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試合に向けて(道真)No.1

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はなもあらしも














 笠原道場に出向いた翌日の早朝、ともえはまだほの暗い道場で一人矢を一心に放っていた。

 弦がこすれる音、矢が空気を裂きながら飛んで行く音、矢が的に的中する音。

 朝の澄んだ空気にそのどれもがよく反響し合い、ともえの心を震わせていた。

 田舎の道場ではそれなりに強かったともえだが、ここ日輪道場の面子の腕を見たともえは少し自信を消失しかけていた。誰もが自分より上手で、人を魅了する何かを持っている。

 少しでも追いつきたい、足を引っ張りたくはないと強く煩悶し、こうして朝から一人で矢を射続けているのだが――


 タンッ!


 みっしりと的が見えないくらい矢が刺さった所でともえは息を吐いた。


「はあ……」


 何度射ても分からない。自分には一体何が足りないのか。それとも気付いていないだけで、どこか悪い癖でもあるのだろうか?


「おい」


 突然声をかけられ、ともえは反射的に振り返った。


「あ、道真君。おはよう」


 振り向けばいつの間に現れたのか、道真が入り口の戸に背を預けてこちらを見ていた。


「気分でも悪いのか?」

「え?」


 唐突にそんな事を言われ、ともえは自分の姿を見下ろす。


「至って健康だけど……」


 じっと無言でともえをしばらく見つめると、道真はともえの隣りに立って矢をつがえて狙いを定める。


 ビュン!


 と力強く放たれた矢は的に深く刺さり、ともえはその所作の迷いのなさに感心した。


「やっぱり道真君の矢は力強いなあ。私ももっと道真君みたいな矢を放ちたい」

「それは無理だろ」


 あっさり言われ、少しむくれる。


「どうして? 練習すれば少しくらいは」

「お前は女で俺は男だ。力の差があるのは当然だ。だから無理に俺の真似をする必要はない。弓道は心の迷いが直接矢に現れる……」


 そう言って再び道真が放った矢はぎりぎり的から外れてしまった。


「ほら、ちょっと余計な事を考えただけで駄目だ。お前は氷江や橘に馬鹿にされて悔しいから、強くなりたいって焦り過ぎなんだ」

「あ……」


 軽い衝撃を受けた。

 そうだ、弓道は心と体が調和していなければ出来ない武芸なのだ。ともえの心はとにかく少しでも強くなりたいと気負いすぎていたのだ。

 ともえが自分の問題点に気付いたらしい事を見て取ると、道真はふと口元を綻ばせた。


「そう言えば、昼から美琴が来るらしいぞ」


 ともえに気付かれぬようにすぐに顔を戻して言った道真に、ともえは顔を明るくした。


「本当? 美琴ちゃんに会えるんだ!」


 美琴はともえにとって、早くも心安らぐ存在になりつつあった。あの可愛らしい笑顔と話し方がとても好ましく、もっと沢山の時間を共有したいとさえ思っている。

 自分には無いものをたくさん持っている美琴は、同じ女性であるともえから見ても本当に素晴らしい女性だと思う。

 美琴も幼い頃からこの道場に出入りしているし、道真達とも仲が良いだろう。あれだけ可愛くておしとやかなら惹かれぬ男はいないはずだ。

 道真君も美琴ちゃんみたいな可憐な女の子が好きなのかな?

 そう考えると、一瞬胸の辺りがチクリと痛んだ。


「……あれ?」

「なんだ、どうかしたか?」

「なんでもない! よし、練習練習! あ、そうだ。もし私の悪い所があったらすぐに教えてくれる?」


 胸の痛みはすぐに治まり、ともえはその事を忘れるかのように気持ちを切り替えた。

 焦って心の状態を乱していはいけない。だが、少しでも強くならなくてはいけない事は事実だ。時間がないのだから。

 道真のおかげで冷静さを取り戻した所で、道真がぼそりとともえの言葉に応えた。


「ーーー能天気、短気、声がでかい」

「ちょっと! それってただの悪口じゃない!!」









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