atwiki-logo
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このウィキの更新情報RSS
    • このウィキ新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡(不具合、障害など)
ページ検索 メニュー
週刊少年サンデーバトルロワイアル
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
週刊少年サンデーバトルロワイアル
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
週刊少年サンデーバトルロワイアル
ページ検索 メニュー
  • 新規作成
  • 編集する
  • 登録/ログイン
  • 管理メニュー
管理メニュー
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • このウィキの全ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ一覧(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このwikiの更新情報RSS
    • このwikiの新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡する(不具合、障害など)
  • atwiki
  • 週刊少年サンデーバトルロワイアル
  • 殺したらおわり(前編)

殺したらおわり(前編)

最終更新:2012年12月20日 10:31

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

殺したらおわり(前編)◆hqLsjDR84w



 ◇ ◇ ◇


 横島忠男の眼球を抉り取ろうとしていたさとりは、唐突にその動きを止めた。
 三日月状の刀剣・魔道具『海月』を振りかざしたまま、不自然な体勢で硬直する。

「な、なんだってんだ、いきなり……」

 対する横島のほうもまた、霊波刀を構えた状態で首を傾げる。
 よもやこちらの意図を汲んで、人殺しをやめてくれる気になったのだろうか。
 いや、そうに違いない。たまには勇気を振り絞ってみるものだ。超逃げたかったけど、そうしなくて正解だった。よかったよかった。

 そんな思考が『心を読む妖(バケモノ)』であるさとりに流れ込んでくるものの、まったくの見当違いだ。

 横島の言い分なぞ、知ったことではない。
 そもそも、さとりには横島の言わんとすることの半分も理解できていない。
 妖でも家族になれる可能性があるのならば、同行者に一度伝えてみようと思ったくらいだ。
 つまるところ、動きを止めた原因は他にある。

 これまで静止していたさとりが、凄まじい速度で首を捻る。
 その視線の先にいるのは、三人の少年少女だ。

 へたり込んでいる華奢な少年、バロウ・エシャロット。
 彼を庇うように立つ筋肉質なモヒカン少年、石島土門。
 剣を構える額から二本の角を生やした少女、霧沢風子。

 彼らの思考が、さとりへと流れ込んでくる。
 彼らがいったいなにをしようとしているのか、さとりには読み取れる。

 『彼ら』というより、『彼女』が問題だった。

 霧沢風子の脳内は、さとりの同行者への殺意で埋め尽くされていた。
 その全身から放たれる妖気は、彼女が少女の外見をした妖であることを雄弁に語っている。

「バロウ……!」

 意図せず、さとりは同行者の名を呟いた。

 ほんの数ヶ月前まで――
 さとりという名の妖は、一人きりで山奥に生きていた。
 どれだけ日にちが経とうと、どれだけ季節が過ぎようと、どれだけ年が変わろうと。
 いつだって、たった一人。
 心を読む能力を持っているというのに、一人ぼっち。
 別に、山が嫌いだったワケではない。
 むしろ、自分の住処のことは好いていた。
 石も、花も、樹も、みなそれぞれ美しい。
 ただ、考えていることはいつもあまり変わらない。
 時たま鳥や虫を見つけても、彼らはすぐにいなくなってしまう。
 それに、彼らもまた、ほとんど常に考えていることは同じだ。
 退屈な日々を、はたしてどれだけ過ごしただろうか。
 なまじそうそう早く寿命を迎えぬ妖ゆえ、過ぎた年月はもはや数えることさえできなくなっていた。

 そんなある日、さとりは人間に出会った。

 本来人間など足を踏み入れぬ山奥に、偶然にも飛行機が墜落したのだ。
 その事故唯一の生存者であったミノルという少年は、それまでさとりが見てきた他のものとはまったく違っていた。
 石よりも、花よりも、樹よりも、鳥よりも、虫よりも、ずっとずっと多くのことを考えていた。
 最初は恐怖で埋め尽くされていた思考が、少し声をかけただけで安心感に変わっていく。
 飛行機の破片が散らばる場所では危険だからと、ちょっと手を引いてやっただけで、その安心感は増していく
 くれてやった木の実が苦いというので、車を襲って調達したパンを手渡した。ただそれだけなのに、脳内に感謝と歓喜の念が満ち溢れる。
 さとりは、そのような存在を知らなかった。
 心を読む能力を持ち合わせていながら、自分へと向けられた思いを読んだのは――初めての経験であった。
 かつて気まぐれで鳥に餌をやったことがあったが、これほど豊かな感情を抱かれたことはない。
 ただ好きに食い散らかして、すぐに飛び立ってしまうばかりだった。
 腹を満たせたことへの安心こそあれど、そこにさとりへの思いはない。
 だが、ミノルは違った。
 満面の笑みを浮かべて喜び、感謝し、そしてこう呼んでくれるのだ。

 『お父さん』――と。

 理由はよく分からないが、さとりには嬉しかった。
 ミノルが笑みを浮かべてくれると、胸が熱くなるのだ。
 それまで退屈だった日々が、キレイに彩られたようだった。

 だから、さとりはキース・ブラックの指示に従った。
 ミノルの目が治れば、きっともっと微笑んでくれるはずだから。
 そう信じて、最後の一人になる決意を固めたのだ。

 しかしその願いが叶わないことを知るまでに、さして時間はかからなかった。
 夜明け前に遭遇したバロウが、きっぱりと否定したのである。

『妖では、人間の家族にはなれない』

 他の誰かが否定してきたのなら、さとりは信じなかっただろう。
 でまかせと決め付けて、海月で斬り捨てていたはずだ。
 それをしなかったのは、バロウもまた人間ではなかったからだ。

 人間ではなく、人間でないがゆえに――人間と家族になれなかった。

 そんな悲痛な記憶が流れ込んでくれば、いかにさとりとて信じるしかない。
 そうして目的を失ったさとりに、バロウは手を伸ばしてくれた。

『おじさんも、人間になればいいじゃないか』

 人間でないにもかかわらず、人間と家族になりたい。
 バロウが語った夢は、さとりが望むものとまったく同一であった。
 その話を聞いている際に流れ込んできたのは、バロウが描く幸せな未来のヴィジョン。
 妖でなくなったバロウは、屈託のない笑顔を浮かべていた。
 それを視てしまったがゆえに、さとりは伸ばされた手を取った。

 すると、バロウは――たしかに微笑んだ。

 ミノルと同じように、心からの笑みを浮かべたのだ。
 その笑顔を崩したくないと、さとりは思った。
 できることならば、ミノルだけでなく、バロウとも笑って幸せに暮らしたい。
 それが叶わないのは、さとりにも分かっている。
 バロウの望みは、さとりではない他の誰かと家族になることだ。
 願いを叶えられるのが一人である以上、いつか確実にぶつかることになる。
 心を読めるさとりは、バロウがいずれさとりを殺すつもりであるのも承知している。
 それでも、構わなかった。
 最終的に殺し合うのを承知で――ただ、一緒にいたかった。

「バロウに怖いことさせるものか」

 言い終えるより先に、さとりは跳び上がっていた。
 虚を衝かれたらしい横島の驚愕する声が背後から聞こえたが、耳を貸す気はない。
 横島の眼球を手に入れるよりも、優先せねばならない事態である。

「バロウに近づくなァ!」

 ほんの三回跳んだだけで、さとりは風子の下へ到達する。
 すぐ近くにいた土門を無視して、標的を風子一人に絞る。
 とうに読めている思考を踏まえて、剣で受け切れぬ方向へと海月を振り下ろす。

 ――彼女の身体に触れる寸前で、三日月状の刃は静止した。

 そこにはなにも存在しないはずなのに、どれだけ力を籠めようと海月は風子に届かない。

「なん、であ゛ッ」

 さとりの驚愕の声は、半ばでくぐもったものに変わる。
 なにか目に見えぬものが、凄まじい速度で鳩尾に激突したのだ。
 衝撃で僅かに呼吸が止まる間に、さとりは黙視できぬなにかの正体を知った。
 いや、知ったのではない。
 ご丁寧なことに、『教えられた』のだ。

 眼前の少女でも、他の二人でもない――別の声に。

『身の程を知るがよい、妖怪。
 貴様ごときが、我が風を破れるはずがなかろう』

 ここに至って、さとりはようやく相対している妖の正体を理解する。

 風子のほうはあくまで憑代であり、本体は彼女の持つ風神剣であったのだ。

 まるで威圧するかのように、風子が一歩ずつゆっくりと歩み寄ってくる。
 さとりは逃げ出すことさえできない。
 思考が読めるからこそ、逃げたところで意味がないと分かってしまう。
 ただ、背後で震えるバロウを守るように、ほんの僅かに前に出ただけだ。

「死ね」

 短く吐き捨ててて、少女は剣を振り下ろ――さなかった。

「おいおいおいおい、風子様よォ。
 せっかくのデートなのに彼氏放って他の男とお楽しみなんて、そりゃあねえだろうが」

 風子とさとりの間に、石島土門が割って入っていた。
 その手には、真っ赤なバラの花束が握られている。

「いやいや、最初に道具確認したときから思ってたけど、キース・ブラックのヤツも意外に気の利いたもん渡しやがるよな。
 この俺にバラの花束なんて、まったくお似合いってレベルじゃねえ。ま、アイツに感謝なんか死んでもしてやらねえけどよ」

 軽口を叩くような口調とともに、土門は花束を前に突き出す。

「俺だけじゃねえんだぜ、風子。
 お前に似合うのはそんな物騒な剣じゃねえ。こいつだ。どうか受け取ってくれよ、マイステディ」
「ふざけんな」

 ウインクを決めての決めゼリフは、たった五文字で切って捨てられた。
 土門はやけに演技がかった大げさな動作で、肩を落としてみせる。
 そんな素振りが癇に障り、風子は語気を強くする。

「テメェ……いい加減にしろッ! 脳ミソとろけちまったのか、腐乱犬!
 ンなふざけたことぬかしてる場合じゃあねえだろうがッ!! 烈火は死んだんだぞ、みーちゃんもだ!
 それ分かってんのか! もしかして『実は生きてる』とか、そんなありえねー夢見てんじゃねえだろうなッ!?」

 風神剣から放たれる風が、あからさまに強くなる。
 激しい風にモヒカンをなびかせながら、土門は微かに目を細めた。

「分ぁーってんだよ、んなこと」
「なら――」
「るっせえな。黙って話聞いてろよ」

 風子の声を制して、土門は一呼吸置いてから切り出す。

「下らねえ夢なんか見てられるワケねえだろ。
 花菱のバカ野郎は、この土門ちゃん逃がすために命捨てやがったんだからよ」
「――――っ」
「バカだよな、ほんと。
 死んだら終わりだってことくれー、アイツもよく知ってるだろうに。
 何せ、俺たちゃこの歳で、何人も死んでくヤツら見てきちまったんだからよ。
 はっ! あんまり寂しくて夢に出てくるくれーなら、死んでんじゃねーっつんだよな」
「だ、だったら……!」

 風子の身体が小刻みに震える。
 困惑と怒りがない交ぜになっているのが、さとりには読み取れた。

「だったらなおさらだ! バカ野郎はテメェだ、バカ野郎!
 目の前で烈火殺されて、なにのうのうとしてやがんだ! そんなんでいいのか、テメェは!?」

 絶叫は住宅街に響き渡らず、付近にいるものにしか届かない。
 よりいっそう激しくなった風によって、掻き消されているのだ。

「ああ、いいぜ。
 おっ死んじまったヤツのために、わざわざ手ぇ汚す気はねえよ。汚させる気もねえ。それこそバカ野郎じゃねえか」

 風子は目を見開いたのち、ゆっくりと頭を垂らす。
 表情が窺えない状態で出てきた声は、やけに低く冷たい。

「そう……かよ。だったら知らねえ。知ったこっちゃねえ。
 どかねえってんなら――無理矢理吹き飛ばしてやるっ!!」

 その声に呼応するかのように、周囲に異変が生じる。
 先ほどまで縦横無尽に吹いていた風が、いきなり止んだのだ。
 住宅街中を流れていた風が集束し、風神剣の刀身を覆っていく。
 風神剣の柄に埋め込まれた宝玉が仄かに光り、その中心部に『風』という文字が浮かぶ。

 明確な宣戦布告を受けたというのに、土門はたじろがない。
 風子を見据えたまま、さとりとバロウの前から動こうとしない。

「お、お前、どうして……俺たちが憎くねェのか……?」
「憎いに決まってんだろうが! どんだけ痛かったと思ってんだ、バカチン!
 テメェ、ハラキリって死ぬヤツだからな! あの清麿ってヤツがなんかARMSとかいうの持ってただけで、本来死ぬヤツだからな!」

 その返答は、さとりがすでに読み取っていたのと同じものだった。
 土門のなかには、自分たちへの憎しみがある。
 ならば、どうして――
 そんな疑問は問いかけるまでもなく、土門自身により解消される。


「けどよ……ムカつくからって殺してたんじゃ、俺たち火影がブッ飛ばしてきたクソ野郎どもと――なんにも変わんねえだろうがッ!!!」


 そう言い切ると、彼の着込んでいる漆黒のボディスーツが膨れ上がった。


 ◇ ◇ ◇


 時を同じくして、近接エリアであるB-2の南部。

 蒼月紫暮とルシール・ベルヌイユの二人は、民家の壁に背中を預けて身体を休めていた。
 自動人形(オートマータ)・ドットーレに気付かれぬよう、どうにか距離を取ったところである。
 法力僧と人形破壊者(しろがね)といえど、精神的な疲労がないワケではない。
 瞳を閉ざして、心を落ち着ける。
 睡眠をとらなくても、数分こうしているだけでだいぶ回復するものだ。
 両者はいちいち言葉で意思の疎通を行わずに、取るべき行動を理解していた。

 ――不意に、紫暮の身体が震えた。

「これは……!」

 閉じておくはずの目が見開かれ、声が勝手に零れる。
 休息状態から臨戦態勢へと、身体が即座に切り替わる。
 傍らで紫暮の声を聞いたらしいルシールも、また同じくだ。

「いったい、なにが起こったんだい?」

 ただ、ルシールのほうはなにも捉えていないらしい。
 これにより、むしろ紫暮はなにか起こっているという確信を強めた。
 紫暮が捉えたのは、戦闘音ではなく『妖気』だ。
 もう全盛期から長らく年月が過ぎ、五十歳も近くなっている。
 肉体や法力は衰えていくばかりだが、感覚だけはかつてよりも研ぎ澄まされている。
 その感覚が告げるのだ。

 ――強大な妖気が、南部から発せられている。

 捉えた気配は、かなり暗く重たい。
 大きな憎しみに満ちているのは、間違いない。
 浮かんだのは、憎しみを食らう大妖の姿である。
 アレほどではないだろうが、同種という可能性は少なくない。
 だとすれば、法力僧たる自分が向かわねばならないだろう。
 紫暮はその旨を伝えるが、ルシールの返事は積極的なものではなかった。

「行ったところで、なにができると言うんだい?」
「ぐ……」

 あまりに的確な指摘であった。
 紫暮に支給された道具は、鍋のフタだけ。
 そのフタの素材が法力を通しやすい代物ならばともかく、単なるアルミ製だ。
 いざ戦場に辿り着いたところで、素手の紫暮にできることなどたかがしれている。

(とはいえ――)

 先の放送で、井上真由子という名前が呼ばれていた。
 彼女は戦う術を持たぬ、単なる一般的な女子高生である。
 そんな彼女が殺し合いに呼び出されて、命を落としてしまっている。
 ドットーレのいた学校に人の気配はなかったが、いま感じた妖気の元には誰もいないとは限らない。
 真由子のような力を持たない誰かが、強烈な妖気と相対しているかもしれないのだ。
 法具がなくとも、誰かを逃がすくらいはできるかもしれない。
 決して、断言はできない。
 息子のうしおならば『できる』と言い切るだろうが、年老いた紫暮には不可能だ。

 だが断言できないからといって、行かなくていいのだろうか。

 護るべきか、見捨てるべきか。
 向かうべきか、向かわぬべきか。

 考え込み、迷い、逡巡し、それでも踏ん切りがつかず――

『ゆくことが、貴方の使命ですよ』

 いつか聞いた声が蘇り、紫暮ははっとする。

(はは、いまさらだったな)

 同じ迷いを抱いたことがあった。
 そして答えを見出したことがあった。

 そう――もう、答えは出ていたのだ。

 それも、十六年も前にだ。
 あの日から一日とて、固めた決意は揺らいでいない。
 ならば、どうしていまこの場で決めかねることがあろう。

 紫暮はルシールのほうに向き直り、静かな口調で言い放つ。

「人々に仇なす妖を封じるのが、私の使命です。
 同行を強制するつもりはありませんし、もしものときは見捨てていただいて構いません」

 これは、ルシールに向けられたものではない。
 紫暮が自身に言い聞かすためのものでもない。

 いま現在も海の底で使命を全うしている、思いを寄せる女への――誓いだ。

「そうかえ。ではいざとなったら、安心して見捨ててさせてもらうとするかね」

 くつくつ笑いながら、ルシールは紫暮の前に立つ。
 そうして呆然とする紫暮を急かすように、こう告げるのだった。

「どうしたんだい? 『お守りしてくれる』んだろう?」

 ルシールに遅れて、紫暮も口元を緩めた。


 ◇ ◇ ◇


「はぁ……はぁ……クソッ!」

 いつの間にか荒くなっていた呼吸で毒づきながら、風子は風神剣を振り下ろす。
 離れた場所にいる土門への威嚇のために、単に剣を振るっているだけではない。
 一薙ぎするたびに、刀身を覆っている風がいくつもの弾丸となって放たれているのだ。

 にもかかわらず、土門は一向に退かない。

 どれだけ風玉を放っても意に介さず、まっすぐに進んでくる。
 横に跳んで回避することこそあれど、一度たりとも後退することはない。
 風玉に囲まれて避け切れなくなれば、その場で立ち止まって身体に力を籠めて受ける。
 ずっと攻撃を続けている風子のほうが、詰められた距離を開けるために後退してばかりだ。

「ちィ……! どうなってんだよ、テメェの着てるそれはよォ!」
「俺が知るか!
 負けらんねえと思ったら思っただけ強くなるんだよ、このアーマーなんちゃらスーツはッ!」

 意味の分からない返答とともに、土門が地面を蹴った。
 風子は咄嗟に風刃を撃ち出すが、土門は顔面だけを庇うように腕でガードする。
 やはりボディスーツの表面が削れるばかりで、内部にあるはずの肌さえ露にならない。
 しようがないので飛び退こうとする風子だったが、とても間に合わない。
 風子が知る土門の限界を超えたスピードで、土門は接近していた。
 走る勢いそのままに、バラの花束を持っていないほうの右手をかざし――

 ――ぱちんっ。

「…………は?」
「目ェ覚めたかよ、お姫様。
 王子様のキッスのほうをお望みってんなら、何百回だってしてやるぜ」

 風子は遠ざかることも、刃を返すこともできずにいた。
 そんな千載一遇の機会を得たというのに、土門がやったのは――いったいなんだ。
 わざわざ考えるまでもないほどに、明らかである。

 ――『頬っぺたをはたいた』だけだ。

 それも、子どもを叱りつけるような微かな力でだ。
 風子は、自分のなかでなにかがキレる音を聞いた。

「おちょくってんじゃあねェェェーーーーーーッ!!」

 これまで研ぎ澄まされていた精神が、一気に決壊した。
 風神剣の刀身だけを高密度で覆っていた風が、再び外界へと解き放たれる。
 住宅街一帯に吹き荒れ、かつて民家だった瓦礫が宙を舞い、張り巡らされた電線が激しく揺れ動く。
 そんな暴風のなかで、土門は焦らず二本の足に力を籠めて立ち尽くす。
 依然として左手に花束を持ったままであり、風子はその姿が気に入らなかった。
 これだけの風速のなかでは、通常なら涼しい顔など浮かべていられないはずなのだ。

「ナメんな、クソッタレ!」

 刀身を風で覆うこともせずに、そのまま風神剣を袈裟に振るう。
 単なる刃でしかない刀身は、簡単に仰け反って回避されてしまう。
 発生させた風の勢いで強引に刃を戻しての逆袈裟も、これまた飛び退いて回避される。
 強引な連撃で体勢を崩したところを狙って、土門が再度肉薄してくる。

 ――ぱちんっ。

「テメェ……!」

 またしても、土門は同じ行動を取った。
 またしても、せっかくの好機をふいにしてきた。
 風子の苛立ちが増していき、風神剣の宝玉がさらに光り輝く。

「バカにすんのも、大概にしやがれッ!!」

 身体を風で強引に加速させて斬りかかるが、土門の右腕に阻まれる。
 ボディスーツに数センチ刃が埋もれた感覚はあったが、そこから進む気配はない。
 無理に刃を押し入れようとして、そのまま前に倒れ込んでしまう。
 土門が腕をうしろに引いたために、かけていた力が行き場を失ったのだ。

 体力バカであるはずの土門に、巧みにあしらわれた。
 その事実を受けて、風神剣を握る力がさらに強くなる。
 こんなはずはないと、風子は歯を軋ませる。
 石島土門は力バカで、霧沢風子は技巧派。
 その認識に誤りなど在り得ない。
 長い付き合いなのだから、お互い分かっている。分かり切っている。そうに決まっている。

「剣みてえな慣れねえもん使いやがって。勝てるワケねーだろ」

 這い蹲っている最中に浴びせられた言葉によって、風子の怒りはついに沸点に達した。

「ざッけんなッ! 私はずっと練習してたんだ! 緋水の神慮伸刀を託されてから、ずっと!!
 殺すッ! いい加減なことばっか言いやがってッ! クソッ! クソッ! マジでブッ殺すぞッ!!」

 発生させた風で飛び上がるようにして強引に立ち上がりながら、風子は声を張り上げる。
 それでも、土門はなぜだか寂しそうな表情を浮かべるばかりだ。
 一向に本気で戦うそぶりを見せない土門に、風子の苛立ちは加速していく。

「確信したぜ、風子」

 土門が左手を伸ばし、バラの花束を前に突き出す形になる。

「いまのお前は、火影の誰よりも弱い」

 風刃でも飛ばしてやろうとしていた風子だったが、一瞬完全に思考が飛んでしまう。
 はたして土門がいったいなにを話しているのか、まったく理解できなかった。

「っつーか、アイツより弱えんじゃねえの。
 なんだっけ、あの、空海んとこの……南尾じゃなくて、ほらお前が戦った、えーと」

 いや、それはないだろう。
 さすがに、そんなふざけたことは言わないだろう。
 風子のそんな期待は、あっさりと覆されることになる。

「ああ、藤丸だ。あの鎌使う変態野郎。
 自分のやりてえことを自分で決めらんねえっていう点で、いまのお前はアイツにも負けてるぜ。
 アイツはどうしようもねえクソ野郎だったけど、でもやりてえことは自分でちゃんと決めてたもんな」

 ここに至って、風子の思考は白く染まった。
 怒りは臨界点を超え、殺意へと切り替わっていく。
 かつてないほどの速度で風を作り出し、一気に土門へと射出する。
 これまでのように一方向からばかりではなく、四方を覆うように風刃を生み出す。
 もはや一切の容赦も躊躇もなく、首や心臓といった人体の急所にさえ残撃を飛ばす。

「……はっ。ナメたことぬかしやがって……」

 轟音が響き渡り、辺りに土煙が立ち込める。
 はたして土門がどうなったのかは、定かではない。
 少なく見積もっても、数十の肉片と成り果てただろう。
 せっかくだし、突風で土煙を吹き飛ばして確認してやろうか。
 そのように思考を巡らす風子だったが、確認なぞ必要なかった。

「ナメてんのも、おちょくってのも、バカにしてんのも……全部お前だろうがッ、風子ォ!」

 土煙のなかから、聞き慣れた声が響いたのだ。
 目を凝らしてみると、巨大な影が迫ってきている。
 その正体が誰なのかなど、特徴的なモヒカン頭を見れば明白だ。
 左手に持った花束は健在だ。アレだけやったのに、風子は花束さえ吹き飛ばせなかった。

「……ぐッ!」
「逃がすかよ」

 距離を取ろうとした風子だったが、バックステップを踏むことさえ叶わない。
 土煙から飛び出てきた土門に、その肩を掴まれたのである。
 着込んでいるボディスーツはボロボロだが、未だ形状を保っている。
 現れた土門の額には、『鉄』の文字が浮かんでいた。

「めんどくせえから、はっきり言わせてもらうぜ。俺はいまのお前が気に喰わねえ」

 ――ぱちんっ。

「仲間だなんだぬかして、花菱や水鏡に責任を押し付けてるのが、腹立って仕方ねえ。
 アイツらを理由にしてんじゃねえ。ほんとにやりてえんなら、『自分が殺してえから』って言えよ。
 なのになんだっけ、お前。俺たちを『守るために』とか言ってやがったな。ナメんな。いらねえよ、そんな気遣い。ふざけてんのか、オイ」

 ――ぱちんっ。

「いいか。自分がいったいなにをしてえのか、それをまず考えろ」

 ――ぱちんっ。

 鋼鉄化した肉体であるゆえ、極限まで力を抑えているのだろう。
 風子の頬を打つビンタの威力は、これまでとほとんど変わらない。
 その手は鉄特有の冷たさを誇るはずなのに、やたらと熱く感じた。

「さっきまで俺とタイマンってたヤツな、サイボーグなんだぜ。スゲェだろ。
 作ってくれたドクターなんちゃらの命令には逆らえないとか、強情張っててな。
 でも、アイツは変わったぜ。製作者様の言いなりなんかじゃなく、自分のやりてえことをやるってな」

 風子は俯いたが、頬を掴まれて強引に顔を上げられる。
 せっかく目を伏せたというのに、見たくなかった土門の瞳を直視するはめになる。
 その視線もまた、ひどく熱かった。

「お前はどうなんだよ、風子。
 清麿から聞いたぜ。その剣、風神剣っつーんだろ?
 その風神剣とかいう魔剣様の言いなりになってんじゃねえのか。
 ほんとに人を殺してえのか。本心から、心の底から、そう思ってんのか。
 だったら言ってみせろよ。仲間のためでもなんでもなく、自分が殺してえから殺すって――そう断言してみせろよ、この野郎!」
「そ、そうに決まって……」

 言葉の途中で、風子は口籠ってしまう。
 肯定してやろうとしたが、できなかったのだ。
 海月が土門の腹を斬り裂いたのを見たとき、剣から流れ込む声に身を委ねてしまったのだから。

「聞こえねえな。はっきり言えよ。
 霧沢風子ってのは、なんか訊かれたらすぱっと答える気持ちいい女だっただろうが」

 視線を逸らそうとしても、土門は首を動かして追ってくる。
 黙秘は許されない。なにか答えねばならない。
 そう認識し、風子は――

「るッせええええええええええええええええッ!!」

 絶叫した。
 風神剣へと意識を集中させると、収まっていた風が再び激しくなる。

「私が人を殺したいかどうかなんか知らねえよ、ボケ!
 でも仕方ねえじゃねえか! 人殺しするヤツを殺さなきゃ、また誰か殺されちまうんだ!
 分かってんだろうが、テメェも! 邪魔すんじゃねえ! 邪魔すんだったら、テメェだって――!!」

 その言い分が支離滅裂なのは、風子自身にも理解できていた。
 大切な仲間が殺されないように、人殺しを先に殺すはずだった。
 なのに、どうして仲間である土門を真っ先に殺そうとしているのか。
 これでは、守るべき仲間がいなくなってしまう。本末転倒ではないか。

 生まれた懸念は、風を作れば作るほどに薄れていく。

 視界の片隅のほうで、風神剣の宝玉が妖しく煌めいている。

 自分の行動は決して誤っていないと、吹きすさぶ風が認めてくれているような――そんな気がした。

 風子は自身に突風を当てる。
 風の勢いに乗れば、土門から離れられる。
 いくら土門が力バカであろうと、風が強くなればいずれ手放すはずだ。

「なんッで放さねえんだよッ! いい加減、諦めろよッ!」

 一向に力が緩まる気配がなく、風子は語気を荒げる。
 対して土門はというと、ふてぶてしく笑うばかりだ。

「放すわきゃねえだろうが、バーカ。
 俺はいつだってお前を支えてやるって、心に誓ってんだよ。
 お前が断っても、何度だって何度だって抱き締めてやるんだよ!」
「……なに言ってんだ、お前ッ! もういい加減、そのうるせえ口閉じてろよ!!」

 怒りを露にし、風子は風刃を生み出す。
 現時点においても、土門は花束を手放していない。
 つまり、右手に風子を、左手に花束を持っているのだ。
 ならば、ガードなどできるはずがない。
 いかに魔道具『鉄丸』で身体を鋼鉄化させていようと、微かな衝撃は走るものだ。
 風刃に頬を斬りつけてやると、ほんの僅かにだが土門の右手に籠められた力が弱くなる。

 風子が、その隙を逃すはずがない。
 掴んでいる手を強引に振り払うと、土門の肉体を蹴り飛ばす。
 蹴った勢いを突風に乗せて一気に加速し、距離を取ってやる。

「させッかよ!!」

 初めて見せた焦りの表情に、風子は口角を吊り上げる。

(もう、遅ェっつーんだよ)

 すでに、土門にも突風を放っている。
 その風向きは風子が浴びているのは逆方向であり、ようは土門にとって向かい風だ。
 こうしておけば、いくらなんでもやすやすと追いつけまい。

 そんな風子の予想を覆す事態が、眼前で展開された。

 土門の右腕が――『伸びた』のだ。

 生物と鉱物が一体化したような、その腕には見覚えがあった。
 プログラムの説明の際、高槻涼と呼ばれた少年の腕がこのような外見になって伸びていた。

(いや、いまはンなこたどうでもいい!)

 空中で風刃を生み出し、伸びてくる腕へと放つ。
 伸びた部位までボディスーツで覆われているはずもなく、生身だからであろう。
 ようやく、風刃は土門の肉体を傷付けることに成功する。

 ところが、あくまで最初の一撃だけだった。
 その傷は瞬く間に回復し、二撃目以降では表面に切れ目すら入らない。
 唖然とするしかない風子は、ほどなくして土門の腕に捕らえられる。
 長く伸びた腕は、土門の身体の元へと勢いよく収束していく。

「……どうなってんだよ、その腕」
「たとえ人間の身体じゃなくなっても、土門ちゃんは風子様を抱き締めてやるってことだよ!!」

 風子が苦々しい表情で問いかけると、土門は自信満々に言い放つ。
 なんにも質問に答えてねえじゃねえか――抗議しようとした風子の右手に、鋭い痛みが走る。

「痛う……っ」

 反射的に目を閉じてしまってから、風子は違和感に気付く。
 いまのいままで握っていた得物が、右手から消えていた。
 叩き落とされたのだと察するまで、大した時間はかからない。
 だがそのほんの僅かな時間でも、土門には十分であったようだ。
 落下した風神剣を離れた場所に蹴り飛ばして、もうすでに追いついている。

「さっきのたわ言のうち、どこまでお前の考えで、どっから剣のせいなのかは知らねえよ。
 でもよォ、なんも言わねえで逃げたってことは、そういうことなんだろ。
 だったら、容赦なく否定してやるぜ! 悩みに悩んで出した結論とかじゃなく、考えるのやめてこんな剣の言いなりになる気だったんならな!」

 風神剣を踏みつけて固定すると、土門は風子に向ける眼差しを鋭くする。

「よく聞け、大バカ野郎! 仲間が殺されないように、誰かを殺すなんざ認めねえぞ!
 人なんか殺しちまったらな、一生背負わなきゃなんねえんだぞ! 忘れられるワケあるか! 永遠に覚えてるに決まってんだろ!
 他のなにかしてるときだってついて回るし、夢にだって出るだろうよ! 安まる日なんざねえよ、百パー。生きた心地しねーぜ、そんなもん。
 仲間のために、一生モンの悔い残してどうすんだよ! そんなもん望むか! 少なくとも俺は望まねえ! 俺は、風子が後悔引きずるなんざ真っ平だ!」

 一息で言い切ってから、土門は呼気を整える。
 そうして拳を固く握り締めてから、真下の風神剣に視線を向ける。
 彼がいったいなにをしようとしているのか、風子には予想できてしまった。

「やめろ、土門っ!!」

 風子が、思い切り地面を蹴る。
 風神剣を破壊させるワケにはいかない。
 アレは魔道具『風神』を愛用している風子にとって、かなり相性のいい武器だ。
 アレを失ってしまったら、風子の戦闘力は著しく低下する。
 無慈悲に人の命が踏み躙られるこの場で、足掻くことさえできなくなるのだ。
 そんな事態に陥っていいはずがない。
 花菱烈火と水鏡凍季也が死んだというのに、使い勝手のいい武器を持たぬ少女に成り下がるワケにはいかない。

 頭ではそう恐れているはずなのに、どうしてであろうか。

 自身に力を与えてくれる剣を、握っているだけで高揚感を抱かせる剣を、『殺せ』としつこく命じてくる剣を――

 土門が完膚なきまでに破壊すると思うと、風子は不思議と胸が高鳴った。

「やめねえっ! 十回でも百回でも言ってやるぜ、風子!」

 ゆえにであろう。
 土門がこう断言したとき、風子は足を止めてしまった。
 頭に響く風神剣の『拾え』と命ずる声は、土門の叫びにかき消される。


「殺しちまったら――なにもかも終わりなんだよ!!」


 風子の視界が、スローモーションじみたものとなる。

 固く握られた拳が、ゆっくりと風神剣へと迫っていく。

 あと、もう少しだ。

 ほんの少し待てば、土門の拳が風神剣を割り砕いてくれる。

 剣から流れ込んでくるやかましい声を、二度と聞かずに済むのだ。

「…………あ?」

 風子には、眼前の光景が理解できなかった。
 思わず零れた呆けた声を、自身のものだと判別することさえできない。


 拳が風神剣に触れる寸前で、土門の身体が『跳ね上がった』。


「ぐ、ガ……ァ! クソ……もうちょっと、だってのによォ……!」

 困惑しているのは、風子だけではないらしい。
 土門のほうも目を丸くして、暴走する身体に手を回して押さえ込もうとしている。
 そんな意図もむなしく、土門の右腕に亀裂が入っていく。
 亀裂は見る見る全身に及び、すぐに立つことさえままならなくなる。


 くずおれるように倒れ込むと、身体が――『崩れて』いく。


 このような現象を見た経験は、風子にはない。
 それでも分かる。
 分かってしまう。
 何せ、身体が崩れているのだ。
 さながら乾燥した泥のように、砕け散っているのだ。


 それは、誰の目にも明らかなほどに分かりやすい――『死』の兆候だった。


「ど、もん……?」

 風子は土門に歩み寄り、崩れゆく身体に視線を這わす。
 向けられる力強い視線に反して、その肉体はあまりに脆い。
 鍛え抜かれていた筋肉の面影など、いまとなっては窺えない。
 とても見ていられるものではなく、風子は目を覆いたくなった。

 その心情を読み取ったかのように、理想的な誘いがかかる。

『我を手に取れば、すべて忘れられるぞ』

 鼓膜を介さずに、頭のなかへと届いてくる。
 懐柔するような声音が、胸に開いた穴へと染み渡る。

 ――風子は、再び風神剣を手に取った。

『殺せ。
 我を用いて殺せ。我を紅く染めて殺せ。我が刀身を生き血で照らして殺せ。
 斬り殺せ。刺し殺せ。貫き殺せ。抉り殺せ。断ち殺せ。刻み殺せ。削ぎ殺せ。
 殺して殺せ。殺して殺して殺せ。殺して殺して殺して――そうしてさらに殺せ』

 途端、甘い声は一変。
 これまでと変わらぬ冷たいものに戻る。

「あ、あああああァァァ――――!」

 喉を削るような絶叫に呼応して、風神剣より強大な風が溢れ出す。
 その衝撃により、崩れかけの土門の身体は彼方に投げ出される。
 風が渦を巻いて旋風となり、次第に膨れ上がっていく。
 ほどなくして、風子を中心とした巨大な竜巻が展開される。
 アスファルトが剥がれ、その下にあった土が舞い上がり、風子の足元がすり鉢状に抉られる。
 民家は軋むような音を立てたのち、根元から吹き飛ばされる。
 竜巻内を上昇する過程で、風圧によって見る見る微細な破片に砕かれていく。

『貴様、なぜその竜巻を放たない』
(うるせえ)

 訝しむような風神剣の問いに、風子は短く答える。
 彼女の目的は、すでに人殺しの殺害ではなくなっていた。
 唯一望むのは、もう誰も近づけないことだ。
 伸ばされた手が崩れていくのを見るのは、もう御免だった。
 だったら最初から誰も近付いてくれないほうが、よっぽどマシだと――そう思ったのだ。

『ふん。まあよいわ。
 依然として、角は生え揃ったまま。
 貴様が我が力に魅入られていることに、些かの変わりもない。
 ならば精神力を磨り減らすのを待ち、真に従順なる我が憑代とするのみよ』

 風子が予想していたよりあっさりと、風神は引き下がって行った。
 あるいは、長き時を経てきたゆえの余裕か。

(…………どうでもいいや)

 舞い上がった赤いバラの花弁が視界に入り、風子の瞳から一筋の涙が零れた。




投下順で読む

前へ:誘雷 戻る 次へ:殺したらおわり(後編)

時系列順で読む

前へ:置き手紙 戻る 次へ:殺したらおわり(後編)

キャラを追って読む

110:貫くということ 霧沢風子 117:殺したらおわり(後編)
横島忠夫
高嶺清麿
石島土門
マシン番長
バロウ・エシャロット
さとり
087:二百年も待ったのだ 蒼月紫暮
ルシール・ベルヌイユ
▲


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
タグの更新に失敗しました
エラーが発生しました。ページを更新してください。
ページを更新
「殺したらおわり(前編)」をウィキ内検索
LINE
シェア
Tweet
週刊少年サンデーバトルロワイアル
記事メニュー
今日 - 昨日 - 総合 -
検索 :

メニュー


  • トップページ
  • メニュー
  • 更新履歴


本編


  • 本編投下順
  • 本編時系列順
  • キャラ別SS追跡表


各種資料


  • ルール
  • 参加者名簿
  • 死亡者リスト
  • 死亡者名鑑
  • 支給品一覧
  • 用語集
  • 書き手紹介
  • SSタイトル元ネタ
  • 地図
  • 現在地地図
  • 過去ログ置き場


リンク

  • 本スレ
  • 避難所
  • 2chパロロワ事典@Wiki


更新履歴

取得中です。

ここを編集
記事メニュー2
人気記事ランキング
  1. 第二放送までの本編SS(時系列順)
  2. 本編時系列順
  3. 参加者名簿
  4. 第三放送までの本編SS(時系列順)
  5. 死亡者リスト
  6. 第二放送までの死者
  7. 第一放送までの死者
  8. らでぃかる・ぐっど・すぴーど
  9. 地図
  10. ネタバレ参加者名簿
もっと見る
最近更新されたページ
  • 1627日前

    トップページ
  • 4267日前

    ◆hqLsjDR84w
  • 4509日前

    はじめの一歩
  • 4537日前

    普通の子ども
  • 4539日前

    書き手紹介
  • 4539日前

    「お前は弱いな」
  • 4539日前

    苦渋の決断
  • 4539日前

    問答
  • 4539日前

    追跡表(SPRIGAN)
  • 4539日前

    追跡表(金色のガッシュ!!)
もっと見る
人気記事ランキング
  1. 第二放送までの本編SS(時系列順)
  2. 本編時系列順
  3. 参加者名簿
  4. 第三放送までの本編SS(時系列順)
  5. 死亡者リスト
  6. 第二放送までの死者
  7. 第一放送までの死者
  8. らでぃかる・ぐっど・すぴーど
  9. 地図
  10. ネタバレ参加者名簿
もっと見る
最近更新されたページ
  • 1627日前

    トップページ
  • 4267日前

    ◆hqLsjDR84w
  • 4509日前

    はじめの一歩
  • 4537日前

    普通の子ども
  • 4539日前

    書き手紹介
  • 4539日前

    「お前は弱いな」
  • 4539日前

    苦渋の決断
  • 4539日前

    問答
  • 4539日前

    追跡表(SPRIGAN)
  • 4539日前

    追跡表(金色のガッシュ!!)
もっと見る
ウィキ募集バナー
新規Wikiランキング

最近作成されたWikiのアクセスランキングです。見るだけでなく加筆してみよう!

  1. 鹿乃つの氏 周辺注意喚起@ウィキ
  2. 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  3. MadTown GTA (Beta) まとめウィキ
  4. R.E.P.O. 日本語解説Wiki
  5. AviUtl2のWiki
  6. シュガードール情報まとめウィキ
  7. ソードランページ @ 非公式wiki
  8. ドラゴンボール Sparking! ZERO 攻略Wiki
  9. シミュグラ2Wiki(Simulation Of Grand2)GTARP
  10. 星飼いの詩@ ウィキ
もっと見る
人気Wikiランキング

atwikiでよく見られているWikiのランキングです。新しい情報を発見してみよう!

  1. アニヲタWiki(仮)
  2. ストグラ まとめ @ウィキ
  3. ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~
  4. 初音ミク Wiki
  5. 機動戦士ガンダム バトルオペレーション2攻略Wiki 3rd Season
  6. 検索してはいけない言葉 @ ウィキ
  7. オレカバトル アプリ版 @ ウィキ
  8. 発車メロディーwiki
  9. Grand Theft Auto V(グランドセフトオート5)GTA5 & GTAオンライン 情報・攻略wiki
  10. 英傑大戦wiki
もっと見る
全体ページランキング

最近アクセスの多かったページランキングです。話題のページを見に行こう!

  1. 過去の行動&発言まとめ - 鹿乃つの氏 周辺注意喚起@ウィキ
  2. マイティーストライクフリーダムガンダム - 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  3. 参加者一覧 - ストグラ まとめ @ウィキ
  4. 前作からの変更点 - 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  5. 旧トップページ - 発車メロディーwiki
  6. 魔獣トゲイラ - バトルロイヤルR+α ファンフィクション(二次創作など)総合wiki
  7. マリオカート ワールド - アニヲタWiki(仮)
  8. コメント/雑談・質問 - マージマンション@wiki
  9. フェイルノート - 機動戦士ガンダム バトルオペレーション2攻略Wiki 3rd Season
  10. RqteL - ストグラ まとめ @ウィキ
もっと見る

  • このWikiのTOPへ
  • 全ページ一覧
  • アットウィキTOP
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

2019 AtWiki, Inc.