チェンジ・ザ・ワールド☆
1日目・No.4
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私のやんごとなき王子様
一限目の授業は全く頭に入らなかった。演劇祭の担当の締め切りが明日だという事に加えて、今朝の亜里沙様の言葉と潤君の誘いが頭の中でぐるぐるとして、とても授業どころではない。おかげで数学の授業は何をしていたのかさっぱり記憶から抜け落ちている。
こんな事じゃダメだよなぁ。
心の中のつぶやきと同時に席を立つ。
「ん? どこ行くのー?」
さなぎの問いかけに顔を洗ってくる、と答えて私は廊下へ出た。
顔でも洗って気分を一新しなきゃ、次の授業も上の空になりそうだったのだ。
廊下は窓が開け放たれていて、教室よりずっと爽やかな風が吹いていた。
「はーーーーっ」
水場の淵に手を掛け、ため息とも深呼吸ともわからない息を、一つ大きく吐いた。
締め切りは明日なのに、まだ決めれていない自分が 本当に嫌になる。
窓から校庭を覗くと生徒達は皆、嬉しそうに見えて仕方ない。
当然だ。
演劇祭を喜ばない生徒はこの学園にいやしない。
「はーーーーっ」
今度は明らかなため息が口から洩れた。
「君、ちょっと」
「ひゃっ!」
ため息を吐いていると、ふいに後ろから声をかけられたので思わず変な声が出てしまった。
恥ずかしさに軽く赤面しながら振り向くと、そこには一人の顔立ちの綺麗な男子生徒が立っていた。
彼のことはよく知っている。土屋奏(つちや そう)君、学年は私と同じ。
土屋君は有名な画家の息子で、彼自身も美術部に所属している。おまけに性格にクセがあるものだから、ちょっとした有名人なのだ。
「何ですか?」
‘あの’土屋奏君に向かって尋ねると、彼は値踏みをするような眼で私にじろりと視線を這わせた。
何だろう、すごくコワイ。
「君、演劇祭は何を担当するの?」
急にそんな事を聞かれたものだから私は一瞬たじろいだ。
「えぇっ? わ、私はまだ……決まってないんですけど……」
しどろもどろになりながらもバカ正直にそう答えると、土屋君は何だか嬉しそうに目を細めた。
な……なんなの?
「なら大道具に決定だ」
「えぇ?!」
いきなりの展開に思考が付いていかない。どうして急に? なんで私が?
「僕は背景を担当するんだ」
「は……はぁ」
意味がわからなくて脳みその中で思考がぐるぐると渦巻いている私を、特に気にするでもなく土屋君は淡々と言葉を投げ続ける。
「僕は演劇祭で背景を描くんだ。それはそれは美しい白鳥の湖だよ。君が大道具に来たからといって、何も僕の手助けをしろという事じゃあない。僕の芸術に他人の手が入るなんて考えられないからね」
「は……はぁ」
なっ、なんなのー?!
「ただ僕は描きたくもない絵を描く趣味はないんだ。つまり君は僕が描きたくない、僕の感性が疼く事のない『その他』を担当すればいいのさ」
「え……それって……?」
戸惑う私を尻目に、土屋君はとても綺麗に(若干意地悪そうではあるけれども)微笑んだ。
「君がどの程度の絵を描けるのかは分かっているつもりだよ。君が授業で描いた作品は何点か目に入れてある。『その他』を任せるには十分な腕だ」
「は……はぁ」
「分かった? 君が担当するのは大道具。ふふっ、待ってるよ」
そう言うと土屋君はぐるりと踵を返し、去って行った。
……い……言いたい事だけ言って去っていくって。噂どおりの‘あの’土屋君だわ……。
茫然と立ち尽くす私をチャイムの音が現実に引き戻した。
「ヤバッ!」
早く教室に戻らないと、次の授業に遅れちゃう!
私は慌てて教室へと駆け出した(廊下は走っちゃいけません!)。
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