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試合に向けて(道真)No.3

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 「わぁーおいしそう!」

「美琴は料理上手だからね」


 縁側で美弦と合流し、目の前に広げられた色とりどりの重箱弁当に瞳を輝かせると、誇らし気に美弦が言う。


「これ全部美琴ちゃんが作ったの!?」

「はい。お口合うかは分からないけど」


 風呂敷から出てきたのは重箱で、中には色とりどりの総菜や何種ものおにぎり、食後の果物までが豊かにつまっていた。


「いただきまーす!」


 ともえは元気に卵焼きを手に取ると、一気に口へと運びいれた。


「おいしい!」

「本当? 良かった」


 美弦の隣りで黙って料理を食べ進める道真をチラリと伺い、庭に目を向ける。日輪家の庭は多くの木々と花々が茂り、澄んだ池では鯉が泳いでいる。季節ごとに見せる表情が違うその庭は、見る者の気持ちを自然に綻ばせてくれる。


「笠原道場にご挨拶に行ったんでしょ?」

「うん」


 昨日の出来事を思い出し、ともえは途端に顔をしかめた。その様子に美琴は困ったように眉を寄せる。


「えっと……あちらの代表は氷江さんと橘さん?」

「知ってるの?」

「ええ、お二人も幼い頃から笠原道場で稽古に励んでますもの」

「私が田舎者だっていうのは認めるけど、あんなに馬鹿にしなくてもさ……」

「少し気がお強い方達だから……でもあまり気にしない方がいいと思うわ。ともえちゃんはともえちゃんだもの」

「有難う」

「抑えてないと飛びついて噛み付きそうだったけどな」


 ぼそりと言った道真に、美弦が意地の悪そうな顔で笑う。


「噛み付かないわよ!」

「あ、真弓兄さま」


 ふいに美弦がそう言って、すっくと立ちあがった。

 美弦の視線の先を追うと、真弓が廊下の向こうからこちらへと向かって来ているところだった。慌ててともえと美琴も立ちあがる。


「おや、みんなでお昼かい?」

「はいっ! 良かったら真弓兄さまもご一緒にどうですか?」

「美琴ちゃんの手料理は是非とも頂きたいんだけどね、僕はこれから大学の方へ行かなければならないから」

「えーっ!? 真弓さんって大学生だったんですか!?」


 驚いて道真を見ると、澄ました顔で黙々と料理を食べ続けている。


「ともえさんは来たばかりだから、知らなくてもおかしくないですよ」


 そう言って美弦は真弓の荷物を持った。


「玄関まで見送ります!」

「ありがとう、美弦。そういうわけで、僕は出かけてくるから。美琴ちゃん、また今度ご一緒させてもらってもいいかな?」

「あっ、はい! もちろんです……!」


 そう言うと美琴は小さく頷いた。その様子をちらりとともえが伺うと、美琴の頬が朱色に染まっている事に気が付いた。

 美琴は真弓を好いている――――直観的にそう感じると、ともえは美琴の助けになりたい、と純粋に思った。


「ぜひご一緒して下さい! 私もう美琴ちゃんの料理の大ファンになっちゃいました!」

「ははは、本当にともえちゃんは元気だね。道真、しっかりともえちゃんと稽古に励むんだよ」

「分かってるよ」


 そう言って微笑むと、真弓と美弦は正門へと向かって行った。


「美弦って、真弓さんを随分慕っているのね」

「ええ、真弓さんは年上で優しい方だもの」


 美琴はまるで自分の思いを話すように嬉しそうに言った。それを見てともえも微笑む。


「本当、真弓さんって優しいよね! ……誰かさんとは大違い」

「ーーー美琴、飯美味かった。おい、さっさと道場に戻るぞ」


 食べ終えて立ち上がると振り向きもせずに道場へと戻る道真を、ともえは慌てて追いかける。


「え? ちょっと待ってよ! 美琴ちゃん、本当に美味しかった! ご馳走さまでした!」

「ともえちゃん、練習頑張ってね!」


 声援に答えるように大きく手を振り、道真の背中へ向かって走った。

 自分も少しは料理の勉強をしようか。

 そんな事を考えながら。








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