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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

垂司の想い No.1

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streetpoint

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はなもあらしも














 道真とともえの声が道場から聞こえる。

 盗み聞きなどするつもりはさらさらなかったし、そもそも道場へと向かうつもりもなかった。

 にも関わらず、こんな早朝から垂司の足は道場へと向かっていたのだ。

 といっても何も垂司が早起きをしたわけではない。

 昨日ともえと気まずく別れた後、憂さを晴らすかのように垂司の足はそのまま花街へと向かった。明治に入り娼妓解放令が発令されても、花街自体がなくなったわけではない。垂司は行きつけの店で懇意にしている遊女と朝まで過ごしてきた帰りだった。

 女を抱いて酒を飲んだところで気持ちは晴れなかったが、僅かばかりの冷たさは得ることが出来た。


 なのに、それでも――――


 ともえがもしかすると足の痛みを押して道場にいるかもしれないと思考し、垂司の足はほぼ無意識に道場前へと向かってしまったのだ。

 そしてそこでは今、道真とともえが話している真っ最中だった。


「昨日の俺の話、聞いてなかったのか?」

「覚えてるわよ、笠原道場にぐうの音も出ないくらいの大差を着けて勝つ! でしょ?」

「その後俺はその足を早く治せ。と言わなかったか?」

「……あ。いや、でも今日は添え木して殴っても分からないくらい包帯巻き付けてるから大丈夫だよ?」

「そう言う問題じゃない。本当にお前は単細胞だな……いいか、今日は道場に立つな。絶対だ。代わりにこれやってろ」


 中の様子をそっと伺うと、道真はともえにゴムが結びつけてある棒を差し出している所だった。


 ――――懐かしいものを。


 道真がまだ幼い頃、やんちゃさから足を怪我した際に垂司自身が作ってやった事があった。もちろん今ともえが手渡されたそれは、その時の物ではないが、垂司はわずか口の端を上げた。

 道場の中では二人の会話が続いている。


「これは?」

「腕の筋肉を鍛える道具だ。足の治療をする間、これを本当の弓だと思って頭の中で一連の動きを思い描きながら引くんだ」

「へえ。こんなのがあるんだ」

「いいからお前は邪魔をするな。大人しく隅っこに座ってろ」

「道真君、有難う」


 ズクンという鈍い痛みが胸の奥に走る。きっとともえはあの温かな笑顔を道真に向けた事だろう。


『橘さんにだって同じことするんでしょう!?』


 ともえの叱責が蘇る。

 自分には嫉妬する資格すらない。橘どころか、あのまま女を抱きに行ける神経の持ち主だ。一体いつから自分はこんな風になってしまったのだろう。

 垂司は自分で自分が嫌になった。気付かぬ風で何食わぬ顔で通り過ぎてしまおうと思った。


「あ……」


 が、それは叶わなかった。

 道場内からともえの声とともえの視線を感じた。


「や、二人ともおはよう」


 黙って立ち去るわけにもいかなくなった垂司は、いつも通りに飄々と挨拶を送った。


「お、はようございます」


 道真と話していた時の元気はどこへやら、そう返したともえの声は消え入りそうなほど小さかった。そのともえの様子をじっと見ていた道真が、垂司に露骨な敵意を向けた。


 ――――なんだお前、その女に惚れてるのか?


 そう煽ってやりたい衝動に駆られる。

 蔑んだ様な目を向けた垂司に、道真もそうだ悪いかと言わんばかりの炎を宿した目で垂司を睨む。


 ――――だったらしっかり守ってやれ。


 喉まで出かかった言葉を、垂司はぐっと飲み込んだ。

 そんな垂司に挑むような視線のまま道真が鋭い声を発する。


「朝帰りとは良い身分だな」

「そうだろう? 良い身分なんだよ、私は」

「っち。何の用だ? さっさと行けよ」


 ――――何を怯えているんだ? 道真。


 俺はもう弓だって握らないし、家だって跡を取らない。ともえの婿候補からは真っ先に外されて当然の存在、そうだろう? 


「そのつもりだよ。それじゃ、練習頑張ってね」


 垂司はそう告げると、身を翻した。


「ま……待ってくださいっ」


 その背中にともえのか細い声がかかる。

 振り向くな、振り向かずに、このまま立ち去れ――頭の奥で警鐘が鳴る。しかし心がそれに抗う。二十五にもなって自分の心すら御せない自分に垂司は唇を僅かに噛みしめた。


「垂司さんっ」


 どうかしてる――――戸惑いを胸に秘めたまま、垂司は振り返った。


「垂司さん、私……」


 ともえの目が矢のように垂司の心に突き刺さる。


 垂司が口を開こうとしたその瞬間――――


「ともえ、練習に戻るぞ。お前もしっかりその腕鍛えろよ。怠けるんじゃねぇぞ」

「あ、うん……ごめんね、道真君」


 道真が横から二人の視線を遮断するかのように言葉を浴びせた。

 だが内心で垂司は道真に感謝すらした。あのまま口を開いていたら自分が何を口走ったか分かったものじゃない。いや、分かりすぎる程に分かっていると言った方が正しいか。


「それじゃあ、失礼」


 そう言うと、今度こそ垂司は身を翻した。










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