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心の奥(颯太)No.3

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はなもあらしも














 美琴はともえを日輪道場まで送り届けると、また様子を見に来ると告げて家へと帰って行った。

 夕食も終わり各自自室へといなくなると、ともえは一人部屋の中で考えていた。

 試合まで時間がない。

 そして足の怪我で満足のいく修行も出来ず、悶々とした日々を過ごしただけだった。真弓が颯太に教えてくれたという練習法は頑張ってやっていたが、さすがに道場で射位に立って実際に矢を射る時間はあまりにも少なすぎた。

 頭の中では何度も何度もイメージトレーニングーー後で真弓に確認をしたら、“いめえじとれんにんぐ”ではなく、イメージトレーニングだったーーを繰り返し、一番リラックスして矢を放つタイミングは叩き込んだ。

 それでもやはり圧倒的に練習量が足りないのだ。

 じっとしていられなくなり、ともえは静かに部屋を出た。

 縁側から庭へと降り、少し肌寒い暗闇を月と星明かりを頼りに歩き出す。

 壁伝いに屋敷を迂回すると、道場が見えて来る。しかしすぐに足を止めともえは踵を返した。道場に近づくと、どうしても弓を触りたくなってしまうのだ。

 自制を効かせ良い香りが漂って来る方へと足を向けた。

 そこには随分と背の高い木が植えられていて、白い花を咲かせている。


「コブシか……」

「いい匂いだよな。もう時期は終わりだけど」


 急に背後から声をかけられ、ともえは驚いて肩をすくめる。 


「よお。眠れねえのか?」

「颯太……」


 颯太の声を聞いただけで何とも言えない心地になる。隣りに立ってコブシの木を仰ぐ颯太を確認し、ともえは大きく深呼吸をした。


「厠に行こうと廊下に出たら、お前の姿が見えてさ」


 何故ここに来たのかと説明する颯太の声を聞きながら、ともえは無言で頷いた。


「不安なのはオレも一緒だ……悔しいが氷江と橘は強い。でも、オレ達は日輪の代表に選ばれたんだぜ? まあ、真弓兄か道真が妥当だとは思ったけど、折角ともえがオレを指名してくれたしな。幸之助おじさんも、お前なら大丈夫だって言ってくれたし……」

「私は、颯太とならきっと勝てるって思ったからーー」

「ははっ、期待してくれんのは嬉しいけど、さ……やっぱ、不安だよなあ」

「ーーー」


 二人でしんみりとコブシの木を見上げ、肌を撫でる夜風に一瞬身を震わせた。


「ーーなあ」

「ん?」

「お前はどうしたら不安が消えると思う?」


 そんな事聞かれても答えなど分かるはずが無い。だからともえはこうやって夜中に眠れずに部屋を飛び出してきたのだから。

 応えられずにいると、突然颯太がともえの体を抱き寄せた。


「っ!?」


 しっかりと背中に回された腕の力強さに息苦しさを感じたが、すぐに颯太の心音が激しく鳴っている事に気付いて力を抜く。

 もちろんともえの心臓も張り裂けんばかりに鼓動している。

 自分の手をどこへやるべきか分からず、ともえはただ颯太に身を任せるまま強く抱きしめられていた。


「颯太……」

「負けちまったらどうしようって、すげえ不安なんだ……でも、ともえとならやれる。そうも思ってる。オレ、良く分かんねえよーーー気持ちがぐちゃぐちゃしてて、勝ちたいのに自信ねえし、自信ねえのに変な勝利の確証? みてえなのはあるし。変なんだ……」


 自分だけではない、颯太も同じように不安を抱えているのだ。それなのに明るく振る舞い、いつもともえを元気づけてくれていた。

 そっとともえは颯太の背中に手を回し、優しくぽんと叩いた。


「真弓さんが言ってたんでしょ? 弓道は心の状態が大きく左右する武道だって。私もすごく不安で不安で、私で大丈夫なのかな。とか、負けたらどうしようって、すごい考えてた。でもさ、私は颯太が一緒にいてくれるなら勝つよ」

「ーーーともえ」


 体を離し、颯太は悲しそうな子犬のような目でともえを見つめる。


「颯太がいつも私に元気と勇気をくれるの。だから、今度も私に勇気を頂戴。私でよければ颯太に一杯元気と勇気をあげる。そして、一緒に試合に勝とう」


 お互いの体温で体が暖かくなると、どちらからともなく離れた。

 ふと颯太は笑う。


「こんな弱音を吐くなんて、みっともねえよな」

「そんな事無い! 私、颯太の本心が聞けてすっごく嬉しかった! いつも私ばっかり颯太に心配かけててなんだか悔しかったから……やっと年上らしい所を見せられたかなって」

「ばーか」


 ニヤリ笑うと、ともえはくるりとその場で一回転してみせた。


「足ももう大丈夫! そして試合まであと三日ある! そして私には颯太という心強い味方がいる! だから勝つ!」

「へへっ、そうだな。よしっ、オレにはともえがいる! だから負けない!」


 夜遅く、コブシの木の前で互いに誓った言葉は、二人にとってとても大切なものとなった。









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