殺戮の向こうに未来を夢見て
「よし……ここまで来れば……」
先程の襲撃地点から遠く離れたF-1エリア。
海岸沿いに自らの機体ともう一つ――先程拿捕したGP-02を慎重に下ろし、剣鉄也は安堵の溜息を吐いた。
激戦の連続で深刻な損傷を負ったガイキングでどこまでやれるかは不安だったが、なんとか作戦は上手くいった。
奇襲は成功し、本来の目的である新たな機体も確保出来たのだ。
出来れば目標以外は全滅させておきたかったのだが、それは望み過ぎというものだろう。
今は本来の目的である新たな機体の奪取が成功した事だけを喜んでおこう。
あの場に居合わせた連中の機体では、ガイキングの全速には追い着けない。
あとはパイロットに止めを刺し、そして機体を奪うだけだ。
……とはいえ、油断は出来ない。
機体を乗り換える際には、機体から降りて生身の身体を晒さなければならない。
そんな状況を、この場に偶然居合わせた他の参加者に見られでもしてみろ。
もしそいつがゲームに乗っているとするならば、
もしくはこの機体の乗り手と面識を持っているならば、確実に狙い撃ちされてしまう。
奇襲は成功した。機体を奪う事にも成功した。
だが、乗り換えの際に急いてしまい、他の参加者に殺されてしまった……では話にならないのだ。
全てが上手くいっていればこそ、つまらないミスを犯す事のないよう、慎重でなければならないのだ。
幼少期から過酷な訓練を受け続けてきた戦闘のプロ――剣鉄也であるからこそ、その事は誰よりも良く理解していた。
まずはレーダーで周囲の様子を確認し、付近の状況を確認した上で、どこか近くの身を潜められる場所まで――
「なにっ……レーダーに反応だと!?」
「ブライ・シンクロン、マキシム……!」
ブライシンクロンにより機体が再度の巨大化を行い、ブライスターはその真なる姿を顕にする。
その名は、ブライガー。のさばる悪を闇に葬る、銀河に流れる一陣の旋風。
かつて異なる次元において地球人類を救うべく太陽系を疾り抜けた旋風は、
戦友の命を救うべく凄惨な戦場に今正しく巻き起こったのだ。
「……っ! ガイキングミサイルッ!!」
新たな敵機――今の鉄也にとって、自分以外の全ては敵である――の存在を察知した瞬間、鉄也は先制の攻撃を仕掛けていた。
ガイキングミサイル。先程の奇襲で大半を撃ち尽くしてはいたが、万一の事態を想定して幾らか残しておいたのが役に立った。
今の損傷状態では、まともな戦闘など望めようはずがない。ならばこそ先手を打ち、必殺の一撃を与えなければならないのだ。
逃げ出そうとしても無駄な事は、誰よりも自分が一番良く理解している。
過酷な激戦の連続により、ガイキングの出力は低下している。
この状況で逃走を図ったとしても、追い着かれる事は目に見えていたのだ。
まして、ここで逃げれば折角手に入れた新たな機体を手放さなくてはならなくなる。
だからこその先制攻撃、だからこその一斉射撃であった。
だが――
「分かっていたぞ……そう来る事はな! ブライソードビーム!!」
ブライガーの胸部から飛び出した、蒼い炎を纏った剣。その剣身から放たれたビームが、ミサイルの一斉射撃を迎撃する。
敵の機体がミサイルの一斉射撃を得意としている事は、先程の奇襲で判明済みだ。
そして敵機の損害状況を見る限り、正面切っての戦闘を挑んで来るとは思えない。
であるならば、考えられる攻撃は先手を打っての一斉射撃。
ミサイルの雨嵐であるのだろうと予測してはいたが、その考えに間違いは無かった。
敵の出方が判明しているならば、その打開法を見付け出す事は難しくない。
そしてブライガーの武装には、この状況に最も適した物があった。
そう、ブライソードビーム。振り下した剣から広範囲に渡ってビームを発射するその武装は、今の状況にうってつけのものだった。
「くっ……! あれだけのミサイルを防ぎ切っただと!?」
ガイキングの操縦席で鉄也は思わず叫び声を上げていた。
まずい――敵機の戦闘力は、自分の想像以上に高い。
ガイキングが万全の状態であるならともかく、傷付き過ぎた今の状況では勝ち目が無い――!
……クォヴレーとトウマにとって幸運だったのは、ブライサンダーの変形巨大化機能である。
もし彼らの目的が“仲間の救出”であると知っていたならば、鉄也には人質を取るという選択肢があった。
だが、ブライガーとブライサンダーが同一の機体である事を、剣鉄也は知らなかった。いや、想像する事も出来なかった。
ブライシンクロンシステムにより巨大化した今のブライガーは、奇襲の際に見かけた自動車とは似ても似つかないものである。
だからこそ、気付かなかった。あの機体に乗っている人間が、自分が奪った機体の救出に来たという事に。
「ジョシュアっ……! ジョシュア、聞こえるか!? 聞こえていたら返事をしろ!!」
あらかじめ確認しておいた専用の通信周波数。機体の操縦をクォヴレーに任せ、トウマは通信回線に話し掛ける。
機体の操縦系統に触れずとも、大声で通信に話し掛ける事には問題無い。
……悔しいが、機体の乗り換えルールがある以上、今の自分に出来る事はこれだけしかないのだ。
「ジョシュア! ジョシュア・ラドクリフ! 頼むっ……! 無事なら返事をしてくれッ!」
そうして、どれだけ通信機に話し掛けていたのだろうか。もう駄目なのかと絶望が心に過ぎり掛けた時――
『ぅ……ぁ…………』
「っ……! 今の……声はっ……!」
「生きている……! 生きているぞ、ジョシュアはっ!!」
ほんの微かな呻き声ではあったが、確かに通信機は捉えていたのだ。そう、ジョシュア・ラドクリフの声を。
「返して貰うぞ……! 俺達の仲間を!!」
「くっ……!」
大きく剣を振り上げながら、ブライガーはガイキングに斬り掛かる。
それは必殺の威力が込められた、ガイキングにとっては致命的な一撃。
それを喰らっては一溜まりもないと判断し、鉄也はガイキングを後退させる。
並の操縦者では反応出来ずに倒されてしまっていたのであろうが、流石は戦闘のプロを自認しているだけはあるという事か。
運動能力を大きく損なったガイキングではあったが、かろうじて回避運動には成功。
つい先程までガイキングが立っていた場所を、ブライソードの袈裟切りは走り抜けていった。
……だが、生死を分ける咄嗟の判断において、そこまで要求するのは酷と言うものか。
それまで放さず拿捕していたGP-02のボディを、ガイキングは緊急回避の際に手放してしまっていた。
「よしっ……! ジョシュアは確保した! 後は奴を……!」
「分かっている! このままブライソードで片を付けるぞ!!」
「ああ! やれ、クォヴレー!!」
GP-02を背後に庇う形で、ブライガーはガイキングに対峙する。
鬼気迫る壮絶な殺意を傷付いた全身から今尚放ち続けるガイキング。だが、それに恐怖は感じない。
負けられない理由がある。背中を支えてくれる仲間がいる。
ならば、敵に屈する道理は無い。
「くっ……!」
もはや逃げ場は無いと悟ったか、ガイキングは破れかぶれに攻撃を仕掛ける。
だが――殆どの弾薬を使い切ってしまっている現在、火力の不足は否めない。
これまでの戦いにおいて圧倒的な攻撃力を駆使して幾度も強敵を退けてきたガイキングではあったが、それも既に打ち止めだ。
ガイキングが持つ最大の長所である圧倒的な攻撃力は、とうの昔に失われている――!
「悪足掻きをっ……! これで終わりだ! ブライソード!」
向かい来る攻撃をブラスターとブライソードビームによって迎撃しながら、ブライガーはガイキングとの間合いを詰める。
そして、次の瞬間――
斬ッ…………!
「が……あッ…………!」
必殺の威力を込めたブライソードの一撃は――ガイキングのボディを完膚無きまでに破壊していた――
……一寸先も見えない暗闇の中を、剣鉄也は漂っていた。
指先の感覚は既に無く、全身には重い疲労が圧し掛かっている。
憶えているのは、無様な敗北。敗れ去った瞬間の無念だけが、記憶の中に焼き付いている。
(俺は……死んだのか……?)
闇の中、自問する。
もし自分が死んだとするのなら、これは“あの世”というものなのだろうか。
そうだとするなら、皮肉なものだ。もし自分が死んだのならば、死後は地獄に行くものだろうと思っていた。
この手を血で染め過ぎた自分が行き着く先は、地獄しか無いと思っていた。
だが……これは、地獄ではない。
まるで深い眠りの中に居るかのような、安らかな静寂に満たされた闇。
これが、地獄であるものか……。
ならば……ここは?
(……走馬灯、というものか)
恐らくは、そうなのだろう。
生と死の挟間で見る、刹那の夢。こうして静かに目を閉じていると、これまでの記憶が思い起こされるようだった。
……思えば、戦い以外には何も無い人生だった。
幼少期からの過酷な特訓、ミケーネ帝国との熾烈な戦い、そして……ユーゼス・ゴッツォによって仕組まれた
バトルロワイアル。
思い出す記憶は、その尽くが死と隣り合わせの戦いだった。
だが……それも、もう終わりだ。あの苦しかった戦いも、もう自分とは関係無い。
そうだ……もう、戦わなくても……。
(それで……いいのか……?)
……薄れゆく意識の中、剣鉄也は自問する。
本当に、これでいいのか?
たとえ修羅の道を歩む事になろうと、戦い続けると誓ったのではなかったのか?
(そうだ……俺は、まだ終われない……いや、終わるわけにはいかない……!)
この命尽き果てようと、戦い続けると誓ったはずだ。
かつての戦友であろうとも、容赦無しに殺そうとした。
たとえ罪の無い女子供であろうとも、もはや命を奪う事に躊躇は無い。
剣鉄也という人間は死んだ。ここにあるのは、戦う為のマシーンだ。
(マシーンは……死なない……! 俺は、まだ……戦えるッ…………!)
ゆっくりと、身体の感覚が戻ってくる。
全身を突き刺すような激痛と戦いながら、剣鉄也は意識を覚醒に向かわせていった――
これまで嫌と言う程に猛威を振るい続けたガイキングの、それはあまりにも呆気無さ過ぎる幕切れだった。
だが、無理はない。これまでに繰り広げた激戦の数々によって、ガイキングは既に限界を迎えていた。
この結末は、むしろ当然の結果と言えた。
「やった……か……」
くずおれたガイキングから注意を逸らさず、クォヴレーは安堵の溜息を吐く。
手応えはあった。倒したはずだ、確実に。
しかし……何故だろうか。もはや完膚無きまでに破壊されたはずの敵に、クォヴレーの直感は未だ警戒を促し続けていた。
「……トウマ、ジョシュアを連れてこの場を離れるぞ」
「クォヴレー……?」
「確証は無いが、嫌な予感がする。上手く説明は出来ないが……ここに居続けるのは危険だ」
ジョシュアの生死は確認したが、しかし彼がどれほどのダメージを負っているのかは確認していない。
通信機越しに返って来る言葉も、意味を為さない呻き声だけ。この場を離れるよりもまず、ジョシュアの安否を確認するべきだ。
そうトウマは主張したかったが……クォヴレーの張り詰めた表情に、抗議の言葉を引っ込める。
仲間の安否を案じているのは、クォヴレーにしても同じ事だ。
出来る事なら今すぐこの場でジョシュアの安否を確認したいに違いない。
だが……それでもなお、クォヴレーはこの場を離れようと言った。
……実を言えば、トウマも薄々とは感じていたのだ。あの崩れ落ちたガイキングに、得体の知れない危機感を。
「ああ、分かった……」
ガイキングへの警戒はそのままに、ブライガーはGP-02を両手で抱え、ゆっくりとその場を離脱する。
……いや、離脱しようとした。
ゴゴ……ゴゴ、ゴ…………!
「なんだ……地響き……?」
大地の奥底から響いてくる、それは不気味な地響きの音。
地震、か――?
そう二人が思ったのは、至極当然の事ではあった。
だが、違う。
それは、地の底から現れる――悪夢の、具現。
「なんだ……エネルギー場が異常に膨れ上がっている……?」
その変化に一番早く気付いたのは、計器類に注意を向け続けていたトウマだった。
それは、ガイキングより湧き上がる巨大な力。
流竜馬との対決において、ガイキングの全身に降り注いだ
ゲッター線。
それが剣鉄也の闘志によって、活性化を始めようとしていたのだ。
無論、そのような理屈などトウマは知らない。
だが、これだけは断言出来た。
この場所は――危険だ。
「おい、クォヴレー!」
その異常事態を知らせるべく、トウマは叫び声を上げる。
しかし、異変はまだ始まったばかりだった。
「っ……!? なんだ……アレは……!?」
ガイキングの様子を映し出したモニターに、突如として沸き起こった異変。それは、緑の輝きだった。
燃え盛る焔の勢いで、激しく輝きを放ち始めるガイキング。そのあまりにも異様な光景に、驚愕の響きで声が洩れる。
だが、それは更なる異変の前兆でしかなかった。
ゴゴ……ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴォォォォッ…………!!
ガイキングの倒れ伏した地点を中心に、揺れる大地が割れ砕ける。
そして大地の奥底より――“それ”は姿を現した。
「あれは――ガンダム!?」
そう、それはデビルガンダムの本体から切り離された、ガンダムヘッドの一部分。
それが、傷付き倒れたガイキングに――大口を開けて喰らい付いた!
「が……あ、あぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」
傷付き倒れたガイキングのボディに、ガンダムヘッドは溶け込んでいく。
DG細胞――
自己再生能力を備えた悪魔の細胞がガイキングを――そして剣鉄也を侵食し、その身を造り替えていく!
しかし、何故だ。デビルガンダム本体から遠く離れたこの場所に、その端末であるガンダムヘッドがどうして姿を見せたのか。
……考えられるとするならば、それはゲッター線の力であろう。
鉄也の意思に呼応して、激しい反応を見せたゲッター線。
それに共鳴する形で、デビルガンダムが反応を示したであろう事は想像に難くない。
そしてデビルガンダムが更なる進化を求めてガイキングを取り込もうとしたのか、
ガイキングが失われた力を取り戻す為にDG細胞を欲したのか――
いずれかの理由によってガイキングとデビルガンダムは結び付けられたのではないだろうか。
そうと仮定するのならば、ガンダムヘッドが出現した事には納得がいく。
ゲッターの力で空間を飛び越え、この場に現れたと考えるならば。
「ま……まさか、こんな事が…………」
まるでビデオを逆再生するかのように、見る間に修復されていくガイキング。
腕が、足が、胸が、そして――フェイスカバーまでもが、元の通りに戻っていく。
いや、ガイキングだけではない。剣鉄也の肉体もまた、DG細胞によって修復されていた。
ゾンビ兵としての再生ではない。
ミケロ・チャリオットやウルベ・イシカワと同様に、自らの意思を持ちながらの再生である。
……そう、剣鉄也は甦ったのだ。
もはや人間としての温もりさえも失くしてしまった、戦う為の機械として。
もっとも、ガイキングにせよ、鉄也にせよ、完全に復活を遂げた訳ではない。
DG細胞の超再生力をもってしても、致命傷を負った両者を瞬時に再生させる事は至難の技であった。
そう、今の鉄也とガイキングは、いわばハリボテのようなものだ。完全に修復された表面の下には、深い傷跡を残している。
とはいえ圧倒的な攻撃力を誇るガイキングと、卓越した操縦技能を持った鉄也である。
不完全な状態とはいえ、その危険性に変わりは無い――
ゆっくりと、目を開ける。
……気分は、悪くない。マシーンとして生まれ変わった事に対する違和感も、あくまでも現時点では感じていない。
だが……現状に対する不快感ならば、鉄也は確かに感じていた。
死んではなるものかと思った事は確かであるし、その為であれば悪魔に魂を売っても良いと思いはした。
だが、実際に“悪魔”の手足となってしまうとは――
「流石に、思ってもいなかったな……」
自嘲気味に唇を吊り上げ、鉄也は昏い笑みを零す。
デビルガンダム。悪魔の名前に相応しいこの機体も、鉄也にとっては倒すべき敵だ。
しかし、それは今すぐの話ではない。この強大な力、今は利用するべきだろう。
このバトルロワイアルの参加者を殺し尽くすのに、デビルガンダムの力は必ず役に立つはずだ。
利用価値のある内は、せいぜい役に立ってもらえばいい。
「……まずは、デビルガンダムと合流するべきか。今の状態では、戦闘を続行するのは難しい。
ガイキングが元通りに修復されるまでは、行動を共にしておいた方がいいだろう」
DG細胞を通じて手に入れた情報を元に、今後の方針を固めていく。
デビルガンダムにとって、今の鉄也は己が一部も同然だ。攻撃を加えられる可能性は、疑うまでもなくゼロである。
そして他の参加者によってデビルガンダムが破壊される可能性も、
ゼロ……とまではいかないが、非常に低い事は疑いようもない。
その戦闘能力は勿論の事、鉄也自身が体感したDG細胞の超再生力。
デビルガンダムを滅ぼす事は、そう簡単に出来る事ではない。
今の鉄也にとって最も安全な活動拠点は、デビルガンダムを置いて他には無いと言えるだろう。
そうと決まれば、もはやこの場に用は無い。
だが、この場を離脱する前に――
「……奴等の始末は付けていくか」
「っ…………!」
GP-02を抱え込み、ろくに身動きの取れないブライガー。
離脱の機会を逃した二機へと、復活のガイキングは顔を向ける。
――まずい。ブライガーはただでさえ本来の性能を発揮する事が出来ず、おまけに今はGP-02を庇わなければならない。
今の状況で攻め込んで来られたら――ブライガーはともかく、GP-02は!!
「カウンタァァァァァ…………」
ゆっくりと両拳を上げながら、ガイキングはカウンターパンチの発射体制に入る。
戦闘能力が完全ではないとはいえ、ろくに身動きの取れない相手だ。
不完全な攻撃ではあっても、致命打を与える事は難しくない。
それは鉄也は勿論の事、クォヴレーとトウマも理解してしまっていた。
この間合い、この状況、どうあっても避けられるものではない。そう、ジョシュアを見捨てなければ。
しかし……助けに来た仲間を見捨てる事など、出来るはずが……!
「パンチィィィィィィッ!!」
「――――――――!!」
逡巡の余裕すら与えもせずに、ガイキングはカウンターパンチを発射する。
やられる――――!?
「くっ……!」
迫り来る死の予兆に表情を強張らせながらも、クォヴレーは諦める事無く操縦桿に手を伸ばす。
だが――間に合わない。このままでは、どうやっても――――!
「……撃て、ロボ」
『ガォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッ!!!』
……ブライガーの目前にまで迫っていた、ガイキングのカウンターパンチ。
それを迎撃する形で横合いから放たれたのは、ジャイアント・ロボのロケットバズーカであった。
「っ……! 新手か!」
ロケットバズーカに迎撃された拳を呼び戻し、鉄也は苛立ちに表情を歪める。
……見覚えの無い機体だ。だが、プレッシャーで分かる。あの機体、強い。
そして、なにより――自分に対して、明らかな敵意を向けている。
「この殺気……そうか、あの時見逃した……!」
「見付けた……見付けたぞ、リオの仇……っ!!」
ガイキングに殺意を向けながら、
リョウトは憎悪に表情を歪める。
……ブライガーの危機を救ったのは、ガイキングに殺されようとしている誰かの姿が、
リオのそれと重ね合って見えてしまったからだった。
もしブライガーを仕留めようとしていたのが他の何者かであったならば、きっとリョウトは見向きもしなかったのであろう。
だが、それでも結果として言えば、クォヴレー達の命は彼に救われた事となる。
「三……いや、二対一か。いささか、分の悪い勝負だな、まあいい、ここは退くとするか」
真っ直ぐに向かい来るジャイアント・ロボの姿を遠目に見ながら、鉄也は戦闘の続行を諦める。
ブライガーとGP-02を倒そうとすればジャイアント・ロボが、
ジャイアント・ロボを倒そうとすればブライガーが、それぞれ攻撃を仕掛けてくるだろう。
そうなれば、今のガイキングでは耐え切れない。
戦いの趨勢は既に決した。この場に残って戦いを続けても、得られる物は何も無い。
……幸いにも、退路の確保は難しくない。
ジャイアント・ロボにパイロットを搭乗させる機能が無い事は、生身のリョウトを見れば一目瞭然である。
ならば水中を進んで行けば、逃げ切る事は難しくない。このガイキング、水中での行動も想定に入れられている。
「……運が良かったな、貴様ら」
ブライガーはGP-02を後ろに庇い、ガイキングに警戒を向けている。
この様子ならば、こちらの逃亡を邪魔する事は無いだろう。
仲間の安全を第一に考え、こちらに刺激を加えてこようとはしないはずだ。
「待てっ……! 逃げるな、剣鉄也ァァァァァァァッ!」
ゆっくりと水中に没していく、50メートルを越えるガイキングの巨体。
追い求めた仇が逃げ出そうとしているその光景に、リョウトは声を荒立てる。
だが――
「……憎いのならば、追って来い。待っているぞ、俺が生きている限りはな」
「っ……! ま、待てぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
水の中に逃げられたら、ジャイアント・ロボでは太刀打ち出来ない。
リョウトは叫び声を上げて、鉄也を引き止めようとする。
しかし、無駄だ。言って止まる相手でない事は、リョウトが誰よりも良く知っている――
「が……あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッ!!!」
……逃げられた。
狂ったように叫びを上げて、荒ぶる感情を撒き散らすリョウト。
無念の叫びを上げる彼に、クォヴレーとトウマは何も言わず視線を送り続けていた……
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好、冷静さを取り戻す
機体状況:良好
現在位置:F-1北部
第一行動方針:ジョシュアの生存確認
第二行動指針:リョウトと接触する
第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第四行動方針:ラミアともう一度接触する
第五行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
備考2:ブライカノン使用不可
備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと19~20時間前後】
【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
機体状況:良好
現在位置:F-1北部
第一行動方針:ジョシュアの生存確認
第二行動指針:リョウトと接触する
第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
備考1:副司令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
備考2:空間操作装置の存在を認識
備考3:ブライガーの操縦はクォヴレーに任せる】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
パイロット状態:感情欠落。冷静?狂気?念動力の鋭敏化?
機体状況:弾薬を半分ほど消費
現在位置:F-1北部
第一行動方針:剣鉄也を殺す
最終行動方針:???(リオを守る)
備考1:ラミアの正体・思惑に気付いている
備考2:鉄也の位置をほぼ完全に把握している】
【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:装甲前面部に傷あり。損傷軽微。計器類にダメージ?
パイロット状態:電撃による致命傷。意識半覚醒。具体的な負傷の状況は不明。
現在位置:F-1北部
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
備考:バトルロワイアルの目的の一つに勘付いた?】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:DG細胞感染(本来の戦闘力は現在完全に発揮できない)
機体状態:DG細胞感染(本来の戦闘力は現在完全に発揮できない)
現在位置:F-1水中を潜行中
第一行動方針:DGの元に一旦帰還する
第二行動指針:皆殺し
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている】
【二日目 19:45】
最終更新:2025年02月09日 18:42