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試合に向けて(真弓)No.3

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はなもあらしも














 昼過ぎに美琴が道場に顔を出した頃、美弦の口から


「少し休憩すれば?」


 という、いささか優しいような言葉が出て、ともえは美琴と東京の街へと繰り出していた。

 早朝から弓を引きっぱなしで、いい加減腕に張りが出て来ていたので丁度良いタイミングだったのかもしれない。


「そんなに必死になって練習しては、体がもたなくなりますよ?」


 今、二人は道場から少し歩いた所にある茶店で団子を食べている所である。

 苦笑した美琴に、ともえは申し訳なさそうに頭をかく。


「笠原道場に挨拶に行って嫌な思いをしたから、負けてたまるか! って気負っちゃって」

「あちらの代表は氷江さんと橘さん、でしたよね?」

「知ってるの?」

「ええ、お二人も幼い頃から笠原道場で稽古に励んでらっしゃいますから」

「なーんか刺があるのよね。田舎者の私を馬鹿にしてるっていうか……」

「少し気がお強い方達ですから、あまり気にしなくていいと思いますよ? ともえさんはともえさんなんですから」

「……」


 どこかしら真弓と似た雰囲気を持つ美琴の言葉に、ともえは気持ちが軽くなった。その笑顔に引き込まれ、ともえも笑顔になる。


「ねえ、美琴ちゃん、私たち年も近いし、敬語は無しにしよう? 私はもう普通に話しちゃってるし」

「はい! あ、じゃなくて、そうね。よろしくね、ともえちゃん」













 それからゆっくりと流れる時間の中、ともえと美琴は色々な話しをした。

 美琴の母親である早苗は、室町時代から続く有名な商家に嫁いでいて、廃藩置県で大名や武士が権力を失う前から地位を確立していたらしい。早くも外国との交易を行い、珍しい品物を輸入したり日本の伝統工芸を輸出したりと手広くやっているようだ。

 田舎で暮らしていたともえにとって、美琴の話しは目新しいものばかりで楽しかった。

 気付けば時間も経っていて、通りの人の数も増えて来ている。


「もう、四時くらいかな? あっ」


 ともえが茶店の外に目をやると、偶然真弓の姿を捉えた。それに合わせて美琴も振り返る。


「誰かしら?」


 美琴が呟いたのは、真弓の隣りを見知らぬ女性が一緒に歩いていたからだ。大人びて落ち着いた雰囲気の美しい女性で、ともえと美琴は顔を見合わせた。


「追いかけよう」


 無意識のうちにともえは立ち上がり、素早くお金を店員に渡すと美琴の手を引いて店を出た。

 少し前を歩く真弓と美しい女性の様子に、仲が良さそうだとすぐに気付く。

 美琴は胸が痛むのを感じていた。何故なら、美琴は真弓を好いているからだ。幼い頃から優しく穏やかな真弓を、一方ならぬ想いでいつも見つめていたのだ。

 それが自分の知らぬ所でこうして見知らぬ女性と歩いている姿を見ることになって、嫉妬の念がわき上がって来ている。自分の手を引いてどんどん歩くともえの横顔を見て、今度はまた違った胸の痛みを感じた。


 この気持ちは一体何?


 ともえは少し先を行く真弓と女性の姿を見て、心の奥がもやもやとするのを感じていた。自分でも良く分からない感情。

 ただ、真弓の隣にいる女性が誰なのか、知りたかった。

 しばらく歩いて駅に到着すると、真弓はその女性と丁寧に挨拶をして別れた。そしてともえと美琴に気付き、笑顔を寄越す。


「やあ、ともえちゃんと美琴ちゃん。こんな所でどうしたの?」


 ともえと美琴は再び顔を見合わせた。美琴はすぐに俯き、ともえは取り繕ったように笑う。


「さっき真弓さんを見かけて、声をかけようと思って追いかけて来たんです」

「そうだったんだ。じゃあ、帰ってまた練習しようか」

「あ、はい」


 まだ俯いたままの美琴の様子に、ともえは戸惑った。美琴も先ほどの女性の事が気になっているのだろう。

 歩きながらともえは真弓を見上げる。


「あの、一つお聞きしてもいいですか?」

「なんだい?」


 いつもと同じ笑顔の真弓に負けぬよう、ともえははっきりとした口調で尋ねた。


「さっき一緒にいた綺麗な女性は、誰ですか?」


 美琴がぴくりと反応したのが分かった。

 真弓は駅の方をチラリと目だけで振り返り、次に遠く向こうを指差した。


「大学の帰りに道に迷っていた人だよ。駅で人と待ち合わせをしているけど、駅までが分からないって」

「「あ……」」


 ともえと美琴は同時に声を漏らすと同時に安堵した。


「そうだったんですか……」


 あまりに親し気に話していたので、変な疑いを持ってしまっただけだったのだ。

 繋いだ手の先からほっと息を吐く美琴の気配を感じて、ともえは妙な気持ちになった。


 私、何か変だ。









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