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act.14(春日)

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就職難民 黙って俺についてこい!










 春日さんが倒れて数日入院していた間、何故か私が春日さんのお世話をする事になった。そのおかげか大手の取引を春日さん抜きで成功させたかは分からないけど、前より冷たく当たられなくなった……ような気がする。

 秀麗の化粧品専門店へ向かって、今私の目の前を歩いている春日さんの後ろ姿に妙にドキドキしたり。

 線が細くて我侭というか、ワンマンで俺様だけど、やっぱり男の人なんだな〜。倒れた時は本当にびっくりしたけど、それだけ仕事に対して情熱を持っているって事だもんね。尊敬しちゃう。

 カレンが言ってたけど、春日さんは入社してすぐに大口の仕事を取って来て、美成堂始まって以来の期待株らしい。もちろん社長にも営業部の部長にも気に入られているし、他の会社のお偉いさんの娘さんとの結婚話しまでもう来てるとか。何だか住んでる世界が違いすぎるな。

 おかげで同じ営業部では結構やっかみを受けて、酷い事を言われたりされたりもしていたみたいだけど、文句を言わせないほど仕事が出来るものだから、今では誰も春日さんをいじめたりしていないらしいけど―――


「孤独じゃないのかな……」


 無意識に口をついてしまった言葉に、私ははっとした。

 私ったら、すっごい失礼! よく知りもしないで勝手に春日さんに孤独なんてイメージ作ってる!


「別に孤独じゃないけど」

「えっ?」

「あんた、今僕の事孤独って言ったでしょ?」

「―――き、聞こえてたんですか……?」

「まあね、自分の真後ろで呟かれたら嫌でも聞こえるし」

「す、すみません!!」


 あ〜〜! もうっ! 私のバカバカっ!!!

 人がいなかったら思いっきりビルの壁に頭をぶつけたい所だわ!

 ―――て、あれ? 今、孤独じゃないって言った?


「なに、その顔。僕が一人で仕事やって、猫被って周りの人に嫌われてるのに孤独じゃないなんておかしいって思ってんの?」


 この人心が読めるのかしら? やばい、いつもの顔に出てたパターン?


「いえ、そんなつもりじゃ……」

「別にいいけど、自分で性格がいいなんて思ってないし」


 自覚はあるんだ。


「僕はね、誰も信用してないの。人を信用して裏切られた時、辛いのは自分だから……だから、誰にも文句を言われない位の仕事をやって、社長に喜んでもらえればいいの」

「社長の事が好きなんですね」

「―――その言い方、気持ち悪いからやめてよね。でもまあ、あの人には恩があるから、会社と御影山社長の為に僕は頑張るって決めてる。だから、別に孤独だなんて思わない」


 それは自分でそう思い込んでいるだけで、孤独と一緒なんじゃないかしら? 春日さんって、実はすごく繊細な人なのかな?


「ほら、秀麗の店が見えて来たよ。カップル装ってしっかりリサーチするから、そのつもりで。ポカやったら社長に言って即、追い出すから」

「っ!? はひぃ」


 か、カップル装うですって!? 私と、春日さんが!? ちょっとそんなの無理! いや、嬉しいような気もするけど、なんか無理!!














 「いらっしゃいませ」


 とうとう店内に入った私と春日さん。おどおどしている私と違って、春日さんはいつもの天使の営業スマイルで女性店員さんに話しかける。


「こんにちは、彼女にプレゼントしたいんですけど、お勧めの商品って何かありますか?」

「プレゼントですか、素敵ですね。ファンデーション、アイシャドウ、口紅、どういったものをお探しですか?」

「そうですね、今度何か新しいものを出すってちょっと聞いたんですけど、どんな感じなんですか? 彼女、それが気になるらしくって」

「はい、我が社は今度の新作としてリップグロスを考えております」


 すごい、ごく自然に話しを新製品の方に持って行った。春日さんの営業力って、こういう会話術の上手さなんだなあ。―――あと、この営業スマイル。店員さんすっかり春日さんの笑顔にやられちゃってる。


「ああ、リップグロス。ねえ、水那。グロスの新作が出るらしいよ?」

「え?」

「ほら、どうしたの水那。ぼーっとして」


 まさかの名前呼びに一瞬心臓が締められたわ。しかもそんな笑顔で振り返られたら勘違いしそうになっちゃう。なんかただ名前を呼ばれただけなのにすごくドキドキして、本当に春日さんの彼女になったような錯覚になるわ……。

 おっと、いけないいけない! カップルって設定だもんね! ようしっ。


「グロス、欲しいと思ってたの。あ、でも確か美成堂でも新作が出るんでしょ? そっちもちょっと気になるなあ。確か専門店だけで何かサンプル貰えるって友達が言ってた(嘘だけど…)」

「そう? じゃあ、サンプルとかもらえるならそっちにする? 美成堂なら僕の知り合いもいるし、もしかしたら色々良くしてもらえるかも」

「え〜、そうなの? おまけとかしてもらえるなら、そっちの方がいいな〜」

「お、お待ち下さいお客様」


 ―――かかった。

 私と春日さんの見事な会話で、店員さんが焦り出した。すぐに店の奥に引っ込むと、何やら小さいカゴを持って出て来た。


こちら、私どもの新作グロスの試供品でございます。ここだけの話しですが、まだ一部のお客様にしかお渡ししていないものです」

「へえ……」


 春日さんは店員さんがカゴの中から取り出したサンプルをまじまじと見つめた。そして私にそれを渡すと、


「水那はどれがいい?」


 再びあの笑顔で尋ねた。―――可愛い……

 おっと、また見蕩れちゃった。仕事仕事!


「う〜ん、なんだかどれも素敵で悩んじゃうな」

「それではこちらでメイクしてみませんか?」

「いいんですか? お願いします!」


 よし、これでもっと詳しい情報が聞き出せそう!






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