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罠(道真)No.2

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 店を出ると、もうすっかり日は暮れて辺りは夜になっていた。


「早く帰らなきゃ」


 少し多くなった荷物を担ぎ直し、少し急ぎ足で日輪道場への道を歩き出す。

 しばらく進むと、ともえは背後に気配を感じた。

 何?

 ピタリと足を止めるとその気配も止まり、歩き出すと気配も動く。

 大きな通りから橋を渡って一本暗い道に入ると、その気配は色濃くなる。ほんの少し嫌な予感がともえの思考をかすめると、途端にその気配は消えたのだった。

 気の所為? それとも道真くんが追いかけて来てくれた、とか? ーーそんな訳ないか。


「帰ろ帰ろ」


 一息吐いて歩き出そうとした瞬間だった。


「きゃあっ!?」


 バキィッ!!


 という渇いた音と同時にともえの足に激痛が走る。くずおれる両膝に、咄嗟にともえは荷物をしっかりと腕に抱き込み、体を反転させて背中から地面へと倒れた。


 ドザアアッッッ!!


「くっ!」


 勢い良く倒れたともえは、頭上から振って来た声に我が耳を疑った。


「日輪道場など、無くなってしまえばいいんだ!」

「お前みたいな田舎娘は、田舎道場がお似合いなんだよ!」

「なっ、なんですって!?」


 顔を上げると、路地の脇に立つ若い男二人がくるりと踵を返し、逃げるように走り去って行った。

 間違いなく笠原道場の門下生だろう。日輪道場の名を口にしていたし、ともえを田舎娘と言い捨てた。

 だが、残念な事にほんの一瞬しか顔を見る事は出来なかった。


「ともえ!」


 痛みに耐え、荷物の無事を確認しようと体を起こしかけた所へ、前方から慌てて走り寄る道真を見つけた。


「道真くん……?」

「どうした、今、誰かそこにいなかったか!?」


 珍しく声を荒げる道真は、ともえを地面に座らせて路地の向こうを睨みつけた。


「それが、良く分からなくって。急に足に痛みが走ってそのまま倒れたからーー」


 そう言ってともえが着物の裾をめくると、左足にくっきりと棒状の痣が浮き上がっていた。


「くそっ……笠原の連中か」

「え……?」

「あいつら、本気で俺達を潰す気なんだ……こんな卑怯な事やるとは、武芸者の風上にも置けない」


 忌々しそうにそう言いながら、道真はともえの着物の汚れを払い、転がった荷物を拾い上げ次にともえの体を抱きかかえた。


「ちょっと! 道真くんっ!?」

「なんだ?」

「なんだじゃなくて、恥ずかしいよ!」


 日が暮れて来て人通りも少なくなっているとはいえ、天下の往来の真ん中だ。何事かと過ぎ行く人が見て行く。


「その足、これから腫れるぞ。試合に向けての練習もしないといけないんだ、今無理して悪化されたら同じ代表の俺が困る」


 それだけ言うと、道真はさっさと歩き出した。

 残念ながらともえは道真の正論に反駁を加える余地もなく、ただ黙って道真に身を任せるしかなかった。


「ところで道真くん」

「なんだ?」

「どうしてここに?」


 ごく当たり前の質問をする。と、道真は下からじっと見上げるともえの視線から逃れるように横を向くと、


「お前がちゃんと間違わずに買えたか不安になって見に来ただけだ。まさか怪我をして倒れるなんて思わなかったがな」


 ざわりとともえの心臓がうごめいた。

 家を出る時と今の道真の様子から、ともえを案じてくれていた事がようやく分かったのだ。

 美琴が真弓を見る時のあのはにかんだ笑顔がふと頭をよぎる。

 改めて道真の顔を眺めると、ともえはもう一度心臓がざわめくのを感じた。








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