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風名7日目・No.2

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streetpoint

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私のやんごとなき王子様












 「小日向お前凄いよ!」


 練習が終わり、食事当番である私は同じく当番である風名君と一緒にキッチンで野菜を切っていた。

 風名君が褒めてくれたのは、私がたどたどしくもオディール役の台詞を言い切る事が出来たから。もちろん演技の出来なんて酷いものだったけど、医務室から戻って来た先生の話しでは水原さんの具合はあまり良くないらしく、急遽船で病院へ行く事になったという。

 おかげで私の代役が本当にそのまま採用になってしまい、危うく気絶しかけたんだけど……だけど途中で投げ出す訳にもいかないし、こんなに風名君が笑顔で褒めてくれるのが嬉しいから頑張ろうかな、なんて思ってしまった。


「でも、全然水原さんみたいには出来ないし。やっと台詞が言えた程度だよ」

「そんな事ない。小日向がオデットじゃないのは残念だけど、オディールでも嬉しいよ。頑張ろうな」

「あ、ありがとう……」


 どうして風名君はそんなに私の事を気にしてくれるんだろう。優しいよな。


「っと、次は何すればいいんだ?」


 ピーラーでじゃがいもの皮をむき終えた風名君が辺りを見回す。

 今日私達が作るのは肉じゃが。全校生徒プラス先生の合計200人分の料理だから作る量がさすがに多い。私と風名君はじゃがいもの皮むきを今やっている。


「えっとね、今度は食べやすい大きさにじゃがいもを切るの」

「そっか。小日向は料理得意なの?」

「別に得意じゃないよ。お母さんのお手伝いをしたり、たまにお菓子焼いたりするくらい……って、風名君。それじゃあちょっと大きすぎるよ」


 私はふと隣りでじゃがいもを切る風名君の手元を見て苦笑する。


「え? 駄目か?」

「だってそれ半分じゃない。このくらいの大きさのじゃがいもだったら、四等分くらいがいいんじゃないかな?」

「ああ、そう言えば肉じゃがに入ってるじゃがいもとか人参って、一口大くらいだよな」

「そうだよ! ふふっ」


 何だかすっごく楽しいな。風名君とこうやって台所に立って料理作るなんて……夢みたい。

 目線を先にやると、亜里沙様の周りには相変わらず取り巻きが何人もいて、亜里沙様が作業をしようとするのを阻止しているのが見えた。きっと危ないから座っていて下さい、とか言われてるんだろうな。

 亜里沙様も皆と一緒に料理したり海で泳いだり、本当はやりたいんじゃないかって思う。だって私だったらたとえそれが仕事のためとはいえ、行動を制限されるなんて我慢出来ないもん。

 普通の高校生らしく学校に行ってお洒落して、友達と遊んで恋をして―――


「ん? どうした?」

「あっ、ううん。何でもない」


 無意識のうちに風名君の横顔を見ていて、私は慌てて首を降った。

 亜里沙様はもしかしたら風名君の事を好きなのかも知れない。なんとなくそう思った。身近にいる自分と似た存在。自然と思いを繋ぐには互いの苦労を分かち合える方が簡単だろう。


 じゃあ、風名君は?


「小日向さ……」


 急に真面目な声で呼ばれ、私は考えを中断させてもう一度風名君を見る。風名君は何だか恥ずかしそうに視線をずらして言った。


「さっきお菓子とか作るって言っただろ? その、俺さ、甘いもの好きなんだ」

「うん、知ってるよ」


 この間も購買のおばちゃんにチョコレートもらって喜んでたし、いつもファンの子からもらう差し入れはお菓子だもんね。それに風名君の甘いもの好きは有名だからもちろん知ってる。

 私が答えると、風名君は増々恥ずかしそうに笑う。


「いや、だから、さ……小日向が作ったお菓子食べてみたいなあ――って……」

「えっ?!」

「ご、ごめんっ! いや、無理にとは言わないから。その、もし何か家で作ったら、あまりを分けてくれるとかでいいからさ!」


 驚く私に、風名君が慌てて言葉を被せる。


「そ、それは別にいいけど、そんなにお菓子好きなの?」


 目を丸くさせる私に、風名君がうんと頷く。


「えっ? あっ、うん! そう! 特に手作りのお菓子って美味いじゃん」


 あははと笑う風名君に私は思わず吹き出してしまった。


「ふふっ。いつもたくさんプレゼントでもらってるのに、結構食い意地張ってるんだね」

「……あ~、まあね」


 あれ? なんだかちょっと風名君の顔が引きつってる? 

 良く分からないけど、今度お菓子作ってプレゼントしよう。お世話になりっぱなしだもんね。

 どっさりと切り終えたじゃがいもを大きなザルに入れ、私と風名君はこれまた大きな鍋へと投入した。


「さあ、他の材料も回収しようか」

「そうだな」

「きっと今日の夕食は大好評だよ」

「どうして?」

「だって風名君が一生懸命じゃがいも切ってくれたから」


 笑顔で見上げると、風名君も笑い返してくれた。

 亜里沙様と風名君の事はずっと気になってたけど、こうやって冗談を言いながら過ごせるのは本当に嬉しかった。

 予想もしなかった出来事で急遽オディールという大役をすることになったけど、風名君と演劇を楽しむんだって決めたもん! だからしっかりご飯食べて、睡眠をとって、台詞をしっかり覚えなきゃ。ヘタクソには変わりないんだから、頑張ってせめて皆の足を引っ張らないように演じるんだ。


 隣にいる風名君の心地よい声を聞きながら、私は今まで感じた事のない不思議な気持ちに胸を躍らせた。













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