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試合に向けて(颯太)No.2

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 昼になり、美琴が重箱にお手製の弁当を作って現れると、美弦と颯太とともえは庭がよく見える縁側へとやって来て共に昼食に預かる事にした。


「すごい! これ全部美琴ちゃんが作ったの!?」

「美琴は料理上手なんだ、ともえも女なんだから、料理くらい出来るようにしておきなよ。じゃないと嫁の貰い手が見つからないぞ」

「美弦、失礼な事言わないの! ごめんね、ともえちゃん」

「あはは、美琴ちゃんが謝る事ないよ。料理はやっぱり出来た方がいいもんね」


 美弦は真弓の前では猫を被って良い子でいるが、実はちょっと乱暴な口をきくという事実を知り、ともえは軽いショックを受けていた。


「颯太だって料理上手な女の子が好きだよね?」


 美弦の質問に、美味しそうに料理を食べる颯太が少し面倒臭そうに答える。


「そうだなあ、ま、オレは腹一杯食えればめちゃくちゃうまくなくてもいいけどな」

「颯太さんは質より量ですものね」


 美琴が笑う。


「でも美琴の料理は美味いぜ」

「うん、本当にすっごく美味しい」


 ともえも口に運ぶ料理のどれも美味しくて、颯太に同意する。と、


「あ、真弓兄さま」


 ふいに美弦がそう言って、すっくと立ちあがった。

 美弦の視線の先を追うと、真弓が廊下の向こうからこちらへと向かって来ているところだった。


「おや、みんなでお昼かい?」

「はいっ! 良かったら真弓兄さまもご一緒にどうですか?」

「美琴ちゃんの手料理は是非とも頂きたいんだけどね、僕はこれから大学の方へ行かなければならないから」

「えーっ!? 真弓さんって大学生だったんですか!?」


 このご時世に大学に行けるのは、そこそこ余裕のある家庭でさらには頭脳明晰でなければ難しい。改めて日輪真弓という人物の凄さに感心する。


「ともえさんは来たばかりだから、知らなくてもおかしくないですよ」


 先ほどまでの悪態はどこへやら、そう言って微笑むと美弦は真弓の荷物を持った。


「真弓兄さま、玄関まで見送ります!」

「ありがとう、美弦。そういうわけで、僕は出かけてくるから。美琴ちゃん、また今度ご一緒させてもらってもいいかな?」

「あっ、はい! もちろんです……!」


 そう言うと美琴は小さく頷いた。その様子をちらりとともえが伺うと、美琴の頬が朱色に染まっている事に気が付いた。

 美琴は真弓を好いている――――直観的にそう感じると、ともえは美琴の助けになりたい、と純粋に思った。


「ぜひご一緒して下さい! 私もう美琴ちゃんの料理の大ファンになっちゃいました!」

「ははは、本当にともえちゃんは元気だね。颯太と一緒に代表に選ばれたから、気合いが入っているのかな?」

「はい、日輪道場の名に恥じない試合をしたいから、頑張ります」

「うん、頑張ってね。それじゃあ、颯太も頑張って」

「はーい」


 そう言って微笑むと、真弓と美弦は正門へと向かって行った。二人の姿を見送ると、ともえは美琴を振り向く。


「美弦って、真弓さんを随分慕っているのね」

「ええ、真弓さんは年上で優しい方だもの」


 美琴はまるで自分の思いを話すように嬉しそうに言った。それを見てともえも微笑む。


「本当、真弓さんって優しいよね! 大人の男の人って感じ。私と二つしか年違わないのに、大学生だしすごいなあ」

「ともえちゃんも私から見れば大人っぽいし、羨ましいわ」

「えっ!? 私が大人っぽい!?」


 生まれて初めて言われた形容詞にともえは驚く。美琴はそれに頷き、


「ね、颯太さん。そう思うでしょう?」


 と尋ねた。

 一体颯太はどう答えるのだろう。と固唾を飲むと、すっかり食べ終えた颯太が立ち上がりながら笑う。


「大人っぽくはねーな。オレより年上って感じしねえし。どっちかっつったら美琴の方が年上な感じがする」

「ひどっ! 美琴ちゃんは颯太より年下でしょ!?」


 少し期待していただけにともえは少しショックを受けた。


「見た目で言うならともえの方が老けてるかな。精神年齢は間違いなく子どもだけどな」

「颯太に言われたくないですう」

「ふふふっ。颯太さんもともえちゃんもすっかり仲良しなのね」


 二人のやり取りを見ていた美琴が可愛らしく笑う。ともえは仲良しと言われ、素直に嬉しいと思った。


「ほら、練習戻るぞ!」


 ぷいっとこちらから顔を背けた颯太は、足早にその場を去ってしまった。それをともえは慌てて追いかける。


「ちょっと待って! 美琴ちゃん、ご馳走さま。お弁当本当に美味しかった! またゆっくりお話しようね!」

「ええ、是非。練習頑張って!」


 美琴の応援に応え、ともえは道場へと走った。










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