チェンジ・ザ・ワールド☆
1日目・No.5
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私のやんごとなき王子様
「ちょっと美羽~。いい加減決めないと本当にヤバいよ?」
「分かってるよぉ……」
土屋君に話しかけられるという結構ショッキングな体験をした次の休み時間、教室でさなぎに言われ私は力なく机に伏した。
分かってる。早く決めなきゃ周りに迷惑がかかるって事くらい。だけど高校生活最後のこの演劇祭で、私だってしっかり手伝いがしたいのだから慎重にもなるというもの。
いまだにどこの手伝いをするか決められないのは、決して私が優柔不断だからじゃない……と思う。
「先生に怒られても知らないからねー。おっと、言ってる側から先生来た。また後でね」
「うん」
そう言い残してさなぎは自分の席へと戻って行った。
「はあ……」
ため息を吐いて私は机の中から教科書を出した。
と、ふと視線を感じて顔を上げると、斜め前の席のクラスメート、風名玲君がこちらを見ていて、ニッコリと私に笑いかけた。
えっ?
この風名玲君は今朝の一件で亜里沙様が話していた、例の人気絶頂の現役アイドル。
もちろんアイドルだからカッコいいのは言うまでもないのだけど、驚くべきは成績優秀でスポーツ万能。おまけに性格も良くってとっても優しいという事。
学園中の女の子の3分の2は風名君が好きだという噂が流れるくらい、非の打ち所のない男の子。
そんな風名君が私に向かって微笑んだものだから、私は驚いた。
恥ずかしくなって慌てて俯いたけど、よくよく考えたら別に私に向かって笑顔をくれたのではないかもしれない。だって私の後ろには他の女の子が何人か座っているのだし、そもそも微笑みかけられる理由がない。
確かに一年の時から三年間クラスが一緒だけれど、特別仲が良いとかそんなことはないし、第一風名君は誰にでも優しい。
だけどやっぱり私と目が合ったような気がする。
あれ、私、ちょっと自意識過剰? そ、そうだよね、だってまさか私なんかに、ね……
でも今朝の亜里沙様の言葉もある……ううん、でもまさかだよ。そんな事、あるわけない。
自分で考えてちょっとへこむ。
亜里沙様が私の事を風名君がたまに話す、だなんて言っていたから、変に意識しちゃったんだ。
ーーーでも一体どんな話しをしているのだろう。すごく気になる。
「起立!」
号令で我に帰った私は、すぐに授業に集中しようと試みる事にしてみた。
「小日向!」
爽やかな声に呼び止められ、私は財布を握り締めたまま何気なく振り向いた。
「風名君?」
私を呼んだのは風名君で、手を振りながらこちらへやって来た。
驚く私の隣に並ぶと、相変わらずの爽やかな笑顔をくれた。
「購買行く所?」
「あ、うん。今日はお弁当作らなかったから」
「俺も今日弁当じゃないんだ。一緒に行ってもいい?」
「もちろん、いいけど……」
お弁当なんて持って来なくても、風名君のファンの子が毎日のように差し入れを持って来るから困らないだろう。と思ったけど、さすがに嫌味っぽいから言うのは控えた。
それに風名君はお弁当の差し入れはもらわないのだ。
芸能界の仕事が不規則だから、学校にいる間は学生として親の作ったお弁当を食べたいかららしいと、さなぎがどこかから仕入れた情報を教えてくれたのを覚えている。
でもーーー
隣で素敵な笑顔を浮かべる風名君と並んで歩く私を、廊下ですれ違う女の子達が刺すような目で見ているのがコワイ。
今朝亜里沙様に声をかけられた時と同じような心境だ。
人気者の隣を歩くためには、ある程度のスキルが求められる。
家柄、容姿、成績……
残念ながらこの星越学園の生徒にあって、私はいわゆる一般家庭の普通の女の子。
見た目も普通なら家柄も普通。親が外交官や政治家でもなければ社長でもなんでもない、普通のサラリーマンの子どもなのだ。
進学校としても有名な学園に私が入れたのは奨学金がもらえたから。
隣りを歩く風名君のご両親はどちらも芸能関係のお仕事をしていて、お母さんは現在でも有名な女優だ。
はあ。
またため息。今日はため息を吐いてばかりだな。
でも私なんかと一緒に歩いていたら、風名君の名前の傷がつきそうなんだもん。
購買までの道のりが果てしなく遠くに感じていると、風名君がクスリと笑った。
「俺と一緒に歩くの、嫌だった?」
私が考えていた事が伝わったのか、苦笑する風名君に私はううんと首を振る。
「違うの、嫌とかじゃなくって、何て言うか……あ! そういえば、風名君って劇の主役だったよね?」
話を無理やり逸らしたにもかかわらず、風名君は気にする風でもなく答えてくれた。
「ああ、そうなんだ。投票だとかで勝手に決まってて、今更出来ません。なんて言えないし」
「風名君ならきっと素敵な王子様を演じてくれるって、皆喜んでたよ」
「そうかな?」
笑顔で私が言うと、風名君の顔が一瞬曇ったように見えた。
「ーーー小日向は……」
「あっ! もうパンほとんど売り切れてる!」
風名君が何か言おうとした事に気付かなかった私は、やっとたどり着いた購買の前でつい声を上げてしまった。
少し時間がずれていたため生徒の数は少なかったけど、めぼしいパンはほとんど無くなっていたのだ。
残っていた少ない中からなんとか昼食を確保し、風名君ファンの購買のおばちゃんにおまけのチョコレートをもらってその場を立ち去ってしばらくすると、風名君が話し出した。
「小日向さ、演劇祭の手伝いって何するか決めた?」
えっ? またこの話? 本当に皆演劇祭の事で頭がいっぱいなんだなあ。
と感心しながら答える。
「……ううん、まだなの」
さっぱり決まらない自分の意思にうんざりしながら答えた。
「そっか……」
風名君は袋の中からさっきおまけにもらったチョコレートを出してほおばると、人が途切れた階段で急に立ち止まった。
私は何事かと風名君を振り返る。
そういえば風名君と二人っきりでこんなにゆっくり話したのは初めてかもしれない。
しばらく考えるような仕草をすると、風名君がいきなり私の手を握った。
わっ!?
驚きすぎてリアクションが取れない私に、風名君がすごく複雑な顔をしてぼそりと言った。
「小日向、あのさ、もし良かったら……その……俺の手伝いしてくれないか?」
「へ?」
突然の事に私は思考が追いつかず、風名君が私の手を握っている事とか、自分の手伝いをしてくれないか。なんて言った事とか、全部が遠くの出来事みたいにぼんやりとそのカッコいい顔に見蕩れてしまっていた。
「小日向には、俺の相手役のお姫様をやって欲しいんだーーー」
そこで漸く私は言われている意味を理解して、慌てて首を横に振った。
だけど手は風名君にしっかり握られていて振りほどく事が出来ない。
「えええっ!? そそっ、そんなの無理だよっ! 私演技なんて出来ないしっ!!」
「大丈夫、小日向なら出来るよ! ---だからさ、明後日の締め切りまで考えといて……じゃあっ!」
恥ずかしそうに少しはにかんだ笑顔でそう言い残し、風名君は階段を駆け上って行ってしまった。
残された私は、真っ赤になった顔でさっき風名君に握られた所為で熱くなった自分の手をしばらく見つめた。
潤君といい、風名君といい、私に演技させるなんて絶対無謀だよ!
それにしても……
「はあ……びっくりした……」
信じられない事の連続で、私の脳みそは限界に近かった。
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