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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

the earth

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the earth













 初めて見る地球は、言葉にできない程美しかった。

 青と白に包まれたその星はまるで紺色のベルベットに浮かび輝くサファイアのようで、カッツとシンとセイラは先ほどから言葉を発する事を忘れていた。

「そろそろ大気圏だ。シートベルトしろよ」

 思い出したようにカッツが言うと、シンとセイラは頷いてシートベルトをしっかりと装着する。

 船内にアナウンスと警報音が響き、一度ガクリと大きな揺れを感じたと思うや、強烈なGが3人の体を襲った。

「くっ!」

「ううっ……」

「待ってろよ、地球ーー!!」

















 「ブラジル……って、植物だらけなんだな」

「違う、カッツ。間引きする人間がいなくなったから、陸地ほとんどが植物で覆われているんだ」

「そこ、低レベルなボケと高度なツッコミはいいから、取りあえずキャンプ張る場所探すわよ……あっ! 今鳥が飛んだわ! 鳥の鳴き声ってこんなに大きいのねー!」

 無事地球に降り立ったカッツとシンとセイラは、調査団が消息を絶ったブラジルの様子に目を丸くさせていた。

 どこを見ても木や草で、道路だったとおぼしき場所もコンクリートのひび割れた隙間などからぐんぐんと木が伸びていた。ビルや家屋の名残もツタや花で飾られとても鮮やかで、宇宙では見た事もない動物や植物、昆虫などにカッツ達は物珍し気にずっと辺りを見回し続けていた。

「ちょっと! あれ! ライオンじゃないっ!?」

「うおっ! マジかよ、初めて本物見たぜ!」

 セイラとカッツは先ほどから興奮しっぱなしだ。

 地球を出てから200年、核に汚染されて地球の全ての生物は死滅したと思われていたのだが、最近の調査でかなりの動植物が生き残っていた事が分かった。人間が街を築いていた場所も自然豊かになり、放射能の影響は全く無いと言ってもいいようだ。

「地球の再生機能は人間の想像をはるかに越えていたって事か」

 そう一人言いながらも、シンも心の中では興奮していた。本や映像でしか見た事の無かった地球を、実際にこの目で見、手で触れる事が出来ているのだ。興奮しないはずがない。

「しっかし驚きだよな! 何が驚きって、地球の空気がこんなにうまいってことだ!」

 宇宙船を降りた瞬間からその事は感じていた。エンド大気生成システムで作られる酸素は、地球とほぼ同じ成分で出来ているはずなのにまるで違うのだ。

「植物の所為でしょうね。何とも言えない甘くて鼻を通り抜けて行く、清々しい香りがするもの」

 深呼吸をしながら胸にこれでもかと空気を吸い込む。

「本当に地球に来たんだな。ベニーランドに戻ったらブルースのヤツに自慢してやろうぜ」

「カッツ、あんまり子どもみたいな事するなよ。また皮肉言われるぞ」

「ちぇ……。で? ブラジルはいいが、ここはブラジルのどの辺りなんだ? ま、聞いても分かんねえけど」

 シンにたしなめられ、カッツが近くに生えていた木から赤い実をもいでセイラに尋ねる。

「ベレンね。ブラジル北部の都市だった所よ。街を出たらすぐアマゾンのジャングルなの」

「おお、やっぱブラジルっつったらジャングルだよなー。もう十分ジャングルだけどよ。おっ! この実うまいぞ!」

「ちょっと、何でもかんでも適当に食べないでよね。もし毒がある植物だったらどうするの?」

「大丈夫だって、だってすっげーいい匂いがしてるんだぜ? それに今まで食った事ない味で、甘くてうまいし」

「んもう! カッツったら昔っから何でも拾って食べてたわよね」

 どうやらカッツがもいだのはマンゴーの実らしく、そこらじゅうに生えている。シンも近くの実をちぎると、皮を剥いて一口かじった。

 ……うまい。

「俺達は死ぬ程貧しい生活してたから、食えそうなものは取りあえず何でも食ってただけだ。お前んとこはそこそこ金持ってたから俺様の気持ちはわからねーんだよ」

 そう適当にセイラをあしらい、カッツ達は先へと進む。

「しかし何故調査対象地域をブラジルにしたんだ?」

「決めるのは私じゃなくて政府のお偉いさん達なんだもん、詳しくは知らないわ。でも取りあえずブラジルを皮切りに、北アメリカ大陸やアジア、ヨーロッパ、アフリカと色んな所を調査する予定なの……あ、あれ見て」

 シンの疑問に答えながら、セイラは先の方に見えるビルを指差した。

「あそこなら視界もいいし、雨風もしのげそうだし、基地に出来るんじゃない?」

「まあ、ビルの中と周辺の様子を見てから決めるか。水場がないと無理だし、もし本当に敵がいるなら地理を把握してないと、下手したらビルごと消される」

 すっかりマンゴーを食べ終えたカッツが呟くと、インカムから無線通信音が聞こえてきた。

 ほんの少し口をへの字に曲げると、カッツはスイッチをオンにする。

「あんだ?」

『ええっと、今、地球?』

「地球に行くっつっただろ?」

 相手はもちろんルーズで、口調が申し訳なさそうだ。

『急いで戻ったら2人共いないから、地球に関して取りあえず調べてみたんだけど』

「置いていくって言っただろうが、で? 相変わらず話しが早くて助かるが、何か分かったのか?」

『半年程前に、何者かがエンド政府のセキュリティを通って地球へ向かった痕跡を見つけたわ』

「一度だけか?」

『多分3回。航行ルートは宇宙船が安定して地球へ入る軌道上にあるけど、政府が管理している範囲は広いわ。その一部のデータがほんの一瞬だけ上書きされてる……こちら側から地球への往復で2回、そして最近地球へ向かった1回。エンド政府調査団が地球へ向かったのは分かってるけど、政府のデータをこれだけ功名に隠せるってことは、また組織が関係してるんじゃないかしら』

「ーーーなるほどな。また組織か。っとに最近あれだな、相思相愛?」

「誰と誰が相思相愛なのっ?」

「わあっ!?」

 突然後ろからセイラが抱きついてきて、カッツは前のめりに倒れそうになる。

「誰と話してるのよ? ねえ、相思相愛って何!?」

「うっせーな! 大事な話ししてんだ、邪魔すんなっ!」

『……カッツ、怒鳴らないで、耳が痛い』

「あーもう、取りあえず詳しく調べてまた連絡しろっ、じゃあな!」

 ブツリと通信を切り、セイラを引き離しながらカッツは後ろで涼しい顔をしてマンゴーをかじるシンを睨む。

 どうあっても助けてくれる気はないらしい。

「お前はいい加減にくっつくな! ただでさえ暑いってのに」

「もう、何よ!? 今話してたのって、もしかしてルーズとかって女でしょ?」

「だったら何だよ」

「どんな女なの? まさか付き合ってるの?」

「んな訳あるかっ! 死にかけてたのを偶然拾って、そのまま何故か居座りやがったんだよっ!」

 死にかけてたのを偶然拾ったのは事実だが、別にルーズが自らMBに居座った訳ではない。

 記憶をなくしたルーズには行く場所が無かった。そのため、カッツとシンは雑用をやらせるためにあの廃ビルに住むことを勧めたのだが、ふたを開けてみればとんでもない知識力を持っていて、こと機械に関しては簡単に政府のコンピューターをハッキングしてしまうほどだった。おかげで今までのMBの仕事が、ルーズが来てからというもの見事に早くなったのは言うまでもない。

「シンっ!?」

「な、なんだ?」

 食べ終えたマンゴーの皮を捨てた所で急にセイラが振り返り、カッツを指差しながら眉を吊り上げた。

「ルーズって女とカッツには本当に何の関係もないの!? 正直に答えてよ!」

 セイラと対面してから、何度吐いたか分からないため息を深く吐き出し、シンは頷いた。

「ある訳ないだろ? 大体カッツの事をカッコいいと思ってる女はお前くらいだ」

「本当の本当に?」

「おいこら、そこ!」

 シンの聞き捨てならない言葉にカッツが怒る。

「心配するな、本当の本当にない」

 シンの答えに満足したらしいセイラはあっという間に満面の笑みになると、まるでスキップでもするようにカッツの隣りへと走った。

「カッツ、ルーズの写真ないの? どんな女か見たいわ~」

「なんで俺がルーズの写真を持ち歩かないといけないんだよっ!?」















 「失敗は許されない。連絡が取れ次第、今夜決行するぞ」

 薄暗い木々のトンネルの奥、息を潜めながら顔を突き合わせて会話をする男達。

 それぞれが手には拳銃や自動小銃を持ち、迷彩服のような格好をしている。一人は中年の男で、残りの三人はまだ若い男だ。

「女は殺すな、男は殺せ……間違うなよ。女は殺すな」

 再び先ほど口を開いた男が念を押すと、頭上で鳥達が一斉に飛び立った。 















 セイラがどうしてもと言い張って基地となったビルは造りがしっかりしているらしく、少し傾いて表面をツタや葉が覆ってはいるが十分にキャンプを張れる状態だった。

 カッツとシンはビルを基点に半径1キロの範囲をくまなく捜索した。取りあえず近くに敵が潜んでいる可能性はなかったが、セイラが言う調査団との最終連絡地点まではまだそこからさらに50キロほどアマゾン側に進まなくてはならない。

 人の手の入らなくなった地球はどこもかしこもジャングルで、日が暮れるまでに50キロ先へ、しかも徒歩で辿り着くのは難しいと判断したため今日はこのビルで休憩をとり、明日から少しずつ進むことになった。

「じゃあ、お風呂に入れるのね?」

 日が暮れる少し前、薪を集めてきたカッツにセイラは心底嬉しそうに尋ねた。

「ああ、その辺に転がってたドラム缶で風呂作ってやるから入れ」

 ビルのすぐ裏手にはアマゾン川があり、薪を集める途中で見つけた比較的綺麗で頑丈なドラム缶を風呂代わりにすることにしたのだ。

 もちろんカッツとシンは川で十分だと思っていたのだが、やはり女性であるセイラにしてみれば風呂に入って汚れを落としたいらしい。都市機能はもちろん使えないため、ビルや家屋にある風呂では無理なのだ。

「ありがとう、カッツ。あなたって本当に優しいのね……やっぱり愛?」

「お前が風呂風呂うるさいから仕方なく作ってやるんだ! 俺の事を好きだとかぬかしやがるなら、ちっとは俺の事も考えろ!」

 もっともな意見を言っているのだが、怒鳴っていては相手に通じるどころかかえって火に油を注ぐ。

「カッツのことばっかり考えてるわよっ! この会えなかった3年間、どんなに寂しかったか! それに、あたしが何度も連絡したのに出てくれなかったじゃない!」

 そうなのだ。カッツは幾度もセイラから無線連絡を受けていたのだが、面倒臭いために無視し続けていたのだ。どうせ内容は同じなのだし、特別セイラと話しがしたいという気にもならないのだから無視するしかない。

 多少良心が痛まないこともなかったが、話せばこうやって口喧嘩になってしまうため、無駄な労力を使わないで済むのならそれに越したことはないのだ。

 かといってカッツは別にセイラの事が嫌いな訳ではない。幼い頃を共に過ごしたのだし、セイラの両親にも世話になった。友人としてのセイラは大切にしたいと思うが、結婚となると話しは別だ。

「あーもうやめようぜ。何度も言うが、俺はお前と結婚する気なんざねえ。だから諦めろ……嫌なんだよ、お前にこういうこと言うの」

 急に静かになったカッツの口調に、セイラも口を閉じる。

「ーーー水張って火をつけるから、お前はシンと晩飯の調達に行って来い」

「……分かったーーー」

 カッツと視線を合わせないように俯いたまま答えると、セイラは静かにその場を離れた。








 ****







 夜になり、カッツとシンは交代で番を張ることにした。

 生まれて初めて見る地球からの星は、普段よりも輝いているようだ。

「もう交代の時間か?」

 ぼんやりとビルの外壁に背中を預けて空を見上げていたカッツが、シンの足音に向かって尋ねる。

 シンはビルの入り口から姿を現し、カッツの隣りに腰掛けながら首を振る。

「いや、目が冴えて眠れなくてな」

「そうか……セイラは?」

「やっと寝たよ」

 カッツの言葉に傷ついたであろうセイラを、カッツが慰めてやることなど出来ない。何を言った所で同じ事の繰り返しなのだ。

 確かにセイラのように自分を好いてくれる女性は、二度と現れないかもしれない。

 だが、カッツにはどうしても忘れられない女がいた。

 ふと目を伏せると、シンが尋ねてきた。

「……なあ、カッツがMBをやろうと思ったきっかけって、一体なんなんだ?」

 リドヒム軍を退役した後、シンはカッツと共に歩んできた。軍人を辞めて何をするのかと思えば、カッツは随分前から決めていたらしい人探し屋をやらないかと、すぐにシンに提案したのだ。
 シンは人殺し以外なら何でもいいと思っていたし、人探し屋というのは良く分からないが面白そうだと感じて二つ返事でOKしたのだった。が、カッツが何故人探し屋をやろうと思ったのか、その理由は知らなかった。

「そう、だな……」

 そしてゆっくりと、カッツは過去を語り出した。








                               続く…





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