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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

Go leisurely~.9

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streetpoint

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Go leisurely with me













 全国大会出場が決まり、跡部が組んだ鬼のような練習メニューをこなし、気付けば世間は夏休みに突入していた。

 そして部活は午後からという今日、宍戸は汐屋との約束通り材料の買い出しに付き合っていた。

 先日の昼休み、汐屋に買い出しの件を頼まれた後連絡出来ないのは困ると思い携帯の番号を尋ねた所、持っていないとあっさり言われ、自分の番号を教えたまでは良かったのだが……

 汐屋はやはりというか、あまり密に連絡を取るタイプではなかったらしい。

 前日の夜まで汐屋から一度も連絡がないまま、やきもきとした時間を宍戸は数日間過ごす事になる訳だが、それでも夜自室で筋トレをしてるところに鳴った携帯を、驚くべき早さで取ったのは言うまでもない。

 夏休み中でも学校に来ていたおかげで一度話しをし、当日の昼前に出かけることは決まっていたが、こうも連絡がないのは不安になる。

 こんな所も普通の女の子とちょっと違う汐屋に、宍戸は困りながらも逆に煩わしくなくていいかとさえ思ってしまった。



 そして待ち合わせて並んで歩く事5分。

 自分で言うのもなんだが、宍戸は女子としゃべることは苦ではない。どちらかというと得意な方だ。

 それなのに出会ってからこの5分の間に交わした言葉は、


「おはようございます」

「おう」

「本当にすみません、無理を言って」

「別に構わねえよ」

「それじゃあ、おねがいします。行きたいお店は商店街の一本向こうの通りです」

「んじゃあ、ちゃっちゃと行くか」





 ーーー以上。


 宍戸は元気で活発な女の子が好き。なはずだ。それなのに、どうしてこんなぺちゃくちゃよくしゃべる今まで好きになったようなタイプとはまるで違う汐屋の事を好きになってしまったのか、冷静に最近の自分を振り返ってみる。

 初めて会ったのは恐らく長太郎のクラスだ。まだ新学期が始まって間もない頃、新レギュラーに選ばれた長太郎に部活の伝達事項があって出向いた時、教室の後方の入り口の席に座っていた汐屋に長太郎を呼んでもらったのがその時だったと思う。

 鳳長太郎呼んでくれないか。という頼み事だけで、それ以上の会話をしたのはあの調理実習室の前を通っていた時が初めてだ。

 その時汐屋がくれた料理を美味いと言った時の、安心したような少し恥ずかしいような笑顔が可愛いと思った。

 それから何度か顔を見る度になんとなく目で追ってしまうようになって、長太郎と一緒にいる所を見た時は正直ちょっとへこんだ。

 おまけに長太郎が汐屋の事を好きなのだと知った時、悔しかった。

 ということは、もうかなり初期の段階で宍戸は汐屋の事が好きだったという事になる。

 これはもう考えても分からない。

 第一どこが好きなのかと考えられるほど汐屋の事を知らないのだ。


「あ、ここのお店です」


 必死で考えをまとめようとして首を回していると、汐屋が立ち止まった。

 そこは古びた店構えの精肉店で、いわゆる昔ながらの店舗の前にショーケースがある店だった。


「やあ、雪緒ちゃんいらっしゃい!」


 店から顔を出してきた気の良さそうな店主が笑顔で声をかける。

 汐屋は慣れた様子で店主に笑顔を向けた。


「こんにちは、お願いしていたお肉、もらいに来ました」

「ああ、ちゃんと言われた通り下処理までしてるからね。はい、これ……重たいよ?」


 こんな笑顔もするんだなあ、と汐屋が店主と話す様子を半歩後ろで見ていた宍戸は、重そうな紙袋を横からひょいと引き取った。


「お、彼氏が荷物持ちか。そりゃあ助かるな」

「えっ!? ち、違いますっ! 彼氏じゃなくて学校の先輩で、わざわざ手伝いに来てくれたんですっ!」

「なんだ、雪緒ちゃんの彼氏じゃないの? そりゃ変な事言ったな。あははは!」


 店主の言った何気ない一言に過剰に反応する汐屋。その声の大きさに驚いてしまった宍戸。


「すっ、すみません、宍戸先輩っ! 気を悪くしないでください」


 頭を下げる汐屋に、別に気にしていないむしろ嬉しいと思っているなんて言えないなあ、とまるで人ごとのように思っていた宍戸は、一体何キロの肉を買ったのか、ずっしりと重たい紙袋を肩に担いだ。

 これは確かに男手がいる。そして買い出し用の食材リストの肉が何キロかまで見ていなかった事を思い出す。


「別に気ぃ悪くしたりしてねーよ。ほら、行くぞ。これから他にも寄る店あんだろ?」

「あ、はい」


 さっさと歩き出す宍戸を追いかける前に一度店主を向き直って別れを告げると、店主は楽しそうに笑った。

 すぐ宍戸に追いつくと、汐屋はぼそりと話し始めた。


「店長さん、すごくいい人なんですけど、ちょっと早とちりというか……」

「だから別に気にしてねーって。なんだよ、お前は俺と付き合ってるって誤解されんのがそんなに嫌なのか?」

「えっ!? いえ、あの、そんなつもりじゃ……えっと、だって、宍戸先輩の方が嫌じゃないですか? 私みたいなのと勘違いされたりしたら」


 汐屋を見ると、真っ赤な顔で俯いている。どうやら宍戸の彼女と思われるのが嫌なのではなくて、ただ単に恥ずかしいだけのようだ。


「お前もホントしつこいな。嫌なら嫌って言うだろ」

「ーーーそ、そうですよね……」


 そこからまた沈黙のまま野菜も近くの八百屋で購入し、2人揃って面白いくらい無言のまま重たい荷物を持って学校へ向かった。

 何か話す事はないかと色々と考えてみたが、特に話す事は思いつかない。

 女の子っていうのはおしゃべりが好きで、オチのないどうでもいい話しが好きな子が多い……と思うし、宍戸の周りにいる女友達は大抵おしゃべり好きだ。

 昨日見たドラマの話しや友達の話し、またその友達の彼氏の話しなど、話題など探そうと思えば掃いて捨てるほどで事欠く事はない。

 今だって話そうと思えばいくらでも話題はある。究極天気の話しなんかでもいい。

 でもそれをしないのに別に無言が居心地悪いとか感じない。無理矢理にでも話しかけなくてもただ歩いてるだけでちょっと楽しいなんて思っている自分が、確かにいた。


「ーーーどうしたんですか?」


 突然そう尋ねられ、宍戸は驚いた。

 そして隣りで不思議そうな顔で自分を見上げる汐屋に逆に尋ねる。


「あ? なにが?」

「えっ、いや、なんだかすごい楽しそうに笑ってたから、何か面白いものでも見えたのかなあ、と思って」

「はあ? 俺、笑ってたか?」

「はい……」


 汐屋の事を考えていて無意識のうちにそんなに楽しそうに笑っていたなんて。

 宍戸は、じっと汐屋の顔を見つめた。

 それに慌てたように顔を伏せる汐屋。


「お前と長太郎って、結構仲良いよな」


 急に話題を変えた宍戸に、汐屋は答える。


「え? そうですか? 鳳君皆に優しいし話しやすいから、色々と気を遣ってくれるんでつい頼み事してしまうんですけど……仲が良いかどうかは分かりません。普通だと思います」


 ふと忍足が部室で言っていた事を思い出す。

 やっぱり誰にでも優しいと思われてるんだな。損なヤツ。


「あいつモテるだろ?」

「そうですね、すごく人気ですよね。テニス部でもレギュラーだし、背も高くて優しくてカッコいいですから」

「……お前はどう思うんだ?」

「どうって?」


 困ったような顔で宍戸を一瞬見た汐屋に、宍戸は続ける。


「だから、その、長太郎と付き合いたいなあ。とかさ、そんな風に思わねーの?」

「ええっ? お、思いませんよ。もし私が鳳君の事をいいなって思ってたとしても、鳳君に相手にされませんよ」

「そうかあ? 前に関東大会観に来たっつってたけどよ、長太郎に誘われたんじゃねーの?」

「……違います。ただ、ちょっと見て見ようかなって思っただけで……」

「一人で来たのか?」

「はい」


 哀れ長太郎、想い人に自分の想いは全く伝わっていないようだ。

 だが逆に、宍戸にとってこれはチャンスだった。


「ふうん、長太郎みたいなのがタイプだと思った。お前静かだしよ。じゃあよ、どんな男がタイプなんだ?」


 これにもまた困ったような複雑な顔をすると、汐屋は手元の荷物を見ながらほんの少し赤い顔でボソリと言った。


「えっと……美味しそうにご飯を食べてくれる人、ですーーー」


 宍戸は前に焼きそばを一緒に食べた時の事を思い出す。

 あの時も確か美味しそうに食べている人を見るのが好きだと言っていた。

 そしてふと笑うと、


「じゃあ、俺だな。お前の作る料理美味いし」


 と言って汐屋の横をすり抜けて早足で歩き出した。

 後ろでは汐屋が固まっている。

 きっと真っ赤な顔をして、ビクリと肩をすくめているのだろう。

 その様子が見なくとも容易に想像出来、宍戸は可笑しかった。

 長太郎に、宣戦布告しねえとな。

 いつの間にか髪をかきあげる癖もしなくなった宍戸は、心の中でほくそ笑んだ。

 男として一歩前に進めたような気がしていた。

 ちょっとマイペースで大人しい子を好きになって、新しい自分を発見するなんて。

 背後から近づいて来る足音に、胸が躍る。

 焦らなくたっていいじゃないか。ゆっくり行こう。

 人を好きになるのは簡単で難しい。言葉で言い表す事が難しいのは複雑な思春期の心情そのもので、まるで手の込んだ料理を作るのに似ている。

 ゆっくり、じっくり、愛情を注いで、どうすれば美味しくなるか何度も試行錯誤を繰り返すのだ。

 この少女となら、焦らず行ける気がした。

 こんなに手間ひま掛けて料理を作るのだ。宍戸が無闇矢鱈と走り出すのを、きっと気付かないうちにやんわりと止めてくれる。

 これからは好みのタイプに料理が好きな子というカテゴリーを増やさないといけなくなった。

 いや、全部書き換えなくてはならない。


 なあ、俺の事、好きになれよ。


 振り向いて、そう言ってやろう。

 一体どんな顔をするだろうか。


 そう、こうやって試行錯誤を繰り返すんだ。








                         END




あとがき

どうもー!やっとこさ終わりました、宍戸!
ふう。長かった(笑)
書いているうちに段々当初の予定と内容が変わってしまったんですが、もういっかなー。
と、いつもの面倒臭い病が発病したのでこれでいいやという事で。
お題は「簡単で難しい」でした。でもタイトルは「ゆっくり行こうぜ」(笑)
今回のお話は宍戸が料理が好きだという事を知って、突発的に書き出したものなので中身が恐ろしく薄っぺらいです。
……いや、いつも薄っぺらいけどさ(涙)
このヒロインとは平行線のままゆっくり時間を掛けて恋心を育てて欲しいな。という事で簡単そうで面倒臭い、料理に時間のかかるトンポーローを選びました。
いやあ、しかしまさかの長太郎とのバーサス(笑)でも長太郎の事だから「宍戸さんに負けたんなら悔いはありません!」とかって言うんだろうねw

それでは最後までお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました!!






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