PANDORA MAX SERIES Vol.2 死者の呼ぶ館
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- 571PANDORA MAX SERIES vol.2 死者の呼ぶ館sage▼2022/11/04(金) 15:19:02.58ID:F0RKibzm0[1回目]
- 登場人物
【秋山圭介】……名前変更可の主人公で、不動産屋の新入社員。館に来てから、自分が『雅経』となりある巫女と駆け落ちする夢をよく見る。
【佐倉葵】……森の中の館に夫と二人だけで住んでいる美しい女性で、圭介の夢の中の巫女そっくりの姿をしている。
【佐倉聡】……館に住む老人で、妻の葵の身の回りの世話などを一身に行っている。
(ツアー参加者)
【一条省吾】……表向きには雅経と巫女の橋渡しをしつつも実際は巫女に横恋慕しつつ出世のため御門とも通じていた『家隆』が転生している。
【植田舞子】……一条のガールフレンドで霊感が強く、『幽霊の出る館』の噂を聞いて一条と共にツアーに参加した。
【遠藤直樹】……一条の大学の神田教授の助手で、行方不明になる彼の死を信じることで本当に死んでしまい全員生存EDに行けなくなる。
【神田美沙】……神田教授の娘で遠藤の婚約者だが、大学教授の娘と聞いても信じられないくらい神経質で情緒不安定で迷惑な人である。
【緒方浩二】……可愛がっていた長女の可奈を事故で失ってから次女のみどりを可奈だと思い込んでいるが、本筋には殆ど関わりが無い。
【緒方可奈】……緒方の娘で本当は妹のみどりなのだが上記の姉の事故があってから口をきかず、持つ人形をみどりと名付けている。
……時は平安、迷いの森と呼ばれし深く険しき森ありけり。
人、物の怪の棲まいし森ぞ言ひて近寄らず。
………されど、いづれの時にかこの森に分け入りし男女あり。
森に入りし男女、ただひたすらに奥へ奥へと走りぬ。
……この男、連れたる女子と夫婦の契りを交わし、家を捨て父母を捨てはるか安住の地を求めて逃げ出さむと欲す。
……この女子、時の御門に望まれし巫女なり。
なれば、御門の怒りひとかたならず天に届かんばかりなり。
男、女子をかばいつつ森の中を逃げ惑ふ。
ここは……物の怪の棲まいし、人食いの森……
ここは……常世と現世の狭間にありし、帰らずの森……
この森に入ったが最後、生きて人の世に戻れると思うなや愚かなりし人間どもよ……
俺は晴れた平日の昼下がりに、公園のベンチに座ってぼんやり空を見上げていた。
「自然に囲まれた閑静な場所に、家を買いたいというお客様がいらっしゃるんだ。全部で6名様だ。明日、現地へご案内してくれ。
その中には大事な取引先(一条グループ)の方もいらっしゃる。くれぐれもヘマするんじゃないぞ。こいつは泊り込みの仕事だぞ!
なんせ目的地は、山奥の森の中だからな!でも、現地に行けば管理人もいるから安心していいぞ」
言いようの無い憂鬱さに苛まれていたが、俺はとにかく待ち合わせ場所の駅前広場へと向かった。
(※1)
※1
前作のデータをコンバートしていると選択肢次第で『一条すみれ』という取引先の娘に会って告白されて館に招かれるも、
「お嬢様に悪い虫が付かないように」という執事によって館のトイレに閉じ込められてバッドEDになります。
主人公の名前も『坂上』となり、そのトイレでは『細田』なる人物が既に息絶えているという『学校であった怖い話』ネタです。
誘いを断ってもその娘が客の一行だったため問題になり、怒ったお嬢様によって社長に殴り殺されるというやはりバッドEDになります。
駅前広場に着いて間もなく、高級品を見に纏った男と活発な女のカップルに出会った。
「へ~え、この人があたし達を例の館に案内してくれんの……?」
男の方は我が社の取引先たる一条グループの一条省吾で、女の方は植田舞子といい予定されている6名の客の内の二人だった。
「ねぇ、早く出発しよ~よ」
(※2)
植田さんの言った通りこの二人以外の参加者もすでに集まっており、俺達7名は電車にのって現地の駅へと向かった。
※2
選択肢によってはここで三人だけで出発し、森の中で見てはいけないものを見てしまうバッドEDとなります。
その場合は森の伝説も、かつて駆け落ちした男女が息絶えた『心中の森』となって設定ごと変わります。
- 572PANDORA MAX SERIES vol.2 死者の呼ぶ館sage▼2022/11/04(金) 15:21:11.53ID:F0RKibzm0[2回目]
- 【一日目】
三回も乗り換え何時間も揺られてやって来た別荘の最寄り駅は、無人どころか駅があるのが不思議なくらい寂れた所だった。
「この辺りの村は、ずいぶん昔に廃村になったと聞いています。寂しげな雰囲気がするのもそのためでしょうなぁ…」
その上、本当ならとっくにここまで迎えに来ているはずの別荘の管理人は来る気配すらない。
会社に連絡しようにも携帯電話は圏外で公衆電話すらないため、俺達はやむなく持参の地図に従って別荘に直接向かうことにした。
俺達はしばらく別荘への道を歩いたが、地図どおりに進んだ道はなぜか別荘に着く前に不気味な森に突き当たって途切れていた。
「…この森の中を進むんですか?」
迂回するとなると倍の時間がかかるため皆も乗り気だったが、この森はまるでそれ自体が意志を持っているような異様な雰囲気があった。
「この辺…すごいわ。霊よ、霊。それも悪霊!生者に恨みを持った悪霊が、あたし達を狙ってるわ」
霊感が強いという植田さんが騒ぐのを聞きながら森の中を進んだ俺達の前に、やがてある荘厳な館が姿を現した。
こんな森の奥に不自然に開けた空間があって、そこに何のために建てられたのか立派な洋館(もちろん目当ての別荘ではない)がある。
一方でお客様達はみんなこの美しい洋館を褒めそやしており、俺もまた恐怖を感じつつこの館から目を離せなかった。
「…ここの方に別荘の場所を御存知ないかお尋ねしましょう。そのついでに、少しでも休む場所を拝借できないかも交渉してみましょう」
やがて館の扉が開き、中から一人のしわがれた老人が出てきた。
「あなた方、森に惑わされましたね。とにかく、中にお入りください。もうすぐ日が暮れます。日が暮れてから森を抜けるのは、
とても危険です。今夜は、我が家で休まれるといいでしょう。別荘をお探しなら、明日にでもゆっくりと探すといい。
ここいらの森は人食いの森とか帰らずの森とか呼ばれていて、森へ入り込んだ旅人を惑わす妖怪の仕業だという古い言い伝えがあるんです。
信じられませんか?いいんです。つい数年前までは、私もそう思っておりましたから…今、二階に部屋を用意しますのでお待ちください」
俺はそこまですることは……と断りかけたが、結局は皆の疲れも限界にきており佐倉と名乗ったその老人に従い館に入ることになった。
「…まことに申し訳ありませんが、我が家に電話は置いてないんですよ。明日の朝になれば私も一緒に行って道をお教えしましょう」
電話もできない上に佐倉老人は俺が手伝いをしようとすることすら許さず、とにかく今日は休むよう皆に言い付けた。
「……そうそう。大切なことをお伝えするのを、忘れるところでした。あの部屋にだけは、絶対に近付かないでください。いいですね…?
例え何が起ころうとも、絶対にあの部屋にだけは近付いてはいけません。これだけは守ってください。お願いいたしますよ………」
階段の下にある扉を指して厳命した佐倉老人は、部屋の支度をするため二階へ上がっていった。
「あの部屋はヤバいわよ。強い霊気を感じるわ。まるで、悪霊の巣窟って感じね」
扉が気になったがそれ以外の所も、館の中は老人一人で維持していると思えないほどすばらしく手入れされた家具と調度品ばかりだった。
やがて再び降りてきた佐倉老人は、そこで煙草に火を付けようとした一条さんの手を血相を変えて押さえつけた。
そして強い口調で館内の禁煙を言い渡した佐倉老人は、さらに出発の時に返すといって一条さんの煙草とライターまで没収してしまった。
「まことに申し訳ありません。この館では、火の取り扱いに細心の注意が必要なのです」
その後、俺達は一条さんと遠藤さん・植田さんと神田さん・緒方親娘・俺一人の四部屋に分かれて二階の部屋で夕食を待った。
やがて夕食となり全員で食堂に集まったが、俺はそこにいた一人の美しい女性を見るなり心を奪われてしまった。
「紹介がまだでしたね。私の妻の葵です」
佐倉老人と二代は歳の離れていそうなこの女性が彼の妻という事実に、俺は最低限の挨拶を返すくらいしかできないほどの衝撃を受けた。
「この館にお客様が来るなんて何年ぶりかしら…?私はこの館から出られないので」
「寂しくなどあるものですか。こんな美しい家で毎日美に囲まれて暮らしているのですから。特に、私の妻は最高の美ですからな」
人妻に胸をときめかせるなどあってはならないことだが、俺はもう葵さんのことで頭が一杯になっていた。
だがしかしそれ以上に、この葵さんに関して恋慕では済ませきれない複雑な何かを感じてもいたのだ。
そうして俺は明日の朝8時の出発を皆に告げつつ、葵さんのことだけではない漠然とした不安を感じつつも部屋で眠りに就いた。
- 573PANDORA MAX SERIES vol.2 死者の呼ぶ館sage▼2022/11/04(金) 15:22:17.33ID:F0RKibzm0[3回目]
- 【二日目】
翌朝、俺は突然部屋に訪れてきた一条さん・植田さん・神田さんに叩き起こされた。
なんでも同衾を禁じて部屋を別にされた遠藤さんと神田さんが佐倉老人の目の届かない森で夜中に逢引きしようとしたところ、
佐倉老人に見付かってしまった神田さんが夜の森は危ないと止められたせいで待ち合わせ場所に遅れてしまったらしい。
さらに朝までそこで待っていた神田さんの所に遠藤さんは現れず、一条さんの部屋にも帰っていないままらしい。
俺達は錯乱している神田さんを宥めつつ館の外に探しに行こうとしたが、そこで慌てた緒方さんと鉢合わせた。
なんでも可奈ちゃんまでが突然いなくなってしまったらしく、緒方さんもまた俺達とは別に可奈ちゃんを探すという。
やがて二人を探して森に入った俺は何か地面から生えたものに躓いてしまったのだが、それはよく見ると……ミイラと化した人の手だった!
これを掘り出してみるとやがて手だけではなく服を着た全身のミイラが出てきたのだが、いつの間にかそこに神田さんが立っていた。
「これは、直樹さんなのよ!ねぇ、返事をしてよ!直樹さん!!約束したじゃない…!私をひとりぼっちにしないって!」
一日で遠藤さんがミイラになるはずがないと説得しても神田さんは耳を貸さず、怒りで発狂して暴れた末に失神してしまった。
なんとか神田さんを連れて館に帰っても彼女は部屋に鍵をかけて籠ってしまい、助けを呼びに館を出ようにもなぜか森からは出られず。
佐倉老人にそれとなく聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「……思い起こせば、私もあなた方と同じように森で迷ってこの館に辿り着いたんです。この館も調度品も、ここにあるものは全て妻の物です。
私個人の持ち物などほとんどありません…ちょうど、今のあなた方と同じですよ」
呆然としながら部屋に戻る俺の前に、部屋からあの葵さんが声をかけてきた。
「秋山さん、今日は元気がありませんのね……なにか、つらいことがあったのでしょう?」
葵さんにミイラを発見したことを告げると、病弱な彼女には刺激が強すぎたのか何かに耐えるように青白く小刻みに震えていた。
「……いいえ、違うんです。秋山さんは、少しも悪くありません。いつものことです…ですから、どうか気になさらないでください」
俺はそんな葵さんを二階の部屋まで送ってから、昨日とはうって変わって空席の多い寂しい夕食を終えてから再び眠りに就いた。
【三日目】
佐倉老人が死んでいる姿……という悪夢を見て飛び起きた俺は、当の佐倉老人の悲鳴を聞いて階段へと駆け付けた。
すると昨夜の悪夢の通り、階段下のホールに足を滑らせて落ちた佐倉老人の死体があった!
「ジジイが一人死んだくらい、どうってことないだろ。あんなヨレヨレになるまで長生きしたんだ。思い残すことなんてないだろうぜ。
問題は………この死体をどうするか。葵………さんにも、知らせないといけねぇし……とりあえず、ジイサンの部屋に運ぶとするか」
なぜか異常に落ち着いていた一条さんと一緒に佐倉老人の部屋に遺体を寝かせると、植田さんまでもが意味深なことを言い出した。
「この人が死ななかったら、代わりに圭介が死んでいたかもしれないっていうのにさ…知りたい……?そんじゃあ、教えてあげてもいいけど…
葵さんに聞いてみる?彼女が一番、その理由を知ってるからよ…あたしにはわかるの。この館に来て、霊感が強くなってるからね」
俺はその言葉を信じ、佐倉老人の死を伝える必要もあるため葵さんの部屋を訪ねてみた。
しかし葵さんは夫の突然の死を聞いてもなぜか動揺を見せず、それよりも昨日と同じく何かを恐れるような反応を見せるままだった。
「今は、まだ言えません。もう少し時間をください……」
葵さんと別れて遺体のあったホールに戻ると、すぐに異変に気付いた。
佐倉老人の落下した場所から綺麗に血溜りが消えていた……だけでなく、さらには佐倉老人の部屋からも遺体が消えていたのだ!
「佐倉のおじいさん、きっと…食べられちゃったのよ…間違いないわ。佐倉のおじいさんを殺したのは、あの女よ……!
ついて来ないでよ!……あたし、これから大事な用があるんだから。いいわね?もし、ついてきたりしたら…………殺すわよ」
かつて佐倉老人が一条さんから没収したライターを拾ってから植田さんを追い掛けたが、すでに彼女の姿は無い。
そのまま一階でなぜか開いていた玄関の扉を閉めようとした時、館の外からいきなり矢が飛んできた!
外れたものの明らかに俺を狙った何者かを追って森に入ると、この状況が館に来てからよく見るあの夢に似ていることに気が付いた。
- 574PANDORA MAX SERIES vol.2 死者の呼ぶ館sage▼2022/11/04(金) 15:23:14.73ID:F0RKibzm0[4回目]
- 「巫女よ……!夢占にて末の世界を知る者よ、夢占の洞穴へ戻りたまへ……今ならば、御門も許してくれましょうぞ。巫女よ、戻られよ!」
「我、戻らじ。この者とともにありてこそ、我が身、我が心、我が命なり!」
「我が心は、決して変わらぬ。この者と夫婦となるためならば、家などいらぬ……!」
「……ならばやむなし。矢を持て……!」
「…………我が妻よ!」
「ま、まさ…つね様……我は……あなた様を…………お待ちしています…………この地で…………あなた様を、ずっと…………
されば……早く、ここへ来てくださいませ……我の……そばへ……」
やがてなんとか気を取り直して館に戻った俺に、葵さんが意を決したように話しかけてきた。
「…今すぐ、あなた一人で逃げてください。私に残された時間はあとわずか…今なら…あなた一人だけなら、なんとか逃すことができます。
手遅れにならぬうちに、この館からお逃げください……私、あなたを死なせたくありません。そして…あなたが助かるには、
この館から逃げるしか方法がないのです。あなただけなんです。私が…逃してあげられるのは…
明日の朝を、館の中で迎えてはいけません。早く逃げないと、あなたも…聡さんのように………私、そんなの耐えられません」
だが、俺一人で逃げることなどできない。
逃げるなら生きている皆も、もちろん葵さんも一緒だ。
「今は……こんなことを言う時ではないのかもしれない……でも…葵さん……あなたさえよかったら、俺と一緒に来てくれませんか?」
「…わかりました。どこまでやれるかわかりませんが………やってみましょう」
やっと葵さんと心が通じたと思ったその時、いきなり一条さんがその場に怒鳴り込んできた。
「マイが……いなくなった…………おい、圭介!テメーがマイを隠したんだろっ!さぁ……マイを出せよ!」
激昂して話の通じない一条は、なんと葵さんに刃物を突きつけて人質に取ってしまった。
植田さんの居場所など知らない俺は咄嗟に彼女が開かずの間にいると答えたが、そもそもあの扉は入ろうにも開きはしない。
しかし信じられないことに、強引に入ろうとした一条の手を扉が食べるようにして取り込んでしまった!
「…扉を開ける術は、ただ一つ……火を使うのです」
一条のライターを使って火を近付けると扉は避けるように開き、やがて暗闇の中に地下への階段が見えた。
「この階段を降りれば、あなたはこの館の秘密…そして、この私の秘密を知ることになります」
覚悟を決めて地下への階段を降りた俺が目にしたのは、植物の根が複雑怪奇に絡み合って張り巡らされ壁となった空間だった。
「ここが館の中心。『サクラ』の間です。樹齢数千年という桜の古木。根は、すべてその古木のものなのです」
よく見ると、あるのは根だけではなく……枝や瘤などのように干からびた人間の身体が混じっている!
「あの者達は…みな、この木に捧げられた供物なのです。この木に供物を供える巫女。それが………私…」
桜の古木に生気の何もかもを吸い取られ土に還ることもなく生き続ける供物の中には、あの佐倉老人の姿もあった。
「…聡さんは、巫女である私の世話をするためにこの木が選んだ『夫』という存在。『夫』も、また供物の一部。次の『夫』が選ばれると
同時に、その生命をこの木に捧げなければならない。千年の昔から変わることなき、『巫女』と『夫』のそれぞれの…役目……………
千年前の…あの時、私は死ぬ運命にありました……ですが、死の間際に恋人と誓った約束をどうしても守らねば……
という強い念が残りました。その念はすぐに願いとなり、その願いを迷いの森の主である桜の古木が聞き入れたのです。
…この時以来、私は古木とともに存在しました。今の私は、この古木によって生かされているのです。
つまり……この者達は、私への供物でもあるのです。例え人と同じ姿形をしていても、この身を人とは呼べません」
既に自分が雅経であると気付いた今、俺の葵への想いに迷いは無かった。
「うれしい…私……これで、ようやく…………」
- 575PANDORA MAX SERIES vol.2 死者の呼ぶ館sage▼2022/11/04(金) 15:26:39.04ID:F0RKibzm0[5回目]
- その時、根の間から姿の見えなくなっていた一条がいきなり現れた。
「ようやく、時が満ちたな。夢占の巫女よ……!」
「一条さん……いえ、今は『家隆様』(※4)とお呼びした方がよろしいか…?」
「我は、どちらでもかまわぬ。今の我は、家隆でもあり省吾でもあるのだからな。
……あの時、我は確かに雅経へ向けて矢を放ったはず……だが、その矢はすべて葵殿の身体を貫いていた……
あの後…巫女を射殺してしまったことを御門に激しく咎められ、はるか西国へ下り、生涯をその地で終えた。無念の思いをいたまま…な。
こんなことになったのは全部、雅経を射殺せなかったからだ。この次は、絶対に失敗しないぞ…………ってな。
もう…これ以上、失敗するわけにはいかねぇんだ。いい加減あきらめて、俺に殺されてくれよ」
飛びかかってきた一条はなんとか撥ね退けたが、やがてそこに植田さんまでが現れた。
「……あたしね、この館と取引したんだ。館は新しい『巫女』を望んでいた。あたしは大事な『ショーゴ』をアンタに取られたくなかった…
お互いの利益が一致したってわけよ。アンタは館に捨てられたの!もう、いらないのよ!!
あたしはアンタと…そして圭介を殺して、新しい『巫女』になるのよ!!…ショーゴ?あなたは、あたしの『夫』になるの」
「いけません…!『巫女』は延々と供物を呼び続け、『夫』は『巫女』の世話をしながら生気を吸われてしまうんですよ。
そうやって、甘い言葉をかけておいて館は人を手懐けるんです!!私の時だって、供物が人間だなんて館は教えてくれなかった」
「俺は…嫌だ。お前はマイじゃない。俺の知ってるマイは…そんなんじゃない。嫌だ…た、助けてくれ!」
館に同調し根を操る植田さんに、俺達は成す術なく取り込まれるかに思えた。
「彼女を止めるには、古木の呪縛を解くしかありません。火を使うのです……大丈夫です。まだ、諦めないでください」
一瞬視界に何かが見えたかと思うと、それはどこから現れたのか発狂するあまり館に放火する神田さんの姿だった。
たちまち『サクラ』の間は炎に包まれて館による呪縛も解かれたが、葵はすでに観念し炎に身を委ねようとしていた。
「ああ、君は約束どおりここで待っていてくれた。俺は…あの時から、ずっと後悔していたんだ。俺と交わした約束のせいで、
君の輪廻の輪を閉ざしてしまったことを…ここで君を残して逃げたりしたら、俺はまた後悔することになる」
「…そうだ。秋山さんの言う通り、早く…逃げるんだ……私は…まだ死ねないのですよ。『夫』の引継ぎが完全に行われるまで、
死ぬことは許されないのです…葵に会えて、私は幸せだった。葵を連れて逃げてください。早く……!」
「葵さん……俺は、あなたともっと一緒にいたい。あなたを…もっと広い世界へ連れ出してやりたいんだ…それが…前世で果たせなかった
俺の夢だから……一緒に…来てくれますね?逃げる時は、佐倉さんも一緒です。俺は…もう後悔したくないんです」
俺は根の間から佐倉老人を引き摺りだし、葵を支えて崩壊する『サクラ』の間を飛び出した。
しかし驚いたことに、必死で逃げる俺達の後ろから植田さんを抱える一条もが走って追いかけてきた。
「俺達も逃げるところなんだ。俺…昨夜からなんか頭がボーッとしててさ、今日何をしていたのかさっぱりわからねえんだ」
そして俺達は炎上し崩壊する館からなんとか抜け出し、外で緒方さん親娘とも再会することができた。
さらに驚いたことには森で彷徨っていたという遠藤さんまでが姿を現し、おかげで神田さんも落ち着きを取り戻していた。
「…館が燃え落ち、桜の古木の力が消えたのでしょう。今の森に、人を惑わせる力はありません」
全てが終わり、俺は改めて葵に一緒に生きていく決心を伝えた。
あれから皆は元の生活に戻り、佐倉老人は『故郷へ戻る』と言って去って行った。
俺のそばには葵がいるが、桜の古木が消えてしまったので、その命がいつまで続くかはわからない。
だから…いつ別れの時が来ても後悔しないですむように、葵と過ごすこの一瞬を大切にしたい。
完
EDはバッドを含め複数ありますがこれ以外は一人か少数で脱出するEDに過ぎないので、全員生存で葵と共に生きるベストEDを書きました。
なお全てのEDを見ると出現する前日譚の外伝2では、佐倉老人が本当は一条の大学での友人で神田教授の教え子だったことがわかります。
伝説の研究のために森に入った所で館に迷い込み、そこで葵(と桜)に魅入られて新たな『夫』となる際に記憶も失ってしまったようです。