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act.24(春日)

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就職難民 黙って俺についてこい!










 私は、今日も慌ただしく美成堂へと出社していた。

 あの新作発表会で見事最優秀賞を獲得し、美成堂のリップグロスは大ヒットしている。今日は社長室に呼び出されていて、いつも以上に緊張してたりするのよね。


 コンコン


 社長室をノックすると、返事とともにドアが開いた。


「お、おはようございます! 研修生の葉月水那と言います!」


 顔を出した秘書の女性は私の挨拶ににこりと微笑み、


「おはようございます。社長から伺っています。こちらへどうぞ」


 と言って中へ入れてくれた。 


「ありがとうございます!」


 秘書の女性に奥の部屋へ通されると、社長の机の前にある来客用ソファに良く知った顔が座っていた。


「春日さん……」

「来たな。よし、葉月、ここへ呼ばれた理由はきっと分かっていると思うが、これをお前にやる」


 そう言って社長が差し出した紙を受け取る。


「―――採用通知書……あっ! ありがとうございます!!」


 やった! 本当に私、美成堂の社員に採用されたのね!!

 勢い良く頭を下げる。


「で、これから大学卒業までは、引き続き研修生として大学に行く日以外は出社してもらう。そこで、お前にもう一度尋ねるが……」


 そこで言葉を切ると、社長は立ち上がって私の前へと歩み寄ってきた。


「希望の部署はあるか?」

「えっ……?」


 どうしてそんな事聞くの? だって、私は―――

 チラリと春日さんを伺う。

 春日さんは静かに目を閉じて紅茶を口に運んでいるだけ。何も言ってはくれなさそう。

 それもそうか。私の中では随分仲良くなったと思ってたけど、最初かなり嫌われてたし、丁度いい厄介払いが出来るって思ってるのかも……

 ―――でも、そんなの嫌だ。


「希望の部署なら、もう決まってます! 営業部以外、私が行く所はありません!」


 春日さんがいない部署なんて、行っても意味が無いもの!

 ぐいと社長を睨むように言うと、ふっと社長が顔をほころばせた。


「だそうだが、どうする? 雅?」


 後ろのソファにいる春日さんを振り返ると、春日さんはカチャリとティーカップを置いて立ち上がった。


「ほら、僕が行った通りだったでしょ? 水那は僕の所以外行かないって」

「へ?」

「まあいい。取りあえず、懐かせた責任はしっかり取れよ」

「冗談! 責任を取るのは水那の方。さ、仕事行くよ」


 そう言って私の手を取ると、春日さんは社長室を出て行こうとする。

 私の頭はまだ事態を飲み込めなくって、社長に助けを求めるように視線を送った。


「まあ、精々頑張れ」


 ひらひらと手を振る社長は閉まるドアの向こうに消えてしまい、私は秘書室、廊下、エレベーターと、ずっと春日さんに手をつながれたまま歩くはめになった。

 どうしよう、すっごい恥ずかしい。けど、さっき私の事水那って名前で呼んでくれた―――

 ふと顔を上げると、春日さんも私の方を見ていて、ニッコリ笑った。


「っ!?」


 どっ、どうしよう! なんて可愛い笑顔なの!?

 今まで見てきたどんな営業スマイルも比較にならない位の笑顔で、私は顔が熱くなるのが分かった。

 胸の鼓動が収まらない。

 どうしよう、私、完全に春日さんに恋したみたいだよ。


「正直、あんたぼーっとしてそうだし、仕事が出来るなんて思ってもなかった。けどさ、あんなに真剣に仕事に取り組む人、初めて見た」

「あ、ありがとうございます」

「僕、あんたのことがもっと知りたい」

「え?」

「一人が気楽だし、誰かと慣れ合うなんて絶対嫌だと思ってたのにさ。こんなに他人が気になるなんて、どうかしてる……だからさ、責任、取ってよね?」

「あ……」


 さっき社長が言っていたのはこの事だったんだ。

 春日さん、私の事を気にかけてくれてるって事だよね? 少しは期待してもいいんだよね?


「悔しいから二度と言わないから、ちゃんと聞いてて」

「はい」

「僕、あんたの事が好きみたい」

「!? う、わ、わっ! 私も! 私も好きです!」


 丁度営業部のドアの前まで着た所で、私は真っ赤な顔で春日さんに気持ちを伝えた。

 ガチャリとドアノブに手を掛けた春日さんが、一瞬こちらに視線を寄越してまた笑った。


「当然」






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