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倉持・後日談2

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私のやんごとなき王子様












〜後日談〜






 私はさなぎ達が出て行った出口とは反対の、庭へと向かうオープンテラスへと向かった。

 ドアを開けると夏の日差しが一瞬にして私を照りつけ、暑さと眩しさで顔をしかめながら通話ボタンを押す。


「も、もしもしっ」

『やあ』


 あの優雅で落ち着いた声が受話器の向こうから聞こえてきて、私の胸は高鳴る。


「こんにちは」


 テラスを降りて木陰に身を隠し、木の幹に背中を預けて笑顔で挨拶をした。

 たったこれだけで私の心は満たされてしまう。

 そう、電話がかかってきたというだけで幸せなのだ。


『もしかして、勉強中だったかな?』

「いいえ、休憩中でした」

『そう。受験生とはいえ、勉強ばかりではいけないからね。適度な休息は大事だよ』

「はい」


 自分の半分の年齢しかない子ども相手だというのに、私に会話を合わせてくれる理事長の気遣いが嬉しい。


『……はあ―――駄目だな』

「どうかされたんですか?」


 急に沈んだ声音になった理事長に、私は首を傾げる。

 また仕事のし過ぎで体調が思わしくないのだろうか。


『君の勉強の邪魔をしてはいけないと分かっているのに、君の事ばかり考えてしまって……こうして何もないのに電話やメールをしてしまう。僕の方が君よりもうんと年上なのにね』


 そう言って電話の向こうで小さく笑った。

 私は胸が締め付けられそうになった。だって、いつも理事長の事を考えているのは私の方。


「駄目なんかじゃないです……電話やメールを頂けただけで私は嬉しいし、幸せなんです」

『ありがとう。そう言ってもらえるととても嬉しいよ……』

「―――――」


 互いに無言になってしまい、私は何を話そうかと必死で考える。

 だけど話さなくてもこうやって同じ時間を共有している事が楽しくて、このままでもいいか。なんて思ってしまった。


『こんなにもどかしいと感じたのは初めてだよ』


 え?

 私が一人幸せを噛み締めていると、理事長はため息まじりにそう言った。


『君を今すぐ抱きしめたいのに、出来ないだなんて―――』


 ああ……

 なんというストレートな言葉だろう。

 打ちのめされそうな程の甘いその言葉に、私はギュッと目をつぶる。

 遠く離れているのに、理事長のコロンの甘い香りが私を包む。


「私も、もどかしいです……近くにいられないなんて」


 すうっと涙が一筋こぼれた。


『……ごめんね』

「あっ、やだ! すみません、違うんです! 謝らないでください。理事長は悪くないんですから」


 謝る理事長に私は慌てた。

 寂しくないなんて言ったら嘘になる。やっぱり寂しいし、もっと傍にいたいって思う。だけど理事長は何も悪くない。


『ひとつ、お願いを聞いてもらえるかな?』

「はい。私に出来る事なら」


 何でも持っている理事長に、私がしてあげられる事なんて何もない。精々おかゆを作ってあげる事くらい……


『それじゃあ、卒業式の日に、改めて君に告白をさせてくれないか?』

「え?」


 私は耳を疑った。

 今、理事長は何て言ったの?

 戸惑いを隠せず返事が出来ないでいる私に、理事長は落ち着いた声で言った。


『演劇祭の後、僕は君にちゃんと気持ちを伝えられなかったからね。お互いの立場とかを考えてしまって、頭の中でもう一歩踏み出せなかったんだと思う……だから君に恋をしても良いだろうかという、曖昧な言葉で逃げてしまった。だけど僕は学園の理事長で君は生徒。これは現実で、僕たちは随分年も離れている。だから、きちんとけじめが着く君の卒業と同時に、もう一度気持ちを伝えさせて欲しいんだ』


 この申し出を断る事が出来るだろうか? 私は何度も頷いた。


「―――はい……はい。私、いつまでだって待ちます。そう思って下さってるというだけで、今、とても幸せな気持ちでいっぱいです……卒業式を励みに、しっかり勉強します!」


 満面の笑みで答えて、私は理事長との会話を終えた。


 自分で選んだ道だ。

 どんな困難があろうとも、絶対に揺るがないと決めたんだ。

 携帯電話を握りしめ、私はさなぎ達が待つ図書館へと走った。

 さなぎたちに負けない位、私は今幸せだ! そう、胸を張って言える。

 だって私にはあんなに素敵な人がいるのだから。












 私のやんごとなき王子様 ――倉持編――   了





涙無くては語れないwやん王『あとがき』


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