはガフガリオンの荷物の中からとあるものを見つけた。
「これは!サモナイト石が入ってました!!しかも誓約済みです!!」
レシィが嬉しそうにガフガリオンの荷物から取り出したのは、
カッティングが施してある灰色のクリスタル。
「なんだ、知ってるものなのか?」
「はい!これはボク達の世界でサモナイト石と呼ばれているもので、
異世界のモノを召喚することができるんですよ!」
「…召喚?その石を使ってか?」
訝しげな顔をして、ガフガリオンがレシィを覗き込む。
「はい。ガフおじいさんの世界では違うんですね」
「ああ、オレ達の世界では召喚師が………って、『ボク達の世界』、だと?」
訝しげな顔のまま、首をひねってガフガリオンはレシィを更に覗き込む。
「……な…何か変なことを言いました?」
当のレシィは、本当に特別なことを言ったつもりはないらしく、
ガフガリオンの視線に気圧されて引いている。
レシィは先程の会話を、異世界が存在するという前提で話をしていた。
ガフガリオンの中では異世界というものは召喚師を介してしか関わる機会がないものだ。
「なるほど、な…。そういう世界もあるンだな」
レシィからリィンバウムの簡単な説明を受け、理解し難いが納得した。
召喚というものがメジャーな世界もあるらしい。
ということは、自分達は、ラムザが食って掛かっていた相手に召喚されたのかもしれない。
どちらにせよこのゲームの招待客とやらは異世界からの客も多いようだ。
「大体わかった」
と言いつつ、ガフガリオンはあごに手を当て考え始めた。
(つまり、オレの常識が全く通じないようなヤツがいるかもしれない…ということか)
窮地で生き残るのは現実主義者だ。
常識に捕らわれずに、冷静な判断を下すのは容易なことではないが――――
「レシィ、北の城に行くぞ。」
「ええ!?危険じゃないですか!!?」
「かもしれンが、同じ場所にずっといるのは危険だ。
お前も腕は立つようだし、危なくなったら逃げればいいだけだ。
城なら人も集まるだろうし、何か使えるものがあるかもしれン」
もしかしたら、逃げれないようなヤバい敵が出てくるかもしれない。
だが、それでも自分だけは生き延びる。
目の前の男を犠牲にしてでも。
【F-2/森/一日目・昼】
【レシィ@サモンナイト2】
[状態]: 健康
[装備]: サモナイト石[無](誓約済)@サモンナイト2or3
[道具]: 支給品一式 (支給されたアイテム・武器共に不明)
[思考]1:ガフおじいさんと城に向かう
2:マグナ達と合流する。
3:マグナにガフおじいさんに貸している剣を渡す。
4:殺し合いには参加せず、極力争いごとは避ける。
[備考]
サモナイト石[無](誓約済)は武器として支給されたのではないため、
おそらくは攻撃系の召喚獣と誓約したものではないと思われます。
【ガフ・ガフガリオン@FFT】
[状態]:健康
[装備]:(血塗れの)マダレムジエン@FFT、ゲルゲの吹き矢@TO、絶対勇者剣@サモンナイト2
[道具]:支給品一式×2 (支給されたアイテムは不明)
[思考]:1:(どんな事をしてでも)生き延びる
2:とりあえずレシィとE-2の城に向かう。
3:一応、マグナとやらは捜してやる。
4:必要があれば、もしくは足を引っ張るようならレシィでも殺す。
5:アグリアスには会いたくない。
[備考]
1. 闇の剣:ガフガリオンの固有ジョブ『ダークナイト』のアビリティ『暗黒剣』の一つ。
闇の力で相手にダメージを与え、与えたダメージの分だけ自分の体力を回復できる。
今は制限により、回復能力が若干落ちている。
基本的には剣がないと使えない(素手でできないこともないが殺傷力は皆無)。
アンデッドの敵に使うと、逆に体力を吸収される。
2.ここはおそらく異世界で、異世界の参加者が多数いるであろうと推測しています。
最終更新:2009年04月17日 08:37