「盲目の鷹」
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1:
大陸の南に位置するメテオリスの国に一人の下級僧がおりました。名を、サルドル=ネイピアと言います。
彼は人より少し小さい鷹の翼を持ち、人を導くメテオリスに恥じない高潔な魂を持っていました。今日もスウィフトガルドのスラムに赴き、貧しい者やその子供たちにメトの教えを説いて歩きます。
1:
大陸の南に位置するメテオリスの国に一人の下級僧がおりました。名を、サルドル=ネイピアと言います。
彼は人より少し小さい鷹の翼を持ち、人を導くメテオリスに恥じない高潔な魂を持っていました。今日もスウィフトガルドのスラムに赴き、貧しい者やその子供たちにメトの教えを説いて歩きます。
少年たちはネイピアに尋ねます。
(第八次)十字軍の遠征に行った父が死んでしまった。何故メト様は父を助けてくださらなかったのか、と。
ネイピアは少年を優しく撫でてこう言いました。
人は死ねば皆土くれになってしまう。死んだものと二度と会うことは出来ない。けれど、メト神の為に命を賭したものは違う。肉体が滅びても、魂はメトのそばに行き、永遠に幸せに生きているのだよ、と。
今は悲しいかもしれないけど、いつかまた会える。皆が土くれになってしまう中、君達のお父上は、遥か天の楽園で、君たちが来るのを待っているのだ、と。
(第八次)十字軍の遠征に行った父が死んでしまった。何故メト様は父を助けてくださらなかったのか、と。
ネイピアは少年を優しく撫でてこう言いました。
人は死ねば皆土くれになってしまう。死んだものと二度と会うことは出来ない。けれど、メト神の為に命を賭したものは違う。肉体が滅びても、魂はメトのそばに行き、永遠に幸せに生きているのだよ、と。
今は悲しいかもしれないけど、いつかまた会える。皆が土くれになってしまう中、君達のお父上は、遥か天の楽園で、君たちが来るのを待っているのだ、と。
子供たちはサルドルとともに祈りをささげ、元気になって家に戻って行きました。
2:
小さき鷹、サルドル=ネイピア。
彼がスラムを訪れるのには理由がありました。彼を慕ってくれる民達の中に、一人の少女がいたのです。彼女もまた、家族を遠征で失くしたものの一人でした。
小さき鷹、サルドル=ネイピア。
彼がスラムを訪れるのには理由がありました。彼を慕ってくれる民達の中に、一人の少女がいたのです。彼女もまた、家族を遠征で失くしたものの一人でした。
少女の名は、ペーネーンペーネーンと言います。父を七次遠征で失くし、八次遠征で兄を失くしました。ペーネーンは不幸の星。不幸の星にとりつかれたと思い込んだ少女でした。
最初彼女がサルドルに会った時、彼女は石を投げました。次にサルドルに会った時は、泥水をかけました。ですが次にサルドルに会った時、彼女はサルドルに問いました。
私たちはメト神に救済されるべきものだという。なのに私には悲しみしか残らない。これは一体何故なのか。サルドルは彼女に聖書を渡し、毎日一行づつこれをともに朗読しようと話しました。それで答えが得られるのならと、彼女は渋々承諾したのです。
私たちはメト神に救済されるべきものだという。なのに私には悲しみしか残らない。これは一体何故なのか。サルドルは彼女に聖書を渡し、毎日一行づつこれをともに朗読しようと話しました。それで答えが得られるのならと、彼女は渋々承諾したのです。
以来、彼女とサルドルは毎日のようにメトの教えを朗読しました。いつの間にか、二人の周りには、教えを聞こうとするたくさんの民や子供が集まるようになっていたのでした。
3:
スラムに通う日々の中、ある時ネイピアの心に今まで感じたことの無い感情が沸き上がる様になりました。
ペーネーンは日々、明るくなり、敬虔なミレオム聖教の信者となりました。もう、石を投げられたり、泥水をかけられることもありません。ペーネーンが明るくなるにつれ、若い男達が、彼女に結婚を申し込むようになったのです。それがネイピアには面白くない。何故面白くないのかはわからないが、とにかく面白くない。こんなに不愉快なのはきっと自分の修行が足りないからであろう。そう考えたネイピアは、一時スラムから離れ、メテオリスの聖地、アムナガルへと登りました。
スラムに通う日々の中、ある時ネイピアの心に今まで感じたことの無い感情が沸き上がる様になりました。
ペーネーンは日々、明るくなり、敬虔なミレオム聖教の信者となりました。もう、石を投げられたり、泥水をかけられることもありません。ペーネーンが明るくなるにつれ、若い男達が、彼女に結婚を申し込むようになったのです。それがネイピアには面白くない。何故面白くないのかはわからないが、とにかく面白くない。こんなに不愉快なのはきっと自分の修行が足りないからであろう。そう考えたネイピアは、一時スラムから離れ、メテオリスの聖地、アムナガルへと登りました。
小さき鷹サルドル・ネイピアはメト神のいる石室の前で跪き、長い長い祈りを捧げます。どれくらい長い間捧げていたでしょう。日が暮れ、石室の管理者がそろそろ訪れようかという時、ネイピアは誤って石室を明けてしまった。
そこには、長い役目を終えて停止した、「メト」がありました。
そこには、長い役目を終えて停止した、「メト」がありました。
小さき鷹は泣きました。血の涙を流し続け、朝まで泣き続け、その瞳は真っ赤に染まってしまいました。
4:
鷹はその朝から変わりました。メテオリスはヒトを導き、メトによって救済される。その教えは変わらない。変えてはいけない。メトがこの世にもういないのなら、自分がメトになろう。自分が全てのヒトを救おう。この穢れた渚の地平の足枷を全て外し、滅びを与え、全てを救おう。そう決意しました。
鷹はその朝から変わりました。メテオリスはヒトを導き、メトによって救済される。その教えは変わらない。変えてはいけない。メトがこの世にもういないのなら、自分がメトになろう。自分が全てのヒトを救おう。この穢れた渚の地平の足枷を全て外し、滅びを与え、全てを救おう。そう決意しました。
鷹の視界は赤く染まり、もう何も見えてはいませんでした。十字軍の兵士たちの最前線まで一日で飛び、スウィフトガルドの騎士達を率いて、邪悪なエメタリス達を次々と打ち滅ぼします。
一年間、眠ることなくエメタリスを、魔女を、斬り伏せ、鷹は磨耗しきってしまいました。赤い瞳はもはや瞬くこともなく、その目は常に前だけを見ていました。
一年間、眠ることなくエメタリスを、魔女を、斬り伏せ、鷹は磨耗しきってしまいました。赤い瞳はもはや瞬くこともなく、その目は常に前だけを見ていました。
5:
そんなある日。彼の目の前に懐かしい顔が目の前に現れました。スラムの少女、ペーネーンでした。
ペーネーンは静かに言いました。ネイピア様が私たちのもとを離れて、もう一年になります。もう私たちを導いては下さらないのかと心配になり、ここへ参りました。私を、ネイピア様の手で導いてください。私の穢れた身体を打ち滅ぼし、清らかな魂をメトのもとへと導いてくださいませ。
そんなある日。彼の目の前に懐かしい顔が目の前に現れました。スラムの少女、ペーネーンでした。
ペーネーンは静かに言いました。ネイピア様が私たちのもとを離れて、もう一年になります。もう私たちを導いては下さらないのかと心配になり、ここへ参りました。私を、ネイピア様の手で導いてください。私の穢れた身体を打ち滅ぼし、清らかな魂をメトのもとへと導いてくださいませ。
ネイピアは戸惑いました。確かに、強く望まれたなら、敬虔な信者の首を刎ねてやるという教えは、ありました。しかし、彼はペーネーンだけは殺したくなかった。それがメトに成り代わろうとする決意に水を差していることもわかってはいても、それでも彼女だけは殺したくなかったのです。
彼女は、どうしてこんなにも神に忠実なのだろう。自分は、メトが停止したその日から、迷ってばかりなのに。
彼女への気持ち、自分の乱れた気持ち、それを振り切るために蛮族を打ち滅ぼしてきた。完璧でなくなってしまった自分をもとに戻したかったからだ。彼女たちを導くのはメテオリスである自分の役目の筈なのに。自分は今、彼女に導かれようとしている。彼女は、私を「もとに戻す」為にここまで来てくれたのだ。
彼女への気持ち、自分の乱れた気持ち、それを振り切るために蛮族を打ち滅ぼしてきた。完璧でなくなってしまった自分をもとに戻したかったからだ。彼女たちを導くのはメテオリスである自分の役目の筈なのに。自分は今、彼女に導かれようとしている。彼女は、私を「もとに戻す」為にここまで来てくれたのだ。
そして、鷹は少女の首を刎ねました。
6:
鷹は真っ赤な目を見開いて、号泣しました。悲しい、悲しい、悲しくて身が張り裂けそうだ。そして何故だろう。メトの停止を知ったあの時よりも、ずっとずっと強い悲しみを感じている。
鷹は真っ赤な目を見開いて、号泣しました。悲しい、悲しい、悲しくて身が張り裂けそうだ。そして何故だろう。メトの停止を知ったあの時よりも、ずっとずっと強い悲しみを感じている。
身体中から涙が溢れるような錯覚を覚えながら、鷹はその身を巨大な獣へと変えてしまいました。もはやヒトと同じ姿でいることも悲しい、すべてを滅ぼし、自分をも滅ぼし、楽園へと急がなくては。そこでまたあのスラムの少女と再会するのだ。私は全てを滅ぼし、全てを救う。
鷹はその天まで届く巨体を持って、狂ったように暴れだし、敵のエメタリスも、魔女たちも、スウィフトガルドの兵士達も、皆殺しにしようとしました。
ですが、これを見たエメタリスの王、ゾディアックは、18人の子息をこの地に集め、幾億の炎の矢を放ち、ネイピアは串刺しになって死にました。ネイピア死した後、十字軍の残党は撤退し、事実上第八次遠征はここに終わりを迎えます。
メトに成り代わろうとした哀れな盲目の鷹、サルドル=ネイピアの名は、その後も長く語り継がれました。
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