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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

はじまり・No.2

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 ゆっくりと門が軋みを上げながら開いて行く。


 ギギギギ……


 「あ……」


 一番最初にともえの目に飛び込んで来たのは、道着を着た一人の青年だった。

 そのあまりの凛とした佇まいに、思わず息を飲む。


「あっ、あのっ、わたし三原の那須道場から来ました那須ともえと言います!」


 黒髪の青年は一瞬目を丸くして、すぐに微笑んだ。またその微笑みの美しさに驚く。


「ああ、君が父上が言っていた……随分可愛らしいお嬢さんだ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いしますっ!」


 可愛らしいなどと面と向かって言われた事のないともえは、青年の顔を恥ずかしくて見れなくなってしまった。すぐに頭を下げ、赤くなった顔を見られまいと頭を掻く。


「僕は日輪真弓(ひのわまゆみ)、ここの道場の次男だよ。さあ、どうぞ。中を案内するから」

「ありがとうございますっ」


 さり気なくともえを促し、日輪真弓は歩き出した。

 スラリと高い身長と、優し気な横顔にともえは改めて感心する。

 先ほどの美琴といい、この真弓といい、東京の若者はどうしてこうもあか抜けているのだろう。田舎とは大違いだ。


「ともえちゃん……って、呼んでもいいかな? しばらくここに住むんだよね?」

「あ、はい! しっかりと弓の修行をさせて頂くつもりです。掃除も洗濯も料理も、何でもお手伝いしますのでよろしくお願いします」


 “ともえちゃん”と呼ばれた事を嬉しく感じる。真弓は人当たりが良くて話しやすい。


「……修行? ああ、そうだね。うん。頑張ってね」


 一瞬間が空いてから真弓がまた笑う。

 門をくぐって立派な植木が施された広い敷地を進むと、玄関が見えてきた。こちらも門に負けじと立派な構えで、ともえは心の中で感嘆の声を上げた。


「ここが玄関。でも家の者はあまり利用しないんだ。裏口と勝手口ばかり使うから、ここは来客専用といった感じかな」

「そうなんですか。あ、じゃあ、そのお勝手口の方も教えて頂けますか?」

「そうだね、じゃあこっち」


 玄関の戸を開けて中をぐるりと堪能すると、真弓とともえは勝手口へと向かった。普段使用する方を教えてもらった方が、効率がいいと思ったのだ。

 玄関を出て屋敷沿いにぐるりと裏手へ回っていると、どこからともなく聞き慣れた音が響いてきた。


「あっ……」


 そう、それは矢が的に当たる音で、視線の先に道場らしき建物の姿を捉える事が出来た。


「もしかして、あそこが的場ですか?」

「うん、そうだよ。今はお弟子さん達が稽古中なんだ。荷物を置いたら見に行くかい?」

「はい! 是非!」


 瞳を輝かせて頷くともえに、真弓は嬉しそうに前方へ向かって指を差した。


「あの道場を過ぎた所に勝手口があるんだ。お弟子さん達も家の者も、皆そこから出入りしてる。道場に近いから便利なんだ」

「なるほど、門からだと結構距離がありますもんね」


 後ろを振り向いて歩いてきた距離を思い出す。

 と、


「あ、道真……」


 ふいに真弓が誰かの名前を口にした。吊られて顔を前に戻すと、少しくせのある髪をした青年が道場から出てくるのが見えた。


「兄さん……と、そいつ、誰?」


 そいつーーー?


 間違いなく自分の事を言われていると確信し、ともえは少し顔をしかめた。確かにお互い面識はないが、初対面でいきなりそいつ呼ばわりされる筋合いはない。


「那須ともえちゃんだよ。父上のご友人の、那須師範の娘さんだ」

「ーーーああ、あんたが……ま、どうでもいいけど、うろちょろして俺の邪魔だけはしてくれるなよ」

「なっ!」


 それだけ言うと、男はさっさと屋敷の中へと消えて行った。


「なんなんですかっ!? あの人っ!?」


 姿を消した男に向かって怒りをあらわにすると、真弓が申し訳なさそうに言った。


「あいつは僕の弟の道真(みちざね)。本当はあんなヤツじゃないんだけど、人見知りが激しくてね……許してやってくれないか?」

「おとっ……って、あの人、真弓さんの弟なんですかっ!?」


 全然似てない! つかむしろ悪! 悪人っ!!

 真弓とのあまりのギャップに、怒りを忘れて驚くともえ。


「ともえちゃんと同じ 十八歳なんだ。仲良くしてやってね」

「……うぐっ……努力しますーーー」


 無理だ。絶対に仲良くなんてなれない! ちょっといい顔してても、あんなんじゃ仲良くなんてなれっこないわ! でも真弓さんを悲しませないよう、表面上は普通に接しよう。うん、そうしよう。


「で、ここが道場でさっき道真が入って行ったのが家の勝手口。そしてあそこが裏口」


 ともえの心の中での決心に反して、真弓は相変わらず優しい口調で教えてくれる。どうやら屋敷の裏手に生活の場が集中しているようだ。

 おまけに勝手口や裏口とは言うものの、どう見ても普通の家屋の3倍はある。何から何まで田舎とはスケールが違いすぎる。


「分かりました」

「じゃあ次は中を案内するよ」


 そう言って立派な勝手口から中に入ると、ばったり一人の少年と鉢合わせた。


「おっ、真弓兄……と、誰?」


 ツンツン頭に大きな瞳の健康そうなその少年は、ともえを見て首を傾げる。


「彼女は那須ともえちゃん。今日から家に住むことになるんだ。仲良くするんだよ」

「ああ、あんたがともえ? オレは日輪颯太(そうた)真弓兄とは従兄弟だ。よろしくな」

「あ、よろしくっ」


 先ほどの道真とは違い、颯太という少年は随分親しみやすい感じがした。にかっと笑うと、手を振りながら草履を履いて戸口から出て行く。


「後で道場に来いよ。弓道、やるんだろ?」

「あっうん、行くね!」


 颯太の姿を見送って、ともえは笑顔で草履を脱いだ。


「颯太は人懐っこいから、話しやすいと思うよ。年は君より一つ下だ」

「はい、何だか気が合いそうです」

「良かった。じゃあ、まずともえちゃんの部屋へ案内しよう。こっちだよ」


 勝手口のすぐ横は台所で、一体どこの旅館かという広さだった。その台所を過ぎ、長い廊下をくねくねと進む。

 しばらくしてやっと部屋に到着し、その広さと小綺麗さに再び感嘆する。


「わあ……! こんなに素敵なお部屋を使わせてもらっていいんですか?」


 畳は新しく入れ替えてあるらしく、い草の香しい匂いがした。


「誰も使っていない部屋だから、遠慮しなくていいよ。じゃあ、道場へ行くかい?」

「はいっ! あの、準備するんで、少し待っていてもらえますか?」

「もちろん。準備が終わったら声を掛けてね」


 あのくねくねした廊下を歩いて一人で道場まで辿り着く自信がなかったともえは、障子が閉められた瞬間ものすごい勢いで着物を脱いで袴に着替えたのだった。












 「お待たせしました」

「いや、早かったね……」

「どうかしましたか?」


 じっとともえを見て無言になった真弓に、ともえが首を傾げる。

 ふっと笑うと、


「いや、ともえちゃんは袴姿がとても良く似合うな、と思ってね。やっぱりいつも着ているからかな? 可愛いよ」

「えっ!? あっ、ありがとうございます……」


 また可愛いと言われ、ともえは戸惑った。実家では誰もともえにそんな言葉を掛けてくれた事などなかった。真弓の言葉が本心からかお世辞なのかは分からないが、やはり年頃の女の子なのだ、可愛いと言われて嬉しくないはずがない。


「よし、ともえちゃんのお手並み拝見と行こう」


 それから再び廊下を歩き、勝手口へと向かう。

 外へ出ると、先ほどの颯太とまた違う少年と道場の前で会った。

 随分と可愛らしい顔をしていて、その風体にともえは先ほどここまで案内してくれた美琴の顔を思い出す。


「あっ! もしかして、あなたが美琴ちゃんの双子の弟さんっ!?」

「そうだけど……あなたは?」


 可愛らしい少年が不審そうな瞳をこちらに向けているのに気付いて、ともえはまだ自己紹介も済ませていない事を思い出し、慌てて頭を下げた。その様子を見た真弓が横からフォローする。


「彼女が今日から一緒に修練に励む那須ともえちゃん。美弦、仲良くしてあげるんだよ」

「はいっ! 真弓兄さま」


 真弓にそう紹介されると、美弦は無邪気な笑みを浮かべた。その顔は天使のように可愛らしい。その様子に満足そうに頷くと、真弓は今度はともえに向って目の前の少年を紹介した。


「この子は弓槻美弦(ゆづきみつる)といって、颯太と同じ僕達の従兄弟。ともえちゃんより二つ下の十六歳。……美琴ちゃんとは知り合い?」

「実はここに来るまでに道に迷ってしまって、偶然出会った美琴さんにここまで案内してもらったんです」

「そうか、駅まで迎えの者を出せば良かったね」

「いえっ! そんなっ!」


 そう言って和やかに会話する真弓とともえの姿を美弦は恨めしそうに眺めていた。

(こんなやつ、ずっと迷ってれば良かったんだ。美琴のやつ余計な事しやがって。女の子が道場で一緒に修業? 冗談じゃない。可愛いのは僕だけで十分なんだから!)

 などと内心思いながら。美弦は真弓の信者といってもいい程に彼を求道者として、また兄として信奉しているので、そこに突如現れたともえの存在が面白くないのだ。とはいえ、露骨にそれを顔に出して真弓に嫌われるわけにもいかない。美弦の心情は煩悶としたものである。


「さ、それじゃ道場の中へ案内するよ」

「はいっ!」

「それじゃ、美弦。またあとでね」

「はいっ! 真弓兄さま! ともえさんも頑張ってくださいね!」


 そう言って元気に微笑んでくれた美弦に、ともえもにっこりと笑みを返す。美弦の横を通り過ぎ、道場へと足を踏み入れようとしたその瞬間、


「とっと帰れよ、男女」


 小さく何かが聞こえた気がした。


「え?」


 思わずともえが振り向くと、そこには相変わらず可愛らしい顔で微笑をたたえたままの美弦が立っていた。

(気のせい……? そうだよね、気のせいに決まってる。なんか緊張してるのかな、私。よしっ、気合い入れるぞ!)

 ともえは自分の頬を軽くパンっと叩いて気合いを入れ直すと、左足を大きく開いて道場内へと踏み込んだ。











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