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チェンジ・ザ・ワールド☆
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休息の時(美弦)No.2

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 「あら、どこからか肥だめのような嫌な臭いがしてくると思ったら、どこぞの田舎道場の弓道家さんではありませんこと?」


 演劇場の前に到着するや、開口一番、信じられない程の厭味をこれでもかとぶつけてきたのは、一度会ったら忘れない、笠原道場の橘雛菊だ。


「橘君、女性に対して肥だめのようだとは、いささか失礼じゃないか。僕にはどちらかと言えば馬小屋の臭いに感じられるが……」


 次にこちらも負けじと厭味を惜しげも無く披露するのは、同じく笠原道場の氷江雪人だ。

 ともえはこめかみの青筋を精一杯抑えながら、引きつった笑顔を作った。


「こんばんは、橘さん、氷江君……お二人でどちらへ行かれるんですか?」


 このやろう。人が下手に出てやったらいい気になって! 弓道はすごいかも知れないけど、こっちは田舎の野良仕事で鍛えた腕っ節があるんですからねっ! 喧嘩だったら負けないんだからっ!! ――そんな思いを込めながら睨みつけるようにして、微笑んだまま挨拶を済ませると美弦がともえの前に半歩歩み出る。


「氷江さんと橘さん。随分と仲が良ろしんですね。逢瀬ですか?」


 美弦がともえとは違って完璧な笑顔でそう言うと、途端に氷江の顔が真っ赤になり、早口になる。


「お、逢瀬!? なんて破廉恥な事を言うんだ、君はっ! 僕達はただ寄席を楽しみに来ただけで……」

「じゃあ逢瀬じゃないですか。僕とともえも寄席を見に来たんですよ。ねーっ?」

「うえっ? あ、うんっ」


 突然に綺麗な笑顔のままの美弦に話しを振られ、ともえは動揺しながらも取りあえず相槌を打った。


「それでは弓槻さんとその田舎のお嬢さんはお二人で逢瀬という事ですの?」


 橘がこれでもかと目を見開いて驚く。


「そうなんです。それじゃあお二人のお邪魔をするわけにも参りませんので、僕達はあちらへ参ります。行こう、ともえ」

「う、うん」

「ちょっとお待ちになって」


 美弦に導かれるように体を反転させた所で、橘の美しい声が背中にかかる。


「どうかしたんですか? 橘さん」

「いえ、弓槻さんじゃなくてそちらの田舎娘さん……あなた、足を怪我していらっしゃるの?」


 まだ少し庇うような歩き方をし、美弦がずっとさりげなく支えるようにしていた為に、橘はどうやらともえの怪我に気付いたようだった。一瞬ともえは闇討ちに遭った時の事を口走ろうとしたが、咄嗟に堪えた。

 そんなともえに気付いて美弦が眉根を寄せた。


「実は彼女は少し前に暴漢に襲われたんです。若い男二人だったみたいだけど、犯人は解らずじまいでして……。最近は物騒ですから橘さんも十分にお気を付け下さい。あ、氷江さんがいらっしゃるから大丈夫か。じゃあ、僕達これで失礼します。お互い良い逢瀬の時間を過ごしましょう」

「――暴漢?」


 氷江が驚く様子を見て、ともえは恐らくこの二人の知らぬ所で画策されたのだろうと悟った。美弦が二人に向かって頭を下げその場を離れると、少し遅れて


「だから逢瀬などではないっ!」


 という氷江の訴えが人ごみの向こうで聞こえた。それを耳にして、ともえと美弦は顔を見合わせて笑った。













 「まさかこんな所であの二人に会うなんてね~」


 橘も氷江もすっかり見えなくなり席に着くと、美弦はさも可笑しそうに笑った。


「本当に腹の立つ人たち! 人の事肥だめとか馬小屋とか! あんなの」


 怒るともえは、次の瞬間心臓が止まりそうな程驚いた。

 何故なら美弦が急にともえの腕を引き、その肩へと顔を沈めたからだ。


「なっ、なっ、みっ、みつっ!?」


 急な美弦の大接近に心底驚き、言葉が上手く出てこない。

 そんなともえとは対照的に、美弦は落ち着き払った風でふと離れると、にっと不敵に微笑む。


「いい匂いじゃん。洗髪は何使ってるの?」

「え? え? えーっ?」

「僕も同じの使おうと思って」


 そうやって軽く言ってのける美弦に対し、ともえの胸は高鳴りっぱなしだった。そう、さっきまでの怒りが嘘のように。美弦なりにともえを気遣ってくれたのだろう。

 ドキンドキンという激しい鼓動の奥底では、またそれとは違う温かな思いがともえの中を流れている。


 私……やっぱり―――


「んー……氷江と橘は知らなかったか……」


 ともえが思いに耽りそうになっていると、隣で美弦がぼそりと呟いた。その表情は真剣で何やら考え込んでいるようだ。じっとその横顔を見ていると、


「お、始まるみたいだ」


 いつもの愛らしくも悪戯っぽい笑顔に戻り舞台を指差した。


「わぁっ、楽しみ!」


 ともえを襲った暴漢が笠原道場の門下生であろうと美弦も考えていたらしく、氷江と橘にかまをかけたのだが本当に知らないようだった。となると、犯行は直接襲った人物が独断で動いたのだろう。

 やめよう。考えても仕方ない―――ともえは頭を小さく振ると、今度こそ舞台に集中した。








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